69歳男性。67歳時に偶発的に中等度血小板減少,高度脾腫を指摘され初診した。白血球数7,400/µlでリンパ球が80%を占め,骨髄穿刺では異型リンパ球を24%に認めた。Flow cytometryで成熟T細胞系マーカーが陽性であり,T細胞受容体遺伝子再構成でクローナリティを認めた。免疫組織化学染色でTCL1陰性であり,TCL1-family negative T-cell prolymphocytic leukemia(T-PLL)と診断し,経過観察とした。白血球数は正常範囲内で推移したが,診断30ヶ月後に尿閉・右下肢不全麻痺を生じ,脊髄圧迫を伴う第5~8胸椎周囲の硬膜外腫瘤を認めた。生検よりTCL1-family negative T-PLLの節外病変と判断したが,全身状態の急速な悪化のため治療介入は困難だった。T-PLLは白血球増多を示す稀な疾患であり,病勢に伴って白血球数が増加することが一般的である。経過観察には血算を用いるものの,血球に変化がなくとも病勢進行しえることに留意が必要である。
症例は69歳,男性。腰痛にて受診し,腰椎,仙骨の骨病変を伴う多発性骨髄腫(IgD-λ型,R-ISS II期)と診断された。染色体解析ではt(8;14)(q24;q32)とt(11;14)(q13;q32)を認めた。Daratumumab+lenalidomide+dexamethasone療法により部分奏効に至ったが再発し,t(11;14)のコピー数増加や1q21の異常増幅を新たに認めた。CMV腸炎を合併し治療中であったが,突然の腹痛をきたし入院した。CTでは小腸の壁肥厚やfree airを認め,浸潤による消化管穿孔を疑い緊急手術を施行した。穿孔部腫瘤は免疫染色ではCCND1陽性,MYC陰性の骨髄腫細胞であった。術後も全身状態は改善せず死亡され,病理解剖では小腸の他,多臓器への髄外浸潤を認めた。髄外浸潤はクローン進化によるものと考えられ,その機序の解明と有効な治療戦略の確立が求められる。
症例は43歳男性。汎血球減少を主訴に受診し,急性前骨髄球性白血病(APL)と診断された。全トランス型レチノイン酸(ATRA)単剤での寛解導入療法を開始した当日に発熱し,SARS-CoV2抗原検査にてcoronavirus disease 2019(COVID-19)の罹患が判明した。COVID-19を合併した急性骨髄性白血病の治療は,可能な限り延期が推奨されるが,本症例ではAPLによる播種性血管内凝固(DIC)を併発していたため,治療を継続した。APL分化症候群を発症した場合,COVID-19増悪との鑑別が困難である点を考慮し,ATRAを半量に減量した。それによりAPL分化症候群の発症やDIC増悪を引き起こすことなく,治療継続可能で,COVID-19は治癒し,APLを寛解に導くことができた。
鉄欠乏性貧血の原因は,慢性出血による鉄の喪失,需要の増大,摂取不足,吸収障害(萎縮性胃炎を含む)などで,稀ではあるがTMPRSS6変異による遺伝性の鉄剤不応性鉄欠乏性貧血も報告されている。鉄欠乏性貧血の診断は小球性低色素性貧血と低フェリチン血症でなされるが,慢性疾患を伴う場合はトランスフェリン飽和度の低下も併用される。原疾患の治療が可能であればその治療を行い,並行して鉄剤を投与する。投与経路の第一選択は経口である。副作用などで内服できない場合や,吸収障害がある場合,迅速な鉄の補充が必要な場合は経静脈的投与を検討する。最近,本邦で高用量の静注鉄剤が使用できるようになった。静注鉄剤は,アレルギー反応や低リン血症/骨軟化症,鉄過剰症,血管外漏出のリスクを念頭に,慎重に投与する。循環器領域では鉄欠乏を伴う心不全患者への高用量静注鉄剤の効用が注目を集めている。本稿では最近のトピックスも交えて概説する。
再生不良性貧血は,造血幹細胞が減少して,骨髄の低形成と汎血球減少を呈する症候群であり,多くはT細胞を介した自己免疫疾患と考えられている。造血幹細胞移植以外の治療ではATG(anti-human thymocyte immunoglobulin)+cyclosporineによる免疫抑制療法が基本である。日本では従来ウサギATGのみ使用可能であったが,2023年にウマATGが認可され,使用可能となった。トロンボポエチン受容体作動薬については,日本では内服薬のeltrombopagのほかに注射薬のromiplostimが使用可能である。再生不良貧血に対する造血幹細胞移植では心毒性の軽減を期待して,前処置のcyclophosphamideを減量し,代わりにfludarabineを併用するレジメンが行われている。HLA半合致移植が開発され,ドナーが見つからない症例を対象に報告が増えつつあり,従来は移植を断念していた症例に適応が広がる可能性がある。
