日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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41 巻, 5 号
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巻頭言
原著
  • 横山 雄一郎, 佐藤 晴瑞
    2012 年 41 巻 5 号 p. 219-223
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    リードが三尖弁に悪影響を及ぼすことは数多く報告されている.特に徐脈性心房細動に対してリードを挿入している症例は,三尖弁逆流をきたすことが多く注意が必要であるが,逆流が進行してもリードが原因であり,仕方がないと判断され,著明な右心不全状態になるまで経過観察されることがしばしばある.このような状態での手術は非常にリスクが高く成績は不良である.一般的には経静脈リードを抜去し心外膜へ移設した後三尖弁手術を行うが,われわれは,経静脈リードをそのままにして三尖弁手術を行っている.リードを自然な走行で移動可能な交連部へ固定した後に弁形成術や置換術を行うことで,リード抜去による右心室損傷のリスクや閾値の問題を回避することができる.またリードが入ったままでも三尖弁手術は可能であるということが,至適時期に治療を行うための後押しとなるのではないかと考えている.
  • 東 修平, 東上 震一, 川平 敏博, 松林 景二, 頓田 央, 薦岡 成年, 平松 範彦, 降矢 温一
    2012 年 41 巻 5 号 p. 224-227
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    1993年1月から2010年12月までの間に当院にて施行された冠動脈バイパス手術3,129例のうち,慢性透析患者に対する単独冠動脈バイパス手術236例を対象とし,その遠隔成績および予後因子の検討を行った.患者背景としては,男性181例,女性55例,平均年齢64.1±9.7歳であった.腎不全の原疾患としては,糖尿病性腎症133例(56.4%),慢性糸球体腎炎94例(39.8%)で,平均透析歴は10.1±20.4年であった.合併疾患として,PAD(ABI 0.9以下)が107例(45.3%)であった.術式については,OPCAB 85例(36.0%),on pump conventional CABG 120例(50.8%)であった.遠隔期予後調査(追跡率89.5%,平均観察期間8.5年)の結果としては,手術死亡3.4%,病院死亡6.4%で,Kaplan-Meier法による長期遠隔成績は,1年生存率72.4%,3年生存率48.3%,5年生存率32.4%,10年生存率14.3%であった.遠隔期死亡原因として感染症が24.1%と最多であった.予後関連因子としてperipheral artery disease(PAD)の合併が統計学的に有意な予後不良因子(p<0.05)として明らかとなった.慢性透析患者に対する冠動脈バイパス手術の予後は不良であった.術式による手術成績に差はないものの,PADの合併の有無が長期予後に影響することが明らかになった.
症例報告
  • 新垣 正美, 小出 昌秋, 國井 佳文, 渡邊 一正, 津田 和政
    2012 年 41 巻 5 号 p. 228-230
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    患者は39歳女性.24歳時,第一子妊娠経過中に先天性二尖弁による大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症と診断され,Carpentier-Edwards pericardial bioprosthesis(CEP)23 mmにて大動脈弁置換術(AVR)を施行した.その後2度の挙児も問題なかった.2010年4月,突然の呼吸苦を自覚し近医を受診,急性大動脈弁閉鎖不全症と診断され当院救急搬入となった.搬入後,心室頻拍,心室細動が頻発,ショック状態で手術室へ搬入となった.手術室にて心停止となったため経皮的補助循環装置(PCPS)を挿入し緊急手術となった.胸骨正中切開にて体外循環(ECC)を確立,心停止を得たのち弁を確認してみると,左冠尖に位置する弁尖が両側のステントポストから断裂しており,完全に左室側に落ち込んでいた.石灰化は軽度で弁尖自体の穿孔を一カ所認めたが感染所見は認めなかった.機械弁にて再AVRを施行するもECCを離脱できず,中等度の僧帽弁逆流を認めていたことから僧帽弁輪縫縮術を追加施行した.約4時間の補助循環ののちECCを離脱した.術後経過は非常に良好であった.生体弁機能不全による急性大動脈弁閉鎖不全症を呈した稀な症例を経験したので報告した.
