日本心臓血管外科学会雑誌
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52 巻, 4 号
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巻頭言
原著
  • 工藤 雅文, 片岡 剛, 白神 幸太郎
    2023 年 52 巻 4 号 p. 211-215
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    [背景]エホバの証人信者は宗教的信条に基づき輸血治療を受け入れない.エホバの証人信者に心臓血管手術を行うにあたり,当院では絶対的無輸血の立場をとっている.[目的]エホバの証人信者に対して当院で行った心臓血管手術における治療戦略は妥当であったか後方視的に検討した.[方法]2013年1月から2020年12月までの間に,7例のエホバの証人信者に対して心臓血管手術を行った.年齢は64±10(49~78)歳であった.術前Hb値が13 g/dl以上になることを目標に,赤血球造血刺激因子製剤と鉄剤の投与を行った.初回外来受診時と術前のHb値はそれぞれ12.3±2.2(7.5~14.5)g/dl,14.1±1.4(11.1~15.2) g/dlであった.術中は入念な外科的止血を重視し,加えて希釈式自己血輸血と回収式自己血輸血を施行した.術後は必要に応じて赤血球造血刺激因子製剤と鉄剤の投与を行った.[結果]全例,無輸血で入院死亡は認めなかった.手術時間は307±103(157~478)分,体外循環時間は137±28(115~178)分,大動脈遮断時間は90±27(68~136)分であった.術後に心筋梗塞,脳血管障害,出血再開胸,急性腎障害,手術部位感染は認めなかった.追跡期間は3.7±2.6(0.3~7.4)年であり,全例生存を確認できた.[結論]エホバの証人信者に対する心臓血管手術において,絶対的無輸血の立場をとる当院での治療戦略は許容できるものと考えられた.

症例報告 [先天性疾患]
  • 高橋 利典, 白石 修一, 渡邉 マヤ, 杉本 愛, 土田 正則
    2023 年 52 巻 4 号 p. 216-220
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    Ebstein病の重症度はさまざまであるが,胎生期および生直後に発症する重症例においては循環維持が困難な危機的な状態となり,生直後に外科的介入が必要となることも多い.今回,肺動脈弁逆流を伴いcircular shuntの状態となった新生児Ebstein病の2例に対し,主肺動脈結紮術などを先行したRapid two-stage approachによるStarnes手術変法を施行した.① 症例1.在胎39週に吸引分娩にて体重3,012 gで出生.7生日に両側肺動脈絞扼術,主肺動脈結紮術,右房縫縮術を施行するも,術後に乳酸アシドーシスの進行を認めたため8生日に緊急Starnes手術を施行した.② 症例2.胎児水腫を認めたため在胎37週に緊急帝王切開にて体重2,528 gで出生.0生日に主肺動脈結紮術を施行.術後も循環動態は改善せずアシドーシスの進行を認めたため,1生日に緊急Starnes手術を施行した.どちらも良好な経過が得られたため報告する.

症例報告 [成人心臓]
  • 平山 大貴, 真鍋 晋, 弓削 徳久
    2023 年 52 巻 4 号 p. 221-223
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    転移性心臓腫瘍への外科的介入の是非は今なお議論がある.76歳男性,肝細胞癌の集学的治療が著効し心内腫瘍のみ遺残していたため外科的介入を検討した.手術は腫瘍から5 mm外側まで含め右室壁全層切除し右室形成を行った.病理診断では切除断端陽性であったが,術後10カ月の経過で心内の再発なく経過している.

  • 德永 蔵人, 上野 隆幸, 森山 由紀則, 山本 裕之
    2023 年 52 巻 4 号 p. 224-228
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    心臓血管腫は,通常,若年あるいは中年患者において診断される稀な原発性良性心臓腫瘍であり,高齢者での発生はさらに稀である.症例は80歳高齢女性で,間欠的に悪化する左胸部不快感を訴え,当院を受診した.経胸壁心エコー検査で右心室前壁内腔に広基性に付着する可動性のない腫瘍を認めた.造影CT検査では右心室内に不整な楕円形の造影陰影欠損を認め,MRI検査(T2強調画像)で右心室前壁に楕円形の腫瘍が付着していることを確認した.腫瘍は人工心肺補助下に外科的に腫瘍付着部心筋を含めて切除され,右室前壁欠損部は牛心膜パッチを用いて修復した.術後病理組織学的検査の結果,良性の心臓血管腫(cavernous-capillary type)と診断された.患者は術後特に大きな合併症なく,術後12日目に自宅退院した.その後も当院外来で定期的観察を行っているが,術後3年の経過時点で再発の所見は認めておらず,良好な経過をたどっている.今回われわれは,きわめて稀な高齢者に発生した右心室原発の心臓血管腫の1手術例の経験を報告する.

