日本心臓血管外科学会雑誌
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45 巻, 5 号
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巻頭言
原著
  • 青木 淳, 尾本 正, 丸田 一人, 益田 智章
    2016 年 45 巻 5 号 p. 211-217
    発行日: 2016/09/15
    公開日: 2016/10/26
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    [目的]体外循環における送血部位は,上行大動脈が第一選択であるが,高度石灰化,解離,拡張性病変など上行大動脈送血が困難な症例に対して,2013年1月より腕頭動脈送血(BCA)を導入したので,その簡便性と安全性を検討した.[方法]対象は,大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術(AVR)62例(上行大動脈送血51例,BCA 11例),上行大動脈解離または拡張性病変44例(上行大動脈送血22例,BCA 7例,腋窩動脈送血15例)であり,手術開始から体外循環開始までの時間,麻酔覚醒時の脳神経障害の有無,送血部位に起因する合併症を評価した.[結果]AVR症例では,手術開始から体外循環開始までの時間は,BCA 51±9分,上行大動脈送血 47±10分(p=0.34),上行大動脈病変症例では,BCA 49±11分,上行大動脈送血 52±16分(p=0.82)と有意差を認めなかった.麻酔覚醒時の脳血管障害は,AVR症例BCAで覚醒遅延があり,頭部CTにて後頭葉の脳梗塞を発症した1例のみであった.送血部位に関連した合併症は,長期ステロイド内服歴のあるAVR症例BCAで術中上行大動脈解離を発症した.[結語]BCAは,症例を適切に選択することで安全に施行可能な手技であると思われた.

症例報告
[先天性疾患]
  • 伊藤 校輝, 畠山 正治, 河原井 駿一, 永谷 公一
    2016 年 45 巻 5 号 p. 218-222
    発行日: 2016/09/15
    公開日: 2016/10/26
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    三心房心は心房内に形成された異常隔壁により形態的三心房をきたす比較的稀な先天性心疾患の1つである.副房と左房との交通孔が保たれている場合には成人期まで無症状で経過することがあるが,成人例の報告は稀である.僧帽弁閉鎖不全症および心房細動を呈し,心不全を発症した成人三心房心の1手術例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は65歳,女性.うっ血性心不全を呈し,精査にて中等度僧帽弁閉鎖不全症および左房性三心房心の診断となった.保存的加療を継続されたが再度心不全を発症し,僧帽弁閉鎖不全症および三尖弁閉鎖不全症の進行を認めたため,手術目的に紹介となった.肺静脈はすべて副房へ還流し,異常隔壁の交通孔は1つで,径3 cm程度と比較的大きかった.異常隔壁切除,僧帽弁形成術(Physio ring II 28 mm, cleft closure, edge to edge repair for PMC),三尖弁輪形成術(Physio tricuspid ring 28 mm)およびmaze手術を施行した.術後は僧帽弁逆流および三尖弁逆流は消失し,洞復帰を得られた.

[成人心臓]
  • 濱石 誠, 岡田 健志, 平井 伸司, 三井 法真
    2016 年 45 巻 5 号 p. 223-228
    発行日: 2016/09/15
    公開日: 2016/10/26
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    ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin Induced Thrombocytopenia : HIT)はヘパリンの重大な副作用であり,血小板減少をきたし重篤な動静脈血栓症を合併しうる疾患である.症例は53歳,男性,慢性腎不全急性増悪,うっ血性心不全,肺水腫,肺炎で緊急入院となり人工呼吸管理下に透析治療を行い集中治療とした.全身状態の改善後に冠動脈造影検査を行ったところ,陳旧性心筋梗塞・不安定狭心症(重症三枝病変)と診断した.手術治療を検討していたが,ヘパリン使用下に透析を導入したところHITを発症した.冠動脈病変に対しては早期の手術治療が望ましいが,HIT発症後の急性期での手術は血栓塞栓症が発症するリスクは非常に高い.HIT抗体が存在する時期に手術を行う場合,手術の至適時期決定に明確な判断基準はなく,その判断に苦慮する.血小板数・D-dimer・FDP・Fibrinogenの値が改善している状態はHIT抗体によるトロンビン産生が低下している状態であり,これらの値の改善はHIT抗体の減少と活動性の低下を示唆する考えのもとに,手術の至適時期を決定するため血小板数・D-dimer・FDP・Fibrinogen値を経時的に評価した.そして,HIT抗体が存在する時期であるが,血小板数・D-dimer・FDP値が改善した時期にアルガトロバン使用下に心拍動下冠動脈バイパス術を施行した.術後にバイパスグラフトの開存を確認し,周術期に血栓塞栓症を併発せず合併症なく退院し,良好な経過を得た.HIT抗体が存在する時期に手術を行う際,手術時期決定の判断材料として血小板数・D-dimer・FDP値の改善は有用な指標の1つと考えられた.

