小児歯科学雑誌
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33 巻, 5 号
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  • 柳瀬 博, 福田 理, 荻田 修二, 河田 典雄, 近藤 義郎, 黒須 一夫
    1995 年 33 巻 5 号 p. 867-875
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    不安感や恐怖心の強い小児に対するdiazepam0.3mg/kgの経口投与鎮静法の効果について検討した. すなわち予備研究では,健康成人男子9名を対象に血中diazepam濃度推移ならびに注射刺激に対するカテコールアミン濃度の変化について検討した. 臨床研究では,2~8歳の歯科治療に対し,不安感や緊張感が強かったり,不適応行動を示す健常児25名を対象に小児歯科における経口投与鎮静法の臨床的有効性について検討した.
    その結果,
    1.diazepamの平均血中濃度は投与60分後に403.6ng/mlと最も高い値を示していた.
    2.血中CAの変動ではNAとADで未投与時では基準値に対し,増加を示すのに対し,投与60,90分後ではNAは全過程通じて基準値との間に差は認められず,ADではほとんど全ての過程で低い値を示していた.
    3.行動評価得点ではdiazepam応用時は偽薬応用群,未投与群に比べ,有意に低い得点を示し,場面別の有効率では,diazepam応用群では「浸麻時」を除く全ての場面で60%以上の有効率を示すのに対し,偽薬応用群では全ての場面で20%以下の低い有効率を示していた.
    4.臨床的有用性において未投与時の行動が評価IIの患児は真薬群77.7%の有用率に対し,偽薬群では22.2%を示し,両群間に有意差が認められた. また評価IIIまたはIVの患児は真薬群43.8%の有用率に対し,偽薬群で0%を示し,両群間に有意差が認められた.
  • 楽木 正実, 新谷 誠康, 小村 隆志, 祖父江 鎭雄
    1995 年 33 巻 5 号 p. 876-881
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    リン酸四カルシウム(4CP)を粉末の基材とし,硬化液にオレイン酸またはユージノールを用いた根管充填材用セメントCPOおよびCPEを試作し,理工学的性質を検討した. 試験項目は,根管充填材のISO規格に準じたフロー,操作時間,硬化時間,被膜厚さ,放射線不透過性,溶解度および崩壊度の6項目およびpHの経時的変化について行った. その結果,6項目すべてについて規格を満たしており,対照に用いた市販の根管充填用酸化亜鉛ユージノールセメント(ZOE)と同様,理工学的には根管充填材として望ましい性質を有していた. 特に溶解度および崩壊度は,これまでに報告された4CPを用いた根管充填材と異なり0.5~0.7と小さかった. 試作根管充填材のpHは,ZOEと同様に練和開始直後は中性付近であったが,時間がたつにつれてアルカリ性を示すようになった.
  • 歯種歯面別罹患に関する断面調査の比較
    真柳 秀昭, 斗ヶ澤 真純, 鳥羽 美加子, 永野 幸代, 斉藤 徹, 青葉 達夫, 神山 紀久男
    1995 年 33 巻 5 号 p. 882-894
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    1972年より92年までの20年間にわたって仙台市北地区内保育園児の歯科検診を行い,72年,77年,82年,87年,92年の5か年ごとの調査資料をもとに,各年度における2~5歳児の乳歯齲蝕の歯種歯面別罹患状況を比較,その推移を検討し,次のような所見を得た.
    1)歯種歯面別df率は,前歯では上下顎歯が異なった推移を示したが,臼歯では第一,第二乳臼歯ともに上下顎で類似した推移を示した.
    2)70年代にはどの年齢群においても,全ての歯種歯面の齲蝕が著しい減少を示した.しかし,80年代から90年代初めにかけては,第二乳臼歯咬合面及び近心面を除いた全歯面で緩慢な減少にとどまっているか,横ばい状態を呈していた.
    3)第二乳臼歯では,咬合面齲蝕が80年代から90年代初めにかけて,2,3歳児で増加傾向を示し,近心面齲蝕が80年代に3~5歳児で増加傾向を示した.
    4)70年代に認められた齲蝕減少の要因は,保育園での定期的な歯科検診の実施及び地方自治体での低年齢からの健診の導入などが動機となって,口腔衛生思想が普及したことによるものと思われる.
    5)80年代に示された齲蝕増加の兆しは,保護者,保育園スタッフ及び歯科医療従事者の幼児の口腔衛生に対する関心が,70年代に比べてかなり薄らいできていることによるものと思われる.
  • 二木 昌人, 野沢 美夕起, 八田 奈緒美, 中田 稔
    1995 年 33 巻 5 号 p. 895-902
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    Unfilled SealantとFilled Sealantおよびコンポジットレジンに付属した2種類のいわゆる親水性ボンディング材を用いて,ヒト抜去小臼歯咬合面をリン酸エッチング後,ボンディング材を併用してフィッシャーシーラントを〓塞した.500回のサーマルサイクリングテスト後,被験歯を切断して色素浸透試験を行った.切片で,シーラント・エナメル質界面に色素が認められる部位をギャップが発生していると判断して,発生部位およびその頻度を調査した.
    その結果,ボンディング材を使用しない場合は,Filled Sealantに比較してUnfilled Sealantのほうがギャップの発生が多く,接着性が劣っていた.しかしながら,ボンディング材を併用するとシーラント・ボンディング材の組み合わせにかかわらずほぼ同様の結果で,接着性の改善が認められた.ただし,裂溝底部の接着についてはボンディング材によって改善はみられたが,辺縁部や平滑部に比較して相対的にギャップの発生を多く認めた.接着性向上の原因としては,ボンディング材の流動性,歯質への浸透性,シーラントの光重合による重合収縮に対する緩和作用などが考えられた.