  • 古川 貢之, 早瀬 崇洋, 矢野 光洋
    2012 年 41 巻 5 号 p. 231-234
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性.平成16年8月軽度大動脈弁狭窄症合併の狭心症に対して右内胸動脈(RITA)-左前下行枝を含む3枝冠動脈バイパスを施行した.その後近医で経過観察されていたが,平成23年12月心不全を発症し,精査で大動脈弁狭窄症の進行が確認され,手術適応と判断した.冠動脈造影検査では全グラフトが開存しており,特に左前下行枝血流はRITAに依存していた.またマルチスライスCT検査ではRITAが第2肋骨レベルで胸骨後面に近接していた.RITA回避を徹底するため,右第2肋間開胸を加えた胸骨下半逆L字部分切開後,体外循環下に胸骨後面に沿い剥離を進め安全に再胸骨正中切開を行った.その後も内胸動脈の剥離は行わず,直腸温で22度まで冷却し上行大動脈を遮断,人工心肺回路内への塩化カリウム40 mEq注入による心停止後に大動脈弁置換術を施行した.本術式は冠動脈バイパス術後再心臓手術において,再胸骨正中切開時にRITA損傷のリスクが高いと判断される場合,有効な一術式と思われた.
  • 渡辺 裕之, 武内 重康, 沖本 光典, 藤田 久徳
    2012 年 41 巻 5 号 p. 235-237
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は76歳の男性.肺癌の放射線治療のため,他院入院中に腹痛,ショックを発症した.前医での造影CTにて腹部大動脈瘤の破裂および瘤前面で左右腎下極が癒合する馬蹄腎を認めた.当センター来院時には血圧が38 mmHgと高度ショックを呈していたため,緊急手術を施行した.腹部正中開腹にてI字型人工血管置換術を施行した.腎峡部へ流入する異所性腎動脈を1本結紮処理をしたが,腎峡部は切離せずに温存した.術後,腎機能の悪化は認められず,経過は良好であった.馬蹄腎を合する腹部大動脈瘤症例では,3-DCT等による馬蹄腎の形状,異所性腎動脈の分枝状態の評価が治療方針を決定するうえで重要である.しかしながら,高度ショックを伴う腹部大動脈瘤破裂症例においては,十分な術前検査を行いえずに緊急手術が必要となる場合がある.かかる症例においては,馬蹄腎と瘤の間の剥離は最小限にとどめ,馬蹄腎峡部は切離しないこと,異所性腎動脈の再建/結紮処理を適切に術中判断することが,救命率の向上,術後合併症の予防に重要であると思われた.
  • 向原 公介, 四元 剛一, 松葉 智之, 松本 和久, 上野 隆幸, 福元 祥浩, 豊平 均, 山下 正文
    2012 年 41 巻 5 号 p. 238-242
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    大動脈炎症候群の活動性の指標として血沈,C反応性蛋白(CRP)が用いられるが,陰性にもかかわらず急速な血管病変,大動脈弁閉鎖不全の進行を認めた1例を経験したので報告する.症例は55歳,女性.2008年2月に胸痛,失神を主訴に当院へ緊急搬送された.トロポニン陽性,心筋逸脱酵素の上昇を認め,心臓カテーテル検査で右冠動脈(RCA)入口部90%狭窄,左冠動脈主幹部(LMT)90%狭窄とRCAより左冠動脈へ側副血行路を認めた.両側冠動脈入口部病変に加えて右腕頭動脈狭窄を認め大動脈炎症候群が疑われたが血沈,CRPは陰性であった.弁膜症は認めなかった.急性心筋梗塞の診断で大動脈内バルーンパンピング挿入後冠動脈バイパス術(CABG)3枝を施行した.術後合併症なく3月に退院したが同年11月,労作時胸痛を主訴に再入院精査を行ったところ左内胸動脈が狭小化しRCA入口部99%,LMT totalと進行するとともに大動脈弁左冠尖の左室側への落ち込みによるIII度大動脈弁閉鎖不全を認めた.12月に大動脈弁置換術とCABG 1枝を施行した.病状の進行から術後ステロイド投与を開始し2009年1月に退院した.その後進行する右腕頭動脈狭窄,左総頸動脈狭窄に対してステント留置を行い,冠動脈病変,バイパスグラフト病変の進行に対しては経皮的冠動脈形成術を行い重篤な心血管イベントなく経過したが2010年9月に悪性副腎腫瘍の破裂による出血で失った.
  • 畑中 憲行, 上田 高士
    2012 年 41 巻 5 号 p. 243-246
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は76歳女性,胸痛と呼吸苦を主訴に入院となった.炎症反応高値,心嚢液貯留,左バルサルバ洞動脈瘤,左冠動脈主幹部(LMT)狭窄が認められ,手術目的に当科紹介となった.左バルサルバ洞の左冠状動脈口の近傍に瘤の形成を認めた.大動脈弁輪の拡大および大動脈弁逆流は認めなかった.バルサルバ洞動脈瘤の原因として感染性を否定できなかったため,感染への抵抗性を期待して自己心膜によるパッチ閉鎖術を行った.瘤の閉鎖に伴い近接した左冠状動脈口を閉鎖したため,左内胸動脈(LITA)と大伏在静脈(SVG)を用いて血行再建を行った.術後の造影CTで左バルサルバ洞動脈瘤は消失し,左冠状動脈へのバイパスは良好に開存していた.術後1年経過し感染徴候はなく,CTで左バルサルバ洞の拡大は認めなかった.
