日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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51 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 本多 祐, 向原 伸彦, 村上 博久, 田中 裕史, 野村 佳克, 宮原 俊介, 内野 学, 藤末 淳, 河嶋 基晴, 殿城 秀斗
    2022 年51 巻2 号 p. 67-72
    発行日: 2022/03/15
    公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    [目的]フレイルは心臓手術の重要な術前リスク因子として注目されている.フレイルが心臓手術後のリハビリ経過や歩行能力に与える影響を検討した.[方法]2018年8月~2020年10月に当院で待機心臓手術を施行した65歳以上の症例で,術前にフレイル評価を行った213例を対象とした.フレイル有りのF群とフレイル無しのN群の2群に分類し,周術期因子,術後経過,歩行能力について検討を行った.[結果]全症例中70例(33%)がフレイルと診断された.術前因子では,F群で歩行速度と握力が有意に低下し,サルコペニアと低栄養症例が多かった.手術因子では,術式カテゴリーに偏りを認めた以外,両群間に有意差はなかった.術後経過では,挿管時間,ICU滞在期間,術後合併症や在院日数で両群間に有意差はなかったが,F群で転院が多かった.歩行能力に関しては,F群で歩行開始と100 m歩行達成日が有意に遅延し,300 m歩行達成症例が52例(74%)でN群の197例(89%)に比べ有意に減少していた.術後300 m歩行の可否についてロジスティック回帰を行った結果,術前歩行速度,リハビリ開始遅延,術後脳合併症が関連因子として抽出された.ROC曲線で求めた300 m歩行可否の歩行速度のカットオフ値は0.88 m/秒であった.[結語]フレイルが心臓手術後におけるリハビリ経過の遅延と歩行能力の低下に関与し,転院を増加させた.また,術後300 m歩行の可否に関与する因子の1つとして,術前歩行速度が抽出された.心臓手術を要するフレイル症例の改善策として,術前リハビリテーションが期待される.

  • 近藤 麻代, 中村 雅則, 杉山 博太郎, 宇塚 武司, 坂田 純一
    2022 年51 巻2 号 p. 73-79
    発行日: 2022/03/15
    公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    [目的]上行大動脈病変のために大動脈遮断を回避し,超低体温循環停止下での上行大動脈置換術を併施した大動脈弁置換術(AVR)症例を,大動脈遮断が可能であった症例と比較,検討する.[方法]2010年4月から2019年7月に施行した133例を対象とした.術前CTおよび術中epi aortic ultrasoundにて大動脈遮断の可否を判断した.上行大動脈置換併施症例(Asc-AVR)が12例,大動脈遮断症例(C-AVR)が121例であった.Asc-AVR群では,超低体温循環停止,逆行性脳灌流を基本脳保護として,上行大動脈を人工血管で置換し,送血再開後,人工血管を遮断して心内操作を施行した.[結果]Asc-AVR群で,手術時間,体外循環時間,輸血量が増加した.JapanSCOREの予測死亡率+主要合併症発症率(p=0.007),脳梗塞発症率(p<0.001)はAsc-AVR群で有意に高率であったが,両群の入院死亡,術後合併症等に有意差は認めず,Asc-AVR群で画像上の微小梗塞を2例認めたが,症候性脳梗塞は認めなかった(p=1.000).5年生存率はAsc-AVR群64.2%,C-AVR群79.9%で(p=0.420),遠隔期死亡と上行置換の有無に関連は認めなかった(p=0.738).[結論]術前精査に基づく超低体温循環停止下での上行大動脈置換併用法は,上行大動脈病変を有する大動脈弁狭窄症例に対する積極的なアプローチ法として,有用であると考えられる.

  • 田口 真吾, 花井 信, 山﨑 真敬, 墨 誠, 百川 文健
    2022 年51 巻2 号 p. 80-88
    発行日: 2022/03/15
    公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    [背景]重症糖尿病や透析,長時間手術等が手術部位感染(SSI)の危険因子と考えられるが,危険因子のない症例でもSSIを発症し得ることからstandard precautionとして全症例に等しくSSI予防を行うことがハイリスク症例でのSSI予防に繋がると思われる.われわれは開心術で最も多いSSIである縦隔炎に注目し,縦隔炎は表在菌により術中に胸骨骨髄が汚染され,その後に深部骨髄や縦隔内へと感染が波及した病態であると仮定し,この仮定に基づいて行った術中感染対策による縦隔炎の予防効果を検討した.[方法]2011年4月より2016年7月までに施行した開心術症例658例を対象とした.これらの症例を胸骨切開後に鈎部分のみスポンジで被覆した開胸器をかけた406例(C群)と,胸骨離断面を酸化セルロース止血剤と帯状に折った薄タオルで二重に被覆し,さらに正中創上下縁の皮下死腔に薄タオルの余剰部分を充填して開胸器をかけた252例(S群)に分類した.縦隔炎の危険因子は糖尿病(HbA1c 7.5以上),腎不全(Cr 2以上),喫煙,肥満(BMI 30以上),再手術,緊急・準緊急手術,術前挿管,長時間手術(8時間以上),再開胸止血術,冠動脈バイパス術(CABG)の10因子を想定し,統計学的に分析した.[結果]本検討での有意な危険因子は緊急手術とCABGであったが,危険因子がない症例も1例認めた.縦隔炎発症に関して,単変量解析ではCABG,当手技の有無,手術死亡および縦隔炎(DSI)に対するJapanScore-IIにおいて統計的有意差を認めた.多変量解析では,再開胸止血術,CABG,大動脈疾患,複数の危険因子,JapanSCORE-IIにおけるDSIが縦隔炎発症の危険性を高めたが,いずれも有意差は認めなかった.縦隔炎発症を13例(2.0%)に認めたが,すべてC群での発症であり,傾向スコアマッチングによる検討も含めて当手技により縦隔炎発症率は有意に低下した(p<0.05).[結語]胸骨離断面を厳重に被覆し表在菌の曝露から遮断する基本的手技を術中に徹底することで,開心術後縦隔炎の発症率を有意に低下させることが可能であった.

