日本心臓血管外科学会雑誌
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27 巻, 5 号
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  • 齊藤 力, 蘇原 泰則, 布施 勝生
    1998 年 27 巻 5 号 p. 263-269
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    逆行性脳灌流法の至適灌流条件を, 生体脳微小循環観察法を用いて検討した. 実験動物は Wistar 系ラットを用い, 右頭頂部に closed cranial window を作成し, 頭蓋内圧, 逆行性灌流圧を調節可能とし, 落射型蛍光顕微鏡下に中大脳動脈の分枝から上大脳静脈の分枝を生体観察した. 逆行性灌流を行うと, 灌流圧5~15mmHgでは, 静脈間シャント血流を認めるものの, 脳細動脈への逆流は認められず, 灌流圧15~30mmHgでは, 細静脈から細動脈への灌流が最も良好に認められた. またその際の逆行性脳灌流量は静脈間シャントにより一定しなかった. 一方灌流圧30~50mmHgでは, 脳が膨隆し微小循環は停止した. 逆行性脳灌流時の脳微小循環は, ラットの場合頭蓋内圧3±2cmH2O (正常頭蓋内圧範囲内), 逆行性灌流圧15~30mmHgで観察され, これらを至適灌流条件と判断した. またその血流速度は非常に緩やかであり, 逆行性脳灌流法では灌流時間の遷延により脳虚血に陥る可能性があることが示唆された.
  • 遺残解離腔拡大要因の検討
    丸井 晃, 望月 高明, 三井 法真, 小山 忠明
    1998 年 27 巻 5 号 p. 270-275
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    1984年より1993年までの期間に当施設にて手術を行った Stanford A型の大動脈解離55症例のうち, 在院死亡および追跡不能例を除いた33症例における遺残解離腔拡大の要因および治療成績を検討した. 術式は原則として上行大動脈のみに手術操作を加えた. 経過観察期間は平均7.7年で, 退院後に大動脈瘤に起因した死亡は認めなかった. 遠隔期の遺残解離腔拡大は7例に認め, 追加手術は5例に合計12回施行した. Marfan 症候群および, 病理組織にて大動脈中膜変性を示した非 Marfan 症例では, 高頻度に遠隔期の遺残解離腔の拡大をきたし追加手術を必要としたため, 初回時に拡大手術が必要と思われた. しかし非 Marfan 症候群でも中膜変性がなければ遺残解離腔の存在は遠隔期拡大の要因とはならなかった. 非 Marfan 症例および中膜変性のない症例では, 上行大動脈のみに手術操作を加える術式でも, 遠隔成績は充分許容できる範囲であり有効な治療手段であった.
  • 林田 信彦, 丸山 寛, 田山 栄基, 友枝 博, 尾田 毅, 川野 博, 川良 武美, 青柳 成明
    1998 年 27 巻 5 号 p. 276-281
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    冠動脈バイパス術を施行した甲状腺機能低下症を伴う6例と甲状腺機能正常例15例を周術期の甲状腺機能および循環動態の変化より比較検討した. 甲状腺機能低下症例では free T3および total T3は術後有意に低下し, 甲状腺機能正常例でも total T3は有意に低下し術後の euthyroid sick syndromeの発生が示唆された. 術後心機能では甲状腺機能低下症例が正常例に比較して中心静脈圧および肺動脈楔入圧は有意に高値で左室一回拍出仕事係数は有意に低値であった. また術後ドーパミンおよびドブタミン必要量も同群で有意に高値を示し, 左心機能の低下が示唆された. 全例での対外循環後の free T3濃度は同時点での左室一回仕事係数と有意な正の相関を示し, free T3の inotropic effect が示唆された. さらに術前の free T3濃度は術後のドーパミンおよびドブタミン必要量と有意な負の相関を示しており, その濃度が術後低心拍出量症候群発生の予測因子となりうることが示唆された. 甲状腺機能低下症を伴う冠動脈バイパス症例は術後の低心拍出状態が起こりやすく, ホルモン補充療法を含めた注意深い周術期管理が必要である.