  • 澤田 康裕, 阪本 瞬介, 藤永 一也, 田中 仁, 水元 亨
    2012 年 41 巻 5 号 p. 247-249
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    今回composite graftを簡便に作製するため,カーボシールバルサルバ(Sorin Biomedica, Saluggia, Italy)を用いた新しい方法を考案したので報告する.Bentall+上行置換術手術の際,カーボシールバルサルバによりスカート部分を作製したcomposite graftを用いて手術を行った.このcomposite graft作製法は短時間で作製でき,出血予防のため連続縫合するためのスカート部分が作製できるためよい方法であると考えられた.
  • 内田 徹郎, 金 哲樹, 前川 慶之, 大塲 栄一, 林 潤, 吉村 幸浩, 貞弘 光章, 近藤 俊一
    2012 年 41 巻 5 号 p. 250-252
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は63歳の男性で,睡眠時無呼吸症候群に対する治療経過中に脳梗塞を発症した.右下肢に深部静脈血栓を指摘され,経食道心エコーでは卵円孔開存(PFO)を認め,バルサルバ手技と怒責による右-左短絡が確認された.遊離した下肢静脈血栓がPFOを介して脳梗塞を引き起こした奇異性脳塞栓症であると診断した.患者と家族に対する十分なインフォームドコンセントのうえ,脳梗塞の再発予防目的にポートアクセス法によるPFO閉鎖術を施行した.手術当日に歩行を開始し,術後の心エコーでは遺残短絡を認めなかった.本邦でカテーテルによるPFO閉鎖デバイスが認められていない現状では,ポートアクセス法によるPFO閉鎖術は有効な選択肢の一つであると考えられる.
  • 黄 義浩, 野村 耕司, 阿部 貴之, 保科 俊之, 中村 譲
    2012 年 41 巻 5 号 p. 253-256
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    特異な左冠動脈走行を有する左冠状動脈肺動脈起始症(ALCAPA)の1歳5カ月男児に対する外科治療を経験した.術前の血管造影および胸部CT検査にて右肺動脈分岐部に開口し,上行大動脈後方を蛇行する左冠動脈を認めた.蛇行する左冠動脈基部は上行大動脈と隣接しており外膜を共有していたが分離可能であったため,直接吻合による冠動脈移植術を選択し良好な結果を得た.本症例における左冠動脈形態はきわめて稀であり,文献的考察を加えここに報告する.
  • 松枝 崇, 大住 真敬, 元木 達夫, 来島 敦史, 大谷 享史, 福村 好晃
    2012 年 41 巻 5 号 p. 257-261
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    1970年台より冠動脈起始異常(Anomalous aortic origin of a coronary artery ; AAOCA)に伴う突然死は,特に若年者の競技者において報告されてきた.胸痛などの前駆症状がある場合もあるが突然死が初発症状となることもあり,また症例自体が稀であるため術前に診断され手術に至るケースは少ない.今回われわれは,58歳女性が心停止を契機に受診し,精査の結果右冠動脈が左Valsalva洞より起始し大動脈-肺動脈間を走行するAAOCAの診断を得た症例を経験した.術前の負荷試験などでは虚血や不整脈の誘発は認められなかったが,突然死の予防を目的として冠動脈バイパス術を施行した.術後の経過は良好で,現在胸部症状もなく外来通院中である.
  • 藤井 大志, 高野 環, 福家 愛, 駒津 和宜, 大津 義徳, 寺崎 貴光, 和田 有子, 福井 大祐, 天野 純
    2012 年 41 巻 5 号 p. 262-265
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    人工弁心内膜炎に対する大動脈弁再置換術後に弁周囲逆流を認め,修復術を施行して良好な結果を得た1例を報告する.症例は77歳男性.大動脈弁狭窄症に対し大動脈弁置換術(Carpentier Edwards Pericardial Magna 19 mm)を施行した.6カ月後に微熱と心不全徴候が出現し,心臓超音波検査で左冠尖-無冠尖間の弁周囲逆流を認め,血液培養からMethicillin-resistant Staphylococcus aureusを検出し,人工弁感染性心内膜炎と診断し大動脈弁置換術(Mosaic 21 mm)を施行した.その6カ月後に経食道心臓超音波検査で前回と対側の右冠尖-無冠尖間で弁周囲逆流と人工弁弁座動揺を認め,経右心房・経心室中隔から人工弁弁輪を固定し修復術を施行した.術後,心臓超音波検査で弁周囲逆流は認められなかった.本症例では,再置換術後の感染のない脆弱化した弁輪組織に対して,安定した組織のある大動脈外側からの修復術が有用であると考えられた.