    したがって,Preventive Resin Restoration(シーラントのみを含む)の際には,小窩裂溝部には積極的にボンディング材を併用してシーラントを〓塞したほうが,接着性が向上することが明らかとなった.
  • 田村 裕子, 大島 邦子, 米持 浩子, 野田 忠
    1995 年 33 巻 5 号 p. 903-911
    発行日: 1995年
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児歯科臨床において,乳歯の癒合歯はしばしば遭遇する形態異常の一種であるが,乳歯列内における過剰歯を含めた3歯癒合の報告は非常にまれである.私たちは本学小児歯科外来を訪れた6歳0か月の男児において,上顎左側乳中切歯,乳側切歯および過剰歯と思われる3歯の癒合歯を認め,その経過を観察した.
    家族歴,既往歴,全身所見においては特記すべき事項は認められなかった.
    その形態および位置から,中央部に位置する歯が過剰歯と思われ,乳中切歯,乳側切歯および過剰歯間には象牙質による結合が認められた.また,乳中切歯,過剰歯間では歯冠部,歯根部歯頸側寄りにおいて歯髄の連絡も認められた.
    癒合歯は,歯根吸収の進行が遅く,反対側永久中切歯の萌出後も自然脱落が期待し得なかったため,8歳2か月の時点で抜歯したが,その後も左側永久中切歯の自然萌出は認められず,萌出遅延の状態を呈した.9歳6か月時に同部の歯肉の開窓を行ったところ,病理組織学的に黄色腫を認めた.その後,開窓により中切歯は萌出したが,同側の永久側切歯歯胚の発育は著しく遅延しており,9歳11か月の時点で同歯胚の歯冠は2/3程度の形成状態であった.
  • 乳臼歯における頂窩のSEMによる観察
    張 野, 後藤 讓治
    1995 年 33 巻 5 号 p. 912-923
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    頂窩に関する研究のうち,乳臼歯に対する報告は少なく,また,乳臼歯と永久臼歯との比較観察についての報告はみられない.我々はインド人小児の乾燥頭蓋骨10顆の下顎骨より得られた乳臼歯39歯を用い,頂窩について走査型電子顕微鏡による観察を行った.その結果を永久臼歯における頂窩と比較し,下記の所見を得た.
    1.乳臼歯39歯中の20歯(51.3%)に50個の頂窩が観察された.
    2.乳臼歯における頂窩の発現歯数及び発現個数は,第1乳臼歯と第2乳臼歯間に有意差は認められなかった.
    3.乳臼歯における頂窩開口部の形態は,永久臼歯の場合と同様,円形のものが最も多く見られた.
    4.乳臼歯における頂窩は,遠心頬側咬頭部において高頻度に発現した.この結果は永久臼歯の場合と異なっていた.
    5.乳臼歯における頂窩は,同一個体の左右同名歯に対称的に発現する傾向が観察された.
    6.乳臼歯における頂窩開口部の内径の平均値は172.2μmで,永久臼歯の平均値173.0μmとほぼ同様であった.
  • キャンセル理由の患児・保護者側の要因
    島村 和宏, 小林 健一, 齋藤 高弘, 鈴木 康生
    1995 年 33 巻 5 号 p. 924-931
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    継続的かつ効率の良い計画治療や定期診査の妨げとなるキャンセルが,どのような要因で起こるかを知る目的で,1992年4月から1993年3月までの1年間に,小児歯科外来での予約診療患者について調査し,以下の結果を得た.
    1.通院時間の短い者ほどキャンセル回数が多くなる傾向を示した.
    2.低年齢児の場合,協力的な患者の方がキャンセル回数が多くなる傾向を示した.
    3.前回来院時の処置内容をみると,治療中"5歳以下群"では,局麻下処置よりも無麻酔下処置の方がキャンセルが多くなる傾向にあった.
    4.キャンセル理由では,疾病は“5歳以下群”の方が多く,“6歳~12歳”では無断および学校の都合が増加する傾向を示した.また,キャンセル回数との関係では,治療中では理由に大きな変化はないが,定期診査では保護者の都合が増える傾向にあった.
    以上の結果から,キャンセルに関与すると思われる要因には,疾病や学校の都合など患児自身の体調や時間的余裕は勿論,通院時間,保護者の都合や治療の緊急性の認識といった保護者側の要因が大きいことが示唆された.
  • 合成ハイドロキシアパタイトとの反応生成物について
    小出 武, 山賀 まり子, 木村 圭子, 大東 美穂, 大東 道治
    1995 年 33 巻 5 号 p. 932-939
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    著者らはタンニン酸を添加した歯面塗布用フッ化物溶液による小児の齲蝕予防の可能性について検討している.本研究ではフッ化物溶液のタンニン酸濃度とフッ素取り込み量や反応生成物との関連性を明らかにするために0.05~5%のタンニン酸を含む2%フッ化ナトリウム溶液を合成ハイドロキシアパタイトに作用し,取り込まれたフッ素量を測定した.また,生成物を走査型電子顕微鏡により観察するとともに,エックス線回折法により定性分析をおこなった.
    その結果,歯面塗布用フッ化物溶液へのタンニン酸の添加は合成ハイドロキシアパタイトへのフッ素の取り込みを促進するが,生成物はフッ化カルシウムおよびタンニン酸とカルシウムとの反応物が複合したものと考えられることから同物質の口腔内における消長などについて検討してゆかなけれぼならない.
