日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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37 巻, 6 号
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原著
  • —フィルムリーディングの検討—
    東 隆, 川口 聡, 島崎 太郎, 小出 研爾, 松本 正隆, 重松 宏, 川合 明彦, 黒澤 博身
    2008 年 37 巻 6 号 p. 311-316
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤に企業性ステントグラフトを用いた治療を行うには指導医による形態的適応の検討が必要である.Zenith AAA system(Cook社製)にて治療予定の112例のフィルムリーディング結果と初期成績を検討した.指導医が不適応と判断した15例で,有意に中枢側Landing Zone(LZ)が短く,アクセスルートの屈曲が強い結果であった.適応とした症例の中で腎動脈上の屈曲が強く,壁在血栓が高度な症例でタイプ I エンドリークを認め,アクセスルートのリスク評価で適応限界とした症例で腸骨動脈損傷が発生していた.中枢側LZ,アクセスルートの厳格な評価が初期成績を安定させる上で重要であると考えられる.
  • —コスグローブリングとの比較—
    川本 純, 泉谷 裕則, 澁川 貴規, 望月 慎吾, 西川 大陸
    2008 年 37 巻 6 号 p. 317-320
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    三尖弁閉鎖不全症に対する弁輪縫縮術に用いられる人工弁輪で,最近使用可能となったEdwards Lifesciences社製MC3リングは,三尖弁の正常な三次元構造を復元できる人工弁輪である.2005年5月から2007年4月まで三尖弁閉鎖不全症を合併した心臓手術症例71例に対して,人工弁輪を用いた弁輪縫縮術を行った.2006年9月までは,Edwards Lifesciences社製Cosgrove-Edwardsリングを,2006年10月以降は同社のMC3リングを使用し,それぞれCE群(33例),MC3群(38例)とし,術後の三尖弁逆流の程度を比較した.術前三尖弁逆流の程度(重症度により0,0.5,1,2,3,4)は,CE群で平均2.8±0.67,MC3群で平均2.6±0.58と両群間で差はなかった.両群とも僧帽弁手術を行ったものが1番多く,ついで大動脈弁手術であった.退院時の三尖弁逆流の平均値は,CE群で0.92±0.99,MC3群で0.34±0.46であった.平均9カ月後の三尖弁逆流は,CE群で1.5±1.2,MC3群で0.42±0.50であった.逆流の程度は両群ともに術前に比し有意に減少したが,CE群で遠隔期の再発傾向が危惧された.
症例報告
  • 元木 学, 福井 寿啓, 佐々木 康之, 柴田 利彦, 平居 秀和, 高橋 洋介, 末廣 茂文
    2008 年 37 巻 6 号 p. 321-324
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    われわれは稀な右房原発悪性リンパ腫の1手術例を経験した.症例は呼吸困難,全身浮腫を主訴とする85歳,女性で,心臓超音波検査にて右房内に腫瘤病変を指摘され当院紹介となった.腫瘤による血流障害のため重症心不全を呈していたため緊急手術を施行した.手術は体外循環使用心停止下に施行した.右房内腫瘤は最大径50mmで,術中迅速病理検査にて血管肉腫あるいは悪性リンパ腫と診断された.腫瘍が心房中隔から三尖弁輪およびIVCにかけて右房壁へ浸潤していたため完全摘除は困難と判断し,腫瘍を可及的に切除するにとどめた.病理検査によりB cell malignant lymphomaと診断されたので化学療法を開始した.右房内の腫瘍はほぼ消失し,右心不全症状も改善したが,化学療法による副作用のため全身状態の悪化を来たしMRSA肺炎を併発し術後第52日目に死亡した.心臓原発腫瘍の中で悪性リンパ腫は約1%と非常に稀であり,その診断,治療方法につき若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 坂口 秀仁, 東 修平
    2008 年 37 巻 6 号 p. 325-328
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は77歳男性.2007年6月3日旅行のため駅のホームで電車を待っていたところ突然倒れ心肺停止状態となった.妻が心マッサージを行い,目撃者が救急要請を行った.救急隊の到着後AEDを用いて除細動を行い30分後に心拍の再開を認めた.当院救急外来到着後,ICUに収容し意識の回復と心不全の改善を認めた6月11日に心臓カテーテル検査を施行したところ左主幹部病変と3枝病変を認めたためon-pump beating CABGを施行し,術後45日目に独歩で自宅退院となった.本邦での院外心肺停止後蘇生患者に対する冠状動脈パイパス術の救命報告例は稀で,われわれが調べた限りでは本例を含めて5例のみであった.
