日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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35 巻, 6 号
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  • 下村 毅, 碓氷 章彦, 上田 裕一
    2006 年 35 巻 6 号 p. 309-314
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    開心術後の心房細動の発症は日常多く遭遇する合併症の一つであるが,その予防に決定的なものはなく,管理に難渋することが少なくない.われわれは,その発症に交感神経活性の亢進が関与しているのではないかと考え,開心術後の心房細動を発症するリスクの少ないと考えられた57例につき,心房細動発症前の状況を調査し,さらに術前,第3病日,第7病日に交感神経活性の生化学的指標であるノルエピネフリンの血漿中濃度と24時間尿中排泄量を測定した.その結果,心房細動を発症した群において発症前の心拍数がより多く,血漿ノルエピネフリン濃度および24時間尿中ノルエピネフリン排泄量が有意に上昇していた.以上より,開心術後の心房細動の発症に交感神経活性の亢進が大きな役割をはたしていると考えられる.
  • 東 昭弘, 井畔 能文, 上野 哲哉, 寺井 弘, 山本 裕之, 上野 正弘, 上野 隆幸, 坂田 隆造
    2006 年 35 巻 6 号 p. 315-318
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    重症大動脈弁狭窄症(severe AS)のなかでも左室駆出率(EF)が低下し,かつ大動脈圧較差(PG)が低値を示す症例の手術適応については議論が多い.対象はASおよびAS優位の軽度閉鎖不全合併例(ASr)に対し大動脈弁置換術(AVR)を行った144例中,EFが35%以下の9例,心機能への影響を考慮し加療を要する冠状動脈疾患を合併した症例は除外した.平均年齢は70.0±9.3歳,男性4例,女性5例であった.左室拡張終期径(LVDd)57.3±5.8mm,左室収縮終期径(LVDs)49.3±5.7mm,心室中隔壁厚(IVSth)11.9±1.9mm,左室後壁厚(LVPWth)11.1±2.6mmと左室の拡大を認める一方,左室心筋の肥厚はみられなかった.大動脈弁口面積(AVA)は平均0.58cm2と重症ASで,大動脈圧較差(peak PG)は65.2±32.7mmHgであった.全例でAVRを行い,術後遠隔期にEFは8例が改善,1例が不変で平均は56.9%であった.ASが進行しEFが低下した症例においても積極的な手術が予後を改善する可能性が示唆された.
  • シールドグラフトとの比較・検討
    札 琢磨, 井上 剛裕, 西野 貴子, 藤井 公輔, 岡本 順子, 岡本 腱, 松本 光史, 中本 進, 北山 仁士, 佐賀 俊彦
    2006 年 35 巻 6 号 p. 319-323
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    シールドグラフトの改良は目覚しいが,コーティング剤による免疫反応として,術後の発熱,炎症反応の遷延など,功罪を認めるのも事実である.2005年1月からノンシールドウーブングラフト(UBE woven graft 150cc WYK type)が発売され,preclottingは不要で操作性の向上が図られている.2005年1月から2006年1月までの待機的腹部大動脈瘤と総腸骨動脈瘤に対し,腹部大動脈人工血管置換術を施行した50例を対象とした.ノンシールドウーブングラフトをU群(UBE woven graft 150cc WYK type群,26例),シールドグラフトをI群(INTERGARDTM woven Y graft群,24例)に分類し,比較検討した.U群は120ml/cm2/min/120mmHgのmild porosity,I群は5ml/cm2/min/120mmHgのほぼzero porosityであるが,術中出血量に有意差を認めなかった.CRP(mg/dl)値は,術後7日でU群3.4±1.6:I群3.7±2.1,術後14日でU群1.5±1.1:I群1.7±1.4,37.5℃以上の再発熱例はU群12%:I群17%,術後入院期間はU群15.3±4.1日:I群19.7±12.2日(p=0.08)であった.両群間とも病院死亡を認めなかった.I群と比較して,U群はCRP値高値の遷延を低く抑え,再発熱は減少する傾向を認めた.術後の炎症反応の軽減,入院期間も短縮させる傾向にあり,組織適合性,操作性において手術成績を向上させると考えられた.しかし,観察期間が短いため中期,遠隔期の再評価が必要である.