  • 第1報術者から小児への対応における自信度調査アンケートについて
    石川 隆義, 三宮 由紀, 簡 妙蓉, 永田 綾, 佐牟田 毅, 正藤 真紀子, 山口 典子, 長坂 信夫
    1995 年 33 巻 5 号 p. 940-945
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児への対応における自信測定尺度がWeinsteinらにより開発されているが,この尺度の日本語版における「術者から小児への対応における自信度調査アンケート」の信頼性と妥当性について検討を行った.信頼性については,本学小児歯科に在籍する22名の歯科医師を対象に,アンケートの内的一慣性と経時的安定性の両面より検討した.内的一貫性には, Cronbachの α 係数を用い,経時的安定性には,1回目のアンケートを行った1週間後に同一アンケートを実施し,1回目と2回目の回答結果の相関係数を求めた.妥当性については,臨床経験5年以上と臨床経験2年以上5年未満および臨床経験2年未満の歯科医師群の自信度の比較検討を行った.その結果,以下のことが判明した.
    1.「術者から小児への対応における自信度調査アンケート」において,内的一貫性と経時的安定性の両面より高い信頼性を得た.
    2.臨床経験の多い歯科医師の方が,有意に自信度が高いことが認められた.
    以上より「術者から小児への対応における自信度調査アンケート」の信頼性と妥当性が認められ,本アンケートの有用性が示された.
  • 三宮 由紀, 石川 隆義, 簡 妙蓉, 永田 綾, 佐牟田 毅, 正藤 真紀子, 山口 典子, 長坂 信夫
    1995 年 33 巻 5 号 p. 946-952
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児歯科診療における小児への対応能力の向上を目的として,広島大学歯学部小児歯科に在籍する歯科医師7名に対し行動科学的トレーニングを行った.今回,従来通りの講義形式の教育のみならず,ビデオテープやロールプレーを用いたシミュレーション型のトレーニングを行い,トレーニング前後の2回にわたり「術者から小児への対応における自信度調査アンケート」を実施した.そして,トレーニングを行わなかったコントロール群(歯科医師7名)と比較検討を行い以下の結果を得た.
    1.小児への対応に関する行動科学的トレーニングを行ったトレーニング群と,コントロール群間において,1回目の自信度の総得点の平均値には統計的有意差が認められなかったが,2回目のアンケートにおいては両群間に5%の危険率で有意差を認めた.
    2.「術者から小児への対応における自信度調査アンケート」の全質問項目においてトレーニング群の方がコントロール群の平均得点以上の値となり,5項目において5%の危険率で,1項目において1%の危険率で両群間に有意差を認めた.
    3.「アドバイスの獲得」「他のメンバーとの普遍性」「対応技術における自己表現」について高いトレーニング効果が得られた.
    以上のことより,術者から小児への対応における行動科学的トレーニングの有効性が示された.
  • 第4報 帰宅許可後の不快事項ならびに保護者の不安度について
    河合 利方, 福田 理, 柳瀬 博, 子安 玲子, 木澤 摩美, 黒須 一夫
    1995 年 33 巻 5 号 p. 953-962
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    ミダゾラム経鼻投与鎮静法下歯科治療を受けた心身障害児39名の保護者を対象に,治療後の帰宅途中から翌朝までの不快事項の発現状況をアンケート調査した.さらに,経界投与鎮静法下の歯科治療に対する保護者の不安度と本法を用いた再度の歯科治療に対する保護者の評価を調査し,以下の結論を得た.
    不快事項の発現は,「帰宅途中」に最も多く,発現者率はミダゾラム0.2mg/kg投与で21.1%,0.3mg/kg投与で40.0%であったが,「就寝時」にはほとんど全ての患児が通常と同様の状態に回復していた.不快事項の種類は眠気ふらつきが最も多く発現したが,臨床上問題となる症状の発現は両群とも調査したすべての場面で認められなかった.経鼻投与鎮静法に対する保護者の不安度のアンケート調査では,説明時,鎮静獲得時,治療時で「全く不安なし」「あまり不安なし」と回答した保護者が79.5~84.6%をしめていた.また,経鼻投与鎮静法を用いて「次回も歯科治療を受けても良い」と回答したものは84.6%をしめていた.
  • 成人日本人と中国人との比較
    野坂 久美子, 曹 越輝, 駿河 由利子, 佐藤 輝子, 夏 善福, 庄 欣宇, 何 双歌, 張 春鳳, 甘利 英一
    1995 年 33 巻 5 号 p. 963-974
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,食文化の異なる中国と日本の成人における咀嚼効率の違いを知ることである.対象者は,日本,中国の成人男女,合計110名である.研究には,デンタルプレスケール30Hシリーズを用いた.そして,上下顎の永久臼歯の歯種別で,平均咬合圧,咬合接触面積,咬合力を求め,両国間で比較を行った結果,次のような結論を得た.
    1)平均咬合圧は,日中,男女ともに,小臼歯の方が大臼歯よりも大きかった.また,上下顎ともに,中国人男子では,第一小臼歯は第二小臼歯よりも,日本人男子では,第一大臼歯は第二大臼歯よりも,それぞれ有意に大きかった.日中間の比較では,上下顎,男女ともに日本人の方が中国人よりも大きい傾向にあり,有意差を示したのは,男子では第一大臼歯,女子では第一,第二大臼歯であった.
    2)咬合接触面積と咬合力は同じような傾向を示した.すなわち,小臼歯に比べて大臼歯の方が大きな値を示した.また,小臼歯間では第二小臼歯の方が第一小臼歯よりも大きかった.大臼歯間の比較では,上顎では第一大臼歯の方が,下顎では第二大臼歯の方が大きい傾向にあったが,日本人男子のみは,上下顎ともに第二大臼歯の方が大きかった.また,日中ともに男子の方が女子よりも大きい傾向にあった.日中間の比較では,上下顎,男女ともに,大臼歯で,中国人は日本人の約2倍の咬合接触面積ならびに咬合力を示し,これらの差は,成人になるほど明らかであった.
