日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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ISSN-L : 0285-1474
21 巻, 2 号
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  • 清水 剛, 石丸 新, 古川 欽一, 工藤 龍彦
    1992 年 21 巻 2 号 p. 109-116
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    開心術症例35例の術前血清ハプトグロビン (Hp) 値の変動に関与する因子を検討するとともに, 術前Hpの低下が体外循環中の血色素尿の発生に与える影響を検討した. 開心術症例の術前Hp値は炎症反応により容易に増加し, また3種類の血清型 (1-1型, 2-1型, 2-2型) では2-2型が低値を示した. 弁膜障害による赤血球の機械的溶血による低下は, sclerotic change を伴った大動脈弁疾患においてきたしやすい傾向があり, 6例中2例に無Hp血症を認めた. 体外循環中の血清 (血漿) ヘモグロビンの増加率は0.36mg/dl/minであったが, Hp値は体外循環開始直後には術前値の約30%以下に低下し, 術前Hpの低下を認めた症例は体外循環時間が同程度であれば血色素尿の発生率は高率となった. このため, 開心術の施行にあたっては術前にHpの測定および型判定を行い, 術前にHpの低下を認めた場合Hp製剤の補充療法などを考慮すべきであると考えられた.
  • 深沢 学, 折田 博之, 阿部 寛政, 乾 清重, 広岡 茂樹, 鷲尾 正彦
    1992 年 21 巻 2 号 p. 117-121
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    1986年から1990年の5年間に鎖骨下動脈フラップ術を施行した大動脈縮窄症例14例について急性期術後経過について検討した. 術前上肢-下肢圧較差は40±7mmHgに対し術後8±4mmHgと有意に改善した. 血清CPK値は術後第1病日より4,072±3,872IUと有意に高値を示し, 3病日以後漸減し, 8日目で295±292IUと正常域に復した. CPK値が4,000IU以上の高値を示した群においては, 血清クレアチニン値も2.16±1.56mg/dlと以下群 (0.70±0.55mg/dl) に比し有意に高値を示した. 肝逸脱酵素も同様であったが, これらに圧較差との相関は認められなかった. 以上のデータは術後吻合部における圧較差の改善は良好であるにも関わらず腎・肝・筋等の血流分布の一時的な低下を示すものと考えられ, 同病態を理解することは術後管理上重要と思われた.
  • 磯村 正, 久冨 光一, 平野 顕夫, 松添 慎一, 林田 信彦, 佐藤 了, 川良 武美, 大石 喜六
    1992 年 21 巻 2 号 p. 122-125
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    1988年5月から1990年10月の間に冠動脈バイパス術 (CABG) と弁手術を14例に同時に施行した. CABGに動脈グラフト (AG) を使用したものは9例 (AG群) で, 大伏在静脈のみの使用は5例 (SVG群) であった. AG群では, 平均年齢は63.3歳で, 末梢吻合枝数は2.2本であった. 同時に行った弁手術は, 弁置換術を5例に, 弁形成術を4例に施行し, 平均大動脈遮断時間は116分であった. AGは, 内胸動脈 (ITA) を8例, 右胃大網動脈を4例に用い, このうち, 両者の併用は3例で, SVGは5例に併用した. 2例で, pedicled AGが左前下行枝あるいは, 鈍縁枝に到達できず, SVGの併用を行った. AG群とSVG群とでは, 平均年齢, 大動脈遮断時間には有意差を認めなかったが術後カテコールアミンの使用は, AG群3例 (33%), SVG群3例 (60%) で, 有意にAG群に低値であった. AG群では, 術後死亡はなく, 遠隔期NYHAは, I度4例, II度5例へ改善した. CABGと弁手術の同時施行においても, AGの使用により, 術後の症状の改善は良好で安定した手術成績がえられたが, pedicled AGとした場合のグラフトの長さには十分な注意が必要であった.
