小児歯科学雑誌
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27 巻, 4 号
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  • 稗田 豊治
    1989 年 27 巻 4 号 p. 821-830
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    近年,社会的背景を基本的因子とした医療,また,個人の一生を通じての医療ということが次第に重視されるようになってきている。
    小児歯科の分野では,そのような観点から,小児期を通じての包括的歯科医療の実践に努めてきた。
    報告テーマである"小児の歯の外傷"においても,小児歯科の分野では他の分野で行われてきた"外傷による損傷の処置"だけでなく,つとに子どもの全身的ならびに顎,歯列の発育への影響という観点からこれをとらえてきたことは先見性のみられるところである。
    さらに,偶発的な外傷の原因についても,単なる疫学的分析にとどまらず,小児の生活行動という立場からこれをとらえる要がある。
    このような見地から,私はこれまで大阪歯科大学小児歯科学講座で行ってきた歯の外傷に関する一連の研究について報告する。
  • - 光重合系シーラントの粘度とアプリケーターの形態が〓塞時間と〓塞面積に及ぼす影響について-
    矢尾 和彦, 神原 修, 下田 豊, 小西 文子, 稗田 豊治
    1989 年 27 巻 4 号 p. 831-840
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    シーラントの部分または全部脱落の原因として,小窩裂溝部の清掃,酸処理操作,酸処理歯面の乾燥など準備段階での不備のほかに,対合歯との早期接蝕によるシーラントの破損などが挙げられる。とくに填塞直後のまだ重合率が低い時期における咬合接触はシーラントの物理的性状やエナメル質との接着強度を低下させる危険性があると考えられる。
    このためシーラントの填塞範囲を小窩裂溝部の必要最小範囲に限局し,対合歯との早期接触を避けることにより,シーラントの保持率は高くなるものと考えられる。
    そこでシーラントを小窩裂溝の最小範囲に填塞する方法に適したシーラントの性状ならびにアプリケーターの形態を知る目的で,粘度の異なる3種類の光重合型シーラントを4種類のアプリケーターを用いて模型歯に填塞して填塞所要時間と填塞面積から,シーラントの操作性について検討した。
    その結果,シーラントを小窩裂溝に最小範囲で填塞する場合は,できるだけ流れのよいシーラントを選び,アプリケーターは最小填塞量が少なく,且つノズルの先端が細くて視野の確保が十分にできるものを用いるべきであり,また,臨床に先立ち材料や器具の特性を把握し術式を習熟する必要のあることが判った。
  • 渋井 尚武, 隅田 百登子, 鈴木 克政, 石川 力哉, 近藤 一男, 菊池 進
    1989 年 27 巻 4 号 p. 841-853
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    乳歯根には増齢に伴う生理的な歯根吸収が認められるため,根管治療後根管充填するにあたっては永久歯と異なり使用する根管充填剤には様々な制約がある。乳歯用根管充填剤の所要性質のうち最も大切な要件は乳歯根の吸収につれて根管充填剤も同様に吸収消失され,後継永久歯の萌出を妨げないことである。しかし現在市販されている根管充填剤は,根管内で硬化せずに乳歯根よりも早期に消失してしまったり,なかなか吸収せずに交換の遅延をもたらしているもの,さらに根尖周囲組織に対してたえず強度な刺激を与え続けるものなど乳歯根に最適な根管充填剤はみあたらない。
    最近,三金工業社よりα-TCP,ハイドロキシアパタイトを応用した生体親和性に優れた根管充填剤が市販され,そのなかでもタイプIIIはヨードホルムが5%と刺激が少なく,操作性もレンツロで根管内に充填できるなど比較的良い製品である。そこで,乳歯の根管充填剤として使用可能か否かを検討するため,幼犬の下顎乳臼歯を用い,抜髄後ただちに根管充填を行なった。その後1週間ごとにX線を撮影して乳歯根の吸収状態,後継永久歯への為害性の有無,萌出過程への影響などについて3症例の経日的変化を観察した結果次のような結論を得た。