  • 3次元解析システムの開発
    成瀬 克子, 山崎 要一, 中田 稔
    1995 年 33 巻 5 号 p. 975-984
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    成長期の小児における側方滑走運動中の上下顎乳臼歯の咬合小面の対向関係を明らかにするため,咬合小面の形態と下顎側方滑走運動を同一座標系で解析するシステムを開発した.本システムでは,咬合小面はレーザービームを用いた非接触型歯牙3次元形状測定システムで計測され,側方滑走運動の計測はセルスポットを用いた下顎多点運動解析システムにより行われる.さらに,両システムの座標系を一致させ,乳臼歯上の任意の部位の咬合小面と,その同一部位における下顎側方滑走運動の3次元的な解析が可能となった.
    本システムの精度を調べたところ,高い測定精度が証明された.
    次に,Hellmanの歯年齢IIIA期の女児1名(8歳6か月)を被験者とし,本解析システムの有用性を確かめた.その結果,作業側上下顎第二乳臼歯の機能咬頭の咬合小面は,側方滑走運動と関連性があることが示唆された.
    以上のことより,本システムは小児の咬合小面の形成と下顎側方滑走運動との間の関連性について解析を行うのに有効であることが示された.
  • 下顎前方滑走運動時について
    西嶋 憲博, 早崎 治明, 山崎 要一, 中田 稔
    1995 年 33 巻 5 号 p. 985-994
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児の下顎前方滑走運動時の下顎顆頭の三次元動態を明らかにするために,切歯点,左右下顎顆頭点について解析を行った.
    被験者は,Hellmanの歯年齢IIA期の小児14名(男児4名,女児10名;平均年齢5歳11か月)と成人14名(男性7名,女性7名;平均年齢24歳2か月)である.
    解析項目は,咬頭嵌合位を始点とし,切歯点の移動距離が0.5mmから5.0mmまでを,0.5mmごとに区切り,各移動距離ごとに各解析点の移動方向を矢状面への投影角として表した.また,下顎顆頭部において3回の前方滑走運動軌跡を矢状面,水平面および前頭面に投影し,各平面において最も外側の軌跡で囲まれる面積を算出し,3平面の合計の面積が最も小さくなる点を求めた.
    その結果,Hellmanの歯年齢IIA群は,成人群に比較して切歯点および下顎顆頭点の矢状面投影角度が有意に小さく,下方への動きが少ない運動をしており,切歯点と下顎顆頭点の矢状面投影角度の差は,IIA群が成人群に比較して大きく,下顎の回転要素が多い傾向があった.下顎顆頭部における3回の前方滑走運動軌跡で囲まれる面積の各平面の合計が最小になる点では,IIA群は成人群に比較して,移動距離が小さいにもかかわらず各平面で大きい傾向があり,小児の顎関節が,成人に比較して可動性に富んでいることがうかがえた.
  • 斗ケ澤 真純, 斉藤 徹, 猪狩 和子, 山田 恵子, 真柳 秀昭, 神山 紀久男
    1995 年 33 巻 5 号 p. 995-1008
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    著者らは,唇顎口蓋裂児の最近の齲蝕罹患状況およびその特徴を知る目的で,齲蝕罹患に関する実態調査を行った.対象は0~8歳までの唇顎口蓋裂児335名である.当科における過去の報告(S.52/S.61)および仙台市の保育園児と比較し,以下の所見を得た.
    1)全体として過去の報告よりも乳歯齲蝕の減少,遅発傾向を示した.しかし,依然として増齢に伴う多発性が認められた.
    2)口蓋裂では他の裂型よりも乳歯齲蝕罹患が高く,しかも低年齢から認められた.口唇口蓋裂の上顎前歯部において,裂側の方が健側よりも有意に高い罹患を示した.
    3)乳歯齲蝕罹患の高い部位は,保育園児で第2乳臼歯咬合面であった.一方,唇顎口蓋裂児では下顎前歯部および上顎口蓋面であり,形態的,機能的な要因が強いと思われた.
    4)乳歯齲蝕の増加のパターンは,保育園児では臼歯部が主体であった.唇顎口蓋裂児は増齢に伴って前歯→ 臼歯→ 犬歯と増加する部位が変化した.
  • 堤 智紀, 小島 寛, 加我 正行, 小口 春久
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1009-1016
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小窩裂溝封鎖材として開発された光硬化型グラスアイオノマーセメント試作品の保持および磨耗について,12か月間にわたって臨床的に評価した.5~12歳の小児42名の第一・第二大臼歯65歯を対象とした.超音波装置による小窩裂溝清掃の後,ロール綿にて簡易防湿を行った.GCデソティンコンディショナーを20秒間作用させ,充分水洗した後エアーにて乾燥させた.光硬化型グラスアイオノマーセメントの粉と液を混和し,歯面に塗布した後,20秒間光照射した.
    3か月後(46日~135日),6か月後(136日~225日),9か月後(226日~315日),12か月後(316日~405日)の定期診査においてシーラントの保持に関する臨床的診査を行った.その結果,それぞれ41歯中40歯,31歯中30歯,44歯中41歯,32歯中28歯が完全保持と判定された.また,これらの一部についてはレプリカを作製し,走査型電子顕微鏡による診査を行った.その結果,それぞれ41歯中41歯,31歯中29歯,42歯中35歯,24歯中12歯が完全保持と判定された.