  • IL-8, IL-10について
    長 伸介
    1998 年 27 巻 5 号 p. 282-287
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    ラット急性動脈閉塞症再灌流障害モデルを用い, Interleukin-8 (IL-8) と Interleukin-10 (IL-10) を測定し, 再灌流障害への関与につき実験的に検討した. Wistar 系雄性ラットの腎動脈下腹部大動脈と両側総大腿動脈を6時間血行遮断した後, 再灌流した群 (I群) と同動脈に剥離操作のみを加えた群 (II群) を作製し, 経時的にCPK, IL-8, IL-10を測定した. CPK, IL-8, IL-10すべてにおいてI群はII群と比べ有意に高値を示した. さらにIL-8では, II群と比較し, 有意に高値が持続した. これに対しIL-10では, I群ではII群と比較し, 一時的に有意に高値を示したものの, その後は有意に低値が持続した. この炎症性サイトカイン優位の高サイトカイン血症は全身的な炎症を遷延化させ, このことが虚血再灌流障害, さらにはMNMSの発症に関与している可能性があると考えられた.
  • 浜田 良宏, 河内 寛治, 山本 哲也, 中田 達広, 加洲 保明
    1998 年 27 巻 5 号 p. 288-292
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    開心術において人工心肺 (CPB) 中にミルリノンを単回静注し, その効果を検討した. 開心術症例10例にCPB中大動脈遮断解除後にミルリノンの単回静注を行い (M群), 静注を行わなかった10例(C群)と, 血行動態を比較検討した. また, 手術終了時のカテコラミン投与量, 復温時間, 副作用を検討した. ミルリノン静注後, 灌流圧が低下したが, CPB終了後および手術終了時点において大動脈圧に差はなく, 心拍数, 肺動脈圧, 肺動脈楔入圧にも両群間に差はなかった. CPB終了後の心係数はM群において高く, 末梢血管抵抗係数はM群が低値であった. カテコラミン投与量, 復温時間には差はなく, 副作用もなかった. CPB中のミルリノンの単回静注は灌流圧を低下させるものの, カテコラミン必要量を増やすことなく, CPB終了後の心係数を増加させ, CPB後の術中, 術後管理に有用であった.
  • 羽賀 將衛, 大谷 則史, 清川 恵子, 川上 敏晃
    1998 年 27 巻 5 号 p. 293-296
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    過去3年間に当科において, 破裂性腹部大動脈瘤を除く, 腹部大動脈および腸骨動脈領域の血行再建術は, 全例, 腹膜外到達法により施行した. このうち36例を傍腹直筋切開, 41例を臍側方から肋骨弓に向かう横切開により行った. 両群とも, 良好な術野の展開を得るため, オクトパス®リトラクターを用いた. 術後の経口摂取開始までの日数, 鎮痛剤を使用した日数, および退院までの日数は, 傍腹直筋切開群よりも腹部横切開群において有意に短かった. 腹膜外到達法による腹部大動脈, 腸骨動脈領域の手術において, 腹部横切開は, 術後の早期離床と在院日数の短縮を図るうえで有用と考えられた.
  • 遠隔期成績を中心として
    石橋 宏之, 太田 敬, 保坂 実, 杉本 郁夫, 数井 秀器, 永田 昌久
    1998 年 27 巻 5 号 p. 297-302
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤 (AAA) 240例を破裂群 (31例) と非破裂群 (209例) に分け, 非破裂群をASO合併群 (48例) とASO非合併群 (161例) に分けて検討した. 追跡期間は最長15年10か月, 平均4年2か月, 遠隔期追跡率は97%であった. 手術死亡率は破裂群41.9%, 非破裂群2.9%, ASO合併群6.3%, ASO非合併群1.9%であった. 遠隔期死亡原因は心疾患32%, 悪性腫瘍22%, 脳血管障害10%, 腎疾患10%などであったが, 手術時リスクファクターと関連したのは腎不全のみであった. 術後相対生存率は破裂群5年79%, 10年0%, 非破裂群5年90%, 10年70%で, 同年代一般人より低く, ASO非合併群は5年95%, 10年78%, ASO合併群は5年74%, 10年52%であり, ASO合併群ではさらに低値であった. ASO合併群は手術時, 虚血性心疾患, 糖尿病の合併が多く, 全体の遠隔期死亡原因は心疾患, 腎不全が多かった. これらを念頭においた遠隔期フォローアップが重要である.
