高分子論文集
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67 巻, 12 号
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総合論文
  • 亀田 恒德, 小島 桂, 瀬筒 秀樹, 張 薔, 寺本 英敏, 玉田 靖
    2010 年 67 巻 12 号 p. 641-653
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/24
    ジャーナル フリー
    スズメバチの幼虫がマユを作るために吐くタンパク質の糸をホーネットシルク(以下 HS と略す)という.本研究は,HS を構成している複数種のタンパク質のアミノ酸配列を解明するとともに,各々のタンパク質の構造を比較して共通性を見いだすことで,異種タンパク質どうしの分子間の結合形態を明らかにすることを目的とした.とくに,α ヘリックス分子鎖どうしを結合させる超二次構造(コイルドコイル構造)の存在と,コイルドコイル構造が HS の繊維化機構や物性に与える影響を解明することに主眼を置いた.HS を構成する 4 種類の主要なタンパク質のアミノ酸配列は,4 種間で相同性が低いにもかかわらず,分子鎖中央付近が Ala リッチ領域,分子鎖両末端付近が Ser リッチ領域という共通した特徴を有していた.また,4 種類のタンパク質は共通して Ala リッチ領域が α ヘリックスを有し,それらが互いに絡み合ってコイルドコイル構造を形成していた.さらに,HS のヒドロゲルを圧縮乾燥してフィルム状に成形(ゲルフィルム化)する過程で,コイルドコイル構造が再構成されたことから,このフィルムの延伸挙動を解析して,コイルドコイル構造の存在が HS の繊維化機構および物性に与える影響を調べた.この結果から,HS におけるコイルドコイル構造の形成意義について考察した.
  • 兵野 篤, Jérôme F. L. DUVAL, 大島 広行, 松田 利夫, 米澤 徹
    2010 年 67 巻 12 号 p. 654-665
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/24
    ジャーナル フリー
    輸血前の血液型検査酵素法の原理解明のために,赤血球の表面解析と相互作用の算出を行った.赤血球の電気泳動移動度を,その表面高分子層を考慮した「柔らかい粒子」モデルによる二つの理論によって解析した.従来の理論に比べ,高分子鎖の拡散分布を取り入れた拡散モデルでは,表面高分子層の性質をより詳細に解析することが可能であった.
      さらに,赤血球の形状および表面層を考慮して引力および斥力を算出し,赤血球間相互作用エネルギーを計算した.そのエネルギー曲線から未処理および酵素処理赤血球間の最近接距離を計算し,IgG 分子が結合できるかどうかを判別した.その結果,タンパク質分解酵素による赤血球凝集の促進は,表面電荷密度の減少とともに,表面層の厚さが減少することが大きく作用することが明らかとなった.
一般論文
  • 林 史夫, 都丸 英敏, 大澤 研二
    2010 年 67 巻 12 号 p. 666-678
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/24
    ジャーナル フリー
    直径 23 nm,長さ 10~15 μm にも達するチューブ状の細長いらせん型の構造であるべん毛繊維は,約 3 万個のナノメートルサイズの単一部品(フラジェリンタンパク質)が非共有結合で会合したマイクロメートルサイズの超らせん構造体である.細菌が遊泳するためのスクリューとして機能するべん毛繊維は,繊維の根元にある回転モーターの回転方向に応じて,超らせんのピッチ長,らせん直径,巻き方向を変化させる.この形態変化を多型変換と呼ぶ.これまで,多型変換機構解明に向けてさまざまな取り組みがされてきたが,まだ,解明には至っていない.筆者らはフラジェリン内抑圧変異解析で多型変換に重要と思われる 19 の鍵アミノ酸残基を抽出し,それら鍵アミノ酸残基に変異をもつ復帰体の機能解析と鍵アミノ酸残基のフラジェリンにおける局在解析から,Arg431 が多型変換に重要であることを見いだした.本報では Arg431 を重要とした根拠を示すとともに,Arg431 を起点とした多型変換機序モデルを提案する.
  • 古賀 智之, 西馬 千恵, 東 信行
    2010 年 67 巻 12 号 p. 679-685
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/24
    ジャーナル フリー
    感温性の Elastin 類似ペプチド(ELP)とポリエチレングリコールからなるブロック型ペプチド-ポリマー・ハイブリッド((VPGVG)4-PEG および(GVGPV)4-PEG)をペプチド固相合成法により新規に調製した.水中での二次構造および自己集合特性を円二色性スペクトル,動的光散乱および原子間力顕微鏡を用いて検討した.ELP セグメントの二次構造は,温度変化に応答してランダムコイル構造(低温)から II 型 β-ターンを含む折りたたまれた構造(高温)に可逆的に変化する.このような ELP のコンホメーションスイッチを駆動力として,ペプチド-ポリマー・ハイブリッドは水中で可逆的に自己集合し,球状高分子ミセル(直径 100-300 nm)を形成した.また ELP セグメントのアミノ酸配列に基づいてフォールディング状態が変化し,会合体サイズを制御できることがわかった.
