高分子論文集
Online ISSN : 1881-5685
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65 巻, 10 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総合論文
  • 平島 由美子, 鈴木 淳史
    2008 年 65 巻 10 号 p. 601-618
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    ヒドロゲルは水を含んで膨潤した希薄で複雑な三次元網目構造をもつ固体であり,それを構成する分子間に働く複雑な相互作用に起因して多様な物性を示す.さまざまな外的環境の無限小の変化によって,その体積を不連続にかつ可逆的に変化させることができる.30 年前にこの体積相転移が発見されてから多くの研究成果が報告されてきたが,水素結合が関与する系は複雑な相挙動を示し,その原理は現在でも十分に理解されているとは言えない.本報では,熱応答性のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ゲルの相転移を基礎にして,純水溶媒の繰返し交換によるヒドロゲル内での水素結合の形成と温度変化による体積相転移について,筆者らの最近の研究成果をまとめて考察する.
  • 原口 和敏
    2008 年 65 巻 10 号 p. 619-633
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    近年,新たな分子設計による高分子ヒドロゲルの展開が進みつつある.筆者らは,無機クレイナノ粒子を超多官能架橋剤として働かせて得られる「ナノコンポジットゲル(NC ゲル)」を創製した.NC ゲルでは,特異的な「有機/無機ネットワーク構造」の構築により,従来の化学架橋型ヒドロゲルのかかえる多くの課題(力学的ぜい弱性,構造不均一性,低膨潤/収縮性)を一挙に解決することが可能となった.また,NC ゲルの組成変化(クレイ・ポリマーの種類や濃度)や架橋構造変化(二重架橋,相互侵入網目)により,力学物性,透明性,膨潤性,刺激応答性といったゲルの基本的物性が広範囲に制御されることが明らかとなった.さらに,有機/無機ネットワーク構造に由来して,多様な機能性(表面滑り摩擦特性,細胞培養性,光学異方性,表面超疎水性,相転移に伴う応力発現,選択吸着性,生体適合性,多彩な形状,表面パターニングなど)が発現することが見いだされた.
  • 前田 真吾, 原 雄介, 吉田 亮, 橋本 周司
    2008 年 65 巻 10 号 p. 634-640
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    生命体は,流入するエネルギーと生体内部で散逸するエネルギーが均衡して,一定の散逸構造を保つ,非平衡開放系の分子システムである.その生体内部には,神経細胞の膜電位,心臓の拍動,サーカディアンリズムなど,細胞レベルから一個体に至るまでの階層においてあらゆる時空間機能を包括している.このような生体が持つ複雑かつ精密に組み立てられた時空間機能を,人工的に組み上げることができれば,生命体に近い分子システムをテイラーメイドで構築することができる.そのようなシステムを構築するため,時空間秩序を生成する Belousov-Zhabotinsky (BZ)反応に着目した.筆者らは,ポリマー鎖に BZ 反応の金属触媒を内包させることで,心臓の拍動のようにゲルの自励的かつ周期的な構造変換を可能にしてきた.しかしながら,これまでの分子デザインでは,膨潤・収縮挙動が非常に小さいため,アクチュエーターとして機能させることが難しかった.本報では,ゲルの分子デザインと合成方法を改良することで,大変形する屈曲型ゲルアクチュエーター,自ら歩行するゲルロボット,ゲル表面の大きな蠕動運動を利用した物質輸送システムへと進化させたことを報告するとともに今後の展開について述べる.
一般論文
  • 飯澤 孝司, 松下 仁美, 江原 久美子
    2008 年 65 巻 10 号 p. 641-646
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    簡便に疎水性のシェル層と親水性のコアからなるコア-シェル型のゲルを合成する目的から,ポリアクリル酸(PAA)ゲルとアルキルブロミドのエステル化反応について検討を行った.反応は,DBU 存在下外側から起こり,エステル化した膨潤部分と未膨潤の PAA コア部分からなるコア-シェル型ゲルを経由し,最終的にはコアの PAA が完全に消失した.コアの PAA が消失する時間は DBU の添加量,溶媒の種類,反応温度などにより大きく変化した.しかしながら,生成したゲルのエステル化率は 50%程度とあまり高くなかった.途中で反応を止めて合成したコア-シェル型ゲルは,50℃ の水に浸けると,シェル層のエステル化率が低いのにもかかわらず,PAA に比べ膨潤が抑制された.また,エステルのアルキル鎖を長くすると膨潤およびゲル内部からの染料の放出を抑制できることが明らかになった.
  • 岡部 勝, 飯田 恵, 渥美 恭平, 和田 理征, 清水 秀信
    2008 年 65 巻 10 号 p. 647-652
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    立体規則性のポリマーであるシンジオタクチックポリスチレン(sPS)は,適当な溶媒中で熱可逆性ゲルを形成する.本研究では,sPS 物理ゲルの構造と物性に及ぼす溶媒効果を詳細に検討するために,sPS に対して平衡膨潤度 qmax の値が大きく異なるような 3 種類の溶媒(トルエン,シクロヘキサノン,クロロホルムで,この順に qmax の値が大きくなる;つまり,この順により良溶媒となる)を選び出し,これらの溶媒中で sPS 鎖がそれぞれゲル化していく過程を時分割 FT IR/ATR 法による吸収スペクトルで追跡した.また,sPS 物理ゲルの架橋点の大きさ S とヤング率 E を推算し,qmax との関連性について検討した.
      qmax の異なるいずれの溶媒中でも,sPS 鎖はランダムコイルから T2G2 型のコンホメーションを形成したが,qmax の値が小さくなるほど(すなわち,より貧溶媒になるほど),その形成は早く起こった.しかも,コンホメーションの形成が早く起こるような溶媒環境下では,ゲルの高次構造の物理量である架橋点は大きく成長し,ヤング率も大きくなる傾向を示した.その際,ゲルのヤング率は架橋点の増大につれ,ほぼ直線的に増大した.
  • 小澤 啓二, 原 雄介, 厳 虎, 奥崎 秀典
    2008 年 65 巻 10 号 p. 653-657
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/24
    ジャーナル フリー
    ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)とポリアクリルアミドからなる厚さ 130 μm~2.2 mm の高強度薄膜ゲルを合成した.得られた薄膜ゲルのヤング率,切断強度,切断伸度はそれぞれ 0.2 MPa, 0.5 MPa, 150%であった.高強度薄膜ゲルを導電性高分子フィルムで挟み電圧を印加したところ,空気中で素早くアノード側に屈曲した.屈曲変位は薄膜化により増大し,膜厚 200 μm のゲルで 4 mm に達した.また,屈曲応力は膜厚とともに増大し,膜厚 900 μm のゲルで 58 mgf であった.
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