日本心臓血管外科学会雑誌
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39 巻, 1 号
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総説
原著
  • ——10年間の経験——
    堀内 和隆, 保浦 賢三, 寺田 貴史, 平岩 伸彦, 湯浅 毅, 長谷川 雅彦
    2010 年 39 巻 1 号 p. 9-13
    発行日: 2010/01/15
    公開日: 2010/09/21
    ジャーナル フリー
    1998年より遠位弓部・下行大動脈手術の補助手段として,左開胸下に順行性灌流を基本とする体外循環と超低体温下全身逆行性循環法を組合せて使用したので,その経験を報告する.対象は遠位弓部大動脈瘤22例,B型大動脈解離3例で緊急手術例は4例であった.手術手技は人工血管置換21例,パッチ形成4例であった.順行性灌流のための送血部位は右腋窩動脈6例,上行大動脈12例で,7例はこれらの部位に動脈硬化病変が存在したので左大腿動脈を選択した.手術時間477±89分,体外循環時間206±52分,全身逆行性循環時間40±12分であった.病院死亡4例(16%,肺炎,感染瘤再破裂1例,脳梗塞2例)で,他の21例は耐術退院可能であった.重篤な合併症は脳神経障害4例(一過性痙攣1例,一過性対麻痺1例,脳梗塞2例)であった.脳障害例を除く術後覚醒時間は12.1±5.5時間で,心筋については新規異常Q波を認めた症例はなく,呼吸に関しては術後48時間以内の人工呼吸器離脱は16例であった.腹部臓器機能に関しては,新規透析導入や肝障害,イレウスおよび消化管出血例は認めなかった.本法は左開胸による大動脈手術の有効な補助手段であるが,送血部位選択や吻合時操作に十分な注意と工夫を加えれば,更なる成績向上が期待される.
症例報告
  • 徳田 貴則, 谷川 昇, 藤井 弘史, 大迫 茂登彦, 生田 剛士, 澤田 敏
    2010 年 39 巻 1 号 p. 14-16
    発行日: 2010/01/15
    公開日: 2010/09/21
    ジャーナル フリー
    症例は25歳の男性.アイスピック状の凶器で左側胸部を刺され,当院に搬送された.CTでは左冠状動脈分枝の約1 cm末梢の上行大動脈の後壁内に造影剤の貯留像を認めた.心タンポナーデによる急性循環不全解除の目的で,緊急避難的に剣状突起下開窓心嚢ドレナージを行った.ドレナージ後,持続的な出血を認めなかったため,緊急での上行大動脈損傷部の修復術は行わなかった.経過観察中,損傷部に仮性瘤の形成を認めたため,受傷後27日目に損傷部の修復術を行い,術後経過は合併症なく良好であった.穿通性の大動脈損傷では微細な損傷であっても急速に増大する仮性瘤を形成することがあり,常に動脈瘤形成に留意する必要がある.
  • 森嶌 淳友, 金田 幸三, 吉田 雄一, 平間 大介, 平尾 慎吾, 長阪 重雄, 横山 晋也, 西脇 登
    2010 年 39 巻 1 号 p. 17-20
    発行日: 2010/01/15
    公開日: 2010/09/21
    ジャーナル フリー
    61歳,男性.歯科受診中に意識消失となり当院に救急搬送された.CT撮影の結果,急性大動脈解離(Stanford A型),心タンポナーデの診断にて緊急手術となった.術中所見では左冠尖と右冠尖の交連部のやや上方から右冠動脈起始部にかけて解離を認め,上行大動脈人工血管置換術,右冠動脈バイパス術を施行した.術後,明らかな麻痺はなく,食事摂取は可能であったが傾眠傾向になってきたため頭部MRIを撮影したところ多発性脳梗塞を認めた.同時期より血小板減少を認め,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を疑い,HIT抗体測定したところ陽性であった.ただちにヘパリン投与を中止したがその後も血小板減少傾向が続くためアルガトロバンの持続投与を開始した.開始後,血小板数は徐々に回復し,術後26日目正常域まで改善した.本邦ではHITに関して認識はいまだ十分ではなく,見逃されている場合が多いと思われ,若干の文献的考察をふまえ報告する.