  • 佐藤 雅信, 山田 章貴, 森本 喜久, 顔 邦男, 麻田 達郎
    2023 年 52 巻 4 号 p. 229-234
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    症例は79歳男性.重症大動脈弁狭窄症を指摘され手術加療の方針となった.術前の経胸壁超音波検査では,左室流出路狭窄や僧帽弁収縮期前方運動Systolic anterior motion (以下SAM) の指摘はなかった.手術は生体弁 (INSPIRIS RESILIA 23 mm,Edwards Lifesciences) をsupra annular positionで縫着.大動脈弁遮断解除までは特に問題なく進めることができたが,人工心肺からの離脱が困難となり,経食道超音波検査にて僧帽弁収縮期前方運動SAM,severe MR, 左室流出路狭窄 (LVOTO) が認められた.ボリューム負荷,カテコールアミン中止,β-Blocker投与などの内科的治療で対応するも持続性はなく血行動態は不安定で,second pumpにて僧帽弁に対して外科的処置を追加する方針となった.手術はAlfieri Stitch (edge to edge) を施行し,リークテストでリークなし.遮断解除後の経食道超音波検査にてSAMとLVOTOともに消失しMRはmildで制御できており,人工心肺からの離脱を開始した.離脱は容易に行うことができ,手術は終了となった.その後の血行動態は良好で,術後2週間後の経胸壁超音波検査でも問題なく術後20日目に退院となった.退院後もSAM再発やMRの悪化なく順調に経過している.

  • 奈良 努, 高木 秀暢, 西田 真由, 森 光晴, 橋詰 賢一
    2023 年 52 巻 4 号 p. 235-238
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    75歳女性.6年前にSevere MS, ASによる心不全に対し,ITPとうつ病,アルツハイマー型認知症の既往を考慮して外科的手術は施行せず,PTMC, TAVIが施行された.3カ月前からMS再増悪による心不全を認め,カテーテル治療困難のため,外科的手術を行う方針となった.術前精査で狭小僧帽弁輪であることが判明したが,通常の弁置換術ではTAVI弁と干渉する恐れがあったため,生体弁付きグラフトを使用したcomposite graftによるSupra-annularでのMVRを施行し,TAVI弁と干渉することなく良好な結果を得た.狭小弁輪の僧帽弁置換術については,いくつかの方法が過去にも報告されているが,いずれも耐久性や合併症の観点から術式が確立されていない.本症例は“Bio-chimney法”として過去に報告されているが,症例数は限られており長期成績については今後さらなる検討が必要ではあるものの,有効な治療法の1つとなりうる.

  • 高木 大地, 角浜 孝行, 桐生 健太郎, 板垣 吉典, 和田 卓也, 荒井 岳史, 五十嵐 至, 山崎 友也, 五十嵐 亘, 山本 浩史
    2023 年 52 巻 4 号 p. 239-243
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    開心術後心停止は,胸骨圧迫により重大な合併症を起こす可能性があるという点で,一般的な心停止と異なる.The Cardiac Surgery Advanced Life Support (CALS) は,開心術後心停止に対する心肺蘇生法として,2017年米国胸部外科学会 (STS) のエキスパートコンセンサスで推奨されており,当院では,2019年に同プロトコルを導入した.2019年4月から2022年5月までに開心術550例を行い,その中で術後心停止となりCALSプロトコルを発動した6例 (1.1%) を経験した.本報告では,虚血再灌流障害によるR on Tを繰り返す心室細動 (ventricular fibrillation: VF) を呈した症例を,その他5例のデータとともに報告する.症例は,67歳男性で,右冠動脈の灌流不全と心タンポナーデを伴うStanford A型急性大動脈解離に対し大動脈基部置換術,上行弓部大動脈置換術および冠動脈バイパス術を施行した.術当日,VFとなり,ICUスタッフにより速やかに電気的除細動が行われた.洞調律に復帰したが,数十秒から数分ごとにVFを繰り返した.再開胸による直接心臓マッサージと経皮的体外循環補助装置の装着を行うことで,VF発作は消失した.胸骨圧迫は回避され,神経学的合併症はなく,生存退院された.開心術後の心停止に対して,CALSプロトコルに従い,胸骨圧迫による合併症を回避し,蘇生を行うことができた.