  • 伊藤 由恭, 加我 正行, 小口 春久
    1989 年 27 巻 4 号 p. 854-863
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    光重合型コンポジットレジンの毒性を調べるため,光照射時間と細胞毒性の関係について検索した。FDIの歯科材料毒性試験法の寒天重層法を一部改変した方法を考案して,ヒト歯肉由来線維芽細胞を用い,組織培養にて実験をした。実験材料はP-30,Silux,Herculite XR,Occlusin,Graft LC,Litefil A,Palfique light,Photo Clearfil Aを用いた。これらの光重合型コンポジットレジンについて光を照射しない試料と光を10秒ずつ10秒から60秒まで照射した試料をそれぞれ作製し,光を照射した直後にそれらの細胞毒性を調べた。
    その結果,いずれの光重合型コンポジットレジンも光未照射の場合は大きな細胞毒性を示したが,光の照射時間が長くなると共に細胞毒性が減少する傾向が認められた。Palfiquelight,Herculite XR は60秒の光照射後も細胞毒性は消失しなかった。Silux は光照射が60秒で,P-30 は50秒で細胞毒性が消失した。Graft LC,Occlusin,Photo Clearfil Aは10秒の光照射で著しく細胞毒性が減少し,20秒の光照射で細胞毒性が消失した。また,光を照射した後,12時間と24時間経過した試料を用いて,その細胞毒性を調べた結果,光照射後の経過時間が長くなればなるほど細胞毒性は減少した。
    光照射時間と細胞毒性の関係は,硬化したコンポジットレジンから溶出する物質に大きく起因することが示唆された。
  • 井出 正道, 松本 恵美, 大森 郁朗
    1989 年 27 巻 4 号 p. 864-875
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    本研究は,周生期障害に起因する脳性麻痺児から得られたエナメル質減形成を有する乳歯について,エナメル質減形成の部位と新産線の歯表面に至る部位との関連ならびに組織構造を明らかにすることを目的としたものである。観察した資料は2名の脳性麻痺児からそれぞれ1歯ずつ得られたB(以下Bと略す)およびC(以下Cと略す)である。これらの歯について,形態観察,実体顕微鏡観察,SEM観察,光顕的観察,マイクロラジオグラム観察を行い,以下の結果を得た。
    1.2歯とも歯冠の大きさは平均値と比較して小さかったが,歯冠形態には異常は認められなかった。
    2.実体顕微鏡観察によると,周生期障害に起因するエナメル質減形成は,Bでは唇側面に広範囲に認められ,舌側面は軽度であった。Cでは唇側面切縁部に限局して認められた。
    3 . SEM 観察によると, エナメル質減形成部の表面性状はB ・C ともに粗造であった。
    4.光顕的観察によると,2歯とも新産線の位置はエナメル質減形成部の内側に一致しており,減形成を生じたエナメル質は出生直後に形成されたエナメル質であった。
    5.マイクロラジオグラム観察によると,新産線はX線透過像として認められ,その周囲のエナメル質には石灰化不良の像は認められなかった。
    6.組織学的観察により,周生期障害と歯の発育障害の関連が明らかにされ,これらの脳性麻痺児の障害の発症時期は周生期であることが立証された。
  • 石川 雅章, 川澄 雅代, 野間 俊行
    1989 年 27 巻 4 号 p. 876-883
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    無汗型および減汗型外胚葉異形成症に伴う部分無歯症患児18名の上顎永久中切歯と上顎第一大臼歯の歯冠形態変異について観察し,若干の考察を試みた。
