高分子論文集
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71 巻, 11 号
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総合論文
  • 細田 覚, 野末 佳伸
    2014 年 71 巻 11 号 p. 483-492
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)の機械的強度と強い相関をもつラメラ晶の厚み分布を決定する一次構造因子について筆者らの一連の検討結果をまとめた.固体触媒系L-LDPEでは一般的に広い組成分布をもつが,これが広いほどラメラ晶厚み分布は広い.同程度の組成分布をもつ試料では,分岐種のラメラ晶内への取り込み程度を反映して,分岐がバルキーなものほどラメラ晶厚み分布は狭くなる.組成分布の狭い試料の場合,エチレン連鎖長分布のラメラ晶厚み分布への影響が顕著になる.アルキル分岐をもち,連鎖長分布のないADMET-PEでは,分岐種に依らずに極めて狭いラメラ晶厚み分布をもつ.そのラメラ晶厚みや結晶形は分岐間のCH2連鎖数と分岐種に応じて変わる.
  • 登阪 雅聡
    2014 年 71 巻 11 号 p. 493-500
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    架橋ゴムの伸長結晶化は,力学特性や強度を大きく左右する.これまでに,伸長結晶化に関する熱力学的平衡の理論が提案されている.しかし,これらの理論から予測される架橋密度の効果は,実験事実と整合していなかった.近年の放射光を用いた実験では,時間的・空間的に分解能の高い結果を得ることができる.伸長結晶化の時定数が見積もられ,結晶化速度とひずみの関係について定量的な議論が可能となった.同時に,架橋ゴムを定長保持した際の応力緩和は,伸長結晶化が主な要因であることも明らかとなった.こうした新しい実験結果にも,やはり理論との不一致が見られた.実験的に得られた伸長結晶化の挙動を説明するためには,ネットワーク構造の不均一性を考慮した取扱いが必要である.またこれらの研究によって,伸長結晶化による補強効果をより詳細に理解することが可能となりつつある.
  • 古賀 舞都, 戸木田 雅利
    2014 年 71 巻 11 号 p. 501-507
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    半屈曲性の主鎖型液晶性ポリエステルの両端から非晶ポリメタクリレートを生長させたABA三元ブロック共重合体は,中央セグメントの分子量分布指数が2であるにもかかわらず,非晶セグメントの体積分率ϕamが0.20~0.52で明確なラメラ状ミクロ相分離構造を形成した.液晶セグメントはラメラ界面から垂直にほぼ伸びきるものの,折りたたまれて収容され,ラメラと平行にスメクチック層を形成した.ラメラ厚は液晶セグメントの剛直性の増加に伴い増大した.ϕam>0.68のブロック共重合体では,液晶ラメラが非晶鎖によって立方体状に切断され,球状ドメインを形成した.このように,半屈曲性液晶性高分子を一成分とするブロック共重合体のミクロドメイン構造は,液晶セグメントが配向秩序を維持する傾向と非晶セグメントがエントロピーを最大化する傾向との拮抗で決定し,液晶セグメントの剛直性と鎖長によって変化した.
  • 田代 孝二, 塙坂 真, 山元 博子, Kaewkan WASANASUK, Paramita JAYARATRI, 吉澤 功徳, 田中 伊 ...
    2014 年 71 巻 11 号 p. 508-526
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    高分子結晶構造の詳細を,水素原子位置まで含めて明らかにすることを目的とし,高エネルギーX線および中性子回折データの収集ならびにそれらの解析結果を,さまざまの結晶性高分子を例として総合的に記述した.まず,最近にまで至る高分子構造解析手法の発展について概要を述べるとともに,それらの各段階における問題点について考察した.斜方晶型ポリエチレン,アタクティックポリビニルアルコール,ポリ乳酸およびそのステレオコンプレックスなど,いろいろの意味で重要な高分子について,これまでに提案されてきた構造を再吟味するとともに,新たに提案した構造について記述した.水素原子位置についても精確に決定された場合は,それらの構造情報に基づく極限力学物性の定量的予測を行った.さらにはポリジアセチレンの場合について,X線および中性子構造解析によって得られた精密な電子密度分布および原子位置座標の情報にいわゆるX-N法を適用し,主鎖骨格に沿った結合電子密度分布についての導出についても言及した.構造物性相関解明における高分子結晶構造解析の今後の展開についても言及した.