  • 横田 敦子, 谷口 智明, 櫻原 大智, 西村 征憲, 矢野 光洋
    2023 年 52 巻 4 号 p. 244-248
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    心膜欠損症は稀な先天性疾患で,その診断は必ずしも容易ではない.無症状で経過し,他疾患に対する胸部手術の際に偶然発見される症例も多い.今回われわれは,重症三尖弁閉鎖不全症に対する開心術時に右側心膜欠損症合併が判明した1例を経験したので報告する.症例は79歳,男性.12年前に持続性心房細動の診断で抗凝固療法が開始された.2年前より労作時息切れおよび両側下腿浮腫が出現し,利尿剤内服が開始されるも増悪傾向であり,精査加療目的で当院紹介となった.精査の結果,著明な右心系の拡大に伴う重症三尖弁閉鎖不全症,中等症僧帽弁閉鎖不全症,永続性心房細動による心不全の診断となった.手術は三尖弁形成術 (Physio Tricuspid Annuloplasty Ring 28 mm+right ventricular papillary muscle approximation+anterior-septal commissure plication+neochordae reconstruction) +僧帽弁形成術 (Physio II Annuloplasty Ring 34 mm) +左心耳切除術を施行した.術中に右側心膜の広範な欠損を認め,右房は心膜欠損孔を経由し右胸腔内へ伸展していた.右側心膜欠損症を合併していたために右房の拡大を妨げる構造物がなく,著明に拡大した結果,重症三尖弁閉鎖不全症を引き起こしたと推察された.

  • 林 奈宜, 柚木 純二, 馬場 康平, 大崎 隼, 山元 博文, 陣内 宏紀, 諸隈 宏之, 蒲原 啓司
    2023 年 52 巻 4 号 p. 249-252
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    経カテーテル的大動脈弁置換術 (TAVI) では経大腿動脈 (TF) アプローチが最も多く,侵襲の少ない方法であるが,時にアクセスが悪く,施行困難な症例も経験する.また,過去の人工血管置換術は脚の径,屈曲,吻合部やelephant trunkなどデバイスの通過が困難なこともある.今回,胸腹部置換術後のアクセス困難に対してTEVARを追加しTF-TAVIを完遂した症例を経験した.症例は80歳女性.13年前に胸腹部人工血管置換術を施行された.術後のフォロー中に大動脈弁狭窄症を認め,徐々に増悪あり手術適応となった.心エコー検査ではPeak Velocity 4.9 m/s, Mean PG 57 mmHg, AVA 0.53 cm2と重症大動脈弁狭窄症の所見であった.CTでは大動脈弁輪面積が379 mm2で,LADの狭窄を有することから,Sapien 3 23 mm弁でのTAVIを予定した.人工血管の中枢側吻合部にはelephant trunkが足側に折りたたまれて挿入されており,狭窄が疑われたため,術中IVUSでの評価も行うこととした.手術は局所麻酔+鎮静下にTFアプローチで行った.ワイヤーが足側から通過しなかったため,左橈骨動脈より大腿動脈にpull throughを作成した.Elephant trunkはIVUSで狭小化を認めたため,デバイスの通過困難を危惧し,elephant trunkの固定と吻合部の拡張のためTEVARを追加した.弁の通過は良好で,問題なく手術は終了した.Elephant trunk等の人工血管置換術後アクセス困難症例に対して,TEVAR追加が,低侵襲な治療であるTF-TAVIを完遂するために有用であった.