  • 小鹿 雅隆, 春谷 重孝, 山本 和男, 後藤 智司, 井上 秀範, 小熊 文昭
    1998 年 27 巻 5 号 p. 303-305
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は55歳男性. 胸部X線写真にて異常を指摘され, 胸部CTおよび大動脈造影にて遠位弓部より気管後方に突出し, 著明な気道狭窄を来した大動脈瘤と診断された. 手術当日, 気道狭窄による呼吸困難を来し, 緊急気管内挿管を要した. 手術は左開胸, 循環停止下に遠位弓部大動脈人工血管置換術を施行し, 良好な経過を得た. 遠位弓部大動脈瘤の形態として極めて稀と思われた. また, Open proximal anastomosis 法は, 安全かつ有用であった.
  • 石山 智敏, 稲沢 慶太郎
    1998 年 27 巻 5 号 p. 306-309
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例1は43歳, 男性. 主訴は左1, 2趾の疼痛とチアノーゼ. 血管造影では腹部大動脈全体が狭小化し, 分岐部直上の内径は11mmであった. 右外腸骨動脈の狭窄と左外腸骨動脈の閉塞を認めた. 手術は12×6mmの knitted Dacron Y型グラフトにて大動脈-両側総大腿動脈バイパス術を施行した. 症例2は21歳, 男性. 主訴は左下腿間歇性跛行. 血管造影では腹部大動脈全体が狭小化し, 分岐部直上の内径は12mmであった. 左浅大腿動脈の閉塞を認めた. 手術は6mmの knitted Darcon グラフトにて大腿-膝窩動脈バイパス術を施行した. 腹部大動脈・腸骨動脈系の低形成症は small aorta syndrome などと呼ばれるが, 本邦での報告は少なく, 女性症例が散見される程度である. 比較的若年で閉塞性疾患を呈する者が多い. バイパス術に際しては, 低形成を伴うためかグラフトの開存率が低く, 健側動脈を含めた慎重な経過観察が必要と思われる.
  • 仲村 輝也, 谷口 和博, 九鬼 覚, 高野 弘志, 奥田 彰洋
    1998 年 27 巻 5 号 p. 310-313
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    回旋枝 (LCx) への血行再建が key となる症例において, #11へCABGを施行した一例を報告する. 症例は74歳の女性. 冠動脈造影検査にて#2 100%, #7 100%, #9 90%, #11 90%の三枝病変を認めた. OMおよびPLは hypoplastic であり吻合は困難であると思われた. 左室駆出率は31%と低値であった. Tlシンチグラフィーでは前壁の一部および後側壁に viability を認めた. 手術は#11にSVGを単独で, #8・#9にSVGを sequential に吻合した. #11の露出には若干の工夫を要した. 血管径は大きく確実な吻合を行えた. 本方法は, LCx末梢病変がなく#11中枢側に高度な病変を認める場合や, OM, PLがともに run-off 不良なため吻合に適さない場合に有用な方法であると考えられた.
  • 高倉 宏充, 佐々木 達海, 橋本 和弘, 蜂谷 貴, 小野口 勝久, 青木 功雄, 竹内 成之, 新井 達太
    1998 年 27 巻 5 号 p. 314-317
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は70歳男性. 大動脈弁閉鎖不全症に対し大動脈弁置換術を行った. 体外循環終了約10分後に突然徐脈, 血圧低下から心停止をきたしたため体外循環を再開した. 経食道超音波心エコー図法にて急性冠状動脈閉塞を伴う Stanford A型大動脈解離と診断し, 低体温脳分離体外循環下に上行大動脈置換を施行した. しかし, 冠状動脈閉塞の解除ができず体外循環からの離脱が困難であったため, 大伏在静脈によるバイパス術を左冠状動脈前下行枝と右冠状動脈に追加し救命し得た. このように冠状動脈周囲に及ぶ血腫を伴う場合, 急性期に一過性の冠状動脈閉塞をきたすことがあり, 冠状動脈バイパス術の追加を常に念頭におき手術を進めるべきである.