  • 森 晃佑, 石井 廣人, 中村 栄作, 遠藤 穣治, 西村 征憲, 白﨑 幸枝, 中村 都英
    2016 年 45 巻 5 号 p. 229-232
    発行日: 2016/09/15
    公開日: 2016/10/26
    ジャーナル フリー

    患者は64歳,男性.38歳時に大動脈弁輪拡張症に対しBentall原法手術を施行した.術後11年目に左冠動脈口吻合部仮性動脈瘤を発症したため,直接縫合による修復術を施行した.今回,その15年後(初回手術から26年後)に反対側である右冠動脈口吻合部仮性動脈瘤を認めたため,button techniqueによる修復術を施行した.しかし,その7カ月後に再び左冠動脈口吻合部仮性動脈瘤をきたし,破裂のため死亡した.Inclusion法によるBentall術後遠隔期に冠動脈口吻合部仮性動脈瘤を繰り返した1例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

  • 青山 孝信, 藤井 弘通, 瀬尾 浩之, 賀来 大輔, 笹子 佳門
    2016 年 45 巻 5 号 p. 233-237
    発行日: 2016/09/15
    公開日: 2016/10/26
    ジャーナル フリー

    症例は41歳男性.6年前に感染性心内膜炎,僧帽弁閉鎖不全症,三尖弁閉鎖不全症に対してMVR(On-X 27/29 mm),TVR(On-X 31/33 mm)を施行した.術後に大動脈弁閉鎖不全症,憎帽弁位人工弁周囲逆流,心室中隔穿孔を認め,術後40日にAVR(On-X 25 mm),憎帽弁位人工弁周囲逆流部パッチ閉鎖,心室中隔穿孔部閉鎖,再TVR(On-X 31/33 mm)を施行した.以後,外来でPT-INR 2.0~2.5を目標にワルファリンコントロールしていた.術後3年半後の心エコー検査にて三尖弁位の平均圧較差の増大(14 mmHg)と人工弁透視検査にて三尖弁位人工弁の半閉鎖位での固定を認めたため人工弁機能不全と診断した.原因として血栓またはパンヌス形成を疑った.まずt-PA(monteplase 160万単位)による血栓溶解療法を行った.血栓溶解療法後5日の心エコー検査にて三尖弁位の平均圧較差の改善(4 mmHg)と人工弁透視検査にて三尖弁位人工弁の可動性の改善を認め,血栓弁であったと確定診断した.出血や塞栓症などの合併症も認めず,血栓弁に対する血栓溶解療法は有用であった.

[大血管]
  • 浅野 宗一, 林田 直樹, 大場 正直, 松尾 浩三, 鬼頭 浩之, 弘瀬 伸行, 丸山 拓人, 椛沢 政司, 長谷川 秀臣, 村山 博和
    2016 年 45 巻 5 号 p. 238-241
    発行日: 2016/09/15
    公開日: 2016/10/26
    ジャーナル フリー

    ステントグラフト内挿術のみでは治療長が足りない上行大動脈吻合部仮性瘤に対し,主に中小の血管塞栓用に使用されている血管塞栓プラグと,ステントグラフトを用いることで治療しえた1例を経験した.この症例では消費性凝固障害による出血傾向を合併しており,通常の人工心肺を使用した人工血管再置換術はリスクが高いと判断され血管内治療を考慮した.しかしステントグラフトのみでは,弓部分枝に病変が近く末梢側のlanding zoneが足りないため血管塞栓プラグを併用した本術式を施行し6カ月後瘤は縮小し経過順調である.血管塞栓プラグを上行大動脈瘤の治療に使用した報告は珍しく,文献的考察を含め報告する.