  • 小野 裕逸, 成田 敦志, 長尾 好治, 竹内 功, 岩渕 知, 首藤 邦昭, 福井 康三, 小山 浩一, 鈴木 宗平, 鯉江 久昭
    1992 年 21 巻 2 号 p. 126-132
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    サーミスターの応答の速い modified Swan-Ganz catheter を用いて右心機能評価を試みた. 対象は冠動脈多重結紮法により作成した左心不全犬12頭 (A群) と, 右心不全犬12頭 (B群) である. おのおの容量負荷を加えつつ結紮前・後の各種血行動態について検討した. A群では左房圧一定という測定条件下で, 左心不全によりRVEF, RVSWIは有意に低下した. しかし, peak RVP/RVESVIには有意な変化は認められず, 右室収縮力には変化がないと考えられた. B群では右房圧一定という測定条件下で, 右心不全の作成により, RVEF, RVSWI, peak RVP/RVESVIとも有意に低下した. Emaxは前負荷や後負荷に影響されずに心室の収縮力を表す指標とされているが, 臨床例では測定しがたい. 一般に普及している熱希釈法にて, Emaxの簡易式ともいえる peak RVP/RVESVIを求められることの意義は大きく, 開心術後の患者管理に際して有益であると思われた.
  • 井上 正, 川田 志明, 古梶 清和, 工藤 樹彦, 三角 隆彦
    1992 年 21 巻 2 号 p. 133-140
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    急性大動脈解離の発症早期に解離腔が閉塞し,“血流のない解離腔”を生じるものを, 1つの clinico-pathological entity として“早期閉塞型大動脈解離-closing aortic dissection”と呼称し, 発症早期からその臨床経過を観察しえた14例について, 臨床像と臨床経過を報告した. 13例は発症早期に解離腔の完全閉塞をきたしたが, 1例は初期には不完全閉塞を示し, その後完全に閉塞した. 2例が, 血流の再開通をきたして再発したが, それぞれ4週, 6週までに不完全にあるいは完全に再閉塞した. したがって, entry を認めたものは3例で, 別に3例にその痕跡を認めた. 8例には全く認められなかった. 1例が二次的のI型解離の併発によって死亡したが, その他はすべて生存した. あわせて, 本症の発生機序に言及した.
  • 主に肝血流量の面から
    竹内 功, 福井 康三, 小山 浩一, 沢田 光広, 高橋 昌一, 山田 芳嗣, 小野 裕逸, 岩淵 知, 首藤 邦昭, 鈴木 宗平, 鯉江 ...
    1992 年 21 巻 2 号 p. 141-148
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    近年動脈血中ケトン体比 (AKBR) は, 新しい, 肝の viability の指標として注目されている. われわれは開心術症例14例で, AKBRを測定した. 完全体外循環時間が, 180分を越える症例ではAKBRの回復が悪く, 術後の生化学検査値の異常, なかでもトランスアミナーゼ値, 血小板数, プロトロンビン時間に顕著であった. さらに実験的に, 体外循環中の肝血流量とAKBRの関連について検討した. 体外循環中の冠動脈, 門脈血流は著明に低下したが, 体外循環の離脱に伴い血流は次第に回復した. しかし, 体外循環により低下した肝組織血流は体外循環終了後も十分に改善せず, AKBRの変化とよく相関した. このことからAKBRは肝の微小循環血液量に影響されることがわかった. そこで, 実験的に拍動流体外循環を行い, 肝微小循環への効果について検討した. 拍動群は, 定常流群に比べ冠動脈, 門脈血流, 組織血流のいずれも良好に保たれ, 体外循環終了後の組織血流, AKBRの改善も良好であった.
  • 今井 雅尚, 山口 眞弘, 大橋 秀隆, 大嶋 義博, 芳村 直樹, 佐藤 達朗, 植松 正久, 細川 裕平, 橘 秀夫
    1992 年 21 巻 2 号 p. 149-154
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    最近9年間の新生児乳児期開心術158例中, 一期的胸骨閉鎖を行えず, シリコンラバーにより皮膚のみを補填したのは15例で, このうち10例に二期的胸骨閉鎖法を実施した. 10例中7例で術後4日以内に胸骨閉鎖が可能であった. 開心術直後と二期的胸骨閉鎖時の比較では, 心拍数, 平均左房圧, 心胸郭比などに有意な低下がみられた. 二期的胸骨閉鎖前後においては血行動態に有意な変化はみられなかった. 縦隔炎などの重症感染症の併発は1例もなく, 遠隔死亡を2例に認めたが, 他の8例は平均3年4か月を経過し健在である. 以上より, われわれが用いている二期的胸骨閉鎖法は一期的胸骨閉鎖が困難な症例に対しては有効な方法であると考えられた.
