歯学教育モデル・コア・カリキュラム〈平成28年度改訂版〉では,実践的臨床能力を有する歯科医師を養成することが求められ,さらに歯学教育モデル・コア・カリキュラム〈令和4年度改訂版〉では,「未来の社会や地域を見据え,多様な場や人をつなぎ活躍できる医療人の養成」が求められている。このような歯学教育の進展に伴い,問題解決能力や対人関係能力を育成することが必須となり,アクティブラーニングを軸とした教育への転換が求められている。そこで,われわれは平成30年度から小児歯科学基礎実習について問題基盤型学習の手法を取り入れた実習に移行するために顎模型,実習書,実習内容の見直しを行った。受講学生に対しアンケート調査ならびにプレテスト,ポストテストを実施し,その結果について検討した。アンケート調査より基礎実習の経験が,臨床分野への関心やモチベーションの維持・向上に繋がる可能性があること,基礎実習開始前に多くの学生が実習に対し不安をもっているが,教員とのコミュニケーションや技能の熟達により不安が軽減することなどが判明した。また,自己学修型の演習を取り込んだ実習を行うことで実習内容の理解度が増し,シミュレーション実習を行うことで患児や保護者の立場を理解することが示唆された。本調査の結果から,基礎実習の内容や教授方法を工夫することで,学生の知識・技能・態度の面で良好な結果を得られることが推察されたため,今後さらに実習内容の充実に取り組んでいきたいと考えている。
当院小児摂食嚥下外来では,成長期において摂食嚥下に関わる遅れや異常を認める小児を対象に,食についての支援を行っている。今回,当院小児歯科を受診中の患児で,過去7年4か月間(平成27年4月1日から令和4年7月31日)に当外来を受診した患児45名(男児28名,女児17名)について,初診時の調査と集計を行った。
初診時年齢は0歳6か月~11歳5か月で,平均3歳8か月であった。1~3歳で全体の67%を占めた。出産時期は正期産22名,早産16名(極早産6名,超早産7名を含む)であった。生下時体重は2,500 g以上25名,2,500 g未満19名(1,500 g未満4名,1,000 g未満8名を含む)であった。運動発達は14名に粗大運動の発達遅延を認めた。疾患の種類はDown症候群が11名で最多,ついで自閉スペクトラム症7名等であった。紹介元は当院小児科からが最多で15名であった。主訴は咀嚼の不足(丸呑みを含む)が最多で14名,飲み込むのが苦手8名,固形物が苦手7名等であった。栄養摂取方法は経口摂取のみが27名で最多,次いで経口摂取と哺乳が10名,経管栄養が必要な患児は5名であった。今後は,将来的に摂食嚥下の問題が生じる可能性のある小児については,摂食嚥下の支援ができる医療機関への低年齢からの受診の重要性を発信しつつ,医科・歯科・地域等と連携しながら,摂食嚥下に関する支援の継続が大切であると考えられた。
2019年12月からなる新型コロナウイルス感染症の流行に伴い,以前より一部医科で行われていたオンライン診療が緩和された。歯科の臨床行為は,齲蝕処置のように施設で患者に直接処置を施すことが主であるが,発達過程において正常な口腔機能獲得ができていない小児や,加齢などにより口腔機能が低下した高齢者に対する機能獲得もしくは回復に向けた歯科医師による管理指導のニーズが高まっている。そこで本研究は,「口腔機能発達不全症」の一つに該当する口唇閉鎖不全に対する口腔機能改善指導をオンライン診療で行うことで,歯科におけるオンライン診療の有用性について明らかにすることを目的とした。
対象は,アンケートに同意が得られた「口腔機能発達不全症」に該当し,口唇閉鎖不全を有する患児の保護者とした。なお患児および保護者には,歯科医院内で1回以上の口腔機能改善指導を行い,自宅で行う機能訓練を練習した。アンケートの回答は,無記名としGoogle Forms上で行った。
今回行われた口腔機能改善指導のオンライン診療評価は,保護者が4.7(5段階中),歯科医師は3.7(5段階中)で,特に患者側で高い評価を得たため,オンライン診療は患者に需要があることが示唆された。口腔機能発達不全症のオンライン診療は,自宅にて歯科医師に直接指導を受けることができるため,保護者の負担を軽減し患児のモチベーション向上に寄与することが示唆された。
外胚葉異形成症は先天的に外胚葉組織に形成異常を認める疾患の総称であり,代表的な口腔内の症状として,歯の先天欠如,形態異常が挙げられる。今回われわれは,外胚葉異形成症の10歳男児において,腫脹の原因発見および治療計画の立案において,CBCTが有効であった1例を経験したので報告する。
10歳1か月時,上顎左側中切歯根尖付近に瘻孔を認め,その治療を希望された。パノラマエックス線画像から未萌出の上顎左側犬歯による乳犬歯の歯根吸収の可能性を考えた。側切歯が先天性欠如で,乳犬歯の歯根長が十分であった。そのため保存を試みる必要があると考え,CBCTを撮影した。歯根吸収は認めなかったが,上顎左側中切歯に根尖病巣,切縁部に至る歯髄腔の突出を2か所認めた。切縁部からの露髄も確認でき,歯髄形態を考慮した感染根管治療を行った。症状改善後,アペキシフィケーションと歯冠修復を行った。
CBCTにより,複雑な歯髄形態を把握することができた。適切な感染根管治療を実施できたため,根尖病巣が消退したと考えられる。今回萌出により咬合接触が得られるようになった時期と瘻孔の出現時期が近いことから,菲薄化していたエナメル質が咬合で剥離したことによって,露髄し感染を起こしたと考えられた。前歯部形態不良を認める外胚葉異形成症患者では,歯の形態異常に伴って歯髄形態の異常が認められる場合がある。そのため,将来的に咬合接触が予想される突出部を有する場合は,口腔内所見,デンタルエックス線画像,パノラマエックス線画像に加え,歯科用コーンビームCTを撮影し,その歯髄形態に異常がないかを確認することが有用であると示唆された。