  • 吉岡 祐希, 鈴木 龍介, 平山 亮, 宮本 智也, 毛利 雅治, 上木原 健太, 松川 舞, 渡辺 俊明, 中島 昌道
    2016 年 45 巻 5 号 p. 242-246
    発行日: 2016/09/15
    公開日: 2016/10/26
    ジャーナル フリー

    症例は27歳女性.既往歴はTurner症候群.6年前に大動脈縮窄症に対して上行大動脈-下行大動脈バイパス術を施行し,その後は外来で経過観察を行っていた.今回,発熱,胸痛,頭痛を主訴に当科外来を受診した.CTで発症時期不明のA型大動脈解離を認め同日入院となった.心臓超音波検査では大動脈二尖弁と大動脈基部の拡大も認めていた.手術は大動脈基部置換術+上行全弓部大動脈置換術を施行し,術後経過は良好であった.Turner症候群と大動脈縮窄症を合併した症例では大動脈壁の脆弱性に伴い,大動脈瘤や大動脈解離を合併しやすいとの報告がある.Turner症候群に合併した成人大動脈縮窄症に対して上行大動脈-下行大動脈バイパス術を施行した後に,A型大動脈解離を発症し,手術により社会復帰をした症例を経験したため文献的考察を踏まえて報告する.

  • 佐藤 裕喜, 岡本 竹司, 青木 賢治, 名村 理, 土田 正則
    2016 年 45 巻 5 号 p. 247-250
    発行日: 2016/09/15
    公開日: 2016/10/26
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    症例は55歳男性.39歳時にStanford A型大動脈解離を発症し,上行弓部置換術を施行した.54歳時にStanford B型大動脈解離を発症し安静降圧治療を行ったが,遠位弓部大動脈の血管径が拡大したためB型解離発症1カ月後にエントリー閉鎖目的でステントグラフト(SG)内挿術を行った.術後半年までのCTでSG留置部に形態的な異常を認めなかったが,術後1年目のCTでSGが変形していることを認めたため追加治療を行った.SG変形に対してバルーン圧着を試みると,バルーン拡張に伴いSGは容易に正常形態へ矯正できたがバルーン拡張を止めると再度変形した.そこで矯正状態を保持するためにSGを追加した.追加治療後2年以上経過したがSGの再変形はない.TEVAR後遠隔期の合併症として非常に稀であるSG変形を経験したので報告した.

  • 織田 良正, 樗木 等, 内藤 光三, 村山 順一, 里 学
    2016 年 45 巻 5 号 p. 251-253
    発行日: 2016/09/15
    公開日: 2016/10/26
    ジャーナル フリー

    急性動脈塞栓症(左尺骨動脈閉塞)を発症した上行大動脈内血栓症の1例を経験したので報告する.症例は61歳男性.左前腕に突然疼痛,チアノーゼが出現し,当院救急搬送となった.造影CTにて左尺骨動脈閉塞および上行大動脈に内腔を50%以上占拠する巨大血栓を認めたため,人工心肺使用,循環停止下に血栓除去術を施行した.病理組織検査では大動脈内膜は肥厚と軽度のアテローム変性を認め,血栓はフィブリン血栓であった.術後経過に問題なく,術後22日目退院となった.若干の文献的考察を加え報告する.

  • 山田 宗明, 加藤 泰之, 高橋 亜弥, 塩見 大輔, 木山 宏
    2016 年 45 巻 5 号 p. 254-257
    発行日: 2016/09/15
    公開日: 2016/10/26
    ジャーナル フリー

    45歳男性.突発する胸痛で救急搬送された.来院時ショックバイタルであり,心電図所見から急性冠症候群と診断され,大動脈内バルーンパンピングを挿入後に緊急冠動脈造影(CAG)を施行された.CAGの結果,急性A型大動脈解離であり,左右冠動脈に解離が及んでいた.緊急手術の準備中に再度循環動態の維持が困難となり,左冠動脈主幹部(LMT)にベアメタルステントを用いた経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行し,循環動態を安定させた後に上行大動脈置換術および冠動脈バイパス術を行い救命し得た.冠動脈解離を合併し,手術までの間に血行動態が維持できない急性A型大動脈解離に対し,PCIを先行させ血行動態を安定させたうえでの手術は治療戦略の1つとして考慮されよう.

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