    1)上顎永久中切歯28歯の歯冠形態は,近遠心の切縁結節の有無や大小などにより,円錐歯様のものから通常の形態に近い平板状のものまで5型に分類され,中切歯を除く同側の欠如していない永久歯数との間に明らかな関連が認められた。
    2)ヒトの上顎大臼歯列の退化傾向を示す有力な形質とされる近遠心の圧平感は,上顎第一大臼歯には観察されなかった。
    3)上顎第一大臼歯33歯のうち,hypocone の縮小が10歯,metacone の縮小が4歯互いに独立して認められた。
    4)protocone 近心に原始性の強い小咬頭であるprotoconule が33歯すべてに観察され,その発達程度は,頬舌径に対するparacone と protocone の咬頭頂間距離とともに,同側の永久歯数との間に相関が認められた。
    5)以上の上顎永久中切歯および上顎第一大臼歯歯冠の形態変異は,ヒトの歯における系統発生上の形態形成の過程をある程度反映し,欠如していない同側の永久歯数が少ないほど,形態形成の早期段階を示唆すると推察された。
  • 寳田 貫, アルバラード グアダルーペ・ラリナガ, 西田 文彦, 西野 瑞穂
    1989 年 27 巻 4 号 p. 884-894
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    咀嚼筋の成長発達に伴う機能的変化を知る目的で,小児および成人について,規定動作時の筋電図パワースペクトルの周波数分析を行った。被験者は Hellman の歯牙年齢IIA期の男児5名,女児1名の計6名,年齢4.5±0.2歳および成人男子4名,女子2名の計6名,年齢27.7±3.8歳で,被検筋は左右の側頭筋前腹および咬筋,規定動作は軟化チューインガム咀嚼および最大咬合力によるクレンチングとした。表面電極により導出した筋電図波形から,高速フーリエ変換処理によりエネルギーパワースペクトルを得, パワースペクトルにおける6 2 . 5 ~ 1 0 0 0 H z の総パワー値を100%とし,低周波成分から順次累積して, 25, 50, 75, 90の各%値を得る累積周波数値を求め,筋出力パターンの分析を行った。得られた結果は次のとおりであった。1.チューインガム咀嚼時およびクレンチング時の,側頭筋前腹ならびに咬筋のエネルギーパワースペクトルは,いずれも小児に比較して成人で低周波域にシフトしていた。2.IIA期ならびに成人期のいずれにおいても,規定動作の違いにかかわらず,各筋のエネルギーパワースペクトルに左右差および筋差は認められなかった。
  • アルバラード グアダルーペ・ラリナガ, 寳田 貫, 西田 文彦, 西野 瑞穂
    1989 年 27 巻 4 号 p. 895-906
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    咀嚼筋の成長発達に伴う機能的変化を知る目的で, H e l l m a n の歯牙年齢I I A 期の小児6名および成人6名について,規定動作時における側頭筋前腹および咬筋の筋活動量ならびに咀嚼リズムの分析を行った。筋活動量は,軟化チューインガム咀嚼およびクレンチング時の筋電図波形のFFT処理によるエネルギーパワースペクトルから算出した。咀嚼リズムについては,軟化ガム咀嚼時の筋活動時間(duration),間隔時間(interval),および周期(cycle)を計測するとともに,それらの変動係数を算出した。得られた結果は次のとおりであった。
    1.ガム咀嚼時およびクレンチング時の筋活動量は,小児では全て側頭筋主働型であったが,成人では側頭筋主働型,側頭筋咬筋並働型および咬筋主働型の3つの型が認められた。
    2.ガム咀嚼時には,小児においても成人においても,作業側の方が平衡側に比較して筋活動量が大きく,右嚼みの方が左嚼みよりその比率がやや大であった。
    3 . クレンチング時には, 小児においても成人においても, 右側の筋が左側の筋に比較してやや大きな筋活動量を示した。
    4.ガム咀嚼時のduration,intervalおよびcycleは,小児と成人との間に統計的有意差はなかった。
    5.Duration,interval および cycle の変動係数は,いずれも小児に比較して成人の方が小さく,咀嚼リズムが安定していた。