  • 喜田 裕介, 寺尾 憲, 佐藤 尚弘
    2010 年 67 巻 12 号 p. 686-689
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/24
    ジャーナル フリー
    コラーゲンモデルペプチドの一つである(Pro-Pro-Gly)5(以下 PPG5 と略す)が 10 mM の LiClO4 を含むメタノール中でポリアクリル酸(PAA)と複合体を形成することを見いだした.PPG5 の質量濃度を 3.23×10-5 g cm-3 とした場合,PAA と PPG5 のモル比 Cp/Cc が 0.06 と 0.3 のものについては濁りが見られたのに対し,Cp/Cc=3 の溶液は透明であり,動的光散乱測定からも巨大な会合体はほとんど存在しないことがわかった.この溶液および,PPG5 単独溶液について円二色性測定を行い,前者の三重らせん-1 本鎖の転移温度が後者よりも約 30 K 高いこと,すなわち,少量の PAA 鎖の存在によって,PPG5 の三重らせんが著しく安定化されることが見いだされた.さらに,この現象が PPG5 と PAA 間の解離会合平衡によって説明できることを示した.
  • 野口 恵一, 金成 正和, 奥山 健二, 小川 宏蔵
    2010 年 67 巻 12 号 p. 690-697
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/24
    ジャーナル フリー
    シンクロトロン放射光を用いて収集した X 線繊維回折データを基に,キトサン/HBr 複合体の結晶構造を決定した.結晶系は単斜晶系,空間群 P21,格子定数は a=9.299(9), b=9.504(8), c(繊維軸)=10.41(1) Å, β=106.93(8)°であり,93 個の実測反射に対する最終的な R 因子は 0.191 となった.単位格子内には 2/1-らせん構造を形成したキトサン分子鎖 2 本(グルコサミン 4 残基)と HBr 四分子が含まれていた.臭素イオンは繊維軸に沿って約 5 Å の間隔で並び,分子鎖に平行なカラム状構造を形成していた.結晶中には二種類の臭素イオンが存在し,一方の臭素イオンはキトサンの三つの N2 窒素との間で水素結合を形成しており,他方は,キトサンの一つの N2 窒素と二つの O6 酸素との間で水素結合を形成していた.また,b 軸方向に沿って隣接したキトサンの N2 窒素と O6 酸素との間にも水素結合が形成されており,複合体の結晶構造は,おもにこれらの比較的強い水素結合により安定化されていた.
  • 阿部 哲也, 伊藤 慎平, 西 直哉, 塚田 祥弘, 安永 卓生, 新垣 篤史, 松永 是, 養王田 正文
    2010 年 67 巻 12 号 p. 698-704
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/24
    ジャーナル フリー
    スモールヒートショックプロテイン(sHsp)は通常の温度条件下では分子量 12-43 kDa のサブユニットが大きな複合体を形成しているが,熱ストレス下においてはその構造が可逆的に解離する.この解離が sHsp の機能発現に重要な役割をもつと考えられている.磁性細菌 Magnetospirillum magneticum AMB-1 には sHsp とアミノ酸配列の相同性がある ORF が三つ存在した(YP_423206,YP_423303,YP_421578).分子量からそれぞれ,Hsp17.8, Hsp17.5, Hsp18.3 と命名し大腸菌により大量発現させ精製した.それぞれ,モデル基質である豚心臓由来クエン酸合成酵素の凝集を抑制し,分子シャペロンとして機能していることが明らかとなった.また,ゲルろ過クロマトグラフィーや電子顕微鏡観察により Hsp17.8 はこれまでに報告のある球状のオリゴマーを形成し,Hsp17.5,Hsp18.3 は興味深いことに,巨大なフィラメント構造を形成していた.これまでにも,sHsp がフィラメント構造を形成する報告はあるものの,タンパク質の凝集抑制能を有するものとしては,初めての例である.
ノート
  • 山岸 忠明, 石崎 昭彦, 生越 友樹, 中本 義章, 高田 晃彦
    原稿種別: ノート
    2010 年 67 巻 12 号 p. 705-708
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/24
    ジャーナル フリー
    We have designed a new material with stable cholesteric structure by blending a cellulose derivative, (acetoxypropyl)cellulose (APC), with a thermoplastic polymer, poly(viny acetate) (PVAc). In the material obtained from THF solution, the compatibility between APC and PVAc was confirmed by differential scanning calorimetry (DSC) and infrared spectroscopy (IR). The materials showed colors arising from the selective reflection of circular polarized light. The colors depended on the composition of the materials. The material obtained from acetone solution showed phase separation into an APC rich phase and a PVAc rich phase, respectively. This indicated that the aggregation structure of APC/PVAc blends was affected by the preparation condition for materials. The FT IR results supported that the molecular aggregation structure was controlled by the hydrogen bonds between APC and PVAc polymer chains.
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