日本心臓血管外科学会雑誌
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43 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 片山 雄三, 郷田 素彦, 鈴木 伸一, 磯松 幸尚, 輕部 義久, 内田 敬二, 井元 清隆, 益田 宗孝
    2014 年 43 巻 2 号 p. 37-42
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    【背景・目的】血行動態に優れた人工弁の開発により,弁輪拡大術を回避できるようになってきたが,若年者に対する手術の際は,青年~壮年期にかけての身体成長を考慮する必要がある.そのため当院では狭小大動脈弁輪症例に対し,最終想定体表面積よりProsthesis-patient mismatchを生じないサイズの挿入を前提に,積極的に弁輪拡大術を施行している.当院の先天性大動脈弁狭窄症に対する弁輪拡大術の治療成績を検討する.【対象】2002年~2012年7月の期間で,先天性大動脈弁狭窄症に対して当院で弁輪拡大術を施行した11例を対象とした.年齢は9~38歳(中央値:15.5歳),性別は男性9例・女性2例,平均BSAは1.48±0.3 m2 であった.【結果】拡大術式は,Nicks法4例/Manouguian法3例(modified Manouguian法2例)/Yamaguchi法2例/Konno法2例.使用した人工弁は11例すべて機械弁であり,平均人工弁サイズは19.4±1.1 mm(ATS-AP:18 mm 2例,SJM Regent:19 mm 6例・21 mm 2例,SJM-HP:21 mm 1例).周術期および遠隔期死亡はない.全11例とも外来観察中で,平均観察期間は32.1カ月(1~117カ月)であった.経過中弁関連イベントは認めず,心臓超音波検査評価では,遠隔期における左室心筋重量の減少を認めた.【結語】先天性大動脈弁狭窄症に対する弁輪拡大術は,安全かつ有用な手技である.
  • 大徳 和之, 服部 薫, 福田 和歌子, 近藤 慎浩, 谷口 哲, 皆川 正仁, 福井 康三, 鈴木 保之, 福田 幾夫, 板谷 博幸
    2014 年 43 巻 2 号 p. 43-48
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    〔目的〕大動脈弁狭窄症(AS)に対する大動脈弁置換術(AVR)についてJAPAN score(JS)よりリスク分類を行い,急性期・中期成績から人工心肺使用下AVRの妥当性を検討するとともに,経カテーテル的大動脈弁埋め込み術(TAVR)適応について検討した.〔対象と方法〕対象は過去10年間に施行したASに対するAVR症例123例のうち,追跡調査可能であった116例を後方視的に検討した.平均観察期間は7.6±0.3年.JAPAN scoreを用いて5%未満をlow risk(LR)群79例(2.6±1.1%),5%以上10%未満をmoderate risk(MR)群30例(6.8±1.4%),10%以上をhigh risk(HR)群7例(23.3±16.8%)に分けて検討した.〔結果〕術前合併症については各群で有意差なし.HR群で大動脈弁口面積が有意に小さく,左室駆出率(EF)では有意に低かった.術中因子ではHR群で手術時間,体外循環時間が長くなった.在院死亡はLR群1例,HR群1例で原因は術後低心拍出症候群であった.5年生存率は78%(LR群77%,MR群82%,HR群71%)であった.死亡原因として癌6例が最も多く,術前担癌状態であった4例(LR群1例,MR群2例,HR群1例)は術後早期に癌死した.5年心血管イベント(MACCE)回避率は全体で85%(LR群83%,MR群90%,HR群85%),5年MACCE関連死亡回避率は93%であった.〔結語〕ASに対する人工心肺使用下AVRはJAPAN scoreにかかわらず急性期・中期成績は良好であった.担癌患者は術後早期に癌死していたが,TAVRの適応かどうかは更なる検討が必要である.