  • 新井 桂, 青木 喜恵, 三浦 真理, 小口 春久
    1989 年 27 巻 4 号 p. 907-914
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    好気的条件下で生活する生物は酸素呼吸をして主なエネルギーを得ているが,これに伴ない生じる活性酸素の一種であるスーパーオキシドアニオン(02-)は,活性酸素生成の最上流に位置しており, D N A 損傷や膜変性, 過酸化脂質蓄積などに重要な関与をすると言われている。我々は,好気的条件下での適応に伴なう活性酸素代謝の変化を解明する目的で,各種培養条件における菌の増殖とSOD活性の誘導を調べ,さらに,その時の金属要求性に関しても検討した。その結果,本菌を好気的条件下で培養すると,SOD活性の誘導とともに菌の増殖が認められた。しかしながら金属キレート培地中ではSOD活性の誘導は認められなかった。さらに,金属キレート培地中での菌の増殖およびSOD活性の誘導に対して,鉄,マンガンの要求性を強く示し,その程度はそれぞれの濃度によって異なっていたが,鉄とマンガンを同時に供給したものが最も強くSOD活性と増殖を誘導した。
    以上の結果より,本菌は好気的条件下では,SOD活性の誘導と増殖の問に密接な関係があることが推察された。また,この時に金属の存在は必須のものである事が明らかになった。
  • - 初期の経過所見-
    信家 弘士, 三宅 雄次郎, 城所 繁, 長坂 信夫
    1989 年 27 巻 4 号 p. 915-921
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    我々は歯科臨床で広く応用され,防腐・鎮痛作用を有したユージノールに注目し,基剤としてポリエチレングリコールを添加した水酸化カルシウム・ユージノール合剤を試作して,幼犬の乳歯生活歯髄切断処置に用い初期の治癒経過を病理組織学的に検討した。
    材料および方法:幼犬4頭を用い,通法に従って乳歯生活歯髄切断処置を行い,糊剤には試作合剤(水酸化カルシウム:1.0g,ユージノール:0.8ml,ポリエチレングリコール4000:1.2ml)を用いた。被験歯は脱灰後セロイジン包埋し,ヘマトキシリン・エオジン染色を施した病理組織標本を作製した。各期間の症例は,術後3日が8例,術後7日が21例,合計29例である。
    結果:1.術後3日の病理像では,切断部の合剤に接した歯髄は,広範囲に変性・壊死が生じ,無構造な状態となっていた。またこの壊死層直下では,ほぼ均一でヘマトキシリンにやや濃染された層が全面に認められ,固有歯髄と分界していた。固有歯髄では,特に著しい変化は認められなかった。
    2.術後7日の病理像では,壊死層は萎縮しまたヘマトキシリン濃染層ではさらに染色性が増し,細胞の変性が著しく,固有歯髄とはより明確に分界していた。固有歯髄では,ユージノールの影響と思われる円形細胞浸潤や空胞・萎縮・変性を伴った軽度の慢性炎症像を呈していた。庇蓋硬組織はまだ形成されていなかった。
  • - 切削深さとエッチング時間の影響( I ) -
    細矢 由美子, 中村 則子, 品川 浩実, 後藤 讓治
    1989 年 27 巻 4 号 p. 922-935
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    切削エナメル質に対するレジンの接着性について,切削深さとエッチング時間の影響を観察した。
    資料としては,冷凍保存した牛下顎幼若永久切歯75歯を用いた。エッチングは,40%正燐酸ゼリーを使用し,エッチング時間は,0,10,20,30及び60秒とし,30秒間スプレー水洗を行った。レジンは,クラレ社製Photo BondとPhoto Clearfil Aを使用した。同一歯牙のエナメル質表層と深層の両者について剪断接着試験を行い接着強さを測定するとともに, 剪断接着試験後のエナメル質面とレジン面をS E M で観察し, 下記の結論を得た。
    1)接着強さが最も高かったのは,エナメル質表層では,エッチング時間が20秒(35.25±6.60MPa),深層では30秒(40.15±6.59MPa)の場合であった。
