日本心臓血管外科学会雑誌
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37 巻, 4 号
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原著
  • 中村 喜次, 田鎖 治, 斎藤 健一, 小山田 志瑞, 本田 賢太朗, 本間 信之, 宮本 亮三, 中野 清治
    2008 年 37 巻 4 号 p. 213-216
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/10/02
    ジャーナル フリー
    弁膜症患者の術前における口腔内病変の罹患率は不明である.今回,弁膜症手術患者の口腔内病変の罹患率について調査,検討した.また菌血症をおこしうる病変があった場合,抜歯を術前に行った.抜歯が術後在院日数に与える影響についても検討した.2003年5月から2007年1月までに施行した弁膜症手術患者177例中,歯科受診した137例を対象とした.菌血症を呈する可能性のある化膿性歯周炎,根尖性歯周炎を認めた場合,抜歯の適応とした.菌血症となりうる口腔内病変を有し抜歯が必要であった患者は82例(59.9%)であった.また軽度のう歯のため抜歯は必要なかったものの簡単な充填処置が必要であった症例が6例(4.4%)であった.要抜歯患者の平均抜歯本数は1.9本(1~10本)であった.抜歯による合併症を認めず,要抜歯患者群と抜歯不要患者群の術後在院日数はそれぞれ15±11日,14±5日であり有意差はなかった.平均観察期間30カ月中,術後,感染性心内膜炎を発症した症例はなかった.弁膜症手術症例の口腔内病変罹患率は高く,その多くは菌血症の原因となりうる病態であった.それら口腔内病変を有する患者に対し弁膜症手術前に安全に抜歯が可能であり,術後経過を遷延させることはなく良好な結果を得た.
症例報告
  • 石本 直良, 玉木 修治, 横山 幸房, 石川 寛, 恒川 智宏, 小坂井 基史
    2008 年 37 巻 4 号 p. 217-220
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/10/02
    ジャーナル フリー
    先天性僧帽弁閉鎖不全(MR)によって重篤な心不全症状を呈した生後9日の男児と5歳10カ月の女児に対して double orifice repair を施行した.術前の心臓超音波検査ではいずれも重度の MR を認め,その病変は弁尖および弁下組織の著しい低形成に基づく弁開口部に対する弁尖面積の圧倒的な欠如に伴う弁尖接合不全であった.これらに対して弁尖の edge を対側の edge と縫合する double orifice repair を選択した.術後の心臓超音波検査では2症例とも軽度の MR を認めたものの MS は認めなかった.double orifice repair は成人においては多くの症例に適用され良好な成績が得られているが,小児に対する施行例は未だ散見される程度であり,その中期遠隔成績は明らかにされていない.そのため今後も注意深い経過観察が必要であると考えられた.
  • 坂 有希子, 平松 祐司, 野間 美緒, 加藤 秀之, 池田 晃彦, 金本 真也, 阿部 正一, 榊原 謙
    2008 年 37 巻 4 号 p. 221-225
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/10/02
    ジャーナル フリー
    6歳,男児.乳児期に肥大型閉塞性心筋症と診断され,内科的治療が継続されていた.近年,徐々に左室流出路閉塞所見が進行し,高度の心不全症状と失神発作を呈するようになった.心臓カテーテル検査では87mmHgの左室流出路圧較差を,心エコーでは僧帽弁前尖の systolic anterior motion と僧帽弁逆流を認め,中隔心筋切除術の適応と判断した.術前後および心停止中にも経食道心エコーを駆使し,大動脈弁経由で左室側心室中隔心筋切除を行った.術後に完全房室ブロックを来たし恒久的ペースメーカーの植込みを要したが,左室流出路圧較差は軽減し,心不全症状の改善を見た.
