小児歯科学雑誌
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最新号
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原著
  • 番匠谷 綾子, 鈴木 淳司
    原稿種別: 原著
    2024 年62 巻3 号 p. 63-69
    発行日: 2024/11/25
    公開日: 2025/11/25
    ジャーナル フリー

    近年,小児在宅・訪問歯科診療の必要性が認知されつつあるが,実際の受診患児数は少なく,他職種との連携も十分ではない。本研究では,当院における小児在宅・訪問歯科診療の実態を調査し,その有用性と課題について検討した。対象は2019年5月から2023年9月までの間に当院の小児在宅・訪問歯科診療を受けた患児52名とし,診療録に基づいて患児背景,診療内容,転帰について後方視的に検討した。52名のうち,初診時年齢2歳以下が33名,超重症児・準超重症児が21名,歩行不可が33名,医療的ケア児が40名であった。小児在宅・訪問歯科診療の依頼ルートの多くは訪問看護師からの紹介であり,保護者の受診契機の多くは訪問看護師からの受診勧奨であった。在宅・訪問診療内容は,口腔衛生管理や齲蝕予防,乳歯の抜去や削合など多岐に渡っていた。転帰は,42名が当院の定期受診を継続し,そのうち31名は訪問継続,11名は通院移行であった。

    今後,小児在宅・訪問歯科診療を推進していくためには,他職種との連携システム構築や,歯科医療従事者間の知識と技術の共有が必要不可欠であると考えられた。また,今回の小児在宅・訪問歯科診療において歯科疾患の予防や永久歯への交換など,成長発育を伴う小児期特有の専門性が求められる処置も多かった。このことから小児歯科専門医が地域での小児在宅・訪問歯科診療の中心的な役割を担うことが期待される。

  • 吉岡(永井) 香絵, 森川 和政, 有吉 渉
    原稿種別: 原著
    2024 年62 巻3 号 p. 70-76
    発行日: 2024/11/25
    公開日: 2025/11/25
    ジャーナル フリー

    口腔マイクロバイオームは時間の経過とともにその組成が大幅に変化し,幼児期に定着する口腔マイクロバイオームはわずかであることが報告されている。そこで,本研究は,子供とその主な養育者である母親8組を対象とし,小児期における子供と母親の口腔環境の相互影響に関する要因の検討を行った。16S rDNA-クローンライブラリー法にて口腔細菌叢の解析を行ったところ,子供,母親ともにStreptococcus属が最も高い割合で検出され,Streptococcus属,Veillonella属,Fusobacterium属,Schaalia属は子供と母親ともに対象者全員から検出された。検出されたそれぞれの細菌の属について,子供と母親の口腔内の細菌の属の存在率を比較するためにMann-WhitneyのU検定を行ったところ,子供と母親で存在率に有意な差はみられなかった。さらに,検出された子供の口腔細菌の属を目的変数,子供および母親の年齢,子供の性別,分娩様式,母親の口腔細菌の属,母親のDMFT指数,子供および母親の1日の歯磨きの回数を説明変数として単回帰分析を行った。検出された口腔細菌の属のうち,Rothia属に関して,子供の口腔内のRothia属の存在率に,母親のDMFT指数が有意に影響を与える因子であることが示唆された。

  • 村上 史子, 川戸 貴行, 白川 哲夫
    原稿種別: 原著
    2024 年62 巻3 号 p. 77-86
    発行日: 2024/11/25
    公開日: 2025/11/25
    ジャーナル フリー

    乳歯列期の歯列弓幅径と長径,ならびに不正咬合の頻度を明らかにする目的で,2013年から2018年に保育所に在籍した3歳0か月から6歳6か月の小児1,702名の歯列模型を分析して以下の結果を得た。

    1.歯列弓幅径では,計測した4箇所(乳犬歯咬頭頂間,乳犬歯舌側歯頸部最下点間,第一乳臼歯間,第二乳臼歯間)について,上下顎ともほぼ全ての比較で女児よりも男児が有意に大きかった。

    2.日本小児歯科学会による「3歳児歯科健康診断における不正咬合の判定基準」に基づく不正咬合の頻度は,叢生が全ての年齢で最も割合が高く,次いで反対咬合の割合が高かった。増齢とともに上顎前突と開咬の頻度は低下し,過蓋咬合の頻度は上昇傾向を示した。