    2)エナメル質表層並びに深層ともに,エッチングなし群とすべてのエッチング時間に対するエッチング群間で接着強さに有意差がみられ,エッチング群が高かった。
    3)エッチング群について,エナメル質を表層並びに深層別にみると,エッチング時間別には接着強さに有意差はみられなかった。
    4)エッチング群については,エナメル質の小柱構造並びにレジンタグが明瞭でない症例とエナメル質面にレジンが広範囲に亘って残存接着していた症例で,高い接着強さを示す傾向がみられた。
  • 福田 理, 大石 紀子, 鈴木 善子, 丸山 宏己, 柳瀬 博, 黒須 一夫
    1989 年 27 巻 4 号 p. 936-944
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    初診時に歯科診療に対する適応性が低く,取り扱いが困難な心身障害児に対し,初診時から行動療法トレーニングを実施し,歯科治療後においても継続的にトレーニングを行い,その臨床効果について検討した。調査対象は愛知学院大学歯学部附属病院小児歯科外来を訪れた心身障害児150名である。
    1)初診時に取り扱いが困難であった心身障害児に治療開始以前にトレーニングを行うことにより48.7%の患児が外来での一般的な治療が可能であった。
    2)初診時の適応性が「やや不適応」であった患児の79.0%が笑気吸入鎮静法を含めれば外来での有意識下歯科治療が可能であった。同様に「不適応」患児では46.0%が外来での有意識下歯科治療が可能であった。
    3)継続的なトレーニングを行うことにより歯科診療時の適応性が「適応」に変化した患児は60.7%であった。
    4)継続的なトレーニングは笑気吸入鎮静法下の歯科治療を受けた患児の95.3%に臨床的な有効性が認められた。また全身麻酔下の歯科治療を受けた患児の76.8%,一般的な歯科治療を受けた患児の71.2%に臨床的な有効性が認められた。
    5)歯科診療への適応までの平均来院回数は,一般的な歯科治療が5.9回,笑気吸入鎮静法下の歯科治療が4.1回となっていた。また,全身麻酔下の歯科治療では初診から14.9回,歯科治療後では10.6回となっていた。
  • 菊地 賢司, 三木 真弓, 宮本 幸子, 有田 憲司, 西野 瑞穂
    1989 年 27 巻 4 号 p. 945-951
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    咀嚼の低下によっておこる顎下腺の発達の低下が,他の臓器の増殖に及ぼす影響について検討した。離乳直後の雄マウスを固形食で飼育した群,固形食と同一成分の練食で飼育した群,および顎下腺の影響をより明確にするために固形食で飼育し顎下腺を摘出した群の3群を用いて,耳下腺の特異的増殖促進剤であるイソプロテレノール(IPR)による増殖刺激時の耳下腺のポリアミン合成とDNA合成について比較を行った。また,その他の臓器のDNA合成についても検討した。
    その結果,IPRによるマウス耳下腺のオルニチン脱炭酸酵素(ODC)活性,S-アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)活性の上昇およびDNA合成の促進は,固形食群に比べ,練食群でやや低下し,顎下腺摘出群ではさらに有意に低下することが認められた。また,顎下腺摘出群で,肝臓, 胃,肺,精巣では,DNA合成に差はみられなかったが,心臓のDNA合成の低下が認められた。
    これらの結果から,顎下腺がその他の臓器の増殖に関与することが示唆された。
  • 多変量解析によるトレーニング回数に影響を与える各種要因の検索-
    小林 早智子, 高木 みどり, 下岡 正八
    1989 年 27 巻 4 号 p. 952-972
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    トレーニング回数に影響する要因を検索し,トレーニング回数を推定する目的から多変量解析を用いて分析し,以下のような結論が得られた。