  • 飯田 剛嗣, 西森 秀明, 福冨 敬, 割石 精一郎, 山本 正樹, 笹栗 志朗
    2008 年 37 巻 6 号 p. 329-332
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    胸骨後経路胃管再建が行われていた食道癌術後の大動脈弁狭窄症に対して右傍胸骨切開で大動脈弁置換術を行った.症例は84歳男性で,食道癌に対する右開胸,開腹による胸部食道切除,胸骨後経路胃管再建術の既往があった.労作時胸部絞扼感が出現したため精査を行ったところ,大動脈弁狭窄症と診断された.手術は,胃管損傷を避けるために右傍胸骨切開で心臓に到達し,通常の大動脈弁置換術を行った.術後経過は良好で術後24日めに退院となった.胸骨後経路胃管再建が行われている食道癌術後の大動脈弁手術症例において種々のアプローチが報告されているが,右傍胸骨アプローチは胃管を確認してその損傷を避けられ,かつ大動脈弁置換術の視野も良好であり有用な方法である.
  • 尾頭 厚, 奈良原 裕, 村田 升, 山本 登
    2008 年 37 巻 6 号 p. 333-336
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,女性.無治療の糖尿病がある.2006年5月,2週間続いている便秘と徐々に増悪する腹痛を主訴に近医を受診した.大動脈瘤の診断で当院へ転院となった.血液検査所見で炎症反応高値を呈しており,CTで横隔膜直下から上腸間膜起始部レベルにかけて大動脈周囲の血腫と血腫内への造影剤の流入を認めた.当初抗生物質による感染のコントロールを試みたが,瘤の増大を認めたため手術を施行した.手術は,部分体外循環・腹部分枝選択灌流下に横隔膜レベルより腎動脈下レベルまでの血腫・大動脈壁を完全に摘出し,人工血管での解剖学的再建と大網充填を行った.血腫は悪臭を伴っており,培養で Citrobacter koseri が検出された.合併症なく経過良好で,4週間の抗生物質投与の後に退院した.退院後22カ月を経た現在まで感染の再然は認めていない.
  • 佐藤 真剛, 平松 祐司, 加藤 秀之, 松原 宗明, 徳永 千穂, 金本 真也, 野間 美緒, 阿部 正一, 榊原 謙
    2008 年 37 巻 6 号 p. 337-340
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    冠動脈入口部狭窄を伴う先天性大動脈弁上狭窄症は稀であるが,Williams症候群以外での治験報告はさらに少ない.症例はWilliams症候群ではない3歳の男児.生後3カ月時から先天性大動脈弁および弁上狭窄症と診断されていた.3歳時の心臓カテーテル検査において,90mmHgの左室-大動脈間圧較差に加え新たに高度の左冠動脈入口部狭窄と左室心尖部の虚血性壁運動異常を認め,手術適応となった.大動脈弁上狭窄部の右頭側から大動脈斜切開を入れ,左冠動脈入口部に向かって左後方にこれを延長した.肥厚した大動脈2尖弁に交連切開を加えた後,1枚のglutaraldehyde処理自己心膜片を用いて左冠動脈入口部と弁上狭窄部のパッチ拡大を行った.冠動脈狭窄の解除と左室-大動脈間圧較差の改善が得られ,左室壁運動異常は解消された.