  • 明石 英之, 石坂 透, 田中 英穂, 増田 政久, 松宮 護郎
    2012 年 41 巻 5 号 p. 266-269
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    今回われわれは腹部大動脈瘤(AAA)に異所性腎(または骨盤腎)を合併した1例を経験した.症例は68歳女性.健診にてAAAを指摘された.術前3D-CTでは,右腎を仙骨前面の骨盤内に認め,右腎動脈は2本同定された.手術では,血行再建の間,右腎を冷却した酢酸リンゲル液で灌流し,術後腎機能低下なく経過した.異所性腎は腎動脈分岐異常を伴うことが多く,自験例においても術前3D-CTによる血行評価を基に手術計画することで,腎阻血時間を最小限にとどめることができた.
  • 衛藤 弘城, 吉鷹 秀範, 都津川 敏範, 杭ノ瀬 昌彦, 津島 義正, 石田 敦久, 近沢 元太, 平岡 有努
    2012 年 41 巻 5 号 p. 270-275
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は76歳男性.18年前に腹部大動脈瘤に対して腹部大動脈人工血管置換術を施行されていた.2008年腹部大動脈中枢側吻合部仮性瘤を原因とする二次性大動脈腸管瘻(secondary aortoenteric fistula : SAEF)のため当院搬送となり,出血性ショック状態のため緊急でステントグラフト内挿術(endovascular aneurysmal repair ; EVAR)を行った.術翌日に瘻孔部を縫合閉鎖し,空腸瘻も造設した.術後感染徴候なく第34病日に独歩退院となった.その後感染徴候なく経過していたが,術後16カ月目に突然の吐血を認めた.SAEF再発にて膵頭十二指腸切除術を行ったが,術前からの敗血症が原因で第11病日に死亡した.SAEF急性期における出血コントロールにEVARは有用であるが,遠隔期死亡を回避するために,全身状態の安定が得られしだい,開腹手術による根治を目指す必要があると考えられた.
  • 望月 慎吾, 津丸 真一, 山田 和紀, 望月 高明, 伴 敏彦
    2012 年 41 巻 5 号 p. 276-279
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    穿通性の心損傷を来たした場合,心嚢水の貯留を認めたり,血行動態の不安定となる症例が多い.心臓に釘が4本穿通していたにもかかわらず,心嚢水の貯留が極少量で,血行動態の安定していた症例を経験したので報告する.症例は22歳,男性.釘うち機で受傷し,近医を受診した.胸部レントゲン写真およびCT検査で,5本の釘の穿通による心臓および肺の損傷を疑い,手術目的で当科紹介となった.CT検査では気胸を認めたが,心タンポナーデは認めなかった.左開胸,分離片肺換気とし,心膜を切開すると釘が3本左心室の側壁に刺入していた.1本は心筋内を通過することなく直接肺に穿通していた.残り1本は,経食道心エコー上で心内に埋もれているのを確認した.いずれの釘も人工心肺を使用することなく,抜去することができた.術後経過は良好で,術後12病日に独歩退院となった.
  • 津田 和政, 小出 昌秋, 國井 佳文, 渡邊 一正, 宮入 聡嗣
    2012 年 41 巻 5 号 p. 280-283
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/10/26
    ジャーナル フリー
    乳頭筋断裂は急性心筋梗塞後の重篤な合併症として知られる.今回われわれは,冠動脈に有意狭窄を認めない乳頭筋断裂を経験した.稀な症例であるため報告する.症例は77歳男性.急性心不全,心原性ショックにて搬送され,緊急心臓カテーテル検査を行うも,冠動脈に有意狭窄を認めなかった.右心カテデータと心エコーより急性僧帽弁閉鎖不全症と診断し,大動脈内バルーンパンピング,経皮的心肺補助導入後に緊急手術を施行した.後乳頭筋前尖側が断裂しており,A3の逸脱であった.断裂した乳頭筋は暗紫色に変色しており,虚血の関与が疑われた.残存する乳頭筋も脆弱であることが危惧されたため,弁形成は行わず生体弁にて人工弁置換を行い,術後経過は良好であった.術後の病理検査において,乳頭筋内の微小血管の壁肥厚を認め,新鮮な虚血心筋と陳旧性虚血心筋が混在していた.慢性的な乳頭筋虚血による組織の脆弱性を示唆する稀な所見であった.
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