症例報告
  • 古田 晃久, 今井 章人, 井上 知也, 鈴木 登志彦, 柚木 継二, 久持 邦和, 吉田 英生
    2014 年 43 巻 2 号 p. 49-52
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    本態性血小板血症(ET)は慢性骨髄増殖性疾患に属し,血栓形成傾向と易出血性傾向の相反する二面を併せ持つ複雑な病態を有する.本症を合併する症例に対する人工弁置換術の報告はきわめて稀であり,その病態から術中の出血傾向と術後の血栓症が懸念される.今回,ETを合併した大動脈弁狭窄症(AS)に対し,生体弁による大動脈弁置換術を経験した.症例は69歳女性.検診で心雑音を指摘され,近医の心エコー検査でASを指摘された.弁口面積は0.73 cm2,左室-上行大動脈の圧較差113 mmHgのASであり,手術の方針となった.入院時血小板数は70万/µlで,ヒドロキシカルバミドは術直前まで内服し,シロスタゾールは術前3日に中止し,術前2日よりヘパリンを開始した.術中はヘパリンで活性化凝固時間(ACT)を400秒以上に維持し,生体弁を用いて大動脈弁人工弁置換術を施行した.術中易出血性は認めず問題なく手術終了した.術後血小板数は30~40万/µlで推移し,出血も問題なくドレーンは術後2日目で抜去可能であった.また血栓による合併症も認めず,術後13日目に退院となった.ET合併例に対して開心術を施行する場合,周術期の出血と術後の血栓症が問題となり,術前の血小板増多に対する処置と術後の抗血栓療法が重要となる.
  • 森山 周二, 毛井 純一, 原 正彦
    2014 年 43 巻 2 号 p. 53-57
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    症例は29歳,女性.胸背部痛を主訴に来院した.漏斗胸と側弯を認め,その他の身体的特徴からマルファン症候群が疑われた.CTで大動脈基部の拡大を伴う急性A型大動脈解離を認め,基部再建および弓部置換術を施行した.術後3日目に喉頭浮腫および誤嚥のために再挿管となり,術後6日目に突然,高度気管狭窄による換気不全となった.鎮静と用手換気で改善したが,その後も気管内吸引や体位変換などの刺激で換気困難を繰り返し呼吸管理に難渋した.漏斗胸と側弯などの胸郭変形を伴うマルファン症候群の周術期においては気管の脆弱性,浮腫,周囲組織からの圧迫などに伴う気道狭窄の可能性を念頭に置いた管理が必要と考える.
  • 仲村 輝也, 泉谷 裕則, 関谷 直純, 桝田 浩禎, 澤 芳樹
    2014 年 43 巻 2 号 p. 58-61
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    僧帽弁再手術の機会は増加しているが,初回手術に比べてハイリスクであるため術式の工夫が必要である.当院で行っている右開胸,心拍動下手術の経験について報告する.2008年より施行した3例(男2例,59~76歳)を対象とした.再胸骨正中切開のリスクの内訳として,冠動脈バイパス術後に開存グラフトを有する症例が2例で,創部感染の既往のある症例が1例であった.施行した術式は僧帽弁置換術2例,弁形成術1例であり,2例に三尖弁輪縫縮術を施行した.手術時間は253分から320分であり,出血量は440 mlから660 mlで3例中2例は無輸血で施行した.全例合併症なく短期間に治癒退院した.右開胸,心拍動下僧帽弁再手術は,出血量減少やグラフト損傷の回避,感染リスク軽減などの観点からスタンダードな胸骨正中切開法に比べて低侵襲であり,ハイリスク症例には有用なオプションの一つである.
  • 藤本 智子, 安東 勇介, 檜山 和宏, 梶原 隆, 小江 雅弘, 深江 宏治
    2014 年 43 巻 2 号 p. 62-66
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    大血管転位症に対する動脈スイッチ手術の合併症として,冠動脈閉塞,肺動脈狭窄,大動脈弁逆流およびバルサルバ洞拡大が知られている.一方,手術手技上の問題がなければ大動脈吻合部に狭窄をきたすことは少なく,大動脈弁上部狭窄の報告は稀である.今回われわれは吸収性縫合糸に対する組織の過増殖のため大動脈弁上部狭窄を生じた症例を経験した.症例は4カ月女児.完全大血管転位症II型に対して生後12日目に動脈スイッチ手術を施行した.新大動脈の再建はpolydioxanone糸(7-0 PDS®)を用いた連続縫合で行った.術後1カ月目の心臓超音波検査で大動脈吻合部に有意な圧較差が出現し,その後も増悪したため術後4カ月目に狭窄解除術を施行した.狭窄部の大動脈壁は全周性に肥厚して内腔に突出しており,これを切除してpolypropylene糸(7-0 Prolene®)による単結節縫合で再吻合した.狭窄部の組織学的所見としては縫合糸を中心とした膠原線維の増生を認めた.吻合部圧較差の経時的上昇と組織学的所見から,吸収性縫合糸に対する組織の過増殖が狭窄の主要因であると推察された.吸収性縫合糸は体内に異物として残存しないという特徴から非常に有用な縫合糸であるが,本症例のように組織の過増殖による吻合部狭窄をきたす可能性がある.吸収性縫合糸の選択は慎重に行うべきであり,完全に吸収されるまでの期間は注意深い経過観察が必要である.
