高分子論文集
Online ISSN : 1881-5685
Print ISSN : 0386-2186
ISSN-L : 0386-2186
65 巻, 12 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総合論文
  • 中島 祐, 田中 良巳, 古川 英光, 黒川 孝幸, 龔 剣萍
    2008 年65 巻12 号 p. 707-715
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    高分子ゲルは,低摩擦性,体積相転移現象など,従来の物質にはない特性を示す物質であり,さまざまな分野への応用が期待されている.しかし,従来のゲルの力学的強度は総じて低く,構造材料としての応用は難しかった.筆者らは近年,天然に存在する高強度ゲルである生体関節軟骨の構造を模倣した「硬」と「柔」の二重網目構造を持つ超高強度ゲル,Double Network ゲル(DN ゲル)を創製した.DN ゲルは生体関節軟骨を超える 60 MPa もの圧縮破断応力,最大で 3000%という高い伸縮性,2500 J/m2 という,従来の理論では説明できないほど高い破壊エネルギー,優れた生体適合性などを示す非常に興味深い物質である.最近の研究成果によって,DN ゲルは破壊進行部位の局所的な降伏によるエネルギー散逸によって高強度化していることが示唆された.これは従来作られてきた高強度ゲルの破壊メカニズムとは大きく異なるものである.
  • 則末 智久, 池澤 由雄, 竹森 剛, 宮田 貴章, 野村 茂樹
    2008 年65 巻12 号 p. 716-729
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    有機と無機の長所を兼ねそろえるハイブリッドネットワークに,イオン伝導体であるヘテロポリ酸を効率よく封止し,プロトン伝導性を有する架橋系電解質膜を得た.交流インピーダンス法により計測した伝導度は,実際に封止できたヘテロポリ酸の濃度に依存することが FT-IR や滴定実験により明らかとなったが,高度なイオン伝導性を発現するためには,そのミクロ構造の制御が重要であることがわかった.その一例として,SAXS, AFM, TGA による散乱および耐熱性に関する平衡構造解析を行い,温度や濃度に対する構造体の成長メカニズムについても検討した.その結果,本系のプロトン伝導に必要不可欠なミクロ構造は,最適な特性長と均一性を有する粒子状の連結ドメインであることがわかった.また膜の繰返し乾燥処理に伴う伝導度の変化についても検討した.伝導体の仕込み濃度が高い膜において,伝導度が著しく低下することが明らかとなった.
  • 大塚 絵美子, 中村 貴紀, 瀬戸 庸平, 馬場 亨, 車田 研一, 鈴木 淳史
    2008 年65 巻12 号 p. 730-738
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAm)ゲルを鋳型に用い,ゲルテンプレート法によりシリカマトリックスにその網目構造を転写して,透光性のあるメソポーラスシリカを得た.得られたメソポーラスシリカの多孔構造を窒素吸着等温線から推測し,さらに孔構造の電子顕微鏡観察を行った.テンプレートゲル/シリカ量比を変化させることで細孔半径が 2~10 nm の範囲で制御されたメソポーラスシリカが得られた.また,緩慢な乾燥は孔径の増加とバルク体形成に有利であった.NIPAm 以外のアクリルアミド系ヒドロゲルをテンプレートに用いても,網目構造をシリカマトリックスに転写できた.テンプレートゲルの疎水/親水性と熱応答性の違いによって,細孔径などの性質が異なる結果が得られた.応用への試みとして,NIPAm を用いて作製した透光性のあるバルク体のメソポーラスシリカにチタニアを細孔内担持させ,吸着・分解機能を併せ持つ三次元光触媒材料の特性を評価した.