Cold agglutinin disease(CAD)は補体依存性の古典的経路を介する免疫性溶血性疾患であり,autoimmune hemolytic anemia(AIHA)の約8%を占める。原発性CADはIgM型M蛋白を産生する骨髄のクローン性B細胞リンパ増殖性疾患であり,従来の続発性CADはcold agglutinin syndrome(CAS)と呼ぶ。臨床所見は溶血による慢性貧血と,寒冷曝露下の赤血球凝集による末梢循環不全に伴う症状に大別される。すべての患者が薬物治療を必要とするわけではないが,前者には補体C1sに対するモノクローナル抗体薬,後者にはB細胞抑制薬による治療が優先される。温式AIHAとは治療法が異なるため,誤診は治療結果に大きな影響を及ぼす。血液検査において最も重要な点は検体の温度管理である。CA価,IgMの定量,電気泳動法,免疫固定法は血清分離まで37~38°Cに温度管理した血清を用いないと偽陰性の結果をもたらす可能性がある。CADの多彩な臨床的特徴に関する知識とともに検体の正しい取り扱いが,正しい診断と適切な治療に結びつく。
がんの発生・進展に特に強く関わるドライバー遺伝子を特定し,その遺伝子を標的とした最適な治療を提示する,がんプレシジョン・メディシン(遺伝子に基づく個別化治療)が固形腫瘍で既に導入され,多くの症例がこの医療を受けている。一方,造血器腫瘍においてもがん遺伝子パネル検査に基づくがんゲノム医療の準備が進んでいる。本稿では,悪性リンパ腫における遺伝子変異の紹介と臨床的意義について基本的な情報を紹介し,将来的にがんゲノム医療でどのように活用すべきかを検討したい。
再発難治性B細胞リンパ腫に対するCD19標的キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法の顕著な効果が臨床試験で示され,本邦でも2019年に再発難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)にtisa-celが承認されて以降,既に3製剤が承認され,その後の臨床試験の結果を受けて2nd lineでの使用や再発難治性濾胞性リンパ腫に適応拡大された。実臨床での使用が拡大したことで,予後因子や不応例への対応についての国内外での実臨床データが集積されつつある。本稿では,B細胞リンパ腫におけるCAR-T細胞療法の臨床試験結果と,real-world evidence(RWE)について予後因子や不応例への対応の現状を含めて概説する。
多発性骨髄腫における免疫・細胞療法は,主にBCMA(B-cell maturation antigen)抗原を標的とした治療法が開発されている。BCMAを標的とする治療として,CAR-T細胞療法(我が国では認可)・二重特異性抗体療法・薬物複合体が開発されている。CAR-T細胞療法は再発難治性骨髄腫に対し優れた効果を示し,より早期の導入向けた開発が進められている。二重特異性抗体療法もCAR-T細胞療法と同様に優れた治療効果を示し,既存薬との併用量の開発が進められている。これら新規治療は,基となるT細胞の質や疲弊,およびウイルス感染の問題をかかえながらも,より早期の導入に骨髄腫患者の予後のさらなる改善が期待される。
後天性血友病Aは凝固第VIII因子(FVIII)に対する自己抗体が出現し,皮下出血や筋肉内出血などの出血症状をきたす疾患である。凝固検査でPT正常,APTT延長,FVIII活性低下,VWF活性正常,FVIIIインヒビターが陽性の場合,後天性血友病Aと診断する。止血治療は第VIII因子を経由せずに,外因系凝固反応を活性化させて凝固反応を促進するバイパス止血療法が主体である。出血予防には,FVIII機能代替二重特異抗体製剤emicizumabが使用可能である。インヒビターの抑制・根絶のためには,免疫抑制療法が必要である。治療により大部分は寛解に至るが,一部の症例は出血症状あるいは免疫抑制療法に伴う感染症によって死亡する。