  • 盛島 裕次, 久貝 忠男, 摩文仁 克人, 阿部 陛之, 山里 隆浩
    2014 年 43 巻 2 号 p. 67-71
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    食道癌術後の胸骨後経路胃管を有した冠動脈1枝病変および大動脈弁狭窄症に対して冠動脈バイパス術併施大動脈弁置換術を施行した.症例は80歳男性で,食道癌に対する胸骨後経路胃管再建による根治術の既往を有していた.下腿浮腫出現のため精査を行ったところ,冠動脈1枝病変および大動脈弁狭窄症と診断され,手術適応との判断より当科を紹介された.手術は上腹部小開腹で胃管を同定し,胸骨裏面から胃管を慎重に剥離し胸骨正中切開した.胸骨左側とともに胃管を左側に展開し良好な視野でCABG1枝バイパス(Ao-SVG-RCA#4PD)およびAVR(MAGNA 21 mm)を施行した.術後,呼吸循環の回復に時間を要し尿路感染症を併発したが軽快し第40病日に退院した.食道癌に対する根治術後胸骨後経路再建導管を有する症例における心臓手術ではアプローチ法に工夫を要するが,今回われわれは胸骨正中切開アプローチで手術を行い良好な結果であった.
  • 川浦 洋征, 青木 淳, 尾本 正, 丸田 一人, 飯塚 弘文
    2014 年 43 巻 2 号 p. 72-75
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    症例は69歳男性.右冠動脈閉塞による心筋梗塞,高位後壁側の心室中隔穿孔と診断され,当院へ搬送された.循環動態が安定し,左室壁に梗塞所見が認められなかったため,発症4週目に手術を施行した.右房アプローチにより高位後壁の心室中隔穿孔を同定し,ウシ心膜パッチ,テフロンフェルトを用いて作製したパッチをsandwich technique法で穿孔部を閉鎖し,CABG(SVG-LCx)を施行した.術中止血に難渋することなく,術後心臓超音波検査で残存シャントを認めず,心室機能は保持されていた.高位後壁側の心室中隔穿孔に対して,本アプローチは右房切開のみで穿孔部を閉鎖でき,心室機能が維持できる点で有用な術式と考えられた.
  • 梶原 隆, 小江 雅弘, 藤田 智, 帯刀 英樹, 深江 宏治
    2014 年 43 巻 2 号 p. 76-79
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.24歳時に交通外傷により前胸部を強打した.その後,全身倦怠感が出現し,心拡大も指摘され内服加療されていた.40歳代にEbstein病と診断されたが,手術はすすめられなかった.その後も内科的治療を継続されていたが心不全の増悪を繰り返すため当科紹介された.心エコー検査にて三尖弁付着異常なく,外傷が原因と考えらえる弁尖の裂開を前尖に1カ所と弁輪の著明な拡大を認め,両者による高度の三尖弁逆流をきたしていた.術前にうっ血が原因と考えられる高度肝機能障害(Child-Pugh class B, MELD score 15点)を合併していた.手術は心停止下に三尖弁置換術を施行した.術後に難治性の胸水貯留に対して術後2カ月目に胸膜癒着術を施行した.その後も心不全治療を必要とし,術後6カ月目に自宅に退院となった.