  • 黒澤 博之, 佐戸川 弘之, 佐藤 洋一, 高瀬 信弥, 高橋 皇基, 三澤 幸辰, 瀬戸 夕輝, 坪井 栄俊, 村松 賢一, 横山 斉
    2006 年 35 巻 6 号 p. 324-327
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    腎動脈下腹部大動脈瘤手術後の対麻痺合併は希で,待機例で0.1~0.2%とされる.今回われわれは,待機的腎動脈下腹部大動脈瘤手術において術後対麻痺合併症例を経験した.症例は65歳の男性で,陳旧性心筋梗塞に対する冠動脈バイパス術後に腹部大動脈瘤に対して待機的にY型人工血管置換術を施行した.術後第2腰椎以下の下肢完全対麻痺を合併した.本症例では右内腸骨動脈閉鎖による血流障害,Adamkiewicz動脈の血行遮断あるいは腰動脈閉鎖による側副血行路減少が原因であると考えられた.現在の標準術式では脊髄虚血を確実に回避することは困難であるため,術前のインフォームド・コンセントが必要であると考えられた.
  • 木ノ内 勝士, 森田 紀代造, 橋本 和弘, 野村 耕司, 宇野 吉雅, 松村 洋高, 中村 賢, 阿部 貴行, 香川 洋, 佐久間 亨
    2006 年 35 巻 6 号 p. 328-332
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    総肺静脈還流異常症(TAPVR)修復術術後の肺静脈狭窄(PVO)は重篤な合併症であり,術後の再燃も希ではない.今回われわれは,TAPVR1a+2a混合型術後PVOをくり返した14ヵ月,男児に対してsutureless in situ pericardial repair,および,左心耳-左肺静脈吻合を施行した.術後経過は良好であり,術後2年9ヵ月時に施行した心臓カテーテル検査では,右肺静脈に有意な再狭窄所見は認めず,左肺静脈に軽度再狭窄所見を認めた.また,術後3年1ヵ月時に施行したmultidetector computed tomography (MDCT)による3次元再構築像では,良好なPVO解除が長期に得られていることが示された.
  • 浅見 冬樹, 若林 貴志, 名村 理, 曽川 正和, 林 純一
    2006 年 35 巻 6 号 p. 333-335
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は54歳,男性.生来健康.左半身のしびれ感を主訴に来院し,血管造影,造影CTにより前交通動脈瘤,右内頸動脈無形成,右鎖骨下動脈瘤を指摘された.脳神経外科で前交通動脈瘤に対しコイル塞栓術施行後,当科で胸骨部分切開下に右鎖骨下動脈瘤切除人工血管置換術を2期的に施行した.術後経過は良好であった.内頸動脈無形成はまれな血管変異であり,脳動脈瘤との合併は知られているが,鎖骨下動脈瘤との合併はまれで現在のところ2例しか報告がない.
  • 川崎 宗泰, 渡辺 善則, 塩野 則次, 濱田 聡, 益原 大志, 新津 勝士, 小山 信彌
    2006 年 35 巻 6 号 p. 336-339
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.不安定狭心症のため精査を施行した.冠状動脈造影(CAG)により左主幹部(LMT)に50%の狭窄,左前下行枝(LAD)#6に冠状動脈瘤を認め,瘤末梢側LAD#7,#9に有意狭窄を認めた.既往に輸血が原因と考えられるC型肝炎を認め,肝硬変(Child-Pugh分類grade A)および高度血小板減少の合併を認めた.今回,心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)によってLADと対角枝に吻合し,動脈瘤は処置せず放置した.術後合併症は認めず,術後CAGで動脈瘤は閉塞しグラフト開存は良好であった.
  • 木村 龍範, 吉松 俊英
    2006 年 35 巻 6 号 p. 340-342
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,男性.一過性の動悸を自覚したため近医を受診した.心エコーで右房内に可動性のある8mm大の腫瘍を指摘された.症状は一過性であったが,肺血流シンチで多発する陰影欠損を認めたため,人工心肺下に腫瘍摘出術を行った.腫瘍は乳頭状弾性線維腫と診断された.乳頭状弾性線維腫は心臓腫瘍のなかで粘液腫,脂肪腫についで3番目に多い腫瘍であり,その多くは弁からの発生である.よって,右房より発生するものはまれである.術後は問題なく経過し,1年後の現在も再発は認めていない.