    走査型電子顕微鏡による診査では,上顎大臼歯においては近心頬側窩と近心小窩を結ぶ溝,下顎大臼歯においては頬側溝から頬側面溝への移行部でのセメントの脱落が認められた.12か月の期間中,完全脱落および2次齲蝕の発症は1例も認められなかった.
  • 第6報テレビの有効性の検討
    原田 桂子, 有田 憲司, 西野 瑞穗
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1017-1023
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    アニメーションビデオテープをテレビで見せながら診療する方法が,3歳0か月から5歳11か月の小児の歯科診療脇力度を向上させるのに有効であるか否か,実際診療時の適応性ならびに予測した適応性と実際の適応性との相関性から分析した.適応性の予測は,小児の歯科受診歴,歯科診療意識調査,待合室から診療台で診療を受けるまでの行動観察,母親のY-G性格検査,これらから成る36アイテムにより判別予測した.
    結果は次のとおりであった.
    1.診療中の行動が適応と判定された小児はテレビを見せた群19人中の13人,68.4%,テレビを見せなかった群18人中14人,77.8%であった.
    2.テレビを見せた19人のうち,適応と予測された12人で実際行動も適応であった小児は10人,不適応と予測された7人で実際行動も不適応であった小児は4人で,的中率は73.7%であった.一方,テレビを見せなかった18人のうち,適応と予測された12人で実際行動も適応であった小児は10人,不適応と予測された6人で実際行動も不適応であった小児は2人で,的中率は66.7%であった.
    以上の結果から,診療協力度不適応の就学前小児にアニメーションビデオテープを見せることは,診療協力度の向上に効果はないと結論された.
  • 判別能力について
    山口 武人, 恵木 健二, 能地 康和, 伊出 和郎, 内田 淳, 岡田 玄四郎, 佐久間 崇之, 鬼満 雅, 中島 一郎, 赤坂 守人
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1024-1028
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    脳性麻痺者における口腔感覚入力の異常の有無を調べるため,脳性麻痺者と健常者を対象に比較検討を行った.被験者は,脳性麻痺者6名,健常者6名であった.下顎位感覚の判別能力は,被験者に10.0mmの基準棒と8.0~9.51nm及び,10.5~12.0mmの試験棒を上下顎中切歯間に保持させ試験棒による開口度が基準棒による開口度と比べ“厚い”か,“薄い”かを回答させその不正解率を求め,以下の結果を得た.
    1)CP群と健常群の8.0~9.5mm間の判別能力は基準の開口度に近づくほど徐々に低下し,反対に10.5~12.0mm間の判別能力は,基準の開口度との差が大きくなるほど徐々に高くなる傾向を示した.
    2)CP群は健常群よりも8.0~9.5mm間の判別能力は低下し,特に9.5mmでは有意差が認められた.
    3)CP群と健常群とでは,10.5~12.0mm間の判別能力は同様であり,有意な差は認められなかった.
    以上のことから脳性麻痺者は,末梢感覚受容器から,中枢に至る下顎位感覚入力系に異常があることが認められた.
  • 角田 俊彦, 小澤 英浩
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1029-1041
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    永久歯萌出に伴う生理的乳歯歯根吸収開始時期の破歯細胞の分化の過程や,外部吸収が進行する過程で破歯細胞周囲の細胞との相互作用などを明らかにすることを目的に本研究を行った.カイウサギを用い,乳歯の生理的歯根吸収の過程における破歯細胞の分化について,その周囲組織との関連性に注目し,酒石酸耐性酸フォスファターゼ(TRAP)活性検出と,アルカリフォスファターゼ(ALPase)活性ならびにTRAP活性検出の二重染色を行い,酵素組織化学的に光学顕微鏡で観察を行った.
    その結果,生後2日齢においてTRAP陽性の破歯細胞およびその前駆細胞が歯根表層と歯根周囲の結合組織内に出現する事が明らかになった.これらのTRAP陽性細胞を取り囲む結合組織の間質系細胞およびセメント芽細胞は,ALPase活性陽性を示し,この領域においてTRAP活性陽性の前駆細胞が多核化することが示された.歯根吸収が,歯髄腔に達するようになると破歯細胞近傍の象牙芽細胞はしばしば扁平化ないしは消失している.
    以上の結果から,破歯細胞の分化が破骨細胞の分化の過程に類似し,歯根周囲のALPase活性陽性を示す間質系細胞が,破歯細胞の分化・活性化に密接に関与する可能性を強く示唆された.また,象牙芽細胞の形態変化は,破骨細胞が活性化する際の骨芽細胞の形態変化と類似することが示された.
  • 第1報乳房哺育児での横断的検討
    松下 繁, 林 努, 下郷 惠, 王 歓, 田村 康夫
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1042-1048
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    乳児の吸啜時における口腔周囲筋筋活動が月齢によりどのように変化するか検討する目的で本観察を行った.
    被検児は乳房哺育児延べ56名で生後月齢により1か月児(4週~8週以内,9名),2か月児(16名),3か月児(11名),4か月児(11名),5か月児(9名)の5群に分け筋電図学的に検討した.
    その結果,
    1)側頭筋,咬筋および口輪筋では1か月児から5か月児で筋活動量には,変化がみられなかったのに対し,舌骨上筋群は1か月児から5か月児まで増大する傾向がみられ,1か月児と5か月児間で有意差(p<0.05)が認められた.
    2)4筋の総筋活動量は1か月児と3,4,5か月児との間で有意差が認められ(P<0.05),1か月児から3か月児まで増大していた.
    3)吸啜リズムは月齢間で差はみられなかった.