  • 若林 貴志, 山本 和男, 杉本 努, 岡本 祐樹, 加藤 香, 三村 慎也, 吉井 新平
    2014 年 43 巻 2 号 p. 80-83
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    症例は62歳女性.幼少期より胸部X線異常影を指摘されていたが精査を受けたことはなかった.妊娠出産も特に問題なく経過した.健診を契機に精査をすすめられ当院を受診し,心エコー,MRI,心臓カテーテル検査で内臓逆位,修正大血管転位(cTGA),高度三尖弁閉鎖不全症(体循環房室弁閉鎖不全症)と診断された.解剖学的右室駆出率40~50%と心機能は軽度低下しており,待機的に三尖弁置換術の方針となった.術者が患者の左側に立って手術を行った.上行大動脈の右方偏位が高度であったため大腿動脈送血とし,上下大静脈脱血で体外循環を確立した.三尖弁は背側に向かって開口しており上方中隔アプローチでようやく視野が得られる程度であった.各弁尖を温存し三尖弁置換術(SJM弁27 mm)を施行し得た.経過は良好で術後1年の心エコー検査で心機能は保たれていた.cTGAではその解剖学的特徴から体循環右室機能低下や三尖弁逆流が問題となることが多い.弁置換後も右室機能低下は進行する場合があり,注意深い経過観察が必要である.
  • 林 祥子, 福井 寿啓, 内室 智也, 田端 実, 高梨 秀一郎
    2014 年 43 巻 2 号 p. 84-87
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    20歳時より完全内臓逆位を指摘されていた80歳女性.糖尿病の既往があり,1992年に左前下行枝相当に経皮的冠拡張術を施行,その後,2011年に右冠動脈相当に対してステント留置術を施行した.胸部不快感を認め精査を行ったところ,左主幹部を伴う2枝病変を認め,冠動脈バイパス術目的に当院紹介となった.前下行枝はび慢性病変であり内膜摘除術と右内胸動脈による再建を行い,左内胸動脈を用いて回旋枝の血行再建を施行した.内臓逆位に冠動脈バイパス術を施行した稀な症例であり,文献的考察を加え報告する.
  • 加藤 寛城, 瀬口 龍太, 牛島 輝明, 渡邊 剛
    2014 年 43 巻 2 号 p. 88-91
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    症例は,40歳,男性.主訴は発熱.心エコー検査にて,疣贅を伴う重症僧帽弁閉鎖不全症を認めた.血液培養検査ではStreptococcus salivariusが検出され,抗生剤投与(ペニシリンG+ゲンタマイシン)を6週間継続した.手術10日前の頭部MRI検査においては,新鮮な脳梗塞や脳出血,感染性脳動脈瘤の所見は認めていなかった.手術は,機械弁を使用し僧帽弁置換術を施行した.手術室にて抜管したが,左片麻痺を認めた.頭部CTでは,右視床出血ならびに左小脳出血を認めた.翌日に,脳室ドレナージ術ならびに小脳血腫除去術を施行した.感染性心内膜炎においては,感染性脳動脈瘤を認めなくても,化膿性血管炎や微小脳梗塞,抗生剤使用に伴う凝固障害などにより脳出血のリスクが高い状態であるため,厳重なactivated clotting time(ACT)管理や術直前の頭部MRIなどが必要なのではないかと考えられた.
  • 渡谷 啓介, 内田 直里, 片山 桂次郎, 高橋 信也, 高崎 泰一, 黒崎 達也, 今井 克彦, 末田 泰二郎
    2014 年 43 巻 2 号 p. 92-95
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/29
    ジャーナル フリー
    生体腎移植前の慢性腎不全,透析患者の重症AS症例に対し,大動脈弁再建術(aortic valve reconstruction : AVrC)を施行し,心臓手術後早期に生体腎移植を施行することができた症例を経験したので報告する.61歳男性,慢性腎不全による透析患者で,重症大動脈弁狭窄症を認めた.術後早期に生体腎移植を施行する必要があり,術後の抗凝固療法は望ましくないこと,腎移植後には免疫抑制剤の内服を必要とするため,人工物の留置は望ましくないことからAVrCを行った.術後は,大動脈弁口圧較差も少なく逆流もなく順調に経過して,手術から113日後に生体腎移植を受けた.自己心膜弁による大動脈弁再建術は抗凝固療法が術直後より不要で,自己組織で作製するために感染の危険が少ない可能性があり,生体腎移植前の慢性腎不全,透析患者の重症大動脈弁狭窄症例には適した治療法と考えられる.
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