  • 齊藤 力, 寺田 康, 福田 幸人, 須磨 久善, 鰐渕 康彦, 古田 昭一
    1992 年 21 巻 2 号 p. 155-158
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    当施設では収縮性心膜炎における心膜剥皮術として胸骨正中切開にて右心系全体, 左心系については体外循環非使用下に可及的に絞扼解除する術式を選択してきた. 本法施行13例を対象に, 術後早期および術後遠隔期における心機能について検討した. 術中の中心静脈圧 (CVP), 肺動脈拡張期圧 (PADP), 心係数 (CI) は剥皮前後でそれぞれCVP21.3±5.6, 13.6±4.0cmH2O, PADP19.8±5.5, 11.3±6.6mmHg, CI2.14±1.34, 3.16±1.73l/min/m2で有意な改善がみられた. 手術による直接死亡はなく, 遠隔期死亡は他因死が2例あった. 術後遠隔期 (平均観察期間51か月) における心臓超音波検査上の左室拡張末期容量係数 (LVEDVI), 左室収縮末期容量係数 (LVESVI), 拍出係数 (SI), 左室駆出率 (EF), 平均左室内周短縮速度 (mean Vcf) は, 術前後でそれぞれLVEDVI34.3±12.1, 39.5±14.5(ml/m2), LVESVI17.2±7.8, 13.1±6.7(ml/m2), SI 17.1±7.3, 26.6±12.5(ml/回/m2), EF 45.1±19.2, 61.2±22.5(%), mean Vcf 0.80±0.35, 1.13±0.53(circ/sec) であり, 心室中隔の異常運動は4例中2例で正常化, 左室後壁の拡張期平坦化は6例中5例で改善が認められ, 遠隔期における左心機能は良好であった. 以上のごとく本術式は安全性が高く心機能の改善も概ね良好であると考えられた.
  • 心筋保護液の順行性投与法と逆行性投与法の臨床的比較
    栗栖 和宏, 木下 和彦, 坂本 真人, 鶴原 由一, 福村 文雄, 中島 淳博, 鐘ケ江 靖夫, 久原 学, 富永 隆治, 川内 義人, ...
    1992 年 21 巻 2 号 p. 159-163
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    大動脈弁と僧帽弁の二弁置換症例を対象に, 心筋保護液の順行性投与 (Ante) 法と逆行性投与 (Retro) 法の心筋保護効果を比較した. Ante 群15例, Retro 群 (Ante 法併用 Retro 法) 13例について, 術前および術中因子, 再灌流後CPK-MB値の推移, 術周期心筋梗塞の頻度, 術後血行動態を検討した. 術前因子は両群間に差を認めなかった. 大動脈遮断中の心筋保護液投与の間隔は Ante 群29.2±4.8分, Retro 群24.0±3.8分と Retro 群にて有意に (p<0.01) 短く, また大動脈遮断時間も Ante 群134±27分, Retro 群119±25分と Retro 群にて短い傾向を認めた. 再灌流6時間でのCPK-MB値はAnte 群120±80IU/l, Retro 群78±50IU/lと Retro 群にて少ない傾向を認めた. 術周期心筋梗塞の頻度と術後血行動態には両群間に差を認めなかった. 以上より弁膜症症例においても, Ante 法併用 Retro 法は Ante 法と同等以上の心筋保護効果を有し, 症例によっては推奨される有用な心筋保護法と考えられた.
