高分子論文集
Online ISSN : 1881-5685
Print ISSN : 0386-2186
ISSN-L : 0386-2186
67 巻, 8 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総合論文
  • 水崎 真伸
    原稿種別: 総合論文
    2010 年 67 巻 8 号 p. 417-427
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    1,3,5-ベンゼン基によってコア,p-フェニレンビニレンによってデンドロン,そしてジフェニルアミノ基によって末端基を構成する,三世代および四世代のデンドリマーを合成した.これらのデンドリマーはクロロホルムに可溶なため,溶液を塗布することで薄膜を形成できた.2 種類それぞれのデンドリマー薄膜の両側に電極を形成させたセルに直流電圧を印加すると,p-フェニレンビニレン間での正孔輸送に由来する電流が観測された.25℃ でのデンドリマー薄膜中の正孔の移動度は,三世代デンドリマー薄膜の方が四世代デンデンドリマー薄膜より 3~4 倍大きかった.また,p-フェニレンビニレンの吸収波長は,三世代デンドリマーの方が四世代デンドリマーより長波長シフトしており,三世代デンドリマーの方がデンドリマー間での p-フェニレンビニレンの相互作用が起こり易いことが示された.これらのことから,三世代デンドリマーの方がより平面性の高い分子構造であることが推定される.平面性の高いデンドリマーでは,デンドリマー分子間の相互作用が起こりやすくなり,キャリア移動度が大きくなると考えられる.
  • 中澤 靖元
    原稿種別: 総合論文
    2010 年 67 巻 8 号 p. 428-439
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    カイコやクモの生産する絹は,高い力学直性を有しており,また生体に対する適合性も優れている.これらの優れた特徴は,絹タンパク質の一次構造やそれらが形成する緻密な凝集構造に起因しており,この構造を解明することは,絹を新たな材料として利用するための分子設計やプロセッシングに対し,有用な知見を与えることが可能となる.
      筆者の所属する研究グループはこれまで,固体 NMR 法を主な解析手段として用い,絹フィブロインの精密構造解析を行ってきた.絹フィブロインが形成する繊維構造は,結晶領域と非晶領域を有する不均一構造となっており,その構造解析は困難を極める.この不均一構造に対し,NMR 法は有効な手段である.
      本報では,これら絹の精密構造解析の成果を紹介する.また,絹フィブロインを利用した,骨再生材料や人工血管等の再生医療材料への開発についてもまとめた.
  • 竹岡 裕子
    原稿種別: 総合論文
    2010 年 67 巻 8 号 p. 440-446
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    有機無機層状ペロブスカイト化合物は,分子式(H3N-CnH2n-NH3)PbX4(X=I, Br)で表され,構成成分である有機物(XH3N-CnH2n-NH3X)と無機物(PbX2)が自己組織的に超格子構造を形成する興味深い物質である.有機バリアー層と無機井戸層が交互に積層し,層間のバンドギャップ差により無機層領域に安定な励起子を形成することから,優れた非線形光学特性や発光特性を示すことが明らかとなっている.本研究では,種々の π 共役系オリゴマーを層状ペロブスカイト化合物の有機層に導入した有機・無機半導体超格子の作製を検討し,構造解析,および光学特性評価を行い,π 共役系オリゴマーの導入が特性に与える影響を調べた.チオフェン/フェニレンオリゴマーである AETP・HX(X=Br, I),チオフェン/フルオレンオリゴマーである AETF・HX(X=Br, I)を,Grignard カップリング法により合成した.種々のオリゴマーを PbX2(X=Br, I)と複合化し,(AETP)PbX4(X=Br, I), (AETF)PbX4(X=Br, I)薄膜を得た.作製したハイブリッド薄膜の X 線回折の結果,(AETF)PbBr4 膜を除く薄膜において,ブラッグ反射が高次数まで観察され,層状構造の形成が確認された.(AETP)PbI4 膜では 14.7 Å, (AETP)PbBr4 膜では 15.2 Å のピークが観察され,ハロゲン種による層間距離の変化はほとんどないことがわかった.また,(AETF)PbI4 膜では 13.0 Å に基づくピークが観察され,これらのハイブリッド薄膜中において,有機 π 共役系分子は無機層に対して,ある角度をもって配向していることがわかった.(AETP)PbI4 膜,および(AETP)PbBr4 膜の吸収スペクトル測定の結果,室温において 516 nm, 400 nm にそれぞれ鋭い励起子吸収が観察され,AETP を有機層とする層状ペロブスカイト化合物も量子井戸構造の形成が可能であることがわかった.また,(AETP)PbI4 膜では,4 K において 529 nm に励起子に起因する蛍光が観察された.ハロゲン種が異なる(AETP)PbBr4 膜では,450 nm および 500 nm 付近のブロードな発光と,530 nm の強い蛍光が観察された.これは,一般的な臭化鉛系層状ペロブスカイト化合物(400 nm 付近)とは異なる発光特性であり,有機層-無機層間における相互作用の存在が示唆された.また,(AETF)PbI4 キャスト薄膜では,熱処理を行うことにより,(AETP)PbI4 膜と類似した吸収が 514 nm に観察され,より結晶性の高い π 共役種を用いた場合でも,薄膜の作製条件を変えることで量子井戸構造の形成が可能であることがわかった.また,522 nm の量子井戸に基づく鋭い発光とともに,555 nm,および 690 nm 付近にブロードな発光が観察された.発光の時間分解の結果,690 nm 付近のブロードな吸収はオリゴマーによる発光であり,522 nm の励起子に基づく発光と比較して,6 ps 程度遅れて立ち上がることがわかり,励起子からオリゴマーへのエネルギー移動が示唆された.