    1.トレーニング回数決定要因としての影響が大きいものは,小児側に関する要因では,Franklの分類,初診時年齢,歯科治療の経験の有無であった。
    2 . 母親を含めた養育環境に関する要因では, 兄弟数, 母親の学歴, 母親の仕事の有無が影響が大であった。
    3.小児の性格診断検査に関する要因では,情緒の安定性,個人的安定性,自制力の有無が影響が大であった。
    4.トレーニング回数を推定するための要因として,信頼性の高いものは,小児側に関する要因では,Franklの分類,初診時年齢,性別であった。
    5.母親を含めた養育環境に関する要因では,母親の学歴,兄弟数,出生順序が信頼性が高かった。
    6.小児の性格診断検査に関する要因では,情緒の安定性,個人的安定性,退行的か生産的が信頼性が高かった。
    7.27の全要因を総括的にみたものについての重相関係数は,0.823と高く,トレーニング回数を推定するのに信頼性が高い要因であることがわかった。
  • 豊島 正三郎, 森主 宜延, 清水 久喜, 奥 猛志, 西川 千佳子, 山内 扶美, 塩野 幸一, 小椋 正
    1989 年 27 巻 4 号 p. 973-984
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児歯科外来における咬合誘導患者を対象に,その実態と動向から,小児歯科における不正咬合患者の特徴と継続状況を決定する要因について検討し次の結論を得た。
    1.咬合誘導対象患者は,女子が男子と比較し多数を占め,不正咬合別では,反対咬合者が54.3% と最多頻度を示した。
    2.初診時年齢は,特に反対咬合者において3歳未満からみられ,この時期は女子が男子と比較し,特に多数を認めた。
    3.初回検査時年齢は,適切な診断が可能な時期と関連し,反対咬合者では3歳時から常に一定し行なわれ,叢生者は6歳より11歳までであった。
    4.初診時と初回検査時年齢との差は,反対咬合者において3歳未満で初回検査が見られないこと,叢生者で初診が3,4,5歳の者が6歳以後に検査が行なわれたことが示された。また,動機別では,紹介され来院した叢生者が,他2群と比較し初回検査時期で約2年遅れることが示された。
    5.継続状況を左右する要因は,装置使用の有無,不正咬合治療に入る以前の歯科医療対応のありかた,治療内容の具体的指示であることが示された。
  • 森主 宣延, 福島 真弓, 堂地 正子, 北見 ひろ子
    1989 年 27 巻 4 号 p. 985-992
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    この研究の目的は,先に報告した自閉症児の歯科治療に対する歯科受診協力性を判定する判定質問表の有効性を確認することである。
    対象者は,初診,再診者の自閉症児55名である。この研究から次の結果が得られた。
    1.歯科受診協力性判定質問表の有効性は,協力判定表による判定スコア値とー歯科受診外部行動との高い一致率(87.0%)から示唆された。
    2.判定スコアー値4の患者は,非協力と評価することが妥当であることが示された。
    3.協力性判定質問表の使用年齢は,4歳から12歳まで可能であることが示唆された。
    4.協力性判定質問表の有効性は,協力性判定スコアー値と歯科受診に関係する状況下の外部行動との関係からも裏づけられた。
  • 第2 報 母親の歯科環境に対するイメージならびに自我意識との関連性
    鈴木 善子, 大石 紀子, 柳瀬 博, 山田 ゆかり, 福田 理, 黒須 一夫
    1989 年 27 巻 4 号 p. 993-1001
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    子供の歯科治療時に,各人の自由意志で入室行動を選択している心身障害児患者の母親42名を対象に,母親の歯科環境に対するイメージおよびその自我意識について調査し,治療室への入室行動に影響を及ぼす母親側の要因を検索し,以下の結果を得た。
    1)SD法(意味差判別法)による母親の歯科環境に対するイメージは,入室する群,入室しない群共に歯科医,我が子,歯科治療室に対して「どちらでもない」から「やや良好」であった。