  • 渡辺 裕之, 小林 香代子, 丸山 拓人
    2006 年 35 巻 6 号 p. 343-346
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,男性.オートバイ運転中の対自動車事故により右血気胸,右肺挫傷,右多発肋骨骨折,骨盤骨折,右足関節骨折を受傷した.近医で入院加療中に再検した胸部CTで大動脈周囲および縦隔の血腫が確認され,外傷性大動脈損傷の診断により受傷3日目に当院転院となった.厳重な保存的降圧治療を施行したが,4日目に再出血の兆候が出現し,緊急手術となった.左第4肋間前側方開胸,F-Fバイパスに左肺動脈脱血を加えた部分体外循環下に下行大動脈人工血管置換術を行った.損傷部位は大動脈峡部で約1/3周性の内膜断裂を認めた.懸念された肺合併症,他臓器の出血性合併症もなく,術後経過は順調であった.多発外傷を伴う外傷性大動脈損傷では待機手術とすることで他臓器の出血性合併症のリスクを軽減しうるが,再出血の兆候を見逃すことなく適切に手術時期を判断することが重要である.
  • 林 諭史, 吉田 博希, 杉本 泰一, 梶浦 由香, 郷 一知
    2006 年 35 巻 6 号 p. 347-350
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    Buerger病に合併した動脈瘤についての報告は少なく,腹部大動脈瘤・胸部大動脈瘤合併例についての本邦報告例はない.今回,Buerger病に腹部大動脈瘤,胸部大動脈瘤を合併した症例に対し手術を施行し,良好な結果が得られたので報告する.患者は73歳,男性で,腹痛・嘔気・腹部拍動性腫瘤を主訴に当科を受診した.精査により腹部大動脈瘤(径58mm),胸部大動脈瘤(径47mm)を認め,腹部大動脈瘤に対し瘤切除,人工血管置換術を施行した.術後胸部大動脈瘤に対し外来通院で経過観察を行っていたが,3年間で瘤径が径60mmと拡大し,嗄声も出現したため,弓部置換術を施行した.Buerger病では四肢に末梢動脈病変を有するため,長時間の体外循環を行う場合には四肢の灌流に留意し,また,虚血時間を可及的に短縮する配慮が必要と考える.
  • 山崎 暁, 平山 統一, 三隅 寛恭, 下川 恭弘, 上杉 英之, 出田 一郎, 村田 将光
    2006 年 35 巻 6 号 p. 351-353
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    68歳,女性.不整脈と心拡大のため紹介受診となったが,検査室への移動中に意識消失発作を生じ,血圧低下を認めたため緊急入院となった.超音波検査と造影CTにより心タンポナーデが確認され,経皮的に心嚢ドレナージを施行した.その後の血管造影で左冠動脈回旋枝に92mm×68mmの冠動脈瘤を認め,同病変よりの出血が原因と考えられた.手術は人工心肺下に冠動脈瘤に流出入する異常血管の結紮と瘤壁の切除を行った.経過は良好であり,術後25日目に退院した.1年後のトレッドミル検査で虚血所見を認めなかった.冠動脈瘤は無症候性であることが多いが破裂のさいには重篤な症状をひき起こすため,迅速な診断と治療が必要であると考えられた.
  • 外田 洋孝, 小肥 実, 広岡 茂樹, 折田 博之
    2006 年 35 巻 6 号 p. 354-357
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.左冠動脈主幹部と右冠動脈の高度狭窄による不安定狭心症により,冠動脈バイパス術(3枝)を施行した.術後冠動脈造影検査を施行したのち,急な発熱と両側足底の斑状チアノーゼおよび急性腎不全を発症した.足底チアノーゼ部分の全層皮膚生検を施行した結果,cholesterol cleftを伴う肉芽性炎症変化による細動脈の閉塞の所見が得られた.Cholesterol crystal embolism (CCE)の診断で,ステロイドパルス療法を施行した.これにより,末梢循環不全,急性腎不全は徐々に改善し,入院時より併存していた腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術を施行したのち,軽快退院した.心臓血管外科領域の治療においては,CCEの誘因が多数存在する.CCEの病態を理解し,早期診断,治療にあたることが,CCEの予後改善に寄与すると考えられた.