  • 原口 直樹
    原稿種別: 総合論文
    2010 年 67 巻 8 号 p. 447-464
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    高分子固定化キラル 1,2-ジアミンと高分子固定化キラル第四級アンモニウム塩の合成法と不斉反応への応用についてまとめた.フェノール性ヒドロキシル基を導入したキラル 1,2-ジアミンを用い,高分子中の特定の位置にキラル 1,2-ジアミンを有するポリマーを高分子反応またはラジカル重合により合成した.キラル第四級アンモニウム塩の高分子固定化はスルホネートを有する高分子担体とのイオン交換反応またはラジカル重合により行い,イオン結合による高分子固定化キラル第四級アンモニウム塩の合成に成功した.
      高分子固定化不斉触媒を用いたケトンの不斉水素化反応,水系でのケトンやイミンの水素移動型不斉還元反応,グリシン誘導体の不斉アルキル化反応,シクロペンタジエンとケイ皮酸アルデヒドの Diels-Alder 反応は速やかに進行し,目的の光学活性化合物を高立体選択性で定量的に得ることに成功した.高分子固定化不斉触媒は簡単に回収することができ,数回から十数回の再使用が可能であった.
  • 松見 紀佳
    原稿種別: 総合論文
    2010 年 67 巻 8 号 p. 465-476
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    リチウムイオン輸送性のイオン伝導性材料としては長きにわたりポリエーテル誘導体が検討されてきた.しかし,エーテル酸素原子のリチウムカチオンへの強い配位は常温におけるリチウムイオン輸率を大幅に低下させることが知られてきた.一方,近年新たな電解質材料として難燃性,難揮発性,高イオン伝導性のイオン液体が検討されている.そのイオン液体においてもマトリックス自身がイオンにより構成されているために,電位勾配下において目的カチオンのみを選択的に輸送することは通常の分子設計では困難である.そこで系内にアニオンレセプターとしての三級ホウ素や高解離性のリチウムボレート塩などを導入することにより,高いイオン伝導性とリチウムイオン輸率の双方を併せ持つ材料も見いだされてきた.また,これらの知見を元に最近では実用展開を意識しつつホウ素系イオンゲル電解質に関しても研究を行っているので合わせて紹介する.
  • 大山 俊幸
    原稿種別: 総合論文
    2010 年 67 巻 8 号 p. 477-488
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    筆者らは,ポリイミドをはじめとするエンジニアリングプラスチック(エンプラ)に感光性を付与する新しい手法である「反応現像画像形成(RDP)」を開発した.従来の感光性ポリイミドはアルカリ水溶液への溶解や架橋を行うための官能基を必要とするのに対し,RDP ではポリイミド中のイミド基と現像液中の求核剤との反応をパターン形成に利用するため,特別な官能基を高分子鎖に導入する必要がない.また,イミド基以外のカルボン酸類縁基を有するポリカーボネートやポリアリレートにも感光性を付与し微細パターンを形成することができる.アミンを求核剤とするポジ型 RDP では,市販のポリエーテルイミドやポリアリレートなど種々のエンプラへの感光性付与が可能となった.求核剤としてアルコキシドを利用することにより,ビニルポリマー側鎖のイミド基を用いたポジ型パターン形成にも成功した.一方,(CH3)4N+OH- を求核剤として用いるネガ型 RDP では,ポジ型 RDP よりも少ない感光剤量で大幅な高感度化が可能であり,化学増幅機構の適用によりさらなる高感度化も可能であった.また,ポリイミド主鎖構造を適切に設計することにより,アルカリ水溶液のみを現像液としたパターン形成も可能となることが示された.
feedback
Top