    2)虫歯の治療に対するイメージは,「どちらでもない」から「やや不良」であった。
    3)我が子,歯科治療室に対しては,入室しない群が入室する群に比べ相対的にやや良好なイメージを持っている傾向がみられた。
    4)TEG(東大式エゴグラム)の結果では,治療室に入室する群,入室しない群共にCP(父親的自我),NP(母親的自我),AC(順応した子どもの自我)が他の自我状態に比べ高いパーセンタイル値を示していた。
    5)数量化II類による分析では,母親の入室行動の関連要因としてACが抽出できた。
    6)入室する理由は「子供の治療時の状態や治療内容,口腔内が良くわかる」「付き添っていると子供が安心する」「子供の状態が気になり,心配」などがあげられた。
    7)入室しない理由は「子供に依頼心,甘えをなくさせ一人で物事ができるようにさせたい」「子供一人で治療が受けられる」「子供の人格を尊重したい」などがあげられた。
  • 第1報 咬合力, 咀嚼能力について
    前田 隆秀, 今井 麗, 齋藤 健志, 樋口 直人, 赤坂 守人
    1989 年 27 巻 4 号 p. 1002-1009
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    近年,食物のソフト化,ファーストフード化が進んでおり,現代食は咀嚼力,咀嚼回数をあまり必要としなくなり,咀嚼筋活動量は減少し,その結果,咀嚼器官の発育を阻害し顎骨の狭小化によるディスクレパンシー型の咬合異常が学童期を中心に増加しているといわれている。また,幼児のなかには「噛めない」「噛まない」などの摂食機能の拙劣化を疑わせる訴えが母親や保母の間から生じている。このように小児の摂食についての関心が深まったこの時期に,現代の小児の咀嚼様相を知ることは「噛めない」のか「噛まない」のかの実態を解明する一助になると考えた。幼児の咀嚼の様相を知る一歩として,咬合力,咀嚼能力を測定した。今回,幼児に応用でき,野外調査に適した簡便な測定方法を考案し,無齲蝕であって正常咬合を有する保育園児69名を対象に測定した。
    1.幼児69名の咬合力の平均は21.7kgであり,増齢とともに大きな値を示した。
    2.咀嚼能力の測定にあたってはATP顆粒剤の粉砕状態を吸光度(abs)にて表わすと,幼児69名の咀嚼能力0.201absであり,増齢とともに大きな値を示した。
    3.幼児69名の咬合力と咀嚼能力との相関係数は0.410と有意な相関を示し,また,増齢とともに相関係数は小さくなり,増齢とともに摂食時の口腔神経系の協調が発達するものと思われた。
  • 南 貴洋, 三木 忠浩, 藤原 卓, 川端 重忠, 泉谷 明, 大嶋 隆, 祖父江 鎮雄, 浜田 茂幸
    1989 年 27 巻 4 号 p. 1010-1017
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    イソマルトースを主成分とするイソマルトオリゴ糖(IMOS)の齲蝕誘発能の有無をin vitroの実験系,およびSPFラットを用いた実験齲蝕系で調べた。その結果,IMOSはStreptococcus mutans MT8148 株および Streptococcus sobrinus6715株のいずれによっても利用され, 強い酸を産生した。I M O S は上記両菌株より得られた酵素グルコシルトランスフェラーゼ(GTase)によるスクロースからのグルカン産生を抑制した。さらにI M O S は両菌株のスクロース依存性の平滑面付着を阻害した。しかし, S . m u t a n sMT8148R株およびS.sobrinus6715株を感染させたSprague-Dawleyラットの実験系においては,IMOS単独ではほとんど齲蝕誘発能を示さなかったが,スクロースにより誘発される齲蝕の抑制作用は認められなかった。
  • 泉谷 明, 藤原 卓, 南 貴洋, 鈴木 精二, 大嶋 隆, 祖父江 鎮雄
    1989 年 27 巻 4 号 p. 1018-1024