症例報告 [大血管]
  • 大高 慎吾, 上田 哲之, 関 功二, 外川 正海, 小尾 勇人, 中垣 彰太, 不破 光策
    2023 年 52 巻 4 号 p. 253-258
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    A型急性大動脈解離に対する人工血管置換後遠隔期に,BioGlueによる組織変性が原因として疑われた吻合部仮性動脈瘤を生じた2例を経験した.症例1:66歳,男性.A型急性大動脈解離に対して緊急上行弓部置換術施行.術1年8カ月後に胸痛を認め,CTで中枢側吻合部仮性動脈瘤と診断,再上行置換術を行った.症例2:78歳,女性.A型急性大動脈解離に対して緊急上行置換術施行.術2年後にCTで中枢側吻合部仮性動脈瘤と診断,再上行置換術を行った.両症例とも初回手術時,BioGlueを偽腔に注入し断端形成が行われていた.病理学的所見では,大動脈壁全層にわたって平滑筋細胞の核消失・壊死所見を認めた.BioGlueを使用した症例では,遠隔期に吻合部仮性動脈瘤を来す可能性があり,適正な使用方法の遵守及び,長期にわたる厳格な経過観察が必要である.

  • 大村 篤史, 溝口 和博, 安 健太, 畑田 充俊, 中尾 佳永, 吉田 和則
    2023 年 52 巻 4 号 p. 259-264
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    症例は88歳女性.肺動脈の拡張,肺動脈高血圧,肺動脈弁逆流に対し当院で外来経過観察されていた.労作時の呼吸苦,下腿浮腫の増悪を認め,精査加療目的で入院となった.肺動脈は経時的に拡大し肺動脈幹部で55 mmとなった.右心カテーテル検査で平均肺動脈圧は39 mmHgと上昇を認め,高度肺動脈弁逆流症を認めた.肺動脈瘤は拡大傾向 (約3 mm/year) であり,心不全の増悪から手術適応とした.手術は胸骨正中切開で行い,人工心肺下に肺動脈幹および左右の主肺動脈を人工血管で置換した.肺動脈弁逆流は,拡張した肺動脈により弁尖の接合が浅くなったことが原因と思われ,弁尖には明らかな器質的異常所見は認めなかった.ウシ心膜生体弁により肺動脈弁置換を行った.採取された肺動脈壁の病理像からは肺動脈壁の内膜・中膜・外膜の3層構造は保たれており,一部中膜が菲薄化し弾性線維が不明瞭な部分が認められた.一般的な動脈瘤の所見と矛盾しないとの結果であった.肺動脈瘤は稀な疾患であり,手術適応について定まった見解はない.文献的考察を加えて報告する.

  • 井塚 正一郎, 坂本 俊一郎, 村田 智洋, 栗田 二郎, 石井 庸介
    2023 年 52 巻 4 号 p. 265-268
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    症例は78歳男性.遠位弓部の嚢状瘤 (最大短径68 mm) に対して弓部全置換術を予定していたところ,術前の頭部MRIで大脳,小脳,および基底核に多数の微小脳出血 (cerebral microbleeds,以下CMBs) が指摘された.2度にわたる小脳出血の既往を有すことからも,術中の症候性脳出血の発症を危惧して体外循環を使用しないtotal debranching thoracic endovascular aortic repair (TEVAR) を施行した.周術期の脳合併症はなく,術後22日目に退院した.CMBsは,微小脳血管病における新しいMRI指標であり,病理学的に脆弱な微小血管からの血液漏出を直接的に証明すると考えられている.また,多数のCMBsは虚血性脳卒中やTIA,脳内出血後に起こる特発性脳内出血の発症リスク予測因子ともされている.今回,脳出血の既往およびCMBsを有する胸部大動脈瘤に対してその出血リスクを抑えるため,total debranching TEVARが有用であった1例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