  • 堀越 淳
    1992 年 21 巻 2 号 p. 164-171
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    1977年2月より1987年2月までの10年間に教室で施行された心筋梗塞後左室瘤切除術36例 (平均年齢54.8±8.4歳) を対象とし, 術前後一般左室機能指標, 運動負荷時心機能, NYHA臨床重症度推移, さらにアンケート調査による社会復帰, 生活改善度, 5年累積および相対生存率から本症の外科的治療について評価検討した. 術前後一般左室機能指標推移では駆出率 (EF), 拡張末期容積係数 (LVEDVI), 拡張末期壁ストレス (LVDWS), 平均内周短縮速度 (mVCF) の改善 (p<0.05~0.01) が認められ, 左室局所壁運動の術前後比較では region 4.5における改善が認められた (p<0.05). 運動負荷前後左室機能指標推移に関する術前後の対比では, pressure rate product (PRP), 心係数 (CI), 最大左室内圧変化率 (Max dp/dt/p) に関しては有意な差異を認めなかったが, 左室拡張末期圧 (LVEDP), 肺動脈楔入圧 (PCWP)については, 術前運動負荷時における有意な上昇 (p<0.01) を術後は認めず運動負荷耐応能の改善と考えられた. NYHA臨床重症度分類では術前平均2.9度は術後1.5度と改善し, 近接死5.6%, 遠隔死5.6%, 5年累積生存率87.6%, 相対生存率93.9%であった. また術後の就労率は47%であったが, 生活の質の向上は著明であった. なお, 観察期間は6~120か月平均60.8±30.5か月であった.
  • 原 陽一, 上平 聡, 小林 哲, 石黒 真吾, 佐々木 成一郎, 黒田 弘明, 森 透
    1992 年 21 巻 2 号 p. 172-176
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    高齢者弁膜手術例が増加するに伴い, 弁膜手術とCABGを同時に施行する症例が多くなってきた. 今回, この同時手術の手術成績と問題点, とくに手術手技, 心筋保護法について検討した. 対象は当科で手術を施行した30歳以上の弁膜症例のうち, 術前に冠動脈の評価がなされていた90例である. CABGを同時に施行した症例は8例 (8.9%) であり, 手術死亡はなかったが, 1例を脳梗塞にて, 術後46日で失った. PMIはなく, 生存退院した7例は, 現在, 術後平均39か月であるが, 狭心痛はなく, 全例にNYHAの改善をみとめた. 一方, 弁膜手術とCABGの同時手術は心停止時間が長時間になることより, 心停止中の心筋保護の重要性が指摘され, 今後, 手術手順, 心筋保護法を工夫することによって, さらに成績が向上するものと考える.
  • 浦山 博, 片田 正一, 高橋 政夫, 土田 敬, 手取屋 岳夫, 竹村 博文, 渡辺 洋宇
    1992 年 21 巻 2 号 p. 177-180
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    胸部大動脈瘤に対する血栓曠置術10症例を対象とした. 疾患は解離性大動脈瘤7例, 粥状硬化性大動脈瘤3例であり, 全例で瘤の範囲は下行大動脈の大部分を含むものであった. 術式は非解剖学的バイパスを腹側に置き, 永久クランプの部位は瘤の中枢側のみ9例で瘤末梢側の遮断は1例に行った. 術後観察期間は14日から6年8か月であった. 3か月以上観察できた8例中5例が横隔膜までの下行大動脈の完全な血栓曠置を認めた. 不完全な血栓曠置例のうち1例で28か月に瘤破裂をきたしたが末梢側遮断の追加にて治癒し, 1例にて63か月に瘤破裂をきたし死亡した. 他の1例で12か月後クランプの肺動脈穿通にて死亡した. 1例で術後15か月に一過性の脊髄障害を認めた. 2例で便秘をきたしたが腸閉塞の合併はなかった. 術後に上下肢の血圧差は認めず, また, 腎機能の悪化した症例はなかった. 本術式の適応は厳格であるべきであり, 術後の厳重な経過観察が必要であった.