    以上の結果より,吸啜運動の吸啜リズムには変化がみられないが,口腔周囲筋筋活動は月齢により舌骨上筋群の活動と総筋活動量が増大することが示唆された.
  • 1 .幼児の歯科診療に対する適応行動
    丸山 静江
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1049-1058
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    歯科ぬりえ方法を用いて診療時の幼児の適応行動を器具別及び年齢別に比較検討した.歯科診療を歯磨き,フッ化物塗布,シーラント填塞,充填処置,歯髄処置,診療終了の6段階に分け,診療全体と指標とした器具について評価を行った.この観察対象は2~4歳児延べ5,070症例である.
    1.各診療段階の器具に対する幼児の適応行動を初診時の歯ブラシへの適応率を基準にしてみると,バキューム,シリンジは第2段階でやや減少したが,第3~5段階では有意に高くなった.またエンジンは第3~第5段階に進むにつれて減少し,第4~第5段階におけるタービンと,第5段階の注射器に関して有意に低かった.
    2.治療全体に対する適応率については,2歳児は,第3段階までは次第に適応を示す割合が高くなったが,強い刺激の器具にはまだ適応できず,反射的に拒否した.3~4歳児はタービン,注射器など強い刺激の器具の使用にも,多くの幼児が適応できたことを示し,歯科ぬりえを介しての情報提供の効果が現われたものと考えた.
    以上のことから,幼児の歯科治療への適応は,いろいろな歯科器具への認識を背景にしていることが示唆された.
  • 反対咬合についで
    久松 貴子, 星野 京子, 北村 倫代, 後藤 麗, 菊池 元宏, 平田 順一, 赤坂 守人
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1059-1069
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    乳歯列反対咬合を有する男児16名,女児20名の計36名から採得した上下顎歯列石膏模型を資料に,三次元座標測定装置(Xyzax)を用い,計測基準平面に対する切縁咬頭頂の三次元的位置を測定し,切縁咬頭頂連続曲線,頬舌側咬頭頂曲線を描き検討した結果,以下の結論を得た.
    1.切縁頬側咬頭頂連続曲線は,上顎では最上点が男女児ともに乳側切歯,最下点は男児では第一乳臼歯,女児では乳犬歯とする曲線を描き,下顎では,男女児ともに乳犬歯を最上点,第一乳臼歯遠心咬頭頂を最下点とする一峰性の曲線を描いた.
    2.切縁舌側咬頭頂連続曲線は,男女児ともに上顎では最上点を乳側切歯,最下点を第二乳臼歯近心咬頭頂とした曲線を,下顎では最上点を乳犬歯,最下点を第一乳臼歯遠心咬頭頂とした一峰性の曲線を描いた.
    3.頬舌側咬頭頂曲線と基準平面とのなす角度は,上顎では男女児とも第一乳臼歯より第二乳臼歯が大きく,下顎では第二乳臼歯より第一乳臼歯が大きかった.
    4.被蓋状態と切縁頬側咬頭頂連続曲線との関係は,被蓋の深いI群の方がII群に比べ彎曲の程度が強い傾向を示した.
  • 朝田 芳信, 古屋 利恵, 前田 隆秀
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1070-1077
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    マウス樋状根成因に関与する特定の遺伝子究明に対し,その1つのアプローチとして近交系マウスの樋状根出現率と各遺伝子座の対立遺伝子の一致度に注目し,合わせて突然変異マウスの下顎第二臼歯(M2)に於ける樋状根出現の有無について検討したところ以下の結果を得た.
    (1)12系統の近交系マウスのうち,AKR/J,C3H/HeJ,C57BR/cdJ,C57L/JおよびRF/Jの5系統において樋状根が認められ,樋状根出現率から3つの表現型(High,MiddleおよびLow type)にgroup分けすることが出来た.
    (2)8系統の近交系マウスにおける樋状根出現率(表現型)と対立遺伝子の相関を検討したところ,Chromosome19が,Candidate Chromosomeとなることが示唆された.
    (3)突然変異マウスのM2において,樋状根出現が認められなかったことから,突然変異遺伝子であるscid,db,dw,nu,dyおよびobがマッピングされているChromosome4,6,10,11および16以外のChromosomeに,樋状根発症に関与する主要な遺伝子が存在する可能性が示唆された.
    以上(2)および(3)の結果より,樋状根発症に関与する主要な遺伝子がChromosome 4,6,10,11および16以外のChromosomeで,さらにChromssome 19に存在する可能性が伺われた.
  • 横断面形態からの検討
    堀川 早苗, 大西 美香, 中川 さとみ, 外木 徳子, 町田 幸雄
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1078-1082
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    従来,下顎乳中切歯ならびに乳側切歯の左右側の鑑別は,切端隅角徴,彎曲徴,歯根形態や歯根の方向などにより可能であるとされている.しかし切端が増齢とともに咬耗し,歯根が生理的に吸収すると,これらの判断基準の多くは消失し,歯冠のみとなった乳切歯では鑑別が益々困難となる.そこで,正常咬合でほとんど咬耗のみられない3歳児の25個の石膏模型を用いて,歯冠軸に直角に交わる横断面を切端より0.5mm,1.0mm,1.5mm,2.0mm間隔で作製し,その面積を近心部と遠心部で比較した.その結果,乳中切歯の80%の症例で,乳側切歯の全ての症例で,近心部の面積の方が遠心部より大きかった.従って,本方法は,下顎乳中切歯ならびに乳側切歯歯冠の左右側鑑別に極めて有効であると思われる.