    3.叢生歯列と不正咬合の所見のない正常歯列で歯列弓幅径を比較したところ,男児,女児ともに正常歯列の幅径が複数の計測箇所で有意に大きかった。歯列弓長径は,上顎は男女とも両歯列間に有意差はなく,下顎は男女を合わせた計測値が正常歯列で有意に大きかった。

    4.乳中切歯と乳側切歯の歯冠幅径は,上下顎とも正常歯列に比べ叢生歯列で有意に大きかった。また前歯部の被蓋は,3歳,4歳および5歳において正常歯列に比べて叢生歯列で有意に深かった。

    以上により最近の小児の乳歯列弓の大きさと咬合の特徴が明らかとなり,歯列弓幅径と被蓋の深さ,および歯冠幅径が叢生に関係する可能性が示された。

  • 岡峯 愛海, 得津 かおり, 浅尾 友里愛, 臼田 桃子, 太刀掛 銘子, 岩本 優子, 野村 良太, 光畑 智恵子
    原稿種別: 原著
    2024 年62 巻3 号 p. 87-93
    発行日: 2024/11/25
    公開日: 2025/11/25
    ジャーナル フリー

    広島市内の小児・矯正歯科医院を初めて受診した低年齢患児の保護者へのアンケート調査の結果を分析し,調査結果と齲蝕との関連性について検討を行った。また,2015年前後(2014年12月~2015年5月;以下,2015年群)と2023年前後(2022年12月~2024年2月;以下,2023年群)の調査結果を比較することで,最近の傾向ならびにコロナ禍を介した約8年間での保護者の口腔に対する意識や家庭での対応の変化についても明らかにすることを目的に調査を行い,以下の結果を得た。

    1.2015年群の齲蝕有病者は28名で,有病者率は26.4%,2022年群では齲蝕有病者は15名で,有病者率は15%だった。年齢区分別の齲蝕有病者率は両年群で同傾向であった。2023年群では全ての年齢区分で減少していたが,有意な減少ではなかった。

    2.保育園への通園児は2015年群では24.5%,2023群では44.0%となり,有意な増加を認め,1歳6か月以上の授乳の継続については,2015年群では37.0%,2023年群では19.2%となり有意な減少を認めた。

    3.おやつについて規則的に摂取しているものは2015年群に比べ2023年群で増加していたが,甘味菓子の摂取は2023年群でより低年齢児からの摂取がみられ,どの年齢区分でも増加していた。甘味飲料についても同様な傾向を示した。

    4.フッ化物の使用は,2015年群に比べ2023年群で増加傾向にあった。

    5.両年群とも「甘味菓子」「甘味菓子と甘味飲料」摂取児に齲蝕有病者が有意に多かった。

  • 伊藤 龍朗, 太田 雪菜, 指田 もも子, 富本 菜月, 皆川 莉那, 清水 武彦
    原稿種別: 原著
    2024 年62 巻3 号 p. 94-103
    発行日: 2024/11/25
    公開日: 2025/11/25
    ジャーナル フリー

    小児齲蝕とCandida albicansおよび母子感染との関連は国内外を問わず報告されている。本研究では,一口腔の現状を把握できる「齲蝕重症度」で患児を分類し,日本人母子のC. albicansの保有状況と,養育者が関与し得る要因(食事,習慣,母親の齲蝕罹患経験)との関連を評価した。対象は乳歯列完成期から混合歯列期の患児(男児50名,女児30名,平均年齢5歳1か月)とその母親の計80組とした。その結果,C. albicans検出児の7割が齲蝕重症度分類の重度に該当し,齲蝕重症度が増すほど,母子の双方でC. albicansStreptococcus mutansの菌数が増加していた。また6か月以内に齲蝕を再発した小児全員がC. albicansに感染していた。重度該当児はC. albicansの菌数が多く,母親のDMF歯数が多い傾向がみられた。C. albicansの遺伝子型は母子で同様の分布を示し,A型が約6割,D型が約2割を占めた。