  • 五十嵐 崇, 横山 斉, 佐戸川 弘之, 若松 大樹
    2010 年 39 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2010/01/15
    公開日: 2010/09/21
    ジャーナル フリー
    症例1は14歳男児.右冠動脈右房瘻に対して,右房切開による瘻開口部直接縫合閉鎖と瘻起始部の外側からの結紮を行い,右冠動脈起始部の外側からの縫合閉鎖および瘻分岐直後での右冠動脈の結紮の後,右内胸動脈-右冠動脈末梢側バイパス術を行った.症例2は5歳男児.左冠動脈右房瘻に対して,右房切開による右房内開口部の直接縫合閉鎖および瘻起始部の外側からの結紮を施行した.冠動脈瘻の診断には術前の心エコー検査が有用であった.2例とも自覚症状を認めなかったが,症例1は肺体血流比2.4,症例2は肺体血流比2.1とともに高度の心内シャントを認めたため手術適応と判断した.冠動脈瘻は稀な疾患であるが,心筋虚血や感染性心内膜炎などの合併もあり,成長により心不全を呈してくることも予想されるため,症例によっては小児期でも積極的な外科治療が望まれる.
  • 八丸 剛, 渡辺 正純, 川口 悟, 中原 秀樹
    2010 年 39 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2010/01/15
    公開日: 2010/09/21
    ジャーナル フリー
    症例は90歳,男性.下腹部痛と肛門周囲斑状出血を主訴に前医を受診した.Hb 5.7 g/dlの重度貧血と,CTで最大径60×44 mmの左内腸骨動脈瘤の破裂を認めたため,当科へ救急搬送された.搬送後,緊急ステントグラフト内挿術を施行し,救命することができた.手術は,局所麻酔下に左大腿動脈よりアプローチし,左総腸骨動脈から外腸骨動脈にかけてステントグラフトを留置して内腸骨動脈流入部を閉鎖した.術後CTでエンドリークはなく,内腸骨動脈瘤内は血栓化していた.術後は,慢性腎不全の急性増悪のため透析治療を要したが,2カ月後に退院した.内腸骨動脈瘤破裂に対するステントグラフト治療救命例の報告は,検索したかぎり本邦では本症例が初であった.
  • 木下 肇, 神原 保, 黒部 裕嗣, 元木 達夫, 菅野 幹雄, 吉田 誉, 北市 隆, 佐田 政隆, 松本 俊夫, 北川 哲也
    2010 年 39 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2010/01/15
    公開日: 2010/09/21
    ジャーナル フリー
    エリスロポエチン誘導末梢血単核球細胞移植が奏効した重症虚血性潰瘍を伴うBuerger病症例を報告する.48歳時に同症と診断され,治療されたが,徐々に指潰瘍と疼痛により社会生活に支障を来すようになり,細胞移植治療を行った.細胞採取の前処置として,2週間前にエリスロポエチンを皮内投与し,その1週間後に2回目投与と400 mlの貯血目的の瀉血を行って,骨髄から末梢血へ内皮原性幹細胞の動員を図った.アフェレーシスにて末梢血より単核球細胞を採取し,患肢手掌の筋肉内に移植した.1カ月後に,患肢手指の血流に改善を認め,指潰瘍と疼痛は消失した.随伴する有害事象を認めなかったが,この細胞移植の効果は一時的で,潰瘍は3カ月後に再発した.そして計3回施行した細胞移植のたびに,この潰瘍改善効果は確認され,最長6カ月発生しなかった.本治療はBuerger病の難治性潰瘍に対して,低侵襲かつ安全な治療となる可能性がある.
