高分子の末端基に存在する多重水素結合性官能基が結晶成長過程に及ぼす影響を解明するために,末端基間で多重水素結合をするthymineユニットとアミノ基を両末端に導入したポリエチレン(PE-Thym)とthymineユニットとヒドロキシ基を両末端に導入したポリジオキサノン(PDX-Thym)を合成し,それぞれの結晶成長速度
Gを過冷却度Δ
Tの関数として測定した.また比較参照用として,末端基間で弱い単一水素結合をするヒドロキシ基とアミノ基を導入したポリエチレン(PE-OH)とヒドロキシ基とカルボキシ基を導入したポリジオキサノン(PDX-OH)を合成し用いた.PE-Thymは,あらかじめ合成した数平均分子量
Mn=1960のPE-OHのヒドロキシ末端にthymineユニットを導入することで調製した.PDX-ThymおよびPDX-OHは1-(2-hydroxyethyl)thymineおよびH
2Oを開始剤として
p-dioxanoneを開環重合することによってそれぞれ調製した.調製したPDX-ThymおよびPDX-OHの
Mnは3000および5600であった.すべての試料の
Gは
G=
G0exp(-
B/Δ
T)の式に従い,結晶成長が表面二次核生成律速過程であることがわかった.PE-ThymおよびPDX-Thymの
BはPE-OHおよびPDX-OHのそれとほとんど同じ値であり,
Bは核の折りたたみ面の表面自由エネルギーσ
eに比例することから,折りたたみ面の規則性が,末端基の種類によってほとんど影響されないことがわかった.一方,PE-Thymの
G0はPE-OHのそれとくらべて1桁以上小さいことがわかった.これは,末端基間の多重水素結合によって融液中の分子鎖間で動的な網目構造が形成され,結晶成長過程における融液から核への分子鎖の引き込み運動が著しく抑制されたためであると考えられた.また,末端のthymineユニットによる水素結合を封鎖するために,PDX-Thymにadenineを添加した系の
GのΔ
T依存性を測定したところ,非添加の場合と比べ,Δ
Tによって水素結合の影響の現れ方が変化することがわかった.これは水素結合の結晶成長に及ぼす影響が結晶成長様式と密接に関係していることを示唆している.
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