血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura, TTP)は,von Willebrand因子の切断酵素であるADAMTS13の活性著減によって引き起こされる致死的な血栓性疾患である。先天性TTPではADAMTS13遺伝子異常,後天性TTPでは抗ADAMTS13自己抗体によってADAMTS13活性が低下する。血漿交換と免疫抑制療法を用いた従来の後天性TTP治療は,急性期血栓症による死亡を十分に回避できないことが問題として指摘されるが,抗VWF抗体であるcaplacizumabが登場したことで血栓形成の抑制が可能となり,生存率の改善が期待されている。また,血漿交換を併用しないcaplacizumabによる後天性TTP治療についての有効性が報告され,臨床試験が進行している。先天性TTPについてはADAMTS13の供給を目的とした新鮮凍結血漿の輸注が行われるが,長期間にわたる頻回の輸注に伴って,感染症やアレルギー反応などが問題となる。遺伝子組み換えADAMTS13製剤や遺伝子治療などの新規治療の開発が進められており,今後の臨床への応用が期待される。
補体系と凝固系はともにセリンプロテアーゼによるタンパク質の限定分解が連鎖的に進行し,活性化する機構であり,相互に作用し合っていることが最近の研究で明らかになってきた。補体は血小板を活性化し凝集を促進するとともに,血管内皮細胞上での組織因子の発現にも関与し凝固反応を惹起する。反対に活性化した血小板や凝固因子が補体を活性化させることも知られている。発作性夜間ヘモグロビン尿症や自己免疫性溶血性貧血,補体介在性の血栓性微小血管症である非典型溶血性尿毒症症候群などの補体疾患においては,過剰な補体活性化が様々な方面から血栓止血反応を促進し血栓症を発症する。現在はこれら補体疾患に対する抗C5抗体製剤eculizumabにより著しい血栓症予防効果が得られている。近年,続々と新規抗補体薬が開発されており,補体疾患と合併する血栓症治療および予防方法のますますの発展が期待される。
小児白血病のうちでも,ダウン症候群に合併したALLなどの希少な疾患の治療成績の向上のためには,確かな戦略をもった臨床試験が不可欠で,その成功のためには国際共同研究が役立つ。筆者たちはアジア各国と共同してダウン症候群に合併したALLを対象とした国際共同試験を実施中であり,現在まで日本以外からの登録はまだないが,症例登録ペースは予定通りである。さらに分類不能型急性白血病を対象とした臨床試験を計画したが,治療レジメンの選択で折り合いがつかず,頓挫している。国際共同研究を成功させるには,多くの要素がうまくかみ合う必要がある。試験のアイデア,テーマ,目的は当然必要であり,組織,ロジスティックス,そして最終的にはそれを実行するための人的資源も必要である。文化や社会組織,医療体制の異なる国との共同研究のためには粘り強い努力,交渉力が必要で,それを可能とする人材の育成,環境の整備が必要である。
急性リンパ性白血病(ALL)に対する新薬の開発は著しく,その有効性と安全性を検証するためには国際的に共通の標準治療が必要である。質の高いエビデンスに基づく標準治療確立にはランダム化比較試験(RCT)が必要であるが,再発小児ALLに対するRCTは,その希少性ゆえに本邦ではほとんど実施されてこなかった。国際共同での試験実施によりRCTが行える可能性はあるものの,多くの国が関わる大規模試験の立案や参加には,しばしば薬事承認や保険適用の状況の違いが障壁となる。我々は,複数の国内未承認薬と二つのランダム化比較を含む国際共同臨床試験に,国内未承認薬を同効又は類似効能の代替薬に置き換え,一つのランダム化試験に2014年から参加した。本稿では,再発小児ALLに対する治療開発の歴史的背景と,希少疾患である再発小児ALLに対する国際共同臨床試験(IntReALL SR 2010)に参加した経験について概説し,日本における再発小児ALL治療のこれからを考えてみたい。
再発又は難治性の造血器腫瘍に対してCD19やBCMAを標的としたCAR-T細胞療法が実用化され,劇的な効果を挙げている。しかし,CAR-T療法により寛解を得た患者の半数は最終的に再発するため,治療有効性の向上にむけた取り組みが活発化している。特に,従来のCAR-T療法ではなし得なかった,輸注後の細胞動態制御を可能にする革新的技術も報告されている。本稿では,CAR-T細胞療法における課題と新規技術開発について概説する。