  • 加部 泰三, 岩田 忠久
    2014 年 71 巻 11 号 p. 527-539
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    再生産可能資源である糖や植物油を原料として微生物により生合成される微生物産生ポリエステルは,環境中の他の微生物の分泌する酵素によって二酸化炭素と水にまで完全に分解される生分解性プラスチックでもあり,原料問題および環境保全問題のいずれにも貢献できる材料として注目されている.しかしながら,これまで微生物産生ポリエステルは硬くてもろい性質や成型加工が難しいという性質からあまり実用化は進んでこなかった.本報では,微生物産生ポリエステルの高性能化を目的としてフィルムを中心に行ってきた新規な延伸法の開発,超高分子量化やポリマーブレンドによる特徴的な材料の開発,作製した高性能材料の物性と分子鎖構造および高次構造の相関,酵素分解性挙動に関する研究成果を紹介する.
  • 金子 文俊
    2014 年 71 巻 11 号 p. 540-553
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    シンジオタクチックポリスチレン(sPS)の重要な特徴の一つは,共結晶形成である.sPS鎖は空隙を含むホスト結晶格子を形成し,その空隙内にさまざまな化合物がゲストとして収納される.ゲスト分子は,共結晶フィルムを別の化合物の蒸気,液体,または溶液に対して曝露することで置換することができる.とくに添加剤を加えるとゲスト交換は促進されて,共結晶中に嵩高い分子を容易に導入できるようになる.この添加剤支援ゲスト交換により,多彩な化合物をsPSの結晶領域中に組み込むことができるようになった.本報では,まず最初にこれまでのゲスト分子を分子量の点で遙かに凌駕するポリエチレングリコールジメチルエーテルがsPSと共結晶化できることを紹介する.その後,ゲスト交換過程における新旧ゲスト分子の挙動や添加剤効果についての情報を得るために行った,ATR FT-IR分光法および中性子小角散乱法による実験についても述べる.
一般論文
  • 森作 俊紀, 北澤 卓也, 鈴木 光, 由井 宏治
    2014 年 71 巻 11 号 p. 554-561
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    -0.01°Cから-1.0°Cの過冷却温度範囲において,形成される氷結晶形態の不凍糖タンパク質(AFGP)濃度に対する依存性を0 mg/mLから1.0 mg/mLの範囲で調べた.-0.01°CではAFGP濃度の増加につれて過去に報告された円盤→六角板→角柱への形態変化が再現性よく観測された.次に-0.3°Cから-0.5°Cで調べた所,1.0 mg/mLで先端がファセットな多数の板状結晶が放射状に成長する新しい結晶形態を見いだした.この氷形態に着目して濃度を固定しさらに温度を下げた所,-1.0°Cでシダ状星型樹状結晶になる事が観測された.シダ状星型樹状結晶は自然界では雪の結晶として約-14°Cで形成されるが,AFGP共存下では-1.0°Cの過冷却温度で観測された.比較的高温でもシダ状星型樹状結晶が観測された要因として,プリズム結晶面へのAFGPの吸着による結晶面間の成長速度差が,約-14°Cでたち現れる速度差と同程度まで大きくなった事が考えられる.