  • 本邦報告例の検討
    服部 良信, 杉村 修一郎, 入山 正, 渡辺 浩路, 根木 浩路, 山下 満, 武田 功
    1998 年 27 巻 5 号 p. 318-322
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    心臓線維腫は極めて稀な疾患である. 右心室原発線維腫の手術を経験したので報告する. 症例は12歳の女児. 平成2年4月学校検診で心電図異常を指摘された. 収縮期心雑音を聴取し, 血液生化学検査, 胸部X線写真は正常, 心電図はII, III, aVF, V3-4で陰性T波を認めた. 断層心エコーで右室心尖部自由壁に6×4×4cmの腫瘍を認めた. 同年7月12日手術施行, 腫瘍は淡黄色で右室切開にて分割し摘出した. 総重量は116gであった. 術後経過は良好で, 術後7年の現在も健康で心エコーでは再発を認めない. 病理組織所見では, 腫瘍は細胞密度の高い部分と低い部分が混在し, Masson-Trichrome 染色や Alcian blue 染色では陽性で, 鍍銀染色にも染色し, Vimentin, NSE に陽性で, Keratin, Desmin, α1-Antchymotripsin, S-100, CK-MMは陰性であった. 本邦の心臓線維腫の報告例に自験例を加えて検討し報告した.
  • 新谷 英夫, 井町 恒雄
    1998 年 27 巻 5 号 p. 323-326
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    僧帽弁術後遠隔期に進行, 再発し, 三尖弁単独の手術を施行した三尖弁閉鎖不全症 (TR) 4例の成因と対策について検討した. 僧帽弁狭窄症 (MS) で初回手術し, 2例に交連切開 (OMC), 2例に弁置換 (MVR) が行われていた. 心エコー法により経時的に僧帽弁機能とTRの逆流度の変動を評価した. OMCの2例ではMSの再進行, MVRの2例では有効弁口面積の軽度狭小化によりTRが増強し, いずれも10年以上経過した後TRに対し手術となった. 2例でTAP, 2例で弁置換 (TVR) を要した. 僧帽弁術後遠隔期に進行, 再発するTRはMVR後といえども慢性的な軽度MSの病態により生じる可能性が示唆された. かかるTRの手術に際しては, 僧帽弁機能の十分な評価と適切な処置, ならびに三尖弁の変化に応じて弁形成やTVRも含めた確実な術式を選択し施行する必要があると考えられた.
  • 大島 永久, 木山 宏, 今関 隆雄
    1998 年 27 巻 5 号 p. 327-330
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は71歳, 男性. 拍動性腹部腫瘤の増大を主訴として当院受診し, 直径7.8cmの腹部大動脈瘤と診断. 術前冠状動脈造影で左前下行枝seg6~7の long lesion を認め, 同時手術の適応と診断した. 術前ヘモグロビン値 (Hb) 10.6g/dlと貧血状態であったが, エリスロポエチン投与により800mlの術前貯血を行い, 体外循環非使用の心拍動下冠状動脈バイパス術とY型人工血管置換術の同時手術を同種血無輸血で施行し得た. 手術時間6時間18分, 冠状動脈遮断時間14分であった. 術中出血量は600mlで, 術後最低Hbは9.1g/dlであった. 術後経過は順調でそれぞれの単独手術とほぼ同じ第15病日に退院した. 体外循環を使用しないCABGは体外循環施行困難症例や低左心機能症例のみならず, 低侵襲で凝固機能への影響が少ないことから, 本例のような同時手術, 貧血患者に対しても有用であると考えられた.
  • 里 学, 樋口 真哉, 小迫 幸男, 須田 久雄, 片山 雄二, 伊藤 翼
    1998 年 27 巻 5 号 p. 331-334
    発行日: 1998/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    心臓血管肉腫は極めて稀な疾患ではあるが, 悪性心臓腫瘍の中では最も頻度が高く, 報告例の大部分は右房原発である. また, 何らかの治療はおろか生前診断さえ困難であるとまでいわれている. 今回, 左房原発の悪性腫瘍を術前に疑い, 結果的には失ったが手術を施行し得た貴重な症例を経験したので報告する.
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