一般論文
  • 後藤 健彦, 福田 晋也, 迫原 修治
    2008 年65 巻12 号 p. 739-744
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    難脱水性の有機スラリーの一種である洗米排水の無加熱・無薬注脱水に応用することを目的として,感温性の N-イソプロピルアクリルアミド(NIPA)と親水性の N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)を共重合して感温性多孔質ゲルを合成した.常温での脱水操作を可能とするために DMAA の共重合によるゲルの親水性の増加を検討した.NIPA モノマーの水への溶解性を高めるために DMF 水溶液を溶媒に用いていたが,poly-NIPA の転移温度より高い温度で合成を行う場合,相分離による多孔質構造が形成されにくく,脱水速度が低下することが明らかになった.そこで溶媒から DMF を除いて DMAA と NIPA と共重合した結果,転移温度が従来よりも約 10℃ 高い複合化感温性多孔質ゲルを合成できた.また,NIPA 転移温度付近の 30℃ で脱水操作を行った結果,NIPA 単独で合成したゲルよりも速く,低い含水率まで洗米排水を脱水することが可能であった.
  • 西下 直希, 紀村 浩希, 宮澤 光博, 平野 義明
    2008 年65 巻12 号 p. 745-750
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    近年,天然多糖類であるアルギン酸やキトサンなどにタンパク質やペプチドなどを修飾した,組織工学用の材料の設計が注目されている.アルギン酸-カルシウムヒドロゲルは,分解時に多量に放出されるカルシウムイオンの影響により細胞毒性を示すことから,組織工学用足場材料としては使用範囲が限定される.そこで,カルシウムイオンをはじめとする 2 価の金属イオンを用いないアルギン酸ヒドロゲルが設計できれば,汎用性の高いアルギン酸ヒドロゲルの構築が可能となる.
      本報では,β-シートペプチド(FEFK)n; n=2, 3, 4, 5 をアルギン酸のカルボキシル基に化学修飾することでペプチド間の相互作用を架橋点にしたヒドロゲルの創出を試みた結果について報告する.架橋点となる β-シートペプチド[(FEFK)n; n=2, 3, 4, 5]を Fmoc 固相法により手動で合成し,円二色性(CD)と赤外分光法(FT-IR)により二次構造の解析を行った結果,どの鎖長のペプチドも β-シート構造を形成していることが明らかになった.β-シートペプチドを修飾したアルギン酸を用いてゲル化を試みたところ,ペプチド鎖長が n=4, 5 のペプチドのみゲルを形成した.
      そこで,ペプチドを修飾したアルギン酸の自己組織化の能力を水晶振動子微小重量測定法(QCM)により評価したところ,ペプチド鎖長が n=4, 5 の時のみ自己組織化が認められた.これらのことから,β-シートペプチドを架橋点に利用したアルギン酸ヒドロゲルの設計が可能となった.
  • 清水 秀信, 和田 理征, 岡部 勝
    2008 年65 巻12 号 p. 751-755
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)を水中で沈殿重合させることにより,サブミクロンサイズの単分散なヒドロゲル粒子を得ることができる.本研究では,ミクロンサイズの PNIPAM ヒドロゲル粒子を得ることを目指し,NIPAM を沈殿重合させるときの開始剤の濃度や種類が,得られる粒子の大きさや膨潤収縮挙動に及ぼす影響について検討を行った.カチオン性開始剤としては 2,2′-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩を,ノニオン性開始剤としては 2,2′-アゾビス [2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド] を用いた.粒子の乾燥粒子径は透過型電子顕微鏡により,流体力学的粒子径は動的光散乱により評価した.粒子径は,開始剤の濃度の増加にともない,増加する傾向を示し,濃度が高いときには 1 μm を超える粒子を得ることができた.また,サブミクロンサイズの PNIPAM 粒子の膨潤度は,25℃ のとき約 8 倍であったのに対して,ミクロンサイズの感温性粒子では,温度低下により最大で約 50 倍の膨潤度を示した.以上の結果から,膨潤度の高いミクロンサイズの PNIPAM 粒子は,開始剤の種類にかかわらず,開始剤の濃度を高くして NIPAM の沈殿重合を行うことにより作製できることがわかった.
feedback
Top