  • 森本 彰子, 牧 憲司, 木原 由香里, 木村 孝一, 古谷 充朗, 木村 光孝
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1083-1087
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    日本における出生率の減少に伴って歯科的関心は高まってきており小児一人当たりの齲蝕歯数は年々減少している.数年前と比較してひどいランパントカリエスの子供はあまり見られない.しかしながら外傷の患児は減少することはないように思われる.
    4歳3か月の男児が上顎前歯部を打撲し九州歯科大学附属病院小児歯科外来を受診した.患児は電柱にぶつかりAは出嵌入し血が見られ,翌日外来を受診した.歯式は_〓でありHellmannのDental Age はII A期である.歯科用エックス線写真ではAの歯槽硬線は明瞭で歯根膜腔は広く周囲の骨梁は明瞭であった.また後継永久歯に異常はなくDental Sack に包まれている.他の歯牙や歯槽骨にも異常はなかった.Aの歯冠部の約1/2の嵌入及び同部歯肉よりの出血が見られた.そこで 〓 かけにて整復固定を施した.Aは電気歯髄診では(-)を示した.その後1週間に1回の割合で電気歯髄診及びエックス線写真撮影により経過観察を行った.約1か月後固定を除去した.この時点でのエックス線所見ではAの歯根膜腔の拡大がみられる他は異常所見は認められず臨床症状も良好であった.またEPTは(+)に転じ1年経過後の現在まで予後は良好である.結果は以下のとおりである.
    1.臨床所見によりAは歯冠の約1/2の嵌入および圧痛や自発痛や出血が認められた.
    2.処置としては 〓 にレジンとワイヤーによる整復固定を施した.
    3.1年経過の現在予後は良好である.
  • 山賀 まり子, 堀 亘孝, 小出 武, 村上 由見子, 大東 道治
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1088-1094
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    今回,舌強直症が原因と思われる構音障害を有する患児(4歳11か月)が来院し,舌小帯伸展術前後で構音検査を実施する機会を得たのでその概要について報告する.術前の構音の特徴は,タ行およびダ行音は構音点が舌尖よりもやや舌背になるためにカ行音に近かった.サ行音は文章復唱でしばしぼ省略されていた.ラ行音は文章復唱では省略されることが多く,単語や音節の反復では構音点が舌背になってカ行音となることと,ダ行音になることが混在していた.
    術後,サ行音は明瞭となった.タ行音,ダ行音ならびにラ行音はやや明瞭になったが,舌尖を上下前歯の間にはさんで構音するようになった.これは,幼児にしばしば認められる構音の誤りであり,舌小帯伸展術によって舌尖が自由になり正しい構音点を学習している過程であると考えられる.したがって,患児の構音能力をできるだけ正確に把握して,手術はもちろんのこと,その前後で言語発達についても適切な指導を行うことが必要であると考える.
  • 甲田 寿美子, 太田 慎吾, 塚田 久美子, 高井 経之, 小笠原 正, 渡辺 達夫, 笠原 浩
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1095-1100
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    下垂体性小人症は,下垂体前葉ホルモンの一つである成長ホルモンの分泌不全の結果として生じた成長障害である.この疾患はしばしば,他の下垂体ホルモンの分泌不全を合併していることがあり,歯科治療上においても特別な配慮を必要とすることがある.
    今回我々は下垂体性小人症である9歳(初診時)の男児の歯科治療を経験した.患児はGH分泌完全欠如の他に,副腎皮質ホルモン予備能低下及び甲状腺ホルモン部分欠如が認められ,4歳時より成長ホルモン及び甲状腺ホルモンの投与を受けている.しかし,身体発育に著しい遅れがあり,歯牙年齢は7歳±9か月,骨年齢は5歳と大幅に遅れていた.
    初診時の主訴は齲蝕治療で,9歯の齲蝕が認められた.精神発達遅滞の合併があり,歯科治療適応困難であったので,全身麻酔下集中歯科治療により9歯を修復(うち2歯は歯内療法)した.ACTH予備能低下の合併があり,全身麻酔や歯科治療に伴うストレスにより急性循環不全の可能性があると考えられた.集中治療時にはステロイドカバーを行い,円滑な経過が得られた.その後はリコールシステムにより歯科的健康管理を行っている.
  • 瀬尾 令士, 西田 郁子, 葛立 宏, 名越 恭子, 村田 真知子, 中島 龍市, 周 適宏, 齋藤 朗, 木村 光孝
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1101-1108
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    日常の小児歯科診療において,歯の外傷に遭遇することは少なくない.その中でも永久歯に関しては上顎中切歯が受傷することが多く,ほとんど歯根未完成歯である.今回著者らは,8歳女児で,右側上顎中切歯を打撲した症例に遭遇した.
    1)最初打撲により右側上顎中切歯に露髄を伴う歯冠破折が生じた.歯根未完成歯であったため,Apexogenesisを施した.その際,切断歯髄面にハイドロキシアパタイトを主成分としたFinapec® APCを貼付し,予後は良好であった.
    2)Apexogenesis施術後3か月目に再び打撲し,歯根破折を起こした.破折部位が歯頸部縁下で唇側歯肉に膿瘍を生じたため,歯冠片を除去した後,再度Apexogenesisを施した.同時にリンガルアーチと矯正用輪ゴムおよび結紮線を用いて矯正的挺出を行った.
    3)歯肉縁上までの挺出および歯根形成の完成を待って矯正的挺出の完了とした.
    4)歯根形成完成後,根尖閉鎖を誘導する目的でApexificationを施した.
    5)根尖閉鎖確認後,ガッタパーチャ・ポイントで永久根充を行った.その後支台築造,暫間補綴物を装着した.