  • 活動期における手術を中心に
    青柳 成明, 田中 攻, 平野 顕夫, 安永 弘, 押領司 篤茂, 原 洋, 小須賀 健一, 大石 喜六
    1992 年 21 巻 2 号 p. 181-185
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    最近の15年間に教室で外科治療を行った感染性心内膜炎 (IE) 67例中感染の活動期に手術を行った25例を対象として手術成績を検討した. 年齢は8~73歳, 男18例, 女7例で, このうち20例は自己弁のIE (NVE), 5例は人工弁置換後のIE (PVE) であった. 手術成績はNVEでは3例 (15%), PVEでは2例 (40.0%) に病院死を認めた. NVE 20例では手術予後に関係する因子は術前のNYHA分類の重症度と弁輪部膿瘍の存在で, 年齢, 術前の腎機能, 血液培養陽性, 罹患弁位, あるいは切除弁における起炎菌の存在は手術成績とは相関を示さなかった. すなわち, 心機能が高度に低下する以前に, そして感染が周囲組織へ波及する以前に弁置換を行うことが手術成績の向上にはきわめて重要と考えられた. 手術手枝では, 病巣の徹底的な郭清と弁輪の再建が重要で, valve translocation 法はNVE, PVEのいずれにおいても高い根治性が期待された.
  • 体外循環下に切除しえた1症例
    柳沢 肇, 須藤 憲一, 小石沢 正, 森田 裕, 海野 透理, 林 信成, 野口 顕一, 田所 雅克, 小久保 純, 池田 晃治, 水野 ...
    1992 年 21 巻 2 号 p. 186-190
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    下大静脈原発平滑筋肉腫はまれな疾患である. 本邦報告例も治験例を含めて11例であった. 今回われわれは, 右房内に発育した下大静脈原発平滑筋肉腫を, 下大静脈壁の一部とともに体外循環下に切除しえたので報告する. 症例は, 40歳男性で, 両下肢の浮腫と息切れを主訴とし来院し, 右房粘液腫または下大静脈原発腫瘍を疑い体外循環下に手術を行った. 腫瘤は右房内を占拠し, 心房内, 心房中隔には茎はなく, 下大静脈原発腫瘤と判断し, 下大静脈の一部とともに合併切除し, 欠損部を Gore-Tex 0.2mm心膜パッチにて再建した. 腫瘤重量は, 130gであり, 病理所見では, 紡錘形腫瘍細胞よりなり, 細胞は束状に交錯し, 核分裂像もみられ, 下大静脈壁にも腫瘍細胞の浸潤が認められた. 免疫組織化学的観察では, デスミン, ビメンチンに対して陽性を示した. 術後7か月を経過し現在外来にて経過観察中である.
  • 三澤 吉雄, 長谷川 嗣夫, 坂田 一宏, 加藤 盛人, 福島 鼎
    1992 年 21 巻 2 号 p. 191-194
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    52歳の主婦で, 先天性の大動脈弁狭窄に伴う上行大動脈の post-stenotic dilatation に, 急性A型大動脈解離を併発した症例である. 解離は, 左冠動脈にも及んでいたため, 大動脈弁置換術, 人工血管による上行大動脈置換術, ならびに, 大伏在静脈を用いての左冠動脈へのバイパス術を施行した. 人工心肺離脱後も人工血管吻合部を中心に出血がみられ, 長時間の止血操作にもかかかわらず止血が困難のため吻合部を中心にガーゼによる圧迫止血を試み, 閉胸とした. 術後, 血小板を中心とする成分輸血により, 28時間後に圧迫ガーゼを除去することができた. 術後急性腎不全なども克服し, 現在, 外来通院加療中である.