  • 横田 敦子, 矢野 光洋, 長濱 博幸, 松山 正和, 古川 貢之, 西村 正憲, 鬼塚 敏男
    2010 年 39 巻 1 号 p. 34-36
    発行日: 2010/01/15
    公開日: 2010/09/21
    ジャーナル フリー
    Streptococcus bovisによる感染性心内膜炎は消化管腫瘍,特に大腸癌を合併する頻度が高いことが報告されているが,本邦での報告例は稀である.今回,大腸癌を合併したS. bovisによる感染性心内膜炎を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.症例は60歳,男性.2カ月間続く不明熱精査のため当院へ入院となった.静脈血培養からS. bovisが検出され,心臓超音波検査で3度の大動脈弁逆流と大動脈弁疣贅を認め,感染性心内膜炎と診断した.下部消化管精査を行ったところ,S状結腸癌を認めた.同病変を内視鏡的に切除後,大動脈弁置換術を施行した.術後経過は良好で,術後36日目に独歩退院となった.
  • 長 伸介, 塚本 三重生
    2010 年 39 巻 1 号 p. 37-40
    発行日: 2010/01/15
    公開日: 2010/09/21
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤術後の感染性吻合部動脈瘤に対す手術後に対麻痺をきたした症例を経験したので報告する.症例は63歳女性.腹痛を主訴に腹部大動脈瘤切迫破裂の診断下,緊急手術を施行し退院となった.その半年後,腹痛,下血を主訴に吻合部動脈瘤の診断下,緊急再手術を施行した.この際,人工血管近傍に膿を認めたため,急処,非解剖学的再建を行ったが,術後対麻痺をきたした.腹部大動脈領域での本合併症の発生はきわめて稀で,その予後は不良である.予防には脊髄への側副血行路温存の目的で内腸骨動脈の再建などの対策が必要であるとされている.本症では内腸骨動脈を再建したにもかかわらず虚血時間の延長によると思われる対麻痺を合併した.術後対麻痺を予防する上で,内腸骨動脈などからの脊髄に対する側副血行路の虚血時間を短縮することが重要であり,術中の術式変更などにより虚血時間が長くなる可能性がある場合,下肢,および脊髄保護という観点から,なるべく早い時点でまずはバイパスを行い血流を確保することが重要と考えられた.
  • 田村 健太郎, 内田 直里, 片山 暁, 須藤 三和, 村尾 直樹, 倉岡 正嗣
    2010 年 39 巻 1 号 p. 41-44
    発行日: 2010/01/15
    公開日: 2010/09/21
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.23年前,他院にて急性B型解離偽腔拡大に対し,左側方開胸アプローチでエントリー閉鎖術,偽腔縫縮術を受けた.10年前,他院にて胸腹部解離性大動脈瘤破裂に対し緊急胸腹部人工血管置換術を受け,術後不全対麻痺を併発した.今回,遠位弓部から下行大動脈の残存解離の偽腔拡大を認めた.過去2度の開胸手術歴があるため左開胸アプローチでの手術は人工心肺時間の延長,出血量の増加などriskが高いと判断し,胸骨正中切開アプローチで末梢側にopen stent法を用いた上行弓部下行大動脈人工血管置換術を施行し良好な結果を得た.Open stent法は胸骨正中アプローチで一期的に上行,弓部,下行置換術を施行することが可能であるため,本症例のように開胸歴があり肺の癒着が予想される症例には特に有用であると考えられる.
  • 樫山 紀幸, 久保田 康彦, 西川 大陸, 泉谷 裕則
    2010 年 39 巻 1 号 p. 45-48
    発行日: 2010/01/15
    公開日: 2010/09/21
    ジャーナル フリー
    症例は69歳男性,胸痛を主訴に前医へ救急搬送され,造影CT検査にてStanford A型急性大動脈解離の偽腔閉塞型と診断された.心タンポナーデと中等度の大動脈弁閉鎖不全を合併し,ショック状態であったので緊急手術の適応と考え,当院へ搬送された.同日緊急手術を施行し,上行大動脈基部に内膜の亀裂を認め,外膜下血腫を伴っていた.明らかな大動脈の解離を認めなかったことから,特発性大動脈破裂と診断した.亀裂部は直接縫合し,大動脈弁交連は大動脈壁に再固定した.上行大動脈壁は菲薄化し,拡大を認めたので上行大動脈人工血管置換術も施行した.術後経過は良好で術後12日目に退院した.非常に稀な特発性大動脈破裂を経験したので報告する.
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