  • 榎本 直史, 安永 弘, 坂下 英樹, 庄嶋 賢弘, 藤堂 景茂
    2008 年 37 巻 6 号 p. 341-344
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    Amplatzer Septal Occluder(以下ASO)を用いた心房中隔欠損(ASD)閉鎖術が,本邦でも2006年4月より保険診療として認められ,現在19施設で施行可能である.当施設でも認可を得て,2006年6月より本治療を開始し,2008年1月の時点で68例に至る.今回,本治療施行後約5カ月を経過し,ASOにより左房壁,大動脈無冠洞穿孔し,心タンポナーデを発症した症例を経験した.症例は14歳女性.ASO留置前の経食道心エコー上,ASD径17.4×15.0mmで,大動脈側の欠損孔縁は0mmであった.ASO(20-mm)を用い経カテーテル的にASD閉鎖術を施行後,約5カ月を経過し心タンポナーデを発症した.緊急手術を施行したところ,ASOの辺縁により左房壁を穿孔し,大動脈無冠洞に裂隙を生じていた.ASOを除去し,左房壁,大動脈無冠洞の穿孔部を直接縫合にて修復し,ASDを自己心膜にてパッチ閉鎖した.ASO留置後の心穿孔は非常に稀な合併症で,世界的にも報告例が少なく本邦では初めての経験であった.本症例のごとく,大動脈側の欠損孔縁が不十分な場合,本合併症発生の危険性が高いとも言われている.ASO留置の適応基準を満たしていても,大動脈側の欠損孔縁が不十分である場合,留置後は経胸壁心エコーによる厳重な経過観察が不可欠である.
  • 伊藤 寿朗, 栗本 義彦, 川原田 修義, 中島 智博, 田淵 正樹, 上原 麻由子, 柳清 洋祐, 山内 昭彦, 馬場 俊雄, 樋上 哲哉
    2008 年 37 巻 6 号 p. 345-348
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,男性.慢性解離性大動脈瘤に対して胸部下行人工血管置換術が施行された6年後,末梢側吻合部の瘤拡大を認め手術目的に入院となった.前回の手術では,末梢側吻合部の真腔が狭小化しており真腔への吻合が困難であったため,intimal flapを切除し偽腔にも開窓する二連重(double-barreled)吻合が行われていた.治療は前回の手術後MRSA膿胸を併発していたため,胸腔内の癒着により左開胸が困難と判断し,開窓部を閉鎖するステントグラフト内挿術を施行した.術後神経学的合併症も見られず,術後18カ月目のCTにて最大径58mmであった瘤が38mmにまで縮小した.慢性解離性大動脈瘤において手術によって切除された内膜欠損部を慢性期にステントグラフトによって閉鎖し,瘤の縮小が得られた症例を報告した.
  • 黒澤 博之, 佐戸川 弘之, 佐藤 洋一, 高瀬 信弥, 三澤 幸辰, 若松 大樹, 瀬戸 夕輝, 坪井 栄俊, 村松 賢一, 横山 斉
    2008 年 37 巻 6 号 p. 349-352
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,Saddle block型虚血を合併した急性B型大動脈解離に対し緊急外科的開窓術およびステント挿入により下肢血流を改善し,術後にmyonephropathic metabolic syndrome(MNMS)および腸管壊死を合併したが救命し得た症例を経験したので報告する.症例は20歳,男性.対麻痺と両下肢虚血で発症し,腹部大動脈開窓術およびステント挿入による緊急下肢血行再建を施行した.術後MNMSに対し血漿交換,持続血液透析濾過および下腿筋膜切開を施行し,同時に対麻痺に対し脊髄液ドレナージを施行した.MNMSと対麻痺は改善を認めたが,術後13日に腸管壊死による汎発性腹膜炎を併発し,腸管切除・人工肛門造設術を施行した.腸管虚血の原因としては,上腸間膜動脈(SMA)への解離の進展および大動脈の真腔狭小化によるSMAの血流低下の関与が考えられた.
  • 畠山 正治, 高原 善治, 茂木 健司, 椛沢 政司
    2008 年 37 巻 6 号 p. 353-357
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は57歳男性,主訴は右上肢および両下肢のしびれ,胸痛.DeBakey I型の急性大動脈解離にて緊急入院した.右上肢と両下肢の虚血,心電図V1~4でST上昇,心エコーで前壁の無収縮を認めたため,緊急冠動脈造影を行った.解離によるLMTの高度狭窄を認めたため同部位にステント留置して血流を確保した後,直ちに上行弓部大動脈置換術・冠状動脈バイパス術・F-Fバイパス術を施行し救命し得た.冠動脈に解離が及び心筋梗塞を合併した急性大動脈解離において,本症例のように,LMT解離を伴う急性大動脈解離に対して術前PCIを施行し,早急に冠状動脈の血流を確保した上で,大動脈の修復術とCABGを施行することは有効な治療戦略の一つである.
