[目的]僧帽弁形成術後に左房負荷軽減により左房リバースリモデリングがおこるが,一方でリングによる僧帽弁狭窄も指摘されている.今回,体格とリングサイズが僧帽弁形成術後の左房リバースリモデリングに与える影響について検討した.[対象と方法]僧帽弁形成術60例において,経胸壁心エコーで術前と術後遠隔期後の左房容積を比較した.体格とリングサイズのミスマッチの指標としてリングサイズ/BSA値を定義して,他の因子とともに左房縮小率に影響するか検討した.全例にリングを使用し,平均リングサイズは28 mmだった.観察時期は術後17±6月だった.[結果]左房容積は術前82±37 mlから47±20 mlに縮小しており,左房容積縮小率は39.8±18.6%,術後僧帽弁最大圧較差は7.5±3.0 mmHgだった.リングサイズはBSAよりも身長と相関が強かった.リングサイズ/BSA値は17.7±2.1 mm/m2 だった.多変量解析において,左房容積縮小率に影響を与える因子として,リングサイズ/BSA値,術前左房容積,年齢が有意であった.リングサイズ,僧帽弁最大圧較差,リングのみ,術後TRPGは有意ではなかった.[結語]僧帽弁形成術におけるリングサイズと体格のミスマッチは左房リバースリモデリングを妨げる因子の1つと考えられた.リングサイズ/BSAはミスマッチを表す指標として有用であると考えられた.
ムコリピドーシスは,ムコ多糖症に類似した臨床的特徴を示す常染色体劣性遺伝のライソゾーム病である.糖蛋白の蓄積により全身の結合織を中心にさまざまな病変が進行する.心血管病変,特に弁膜症病変が重要な予後因子とされるが,その自然予後は短く,本邦においては明確な治療ガイドラインや手術適応は存在しない.われわれは,12歳および15歳時に,大動脈弁逆流の進行に対して大動脈弁置換術を施行したムコリピドーシスIII型の兄妹例を経験した.また,兄は初回手術より11年で,パンヌス形成による人工弁機能不全をきたし,人工弁再置換術を要した.ムコ多糖症の弁膜症に対する手術報告は散見されるが,大動脈弁置換術を施行したムコリピドーシスの兄妹例は稀である.
非常に稀で,手術施行例の耐術例はほとんど報告がない,先天性心疾患姑息術後の肺動脈瘤の合併症例を経験した.症例は40代男性.肺動脈閉鎖症兼心室中隔欠損症に対して一歳時にWaterston手術を施行されたが,その後当時としては根治手術が困難と判断され,NYHA class I度のため数十年間近医で経過観察されていた.労作時の呼吸苦増悪を認め他院を受診,肺炎と心不全の疑いで入院加療されたが,胸部CT検査で95 mmの右肺動脈瘤を認め,切迫破裂も疑われたため外科的加療目的に当科紹介となった.入院時,右胸水と右肺の広範な無気肺を認めた.胸水ドレナージを施行(800 ml)した.胸水は漿液性で胸背部痛など認めず血行動態は安定していた.切迫破裂は否定的であったものの95 mmと巨大な瘤径であり,利尿薬および抗生剤治療を数日間先行し,準緊急的に右肺動脈瘤に対して瘤切除および人工血管置換を施行した.術前NYHA I度であったことから,もともとの吻合部径や末梢の肺動脈径にならい24×12 mm Y-graft人工血管を用いてcentral shuntとして肺動脈を再建した.PCPS装着のままICU入室,翌日離脱した.術後4日目に人工呼吸器離脱,術後38日目に退院となった.現在術後一年になるが,NYHA class I度で経過している.Waterston術後約40年後に発症した巨大肺動脈瘤に対し手術を施行し良好な結果を得たので報告する.