  • 中山 義博, 小迫 幸男, 岡崎 幸生, 鶴崎 直邦, 蒲池 真澄, 山田 隆啓, 乗田 浩明, 伊藤 翼
    1992 年 21 巻 2 号 p. 195-199
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    Behcet 病は1937年に Behcet がアフタ性口内炎, 外陰部潰瘍および強膜炎を主症状とする2症例を報告したことにはじまる難治の再発性遷延性炎症疾患である. 今回われわれは, Behcet 病に合併した膝窩動脈瘤の症例に対し緊急動脈瘤切除, 大伏在静脈を用いたバイパス術を施行し, 左下肢の神経症状が著明に改善した1例を経験した. 本症例は, 術中所見と術後の神経症状の改善からみて compression neuropathy を伴った膝窩動脈瘤であったと考えられ, 神経障害を最小限に食い止めるためには速やかな動脈瘤の摘除が必要であると思われた. われわれが調べえた範囲では Behcet 病に合併した動脈瘤で compression neuropathy を生じた例は過去の2例の報告があるのみで非常に希な症例と思われたので若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 補強効果と合併症について
    天野 篤, 外山 雅章, 柳 一夫, 田邊 大明, 佐藤 健志
    1992 年 21 巻 2 号 p. 200-203
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の女性, A型解離性大動脈瘤と冠動脈2枝病変の診断で, 発症から32時間後に急性期手術を開始し, 上行大動脈人工血管置換術と2枝バイパスを施行した. 術中, 解離した大動脈壁が菲薄で脆弱であったたあ, 吻合部および解離した大動脈壁を速効性の架橋剤である25%グルタアルデヒド液にて7分間処理し, 補強効果を得て安全な吻合操作が可能であった. 術後は心機能の回復は良好であったが, 合併症として恒久的な完全房室ブロックと Sellers I度の大動脈弁閉鎖不全症を残した. 体内式ペースメーカーを植え込んだ後に退院し, 現在は社会復帰している. 処理中, 左室内腔に挿入したガーゼが大動脈弁を半閉鎖の状態にしていたため, 浸透したグルタルアルデヒドが弁と刺激伝導系の一部を障害したものと考えられた. 周囲組織への浸潤にさえ細心の注意を払えば, 本法は安全な吻合操作を行うため有用な手段の1つと考えられる.
  • 山名 一有, 小須賀 健一, 浦口 憲一郎, 剣持 邦彦, 藤野 隆之, 久保田 義健, 桃崎 雅弘, 大石 喜六
    1992 年 21 巻 2 号 p. 204-206
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    1971年1月から1990年3月までのY型人工血管移植症例は285例で, そのうち4例 (1.4%) の人工血管腸管瘻 (graft-enteric fistula) を経験し, 2例は確診がえられないままに大量下血により死亡したが, 2例を手術により救命することができた. 手術は, 感染人工血管の完全摘出の上で新しく移植した人工血管の omental wrap あるいは extra-anatomical bypass 術が有効であったが, この手術はきわめて難渋するため, このような病態が生じないためには初回の手術時に, 人工血管と腸管が直接隣接しないような予防策を講じる必要があると考える.
  • 梅林 雄介, 有川 和宏, 湯田 敏行, 下川 新二, 福田 茂, 森山 由紀則, 平 明
    1992 年 21 巻 2 号 p. 207-211
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    不完全型心内膜床欠損症では老年期まで放置されることは少ない. 文献的にも50歳以上の手術症例はこれまで8例が報告されているのみで, 最高齢者は60歳であった. 今回著者らは63歳, 67歳の2例に根治術を行い良好な結果を得た. 1例は60歳からの3年間に急速に肺高血圧が進行し, 他の1例は僧帽弁裂隙に著明な石灰化があり, 術後に僧帽弁逆流が軽度残存し, また鬱血肝から肝硬変の進行がみられた. 高齢者では肺機能, 腎機能の異常を呈することが多く, 心の予備力も少ないため, 術中の心筋保護を十分に行うとともに, 体外循環離脱時のCVPを15cmH2O以下にとどめ, カテコールアミンによるサポートを十分に行うことが必要である, 以上より, 可及的早期の手術が望まれるが, 高齢者といえども積極的治療の姿勢が望まれる.
  • 水谷 哲夫, 畑中 克元, 片山 芳彦, 平岩 卓根, 湯淺 浩, 草川 實
    1992 年 21 巻 2 号 p. 212-215
    発行日: 1992/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    72歳の男性に対し bipolar Nd-YAG laser dissector を用いて大伏在静脈を採取し, 4枝バイパスと心房中隔欠損孔の直接閉鎖を一期的に行った. 大伏在静脈の側枝を双極構造となっているダイセクターではさみ, 波長1.064μmのNd-YAGを連続波で照射した. 出力13ワットで約5秒間照射することにより側枝は切離され, 出血もなかった. 術後の造影検査でグラフトは全て開存しており, 壁の不整や瘤様拡張はなく血流も非常にスムーズであった. Bipolar laser dissector を用いることにより結紮糸とハサミを使わない静脈採取が短時間で可能となった.
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