齲蝕の主要な病原性細菌である
Streptococcus mutans は,菌血症および感染性心内膜炎の起炎菌として知られている。これまでに,微小な脳出血を引き起こしたマウスに対して,菌血症患者血液から分離した
S. mutans 株を頸静脈より感染させると,脳出血の増悪を引き起こすことが示された。その研究の中で,マウス腹腔内を観察すると腸炎を示す所見が認められた。そこで,本研究では
S. mutans の炎症性腸疾患に及ぼす影響を検討することにした。その結果,マウス腸炎モデルにおいて,ある種の
S. mutans 株を血中に投与すると,腸炎の悪化が生じることが示された。そのメカニズムとしては,
S. mutans のうち表層多糖抗原の変異を有する株では,白血球による貪食作用の低下につながり,長時間血液中で排除されにくい性状を獲得していることが重要な要因であることが示された。さらに,菌体表層に存在するコラーゲン結合タンパクにより肝臓組織に局在し,肝臓実質細胞に直接的に取り込まれることがもう1 つの重要な要因であることが示された。このことで,IFN-
γ をはじめとしたサイトカインの産生が促進され,免疫機構の不均衡を惹起することで腸炎の悪化を誘発しているという可能性が考えられた。また,IFN-
γ 中和抗体によりマウスの腸炎悪化が緩和されることが示された。さらに,対象を
S. mutans だけでなく他の口腔レンサ球菌にまで広げて検討を加えると,
Streptococcus sanguinis のような他の口腔細菌も炎症性腸疾患の増悪を惹起する可能性が示唆された。
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