  • 坂本 和久, 林 叔隆, 瀧 智史, 西澤 純一郎, 中山 正吾
    2008 年 37 巻 4 号 p. 226-229
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/10/02
    ジャーナル フリー
    激烈な転帰を辿った Listeria 菌による感染性腹部大動脈瘤を経験したので報告する.症例は76歳男性,持続する腹痛および発熱を主訴に来院,腹部CT検査で38mmの腹部大動脈瘤と麻痺性イレウスの所見を認め,憩室炎の診断で入院した.抗生剤治療が開始されたものの,翌日症状は増悪,腹部CT再検にて後腹膜へ大量の血腫像を認め,緊急手術を行い救命した.病理組織および培養結果より Listeria monocytogenes による感染性腹部大動脈瘤破裂と診断された.急激な臨床経過,感染兆候を認める動脈瘤破裂では感染の関与の可能性を念頭に置いた治療方針を考えるべきである.
  • 山本 宜孝, 富田 重之, 永峯 洋, 山口 聖次郎, 東谷 浩一, 飯野 賢治, 渡邊 剛
    2008 年 37 巻 4 号 p. 230-233
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/10/02
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性.9年前抗リン脂質抗体症候群,特発性血小板減少性紫斑病を指摘され,以後血液内科で通院治療を継続していた.今回心不全症状が出現,精査の結果III/IV度の大動脈弁閉鎖不全症と診断された.血液内科医師と連携をとり十分な準備と計画をたて心臓外科手術:大動脈弁置換術を施行した.術前には血漿交換とステロイドパルス療法を施行,また腎機能障害の増悪に対し透析をおこなった.術後は早期より抗凝固療法とステロイドの内服を行い,抗リン脂質抗体症候群の増悪を認めることが無く順調に経過した.
  • 山名 孝治, 澤崎 優, 泊 史朗, 碓氷 章彦, 上田 裕一
    2008 年 37 巻 4 号 p. 234-236
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/10/02
    ジャーナル フリー
    冠動脈起始異常に Stanford A 型急性大動脈解離を発症し緊急手術を行った.症例は61歳,女性である.麻酔導入後に血圧低下,徐脈となり,直ちに胸骨正中切開を行った.心タンポナーデはなく,右心系の拡大と壁運動の低下を認め,右室梗塞を疑い,心臓マッサージ,心外膜ペーシングを行いながら,体外循環を確立し,超低体温循環停止(膀胱温22.3℃)とした.全身冷却中は右室梗塞の進展を防ぐため,外シャント冠動脈灌流カテーテルを用いて右冠動脈に人工心肺血を灌流した.逆行性脳灌流下に上行弓部大動脈置換術と右冠動脈へのバイパス術を行った.大動脈弁は二尖弁であり,右冠動脈は左冠尖洞 Sinotubular junction の高位より起始しており,その起始部は全周性に解離,離断していた.人工心肺の離脱に難渋したが,術後の心機能は良好であり,右室の壁運動異常も心尖部の一部に認めるのみであった.右冠動脈起始異常を伴い,右室梗塞を合併した急性 I 型大動脈解離に対して,外シャントカテーテルを用いた順行性冠灌流を行い,バイパス術を行うことで右室梗塞を最小限にとどめることができ,救命することができた.
  • 田中 恒有, 汐口 壮一, 権 重好, 入江 嘉仁, 今関 隆雄
    2008 年 37 巻 4 号 p. 237-239
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/10/02
    ジャーナル フリー
    ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)はヘパリン使用に伴う副作用であり,血小板減少をきたし致死的な動静脈血栓症を合併する疾患である.欧米での報告が多く,本邦では稀な疾患とされてきたが,近年本邦においても症例報告が散見されるようになった.今回われわれは心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)の術前待機中に HIT と診断された1例を経験した.症例は67歳の男性で,労作時の息切れを主訴に近医を受診した.狭心症が疑われ冠動脈造影検査を施行し,冠動脈左主幹部(LMT)に90%狭窄を認めた.当院に転院してヘパリンの持続静注を開始し,手術待機中であったが,入院16日後より発熱と血小板減少を認め手術延期となった.HIT を疑い,ただちにヘパリンを中止してアルガトロバンの持続静注に切り換えた.抗 HIT 抗体は陽性であった.血小板数は改善し,抗凝固にアルガトロバンを使用して OPCAB2 枝を施行した.術後経過は順調で,MDCT にてバイパスグラフトの開存を確認し第13病日に退院した.