症例は65歳女性.2012年に労作時胸痛を主訴に当院を受診した.冠動脈造影CTで左冠動脈主幹部(LMT)が先天的に閉鎖したLMCAA(Left Main Coronary Artery Atresia)と診断された.右冠動脈(RCA)からの数本の側副血行路が発達しており左前下行枝(LAD)領域に還流していた.症状が一過性であったため経過観察となっていた.2016年末から労作時呼吸困難が増悪した.トレッドミル運動負荷試験でII・III・aVFおよびV4~6でST低下を認めた.また,心エコーで僧帽弁前尖の逸脱による重度僧帽弁閉鎖不全症(MR)および中等度三尖弁閉鎖不全症(TR)を認めたため手術治療の方針となった.2017年3月僧帽弁形成術(MVP),三尖弁形成術(TAP)および冠動脈バイパス術1枝(LITA-LAD)を施行した.術後経過は良好で第14病日に自宅退院した.LMCAAは既報53例程度と稀な疾患で,成人期における手術報告はほとんどないため文献的考察を加えて報告する.
症例は57歳男性.僧帽弁閉鎖不全と三尖弁閉鎖不全に対し,僧帽弁置換術と三尖弁置換術を施行した.術後は術前から合併していた肺高血圧の残存がみられた.術後徐々に血行動態が悪化し,その原因として肺高血圧の影響が大きいと考え,一酸化窒素吸入を開始した.NO吸入後に血行動態は改善し,心不全に対する機械的補助を回避できた.一酸化窒素吸入は,僧帽弁置換術後の肺高血圧と血行動態を改善する,低侵襲で有用な治療法と考えられた症例を経験したため報告する.
症例は72歳女性.前医で50mm嚢状弓部大動脈瘤に対しTEVAR(Thoracic Endovascular Aortic Repair)を施行された.フォローアップ中に瘤径の拡大を指摘されたが,治療困難のため経過観察の方針となり当院をセカンドオピニオン目的で受診された.造影CTではステントグラフト外の嚢状瘤内へ造影剤が流入しており,手術加療適応と判断した.手術は超低体温循環停止下にステントグラフト部分抜去・弓部全置換術を施行し,術後は合併症なく独歩退院した.ステントグラフト治療は低侵襲で多用される傾向にあるが,追加治療のリスクも伴うためその適応に関しては慎重になるべきであり,治療方針としてOpen surgeryを選択することも重要である.
血管ベーチェット病に合併した炎症性胸部大動脈瘤に対してTEVARを施行し,良好な経過をたどった症例を経験したので報告する.症例は71歳男性.30年前よりベーチェット病で,ステロイド加療中であった.近医で胸部大動脈瘤を指摘され当院紹介.来院時には炎症反応の著明な上昇を認めたが,血液培養では陰性であり,術前のガリウムシンチでは活動的な炎症性集積は認めなかったため,炎症性大動脈瘤の診断で加療を行う方針とし,炎症のコントロール後にステントグラフト内挿術(TEVAR)を施行した.胸部大動脈は高度粥腫を伴っており,瘤は2カ所存在した.限局性解離を伴っていた.TEVAR術後,下肢不全麻痺が生じたが,リハビリを継続し現在歩行可能である.術後1年のフォローで,再発・拡大,吻合部仮性瘤は認めていない.
腹部コンパートメント症候群(ACS)のため一期的閉腹が困難な開腹術後の症例に対し,腹部臓器保護を目的とした腹部VAC療法が行われている.今回,われわれは腹部大動脈瘤破裂の手術後に閉腹困難となったACSを呈した2症例に腹部VAC療法を施行した.症例1:72歳,男性.腹部大動脈瘤破裂にステントグラフト内挿術を施行したが,術直後からACSを呈したため,緊急開腹による減圧を行い,開腹のままVAC療法を開始した.第4病日に二期的に閉腹し,術後経過は良好であった.症例2:71歳,男性.腹部大動脈瘤破裂に対し,開腹下の人工血管置換術を施行した.著明な腸管浮腫と大量の後腹膜血腫のため,一期的閉腹は困難と判断し,腹部VAC療法の方針とした.適宜VACシステムを交換し,第7病日に二期的閉腹が可能であった.一期的閉腹が困難なACS症例の術後開腹管理に腹部VAC療法は有効と考える.