  • 内村 美香, 岡崎 康平, 山崎 慎一, 木村 邦生
    2014 年 71 巻 11 号 p. 562-572
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    高分子の末端基に存在する多重水素結合性官能基が結晶成長過程に及ぼす影響を解明するために,末端基間で多重水素結合をするthymineユニットとアミノ基を両末端に導入したポリエチレン(PE-Thym)とthymineユニットとヒドロキシ基を両末端に導入したポリジオキサノン(PDX-Thym)を合成し,それぞれの結晶成長速度Gを過冷却度ΔTの関数として測定した.また比較参照用として,末端基間で弱い単一水素結合をするヒドロキシ基とアミノ基を導入したポリエチレン(PE-OH)とヒドロキシ基とカルボキシ基を導入したポリジオキサノン(PDX-OH)を合成し用いた.PE-Thymは,あらかじめ合成した数平均分子量Mn=1960のPE-OHのヒドロキシ末端にthymineユニットを導入することで調製した.PDX-ThymおよびPDX-OHは1-(2-hydroxyethyl)thymineおよびH2Oを開始剤としてp-dioxanoneを開環重合することによってそれぞれ調製した.調製したPDX-ThymおよびPDX-OHのMnは3000および5600であった.すべての試料のGGG0exp(-BT)の式に従い,結晶成長が表面二次核生成律速過程であることがわかった.PE-ThymおよびPDX-ThymのBはPE-OHおよびPDX-OHのそれとほとんど同じ値であり,Bは核の折りたたみ面の表面自由エネルギーσeに比例することから,折りたたみ面の規則性が,末端基の種類によってほとんど影響されないことがわかった.一方,PE-ThymのG0はPE-OHのそれとくらべて1桁以上小さいことがわかった.これは,末端基間の多重水素結合によって融液中の分子鎖間で動的な網目構造が形成され,結晶成長過程における融液から核への分子鎖の引き込み運動が著しく抑制されたためであると考えられた.また,末端のthymineユニットによる水素結合を封鎖するために,PDX-Thymにadenineを添加した系のGのΔT依存性を測定したところ,非添加の場合と比べ,ΔTによって水素結合の影響の現れ方が変化することがわかった.これは水素結合の結晶成長に及ぼす影響が結晶成長様式と密接に関係していることを示唆している.
  • 三田 一樹, 藤井 澄明, 西辻 祥太郎, 竹中 幹人
    2014 年 71 巻 11 号 p. 573-579
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    一軸伸長変形下におけるポリエチレンのサブミクロンスケールの不均一密度ゆらぎの変化を超小角X線散乱(USAXS)法により調べた.また,0.1 nm~1000 nmに渡る幅広い空間スケールの情報を基にこの不均一密度ゆらぎの変化について考察するため,小角X線散乱(SAXS)と広角X線散乱(WAXS)法も併用した.USAXSの結果より,ひずみの増加とともに不均一密度ゆらぎが増大し,伸長方向に平行方向の方が垂直方向よりもゆらぎの増大が大きいことがわかった.また,伸長方向に沿ったゆらぎの増大は応力–ひずみ曲線の降伏点よりも低ひずみ側の方で高ひずみ側よりも大きいことがわかった.その一方で,SAXSとWAXSの結果からはそれぞれラメラ長周期の変化と結晶格子のc軸の配向がひずみに比例して起こっていることがわかった.
  • 篠原 佑也, 𠮷井 輝明, 岸本 浩通, 上杉 健太朗, 雨宮 慶幸
    2014 年 71 巻 11 号 p. 580-585
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,近年提案された手法である近接場X線散乱法をナノ粒子充填ゴムに応用し,フィラー凝集塊の不均一分散状態の観察を試みた.本手法は既存の極小角X線散乱法,X線イメージングでは観察することが難しい大きさの構造情報を得るのに適しており,また,サブミクロン構造のミクロンオーダーでの空間分布を,試料を細かく走査することなく一度に測定できることが原理的には可能である.本報では,シリカ粒子充填スチレンブタジエンゴムを一軸延伸した試料を対象として,SPring-8 BL20B2にて近接場X線散乱法を実施した.その結果,散乱ベクトルの絶対値をqとして,0.2 µm-1<q<5 µm-1の範囲でシリカ凝集塊の異方的な不均一密度分布に対応したバタフライパターンが観測された.また,このバタフライパターンの延伸ゴム中での空間分布を測定することに成功した.本結果は,ナノ粒子充填ゴムの構造解析を実施する上での近接場X線散乱法の有用性を示している.