    このように,C. albicansS. mutansとともに小児齲蝕の発症,重症化および再発に関与する可能性があり,母親の微生物プロファイルや齲蝕罹患状態との関連が認められた。以上より,小児齲蝕の微生物学的リスク要因としてC. albicansも考慮に入れたうえで,母親を含む養育者を対象とした健康教育や口腔ケアに改めて取り組む重要性が示唆された。

症例報告
  • 根本(山本) 晴子, 小口 恭德, 秋鹿 ゆい, 石川 友里香, 皆川 莉那, 小川 京, 田嶋 華子, 清水 武彦
    原稿種別: 症例報告
    2024 年62 巻3 号 p. 104-110
    発行日: 2024/11/25
    公開日: 2025/11/25
    ジャーナル フリー

    低ホスファターゼ症は,乳歯早期脱落を特徴とし,骨の形成不全,歩行障害,骨痛などの症状を認める歯や骨の石灰化障害をきたす遺伝子疾患である。低ホスファターゼ症の症状と類似した疾患に,くる病がある。くる病は,カルシウム,リンの代謝異常を特徴とする骨系統疾患である。

    今回われわれは,初診時に乳歯早期脱落既往を聴取し,下肢痛を訴えていたことから低ホスファターゼ症を疑い,医科にて精査した結果,ビタミンD欠乏性くる病の疑いと診断した症例を経験したので報告する。

    患児は,上顎右側側切歯の萌出遅延を主訴に本院初診を受診した。その際,3歳頃に乳歯早期脱落既往があった旨を,低ホスファターゼ症を心配した保護者から聴取した。乳歯早期脱落既往と下肢痛から,低ホスファターゼ症を疑い,医科にて精査を施行した。その結果,ビタミンDの充足の指標となる血中25水酸化ビタミンD濃度の低値,膝関節単純エックス線の所見と骨痛から,ビタミンD欠乏性くる病の疑いと診断,ビタミンD補充治療を施行した。補充治療開始後,歯科にて発育不全の上顎右側側切歯の歯胚摘出の処置を行った。歯科来院時には,下肢痛および腰痛は減弱した。今後,このような全身疾患をもつ患児が適切な治療を受けられるよう,小児歯科と医科との連携の重要であることが示唆された。

  • 棚瀬 精三, 棚瀬 康介
    原稿種別: 症例報告
    2024 年62 巻3 号 p. 111-117
    発行日: 2024/11/25
    公開日: 2025/11/25
    ジャーナル フリー

    著者らは3歳11か月の女児で下顎左側第二乳臼歯が未萌出の症例を経験した。エックス線画像から下顎左側第二乳臼歯は近心隅角部のみ骨内萌出を認め,咬合面上には石灰化硬組織を認めた。下顎左側第二乳臼歯の歯根は未完成であった。4歳7か月時,下顎左側第二乳臼歯の近心咬合面の萌出を認めた。その後,5歳3か月時,石灰化硬組織は遠心位に移動し,下顎左側第二乳臼歯の咬合面全体の萌出がみられた。石灰化硬組織に歯根形成を認めたため,歯牙様硬組織とした。5歳9か月時,CT画像撮影を行った。歯牙様硬組織は舌側に位置し,歯冠遠心隣接面は第一大臼歯の歯冠近心舌側面と,根尖は第二乳臼歯歯根との近接が認められた。歯根には彎曲が認められた。歯牙様硬組織による第一大臼歯の萌出障害が懸念されたため摘出を試みた。しかし,歯冠部は鉗子で把持できるものの,スムーズな摘出は困難で,第一大臼歯歯胚および第二乳臼歯の歯根の損傷を起こすことが懸念されたため,摘出は断念した。その後,経年的にレントゲン写真撮影を行ったが,下顎左側第二小臼歯の歯胚形成は認められなかった。12歳10か月時に下顎左側第二乳臼歯遠心側の舌側歯槽部から歯牙様硬組織の萌出を認めたため,浸潤麻酔下で摘出を行った。歯牙様硬組織の色調と形態から,臨床的に過剰歯と診断した。過剰歯の摘出から約1年経過時,下顎左側第二乳臼歯の歯根は若干の吸収を認めるが,咬合機能を果たしている。

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