  • 池 創一, 濱野 公一, 小野 稔, 横山 斉
    2022 年51 巻2 号 p. 89-95
    発行日: 2022/03/15
    公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19:coronavirus disease-2019)による心臓血管外科診療への影響に関して全国的な現状を正しく把握すると同時に,COVID-19患者への感染予防策に活用することを目的としてアンケート調査を行った.[方法]心臓血管外科専門医認定修練施設550施設に対して調査を行い,310施設(56.4%)から回答を得て集計した.[結果]入院前PCR検査または抗原検査は,68.8%の施設で全例に実施されていた.約60%の施設が待機手術を制限していた.しかし,制限は従来件数の50%未満に留められていた.待機手術では弁膜症と大血管手術,緊急手術で比較すると,大血管手術の延期・中止の割合が高かった.COVID-19患者またはCOVID-19が疑われる患者に対する手術は,42症例の報告があった(陽性は10症例).術中感染予防策としては,9割以上の症例でN95マスクを装着しており,Full PPE装着33.3%,N95マスク+フェイスシールド装着66.7%であった.COVID-19患者の術後死亡例はなく,医療従事者への感染も認めなかった.[結語]COVID-19による手術制限は多くの施設で経験していたが,50%以上の待機手術の制限を経験した施設は1割程度であった.術前スクリーニング検査が高い割合で実施されたことと,推奨されている感染予防策で,医療従事者への感染は十分にコントロールされていた.COVID-19患者10例において,手術死亡はなかった.

症例報告
[成人心臓]
  • 平田 雄一郎, 今坂 堅一, 野村 竜也, 福田 倫史, 元松 祐馬, 森田 茂樹
    2022 年51 巻2 号 p. 96-99
    発行日: 2022/03/15
    公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    46歳,男性.感染性心内膜炎による弁閉鎖不全症に対し,2弁置換術を待機的に行った.体外循環より離脱し,新鮮凍結血漿計8単位を投与したところで,気管内より多量の黄色漿液性分泌物が吸引され,酸素化の急激な増悪を認めた.循環動態からうっ血ではなく,TRALIと判断し輸血を中止し,ステロイドを点滴静注した.ICU帰室時より酸素化能改善,分泌物減少し,術後2日目に人工呼吸器より離脱した.酸素化不良には一酸化窒素吸入が著効した.体外循環離脱後の酸素化不良の鑑別疾患としてTRALIを認知しておくべきと考えた.

  • 井上 凡, 加藤 全功, 亀田 柚妃花, 外山 雅章
    2022 年51 巻2 号 p. 100-104
    発行日: 2022/03/15
    公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    胸骨正中切開後の再心臓手術では,胸骨切開時の副損傷が懸念される.昨今,心臓手術において右開胸アプローチや胸骨部分切開といったMinimally Invasive Cardiac Surgery(MICS)が広く普及している.再手術においてもMICSを用いることで,剝離範囲の低減や胸骨切開の回避により副損傷のリスクを軽減することが可能である.われわれは,無名静脈もしくはバイパスグラフトが胸骨と接し,かつ右開胸アプローチが困難と思われた再心臓手術の6例に対して,胸骨下部部分切開を用いて安全に手術を実施することができたため報告する.