  • 山崎 元成, 山本 平, 佐川 直彦, 菊地 慶太, 丹原 圭一, 天野 篤, 竹村 隆広
    2008 年 37 巻 6 号 p. 358-363
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    74歳,男性.冠動脈バイパス術後に大動脈弁狭窄症が進行し,手術適応となった.冠動脈バイパスには左右内胸動脈,大伏在静脈が使用されており全て開存していた.さらに上行大動脈に高度石灰化を認めたため,正中切開による大動脈弁置換術は困難と考え,apicoaortic conduit手術を選択した(18mm人工血管,19mmステントレス弁).手術は左第5肋間開胸,大腿動静脈の送脱血による常温体外循環下,心尖部の人工血管吻合のみを心室細動下に施行した.術中,術後はカテコラミンを必要とせず,術後経過は順調で,第11病日に軽快退院した.通常の大動脈弁置換術では手術侵襲が大きいと考えられる症例に対し,本術式は選択肢の一つとなりうると考えられた.
  • 山岸 敏治, 坂田 一宏
    2008 年 37 巻 6 号 p. 364-367
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.嗄声を主訴に耳鼻科を受診したところ反回神経麻痺を指摘され,他院での胸部単純CT検査で弓部大動脈に7×4.5cmの動脈瘤を認め加療目的で当院紹介となった.胸部造影CT検査で弓部大動脈穿孔性仮性瘤と診断され,左開胸・低体温・選択的脳灌流下に遠位弓部大動脈のhemiarch replacementを行った.瘤化のない大動脈が粥状硬化により穿通し仮性瘤を形成したことから,穿通性粥状硬化性潰瘍(penetrating atherosclerotic ulcer: PAU)が原因と診断された.検索し得た範囲では,PAUによる弓部大動脈仮性瘤に対し手術を行った報告は本邦2例目であり,極めて稀な症例として報告した.
  • 中川 博文, 中尾 達也, 繁本 憲文
    2008 年 37 巻 6 号 p. 368-371
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    長期開存性が期待できる内胸動脈(ITA)を多枝バイパスに対して使用する際,グラフトアレンジが必要とされる.今回,LITA末梢側分枝を有効利用するため,LITAの末梢枝を用いたLITA Y-composite graftとnatural Y-graftによる前壁領域再建を施行した2症例を報告する.症例1,56歳男性.#6 just calc 90% diffuse,#9 just 90%に対してoff pump下に2枝バイパスを施行した.左前下行枝(LAD)と第1対角枝(D1)吻合部の分枝角度および血流競合を考慮してLITA中枢側を#7に,LITA末梢側分枝を#9に吻合したY-composite graftingを施行した.症例2,78歳男性.#4AV 90%,#7 90%,#9 75%,#12 90%,#14 75%に対してon pump,心停止下に6枝バイパスを施行した.LAD領域の糖尿病性の枯れ枝状冠動脈に対して,冠動脈径,LADとD1の分枝角度,灌流域の血液需要を考慮してLITA自然分枝を用いたLITA分枝と#8および#9末梢部へのnatural Y-graftingによる前壁血行再建を施行した.また,大伏在静脈(SVG)を用いた#9中枢部-#12-#14-#4AVのsequential graftingも施行した.2症例とも術後早期および遠隔期グラフト開存率は100%であった.LITA末梢側分枝を有効利用したY-graft再建法は,症例によっては有効な選択肢の一つになると考えられた.