  • 濱路 政嗣, 河野 智, 北野 満, 松田 光彦
    2006 年 35 巻 6 号 p. 358-362
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    感染性腹部大動脈瘤は腹部大動脈瘤全体の0.06~3.4%,感染性動脈瘤の18%を占める.われわれは,合併症を伴う腎動脈下の感染性腹部大動脈瘤を2例経験し,診断および治療上の問題点を検討した.症例1:75歳,男性.糖尿病,高血圧あり.全身倦怠感,発熱,腹膜刺激症状があり急性虫垂炎と診断されたが,虫垂に異常なく閉腹され,CTで腎動脈下の仮性大動脈瘤と診断された.後腹膜に多量の血腫があり,瘤の内部に悪臭のある膿様の液体が貯留していた.症例2:50歳,男性.高血圧,糖尿病,肝硬変,HCV抗体陽性で食道静脈瘤を合併していた.全身倦怠感,熱発,水様性下痢,血小板減少のため入院し,CTで腎動脈下の感染性動脈瘤と診断された.大動脈分岐部右側の黒色の仮性瘤の内部は,多量の血栓と黒色の液体が貯留していた.術前血液培養はそれぞれKlebsiella pneumoniae, Methicillin-susceptible Staphylococcus aureus (MSSA)が陽性であったが,瘤壁や周囲組織の培養は陰性であった.2例とも準緊急手術であったが,局所のデブリドマンと解剖学的血行再建で幸い良好な経過を示した.しかし,感染性腹部大動脈瘤に対して,局所感染状況を把握しつつ適切な手術時期を決定することは容易ではないと考えられた.
  • 田村 清, 田崎 大, 白井 俊純, 大島 永久
    2006 年 35 巻 6 号 p. 363-366
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    感染性心内膜炎において,化膿性脊椎炎の合併は比較的まれであるが,致死的な合併症であることが知られている.われわれは,化膿性脊椎炎から感染性心内膜炎を診断し治療した2症例を経験したので報告する.症例1は60歳,男性.症例2は52歳,男性.ともに発熱と激しい背部~腰部痛を主訴に来院した.MRI検査で腰椎の化膿性脊椎炎と診断された.また,うっ血性心不全と弛張熱から感染性心内膜炎と診断された.2症例とも適切な抗生剤投与にもかかわらず,弁の破壊の進行および10mm以上の大きさの可動性疣贅が認められたため手術を行った.症例1は2弁置換術(大動脈弁および僧帽弁),症例2は大動脈弁置換術を行い,良好な経過を得た.2例とも術後4週間の抗生剤投与により完全にCRPが陰性化したのちに退院したが,化膿性脊椎炎に対しては,その後もさらに1~2ヵ月間の経口抗生剤投与を行った.レントゲンによる骨所見の改善とCRP正常化の維持から化膿性脊椎炎の治癒と判断し,3ヵ月後に抗生剤を中止した.その後,感染性心内膜炎,化膿性脊椎炎の再燃を認めていない.化膿性脊椎炎などの菌血症がある場合,感染性心内膜炎の合併の可能性を考慮すべきである.また,骨所見の改善するまでの長期の適切な抗生剤投与を行うことを推奨する.
  • 足立 広幸, 井元 清隆, 鈴木 伸一, 内田 敬二, 郷田 素彦, 初音 俊樹, 沖山 信, 小菅 宇之, 豊田 洋, 高梨 吉則
    2006 年 35 巻 6 号 p. 367-370
    発行日: 2006/11/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,女性.Stanford A型の急性大動脈解離に対し,GRF glueを用いて上行大動脈人工血管置換術を施行した.術後15ヵ月目に自宅で突然心原性ショックに陥り当院へ救急搬送された.検査所見より吻合部〓開による大動脈基部仮性瘤,〓開した上行大動脈グラフトの閉塞による心原性ショックと診断した.IABPを施行したところ循環動態は改善した.翌日,人工血管大動脈基部再吻合術を施行し術後32日目に軽快退院となった.本症例のような大動脈基部仮性瘤に伴う人工血管狭窄によるショック状態に対しIABPはただちにグラフト狭窄を改善し循環動態を安定させうることから,手術までの有効な補助手段であると思われた.
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