  • 立石 昌樹, 高瀬谷 徹, 川良 武美, 鈴木 重光, 大石 恭久, 園田 拓道, 森田 茂樹
    2008 年 37 巻 4 号 p. 240-243
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/10/02
    ジャーナル フリー
    症例は32歳女性.中学時代から心電図異常を指摘され軽い運動制限をしていた.2007年7月突然心室細動となって意識消失し,近医へ救急搬送された.緊急冠動脈造影にて左冠動脈は肺動脈後方の right facing sinus より起始しており,Bland-White-Garland(BWG)症候群と診断された.手術は最も生理的で予後が期待できる左冠動脈-大動脈直接吻合術を選択した.心筋保護液は初回のみ順行性に,以後は冠静脈洞から逆行性に投与し心停止を維持した.左冠動脈主幹部(LMT)を剥離遊離する際に内膜亀裂を認めた.視野確保のため,超低体温循環停止とし,大伏在静脈パッチで損傷部を修復し手術を完遂した.BWG症候群に対する手術では体循環からの側副血行から冠動脈に血流が持続するため,心筋保護および視野の確保に工夫が必要である.
  • 田村 健太郎, 杭ノ瀬 昌彦, 吉鷹 秀範, 津島 義正, 南 一司, 都津川 敏範, 小澤 優道
    2008 年 37 巻 4 号 p. 244-246
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/10/02
    ジャーナル フリー
    症例は23歳男性,精神発達遅滞で2度の自傷行為歴がある.胸痛を主訴に近医を受診した.左前胸部に約3mmの刺創を認め,胸部 CT 検査で心臓内異物を認めたため穿通性心損傷の診断で当院を受診した.異物除去目的で緊急手術を行った.胸骨正中切開アプローチで心嚢に到達すると異物(針)は完全に心臓内に埋没しており心嚢内に見つけることができなかった.検索のため心臓を脱転した際,偶然後壁に異物感を触知した.用手圧迫したところ心拍動により針先が出現したためこれを抜去した.異物は長さ3.4cmの昆虫標本用の針であった.
  • 宮内 忠雅, 島袋 勝也, 村上 栄司, 福本 行臣, 石田 成吏洋, 初音 俊樹, 真鍋 秀明, 竹村 博文
    2008 年 37 巻 4 号 p. 247-251
    発行日: 2008/07/15
    公開日: 2009/10/02
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,女性.高血圧にて17歳より通院中であった.半年前に PDA と診断されていた.呼吸困難で救急外来を受診し,完全房室ブロックの診断で入院した.翌日に急性心不全にて気管内挿管され呼吸管理で治療された.DDD ペースメーカー植込み術を受け,心不全は軽快した.スクリーニングで行った造影 CT にて大動脈縮窄症と診断された.血圧は左右差無く,上下肢の血圧差は約70mmHgであった.手術は左4肋間開胸でF-F体外循環下に PDA を結紮切離し,大動脈の縮窄部位を人工血管に置換した.術後の上下肢の血圧差は改善した.6POD に腹痛を訴え,貧血が進行したため CT を行ったところ腹直筋と腸腰筋内に出血を認めた.安静と経過観察で軽快した.以後の経過は良好で 20POD で退院した.本症は未治療での平均寿命は34歳という報告もあり,診断され次第早期の手術が必要であると思われた.また小児期からの高血圧疾患に対して本症例をはじめとする二次性高血圧を念頭に鑑別を行う必要があると考えられた.
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