高分子論文集
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74 巻, 5 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
高分子科学・工学のニューウェーブ─2017─
総合論文
  • 伊田 翔平
    2017 年 74 巻 5 号 p. 365-374
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/09/25
    [早期公開] 公開日: 2017/05/29
    ジャーナル フリー
    筆者らは高分子ゲルの高機能化に向けて,高分子精密合成の観点からゲルを設計する研究を進めている.本報ではまず,可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合機構を応用した例として,均一網目の創成を志向した末端架橋法による自己修復性ゲルの合成と,重合中にビニル基間の距離が変化する新規架橋剤を用いたゲル合成について紹介する.また筆者らは線状高分子におけるモノマー配列制御に端を発し,複数のモノマーを組合せたゲルの膨潤特性について,網目鎖中のモノマー連鎖配列の重要性に注目している.本報ではその先駆けとして,単独では温度応答性を示さない親水性および疎水性モノマーを組合せることにより温度応答性を発現した例と,親水性鎖を組込んだ温度応答性ゲルの膨潤特性について紹介する.これらの研究は高分子合成化学に立脚したゲルの高機能化と位置づけることができ,今後ますます重要性を増す研究分野であると筆者らは考えている.
  • 林 正太郎
    2017 年 74 巻 5 号 p. 375-395
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/09/25
    [早期公開] 公開日: 2017/06/15
    ジャーナル フリー
    パラジウム(Pd)触媒クロスカップリング反応は,π共役系高分子合成法の発展に寄与してきた.たとえば,アレーン(Ar)間の炭素–炭素(C-C)結合形成反応であるStilleクロスカップリング(Ar-SnR3+Br-Ar)や鈴木–宮浦クロスカップリング(Ar-BR2+Br-Ar)は,多彩なπ共役系高分子設計を実現してきた.一方,直接的(C-H)アリール化と呼ばれる炭素–水素(C-H)結合の切断を伴うクロスカップリング反応(Ar-H+Br-Ar)は従来法と比べて試薬の入手が容易であり,原子利用効率が高く,有機金属副生成物が生成しないなどの利点をもつことで,π共役系高分子合成法として近年注目されている.しかし,反応効率,反応位置選択性,モノマーの多彩性の観点から,高分子の多彩な構造(トポロジー)制御はあまり実現されていない.本報では固相担持パラジウムを触媒としたβ位無置換チオフェンの直接的アリール化重縮合によるπ共役系高分子の構造制御,塩化物イオンによる反応促進効果を利用したπ共役系高分子の高分子量化,そしてさまざまなアレーンモノマーの直接的アリール化による直鎖,分岐,編目(ネットワーク)高分子などの合成とその構造評価について解説する.
  • 福井 有香
    2017 年 74 巻 5 号 p. 396-409
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/09/25
    [早期公開] 公開日: 2017/07/18
    ジャーナル フリー
    生体膜由来のカプセルであるリポソームをテンプレートとして,その表面にさまざまなバイオポリマーを交互積層化させることで,ポリマー積層型ナノカプセル(リポナノカプセル)を作製した.このナノカプセルには,ポリマーの吸着により脂質膜の運動性を制御することで,徐放性および温度に応答したスイッチング機能を付与することができた.さらに,リポナノカプセルの物質徐放性を利用して,カプセル層表面にリン酸カルシウム(CaP)を析出し,有機無機ハイブリッドリポナノカプセルを作製することができた.この際,表面のポリマーの種類によって,CaP層の厚みと結晶構造を調節することができた.また,リポナノカプセルを組織化させて薄膜を形成することで,組織再生,薬物徐放担体などに応用可能なバイオスキャフォールドを構築することができた.
  • 木本 篤志
    2017 年 74 巻 5 号 p. 410-418
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/09/25
    [早期公開] 公開日: 2017/07/11
    ジャーナル フリー
    有機EL素子や有機薄膜太陽電池に代表される有機エレクトロニクスはその潜在的な可能性から広く注目を集めている.これらの高性能化を目指して種々の有機半導体材料が見いだされているが,中でも,塗布法により製膜が可能な高分子系有機半導体材料の高性能化が求められている.従来の有機化学的なアプローチが成熟しつつある状況において,筆者はπ共役高分子の錯体化により生成するπ共役高分子錯体に注目した.とくに種々のルイス酸性金属塩と錯形成が可能なフェニルアゾメチン骨格を導入した金属集積型π共役高分子について研究を進めてきた.あらかじめルイス酸塩と錯形成させたπ共役高分子錯体を用いることで,π共役高分子そのものの構造を変化させることなく有機EL素子,有機薄膜太陽電池の素子特性が向上することを明らかにし,新たな有機エレクトロニクスの高性能化手法としての可能性を示した.
  • 神林 直哉
    2017 年 74 巻 5 号 p. 419-429
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/09/25
    [早期公開] 公開日: 2017/06/26
    ジャーナル フリー
    面不斉シクロペンタジエニル錯体を用いた不斉アリル位置換反応を不斉重合反応に応用することで,新しい不斉重合反応を設計し,さまざまな側鎖および主鎖骨格を有する光学活性高分子を合成した.重合反応はいずれも非常に高立体選択的に進行し,主鎖の不斉炭素を厳密に制御した光学活性高分子を得た.得られた高分子は構成単位に変換可能な末端二重結合を有しており,不斉重合反応と閉環メタセシス反応を組合せることで,主鎖に光学活性な環構造を有する光学活性高分子を得ることに成功した.また,チオール–エン反応を行うことで,効率的な側鎖への置換基導入を可能にした.さらに,不斉重合反応によって得られるポリN-アルコキシアミドが,還元反応により非天然型ポリペプチドへと変換できることを見いだした.得られた高分子は,溶液中で安定ならせん構造を形成していることを明らかとした.本報では,これら研究の詳細について概説する.
  • 玉井 康成
    2017 年 74 巻 5 号 p. 430-451
    発行日: 2017/09/25
    公開日: 2017/09/25
    [早期公開] 公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    共役高分子を電子ドナー材料に用いた高分子太陽電池は軽量,フレキシブルかつ低コストな次世代技術として注目を集めている.共役高分子が太陽光を吸収すると正孔と電子がCoulomb引力により強く束縛された励起子を形成するため,このままでは光電流を発生しない.励起子はフラーレン誘導体に代表される電子アクセプターとの相分離界面において電荷分離することで自由電荷を生成し,それらが電極まで輸送されてはじめて光電流として回収される.これら一連の光物理現象はフェムト秒(10-15 s)からマイクロ秒(10-6 s)の高速かつ広範な時間スケールで生じる.本報では,励起子の発生から自由電荷の回収に至る一連の素過程を,超短パルスレーザを用いた過渡吸収分光法により探究した研究成果を解説する.
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