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    糖アルコール,マルチトールの抗齲蝕性を,in vitroおよびラットを用いた実験齲蝕系で調べた。マルチトールは口腔レンサ球菌の酸産生の基質とならず,ミュータンスレンサ球菌によるスクロースからのグルカン合成を阻害した。また,スクロース依存性付着もマルチトール濃度に依存して抑制した。マルチトールの投与は,ミュータンスレンサ球菌を感染させたラットに明確な齲蝕を誘発しなかった。さらにS.sobrinus6715株を感染させたラットにおいて,スクロースが誘発する齲蝕を抑制する傾向を示した。
    以上の結果は,実験に供したマルチトールが非齲蝕原性であることだけでなく,抗齲蝕作用を示す可能性のあることを示している。
  • 荻原 和彦, 上原 正美, 伊藤 憲春, 溝呂木 英二, 鈴木 克政, 金子 敬
    1989 年 27 巻 4 号 p. 1025-1034
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    歯ぎしり, ならびに上顎前突感を主訴として来院した患児( 1 1 歳8 カ月, 男児, 観察期間3 年2 カ月) に対し, 下顎歯列弓のディスクレパンシーを伴なうアングルI I 級I 類の関係を有する不正咬合と診断し,バイオネーターを使用し,咬合の挙上と下顎位の前方誘導を行い,その後,上下の歯列弓の側方拡大によってスペース不足の解消を図り,ほぼ望ましい永久歯咬合を育成することができた。この症例について,処置前後の顎関節規格写真,石膏模型,頭部X線規格写真などを資料として,処置前後の推移について比較検討した。
    石膏模型の分析では,歯列弓幅径,長径の改善がなされ,第一大臼歯はアングルのI級関係に推移し,前歯の被蓋も改善された。頭部X線規格写真の分析では,歯系,骨格系において好ましい変化を示した。顎関節規格写真の分析において処置後はその値も大きくなり,平均関節腔隙は処置前の左側が小さな値を示し,関節腔隙が狭小化していたが,処置後は,さらに左右がほぼ均等性を示すようになった。また,下顎頭偏位インデックスの左右側も均等性を示すようになり,顎関節に対する下顎頭位は中心性を示すようになった。
    歯ぎしりについては,処置開始後,現在に至るまで中止している。
  • 田辺 義浩, 田口 洋, 野田 忠, 小黒 章, 堀井 欣一
    1989 年 27 巻 4 号 p. 1035-1046
    発行日: 1989/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    精神薄弱者総合援護施設「コロニーにいがた白岩の里」内の児童棟に入所した重度精神薄弱者144名(男子79名,女子65名)について,1973年から1987年までの15年間の歯科検診資料と,当科が治療を行った1980年から1987年までの8年間の治療カルテを分析し,次のような結論を得た。
    1.対象の入所時DMFT指数は年齢と共に増加する傾向にあることが分かった。また,入所時の年齢別DMFT指数を昭和56年厚生省歯科疾患実態調査と比較したが,有意な差を認めなかった。
    2 . ほとんどの年齢において入所時FT 指数は同調査と比較して小さく, MT 指数は大きくなった。それぞれのDMFT指数に占める割合についても危険率1%以下で有意な差を認めた。
    3.1980年から1987年までの8年間の処置歯総数は740本で,その内訳ではアマルガム充填388本(52.4%),レジン充填174本(23.5%),金属冠22本(3.O%),歯内療法55本(7.4%),抜歯101本(13.7%)であった。
    4 . 当科が治療を行った1 9 8 0 年以降の入所者についてみると, 入所後2 年目以降の未処置歯は一人平均0.5本以下で,喪失歯の増加もほとんど認めなかった。
    5.予後成績は8年間の追跡調査期間で,予後不良のため充填から抜歯となった歯は237歯中1本(0.4%),歯内療法から抜歯となった歯は21歯中2本(9.5%)であった
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