    6)約2年9か月後,1の歯周疾患および ??__??__??_齲の蝕による冷温痛を認めたため,の歯髄処置および歯周外科手術を施した.同部の治癒をまって,永久補綴へと移行した.
    以上のことから歯根の発育状況に沿って,ApexogenesisおよびApexification法を施した結果,良好な経過を示し,本法の極めて高い治療効果が示唆された.
  • 副島 嘉男, 石田 万喜子, 進士 久明, 塚本 末廣, 本川 渉
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1109-1116
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    今回我々は,Di George症候群の1症例に遭遇したので,その口腔内所見について報告した.
    1)患児は3歳11か月の男児であった.
    2)全身所見として,発育が1年程遅れているようであった.
    3)口腔内所見として,全ての乳歯に部分的なエナメル質形成不全が認められた.エックス線所見においては,異常所見は認められなかった.
    4)エナメル質形成不全は,副甲状腺機能低下症による血清カルシウム濃度の低下が関与していると思われた.
    5)エナメル質形成不全は,全身状態の回復により改善していた.
  • 北山 達彦, 岩崎 浩, 林 于昉, 宮沢 裕夫
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1117-1123
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    Apert症候群は,常染色体優性遺伝に基づく先天性疾患で,その症状は頭蓋骨冠状縫合の早期閉鎖による顎顔面頭部の異常,特に上顎骨の形成不全として口腔領域に現われることが多く,歯科的に多くの問題が提示される.
    本症例は,初診時4歳1か月の女児であり全身所見では身長107cm,体重16.2kgで発育状態は良好であるが,軽度の精神発達遅滞を認めた.心,肺,腎,肝等の合併症に関しては諸検査の結果,異常所見は認められなかった.顔貌所見では,浅い眼窩に伴う両側性眼球突出,両眼隔離,眼裂の外下方への斜走が認められ,上顔面部から中顔面部にかけての劣成長も認められた.手根骨エックス線写真所見からは骨年齢約4歳であった.
    口腔内所見では,上顎が高口蓋を呈し,さらに口蓋側歯肉の肥厚による狭く高い偽口蓋裂を呈していた.また,過剰歯,両側乳犬歯の低位が認められた.一方下顎では,歯の舌側転位による歯列不正が認められ,上下顎の咬合状態は前歯部開咬状態であった.パノラマおよびデンタルエックス線写真所見から永久歯の先天性欠如が認められ,今後成長発育に沿った処置を行っていく必要があるものと考えられた.
  • 南 一惠, 森崎 市治郎
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1124-1130
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    男子小学生(初診時8歳10か月)が,左右後臼歯頬粘膜の穿孔,疼痛を主訴として来院した.現病歴は,約2か月前萌出中の第一大臼歯で,左後臼歯部頬粘膜を咬んで潰瘍をつくり,その後習慣的に下顎を左右に動かすようになった.両側に穿孔性の潰瘍ができ,疼痛と感染のため栄養不良状態が続き,1か月以上の入院となるが完治には至らず,退院後も疼痛を訴え,鎮痛薬常用の状態で当部に紹介された.
    上顎に咬合挙上板を装着して,潰瘍は軽快し食欲も回復して,一旦は平常どおりの生活にもどった.しかし装置をはずすと,舌尖,舌縁,下口唇とつぎつぎと咬傷,潰瘍をつくり,救急来院を繰り返した.右側頬粘膜を咬んで感染し,発熱・右顔面腫脹・脱水症状を来たして,抗生物質と栄養剤の点滴静注と,即日マウスガードの装着によって入院を免れたこともあった.
    本症例に知的障害や不随意運動はないが,歯の交換に伴う問題として発生した咬傷が,習慣性の自傷的行為として固定化し,全身症状にまで波及することとなったと推察される.症状を繰り返しながらも10か月余りの通院で症状が消失したため,この自傷的行為の背景にあると考えられる情緒・心因性障害については,本人,家族およびわれわれにとっても未解決のままである.また歯の交換期の頬粘膜咬傷に,咬合挙上板やマウスガードを応用するときには,顎骨の成長や歯の交換を妨げないよう注意すべきことが示唆された.
  • 三輪 全三, 引田 香苗, 榎本 万里子, 斎藤 亮, 飯島 英世, 小野 芳明, 小野 博志
    1995 年 33 巻 5 号 p. 1131-1138
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    第1第2鰓弓症候群は,広義には胎生期に同部位に由来して発生する器官,組織の奇形を有する先天性疾患の総称であるが,これに含まれるTreacher Collins症候群やGoldenhar症候群などの類似疾患とは臨床像が若干異なることから,狭義の第1第2鰓弓症候群としても取り扱われる.今回,著者らは東京医科歯科大学歯学部付属病院小児歯科外来を訪れた,同症例と診断されている7歳1か月女児の顎顔面の形態および機能について調べた結果以下の所見を得た.
    1)顎顔面形態の左右非対称
    2)下顎骨低形成による過蓋咬合と遠心位咬合(鳥貌)
    3)左側外耳道閉鎖と耳介奇形,副耳,伝音性難聴
    4)エックス線写真上での左下顎枝の完全欠如と咀嚼筋群の一部欠如
    5)左側咀嚼筋(側頭筋および咬筋)筋電図の不活動性と不規則性
    6)顎運動路の左側への牽引と大きな後退量
    今後の治療として患側(左)の顎関節と下顎枝の再建,咬合の再構築などを患児の成長発育や心理面を考慮し,他科との連係で適時に行なう必要がある.
  • 1995 年 33 巻 5 号 p. 1141a-
    発行日: 1995年
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
  • 1995 年 33 巻 5 号 p. 1141b-
    発行日: 1995年
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
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