  • 斎藤 樹, 岡本 貴史, 下北 啓輔, 宮崎 司, 山本 勝宏
    2014 年 71 巻 11 号 p. 586-592
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    塩化鉄(III)をドープしたポリスチレン-b-ポリ2-ビニルピリジン(S2VP)ブロック共重合体薄膜をテトラヒドロフラン(THF)溶液からスピンキャスト法により製膜した.THF溶液中で,鉄イオン添加によりS2VPは球状ドメイン(ミセル)を形成する.これは,鉄イオンとピリジンユニットの窒素原子との間の配位結合を通した架橋形成により凝集しやすくなりミセル形成を誘起したものと考えられる.この溶液のスピンキャスト薄膜を作成し,ミクロ相分離構造を原子間力顕微鏡および微小角入射X線小角散乱により観察した.興味深いことに,鉄イオンをドープすることで,薄膜中のシリンダー状ミクロ相分離構造が基板に対して垂直に配向化するが,鉄イオンをドープしない系では垂直配向化は見られないことがわかった.垂直配向化の鍵は,ミセルからシリンダー構造への転移過程において,スピンキャスト中のTHF蒸発方向および溶媒アニール中のTHF浸透方向に関連すると考えられる.
  • 岡田 一幸, 中田 克, 東大路 卓司, 高橋 健太, 大越 豊, 金谷 利治
    2014 年 71 巻 11 号 p. 593-600
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,工業的な条件で製造されるポリエチレンテレフタラートフィルムの延伸に伴う構造形成を調べるため,延伸ロールを用いて連続的に一軸延伸されたフィルムについて,小角X線散乱と広角X線回折から配向構造を評価した.その結果,90°CではSmectic相,100°Cでは結晶相に対応する回折が観察された.延伸フィルムの小角散乱像には,いずれも延伸方向とその垂直方向に加え,X方向のストリークが観察された.さらに延伸倍率300%以上では,Through像には延伸方向と直交する方向の2点像,Edge像には4点像が現れた.また,Edge像の方が,Through像よりもストリークおよび散乱の強度が強くなった.この差は,延伸倍率200%以上ではフィルムの幅が変化しなくなり,厚さ方向のみが変化するようになることと関係するはずである.
  • 吉水 広明, 奥村 祐生
    2014 年 71 巻 11 号 p. 601-607
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    ポリ4-メチル-1-ペンテン(PMP)の結晶相における気体輸送特性を調べる目的で,一軸延伸処理を施した試料膜を調製し,気体透過および拡散特性を検討した.延伸試料の配向構造を赤外二色性とX線回折により解析し,結晶相のc軸が膜面に平行で延伸方向に一軸配向しているのを確認した.延伸試料の気体透過特性を,結晶相がランダム配向している未延伸試料と比較した.分子サイズの小さな気体では,延伸試料の透過係数は未延伸試料のものに比べ減少し,結晶相の配向構造の寄与が確認された.一方,比較的大きなサイズの気体では,結晶相の配向構造はその透過特性に影響を与えないと判断された.磁場勾配パルス 1H NMR法を用いて,PMP試料中のメタンの拡散挙動を観察した.延伸試料では拡散異方性が確認され,PMP結晶相の気体輸送特性として,c軸に沿った方向への拡散が他方向へのそれに優先される特性が明らかになった.
  • 小椎尾 謙, 松村 隼, 野崎 修平, 本九町 卓, 古川 睦久, 吉永 耕二, 高原 淳
    2014 年 71 巻 11 号 p. 608-614
    発行日: 2014/11/25
    公開日: 2014/11/25
    ジャーナル フリー
    ポリウレタンエラストマー中でハードセグメントを構成する4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)および1,4-ブタンジオール(BD)からなるモデルポリウレタンの結晶化挙動を評価した.試料として,MDI,BD,1,1,1-トリメチロールプロパン(TMP)およびポリオールを用いて,MDI-BD連鎖のBDをTMPあるいはポリオールで代替するように配合比を変化させて合成した.TMPおよびポリオールの含有率が高くなると,MDI-BD連鎖の結晶の融点(Tm)はそれぞれ低下および上昇した.また,ポリオールの分子量の低下によりTmは低下した.これらの結果より,繰返し数が大きいMDI-BD連鎖は結晶の形成を阻害するほど剛直で自身の凝集力が高いこと,適切な第三成分を組み込むことで分子鎖が良好にパッキングされた平衡状態に近い結晶が調製されることが明らかとなった.
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