  • 小松 正樹, 内藤 一樹, 茅野 周治, 田中 晴城, 市村 創, 山本 高照, 中原 孝, 福家 愛, 和田 有子, 瀬戸 達一郎
    2022 年51 巻2 号 p. 105-109
    発行日: 2022/03/15
    公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    Chronic expanding hematoma (CEH)は手術や外傷を契機に,慢性的に増大する血腫で非常に稀な疾患である.症例は70歳,女性,胸部外傷歴や胸部手術歴なし.前医にて68歳時に心房細動に対してアブレーションを施行し,その際に右室前面に腫瘤影を指摘されたが経過観察となっていた.70歳時に心不全兆候を認め,CTでは126×76 mm大の腫瘤性病変と右室側から心尖部,左室にかけて心外膜の石灰化を認めた.CEH,収縮性心膜炎と診断し,腫瘤摘出,心外膜切除術を行った.腫瘤周囲は高度に硬化・癒着しており,腫瘤内部は泥状の内容物を伴いCEHと矛盾しない所見であった.若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 古賀 智典, 畑中 憲行, 瀬戸川 友紀, 上田 高士
    2022 年51 巻2 号 p. 110-113
    発行日: 2022/03/15
    公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    症例は50歳男性.冠動脈バイパス術(CABG)の既往があり,今回は重度の僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対して経皮的僧帽弁接合不全修復術(MitraClip)を施行したが,術後single leaflet device attachment(SLDA)による急性心不全を起こしたため,心拍動下で完全胸腔鏡下MICS MVRを施行した.グラフト損傷のリスクがあるCABG術後の再手術の場合,癒着の剝離操作が少なくてすむ右小開胸アプローチのMICSは有用であり,低心機能の場合は心拍動下での手術が長時間の心停止によるリスクを回避できる有効な手段となり得る.

  • 三浦 拓也, 須原 均, 熱田 祐一, 宮本 裕治
    2022 年51 巻2 号 p. 114-117
    発行日: 2022/03/15
    公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    症例は68歳女性.僧帽弁閉鎖不全症に対して24歳時に弁形成術を受けたが,逆流再発のため30歳時にBjörk-Shiley convexo-concave(BSCC)弁を用いた僧帽弁置換術を受けていた.その後長期に無症状であったが,術後38年に労作時息切れと溶血性貧血を認め,精査の結果,弁葉開放不全による狭窄と弁周囲逆流(PVL)による溶血と診断した.再手術を行うと人工弁左室側で全周性に石灰化したパンヌスによる弁葉開放制限,高度に石灰化した縫合部位の離開がありPVLを生じていた.CUSAを用いて石灰化した弁輪組織を除去したのち,異種心膜で弁輪を補強した再弁置換術を行い良好な結果を得た.

[末梢血管]
  • 保坂 到, 中島 智博, 梅田 璃子, 大川 陽史, 安田 尚美, 柴田 豪, 伊庭 裕, 川原田 修義
    2022 年51 巻2 号 p. 118-122
    発行日: 2022/03/15
    公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    Peripherally inserted central catheter(PICC)は病態に応じて小児から成人まで広く用いられる中心静脈カテーテルであり,内頸静脈や大腿静脈,鎖骨下静脈をアクセスとする従来の方法と比べ手技関連合併症が少ない.一方,血栓症や静脈炎の発症が多く,稀ではあるが抜去困難の報告も散見される.症例は13歳女児で,神経変性疾患のため鎮静剤の長期投与をPICCから受けていた.PICCが閉塞を来し交換の方針となったが,用手的抜去が困難であり当科に紹介された.CTにて,PICCが右腋窩静脈で屈曲しその周囲に高吸収域の構造物が確認された.当科および小児科の合同カンファレンスで治療の確実性と侵襲度を検討し,外科的摘出を選択した.手術は全身麻酔下に右鎖骨下を切開し,腋窩静脈を露出し直視下に静脈閉塞部位を露出した.血管内腔には白色石膏状の構造物が充満しており,内部にカテーテル本体が埋没している奇異な形態を認めた.構造物を摘出し,屈曲したPICCを直線化した後に,穿刺部である右肘窩から抜去した.石灰化を伴う抜去困難症例は報告があるものの,本症例のような形態で抜去困難に至った症例は他になく,また外科的摘除が非常に有効であったと考えられたため今回文献的考察を交えて報告する.

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U-40企画コラム U40プロジェクト報告
  • 吉野 邦彦, 高橋 賢一朗, 幾島 栄悟, 石澤 愛, 石田 圭一, 今村 優紀, 衣笠 由祐, 伊達 数馬, 中川 さや子, 西 俊彦, ...
    2022 年51 巻2 号 p. 2-U1-2-U4
    発行日: 2022/03/15
    公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    外科教育におけるoff the job training (off-JT)の重要性は広く認識されており,2017年より心臓血管外科専門医取得に際し30時間以上のoff-JTを義務付けている。U-40 Basic Lecture Courseは,若手心臓血管外科医を対象に基本的な手術手技を学ぶ機会を提供するべく毎年開催されている。U-40 Advanced Lecture Courseは,若手心臓血管外科医を対象に,より高度なレクチャー,ハンズオンセミナーを受ける機会を提供するために開始された。しかし,COVID-19の感染拡大以降,ハンズオンセミナーを開催する機会が非常に限られているのが現状である。その中で,ハイブリッドハンズオンセミナーを開催した。本稿では,このハイブリッドハンズオンセミナーの詳細について報告する。

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