  • 對馬 慎吾, 柴田 豪, 伊庭 裕, 中島 智博, 仲澤 順二, 大川 陽史, 保坂 到, 在原 綾香, 川原田 修義
    2023 年 52 巻 4 号 p. 269-273
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    症例は78歳男性.25年前に腹部大動脈人工血管置換術を施行されていた.今回,発熱,食欲不振を主訴に近医を受診し,原因検索のために施行したCTで以前の腹部大動脈の中枢側人工血管吻合部の中枢に周囲脂肪織濃度上昇を伴う最大径60 mmの腹部大動脈瘤と,その前面を跨がる馬蹄腎を認めた.また,以前の腹部大動脈人工血管置換術の際に右腎への異所性腎動脈がY字型人工血管の右脚に再建されていた.血液培養は陰性であったがPET-CTで大動脈瘤壁にSUV (standardized uptake value) Max 11.7のFDG高度集積を認め,感染性腹部大動脈瘤の可能性が高いと判断し,抗菌薬治療を開始した.抗生剤加療を継続するが発熱は改善せず炎症反応も遷延するため感染巣除去のために手術を施行する方針とした.腹部正中を再切開し,馬蹄腎の峡部を切離して断端を処理して腹部大動脈瘤を露出し,感染性腹部大動脈瘤を切除し腎動脈分岐部直下を中枢吻合部とし,末梢側吻合は前回のY字型人工血管として,新たに腹部大動脈人工血管置換術を施行し,さらに感染制御のために大網充填を施行した.以前再建した異所性腎動脈については今回の人工血管置換の範囲外にあり手術操作には影響しなかった.術後は抗生剤点滴を30日間継続し,感染の再燃は認めず,経口抗生剤に変更後,術後34日目に退院した.

  • 田村 智紀, 大友 有理惠, 宝来 哲也
    2023 年 52 巻 4 号 p. 274-277
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    腹部大血管手術の術後の合併症の1つに臀部コンパートメント症候群 (GCS) がある.きわめて稀ではあるが重篤な合併症を引き起こす可能性があり早期診断と治療が重要となる.今回われわれは,腹部大動脈ステントグラフト内挿術 (EVAR) 術後のエンドリークによる瘤径拡大に対する腹部大動脈人工血管置換術後にGCSを合併した1例を経験したので報告する.症例は79歳男性,6年前に57 mm大の右総腸骨動脈瘤に対して右内腸骨動脈塞栓を伴うEVARを施行された.その後,腰動脈よりのtype IIエンドリークによる瘤径拡大を認めたため開腹手術を予定した.複数回の開腹歴があった.腹部正中切開でエンドリークの原因血管を結紮,瘤縫縮術を試みたが腹腔内の癒着が強く,術中に人工血管置換術へ移行した.第2病日に左臀部の疼痛と腫脹,左下肢の知覚障害を認めた.CT検査で臀筋の腫脹を認め,左臀部のコンパートメント圧を測定したところ110~120 mmHgであった.GCSと診断し緊急的に減張切開術を施行した.術後経過は,一時的に血液透析を要したが腎機能は徐々に改善し血液透析は離脱できた.しかし,左坐骨神経麻痺が残存した.

症例報告 [末梢血管]
  • 鎌田 賢昇, 吉田 一史, 小山 忠明
    2023 年 52 巻 4 号 p. 278-282
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/08/02
    ジャーナル フリー

    症例は62歳女性.上腹部痛の精査で腹腔動脈瘤切迫破裂の診断に至った.造影CTでは腹腔動脈に中枢側18 mm大と末梢側12 mm大の動脈瘤を2カ所認め,中枢側には突出する隆起性病変と周囲の脂肪織濃度上昇を認めた.また上腸間膜動脈から肝動脈への側副血行路の発達は乏しかった.腹腔動脈瘤の中枢へのアプローチは,剥離に伴う瘤壁損傷のリスクよりコイル塞栓術が望ましいと判断した.また側副血行路の状態から総肝動脈と脾動脈へのバイパス術も必要と判断した.腹部大動脈を供血路とし,大伏在静脈を用いて両者にバイパス術を行い,その後腹腔動脈瘤にコイル塞栓術を実施した.術後CTではグラフトは開存しており,腹腔動脈瘤内にも血流を認めなかった.血管内治療単独または外科的治療単独での治療が困難な症例において,外科的血行再建と腹腔動脈瘤コイル塞栓の一期的ハイブリッド手術は安全かつ低侵襲な選択肢となり得る.

特集:特定行為研修修了看護師の導入を阻む問題(4)
各分野の進捗状況(2022年)
第53回日本心臓血管外科学会学術総会 優秀演題
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