  • 泊 史朗, 澤崎 優, 山名 孝治, 加藤 亙, 上田 裕一
    2008 年 37 巻 6 号 p. 372-376
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,男性.2005年12月右冠動脈狭窄による狭心症の診断で,前医にて右冠動脈にシロリムス溶出ステント(CypherTM)を用いた緊急カテーテルインターベンションが施行されていた.その後胸痛再発し,当院循環器内科にて2006年11月冠動脈造影を施行した.左主幹部75%狭窄+左回旋枝病変の診断で,手術適応として当科紹介となった.術前14日よりチクロピジン休薬,術前日よりアスピリン休薬し,ヘパリン持続点滴を行い,2007年6月5日心拍動下冠動脈バイパス術を行った.右内胸動脈—左前下行枝吻合後,左回旋枝吻合のため心臓脱転時より,血圧低下,II 誘導STが上昇した.大動脈内バルーンパンピング(IABP)を挿入し,人工心肺下に左内胸動脈—左回旋枝吻合を行った.その後も II 誘導のST改善を認めないため,ステント閉塞を疑い,大伏在静脈を用いた右冠動脈へのバイパスを行った.右冠動脈切開時,冠動脈中枢側からの血流はほとんど認めず,切開部より外シャントを用いて灌流を行うと,STは正常化した.しかし,手術終了後も血行動態は不安定で,STも変動した.ICU入室1時間後に緊急冠動脈造影を施行した.ステント,グラフト共に開存しており,冠動脈スパスムと判断した.ニコランジルの持続静脈内投与を開始し,その後徐々に血行動態は改善した.薬剤溶出性ステント植え込み症例の手術においては,血栓閉塞や,抗血小板療法に伴う出血が問題とされるが,冠動脈スパスムにも同様に注意が必要と考えられた.
  • 上松 耕太, 青木 満, 内藤 祐次, 藤原 直
    2008 年 37 巻 6 号 p. 377-380
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    2003年4月から2006年8月までに当院で3例に対しdouble switch operation(DSO)を行った.手術時年齢は平均38カ月(2~89カ月),手術時体重は平均10.7kg(4.6~16.1kg)で,診断はそれぞれDextrocardia(apicocaval juxtaposition), corrected TGA, pulmonary atresiaが2例で内1例はnon-confluent pulmonary artery(PA)であった.さらにEbstein's malformationを伴ったcorrected TGAが1例であった.3例中mild MRを1例に,severe TRをEbstein's malformationを合併する1例に認めた.姑息術はpulmonary atresiaを合併した1例にmodified BTSを,non-confluent PAを合併した症例には段階的に両側modified BTS後,central PA plastyおよびRV-PA shuntを施行した.根治術はDextrocardia, corrected TGA, PAの症例2例にSenning+Rastelliを,corrected TGA, Ebstein's malformation,に対してSenning+Jateneを施行した.同時手術として僧帽弁形成術を1例に,右房化右室縫縮術および三尖弁輪形成術を1例に行った.心房スイッチはSenning手術を行いsystemic venous chamber作製の際SVC,IVCの開口部で心房フラップをたるませて吻合し狭窄を回避する工夫をした.Pulmonary venous chamberの作製は補填物を用いず自己心房組織のみで行うことができた.平均手術時間606分,人工心肺時間318分,大動脈遮断時間151分,出血量166mlであった.術後経過は平均挿管日数5日,ICU滞在期間13日,入院期間58日であった.術後心機能は概ね良好であった.術後造影CTではSVC,IVCから右室への還流はスムースでPVOも認めなかった.また術後Holter心電図で有意な不整脈は認められなかった.右心房面積が小さいとされるApicocaval juxtapositionのDextrocardiaや乳幼児症例に対しても,SVC,IVCの狭窄を防ぐ工夫をすることでSenning手術が可能であった.
  • 當山 眞人, 沖山 光則, 寺井 弘, 金城 清光
    2008 年 37 巻 6 号 p. 381-384
    発行日: 2008/11/15
    公開日: 2009/10/06
    ジャーナル フリー
    1981年1月以来,肝部下大静脈閉塞症(Budd-Chiari症候群)のうち,肝静脈あるいは副肝静脈の太いもの1本以上が下大静脈に開口している症例5例(男子2例,女子3例.術時33~61歳・平均45歳)に対して14~16mm直径,24~27cm長のリング付きEPTFEグラフトを用いた肝前方経路による下大静脈—右心房バイパス(IVC-RAバイパス)を造設し,術後経過を今日まで追跡してきた(遠隔期51~73歳・平均62歳).3例が術後20年を経て抗凝固療法無しでグラフトの開存を示し,2例が遠隔期に食道静脈瘤の破裂で死亡した.肝部下大静脈閉塞症に対するリング付きEPTFEグラフトを用いたIVC-RAバイパスは術後遠隔期に抗凝固療法なしで良好に開存していたが,肝硬変・食道静脈瘤の病変進行を阻止遅延させる効果は十分でなかった.リング付きEPTFEによるIVC-RAバイパスは肝部下大静脈,肝静脈に対する直達再建がかなわぬ場合の選択肢の一つと成り得る.
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