少子化の現代には子どもの相対的価値が高まり,多くの保護者は質の高い歯科治療を求めており,小児中心の歯科医院の潜在的需要は多いと推測される。小児歯科専門医は保護者の要望に応えられる知識と技能を兼ね備えた存在として広く社会に認知されるべき存在であるが,現実には「子どもの歯科治療は小児歯科専門医が行う事が望ましい」ということが国民のコンセンサスには成り得ていない。小児歯科医療制度の充実のために必要な方策を考えるために,現在小児歯科専門医に通院している患者の保護者にアンケートを実施して,専門医に対する意識を調査し,以下の結論を得た。
1 .回答者全体の83%が,我が子を小児の「専門医」に診てもらいたいと回答した。
2 .現在受診している歯科医師が小児歯科専門医であることの認識率は60%であった。
3 .当該医院の受診理由として「小児歯科専門医だから」を選んだ方は34%であった。
4 .専門医と標榜医の違いを理解しているとの回答は7.5%に留まった。
5 .本結果は,専門医に診てもらいたいとの希望は多いが,「小児歯科専門医」の価値,魅力が患者側に明確には認知されていないことを示唆した。
6 .今後,小児歯科専門医の存在とその価値をアピールするとともに,その付加価値を拡大する研究,情報共有による小児歯科専門医全体の底上げを通して,専門医に掛かれば質の高い医療を受けられることが 国民のコンセンサスとなるように努力する必要がある。
歯列模型の分析は歯科領域の研究および臨床において必要不可欠なものである。鶴見大学歯学部小児歯科学講座では三次元測定装置としてR700 3D Scanner for Orthodontics(3 Shape. Inc Poland 以下,R700)の使用を予定しているが,その精度に関しては客観的な報告がない。また,同装置を使用した仮想空間上における実際の模型測定の精度に対する報告もない。そこで同装置の精度や指示点の指示に対する精度,そして実際の歯列模型測定時における精度を調べるため,ゲージブロック,精度測定用歯列模型および実際の歯列模型を資料とし,各々を測定したところ,以下の結果を得た。
1 .R700 の精度は,全ての軸方向においてその平均の最大値が0.02 mm であり,公称精度を保っていた。
2 .精度測定用歯列模型とその陰型の上顎右側乳犬歯咬頭頂の三次元座標の平均値の差は全ての軸方向において最大0.02 mm 程度であったが,その偏差は陰型の方が有意に小さかった。
3 .実際の歯列模型ならびにその仮想歯列模型に対し,大坪らの計測基準に準じた8 部位を測定した結果,最大誤差は0.52 mm,誤差平均は0.22 mm であった。
このように,R700 の測定精度は良好な結果を示した。また,実際の歯列模型における測定精度は0.2 mm 程度を想定する必要があることが示唆された。また,仮想空間上で測定を行うことにより,より簡便かつ高精度で安定した結果が得られる可能性が示唆された。
臨床前模型実習での評価方法の検討を目的に,教員が行った採点と三次元レーザー形態計測センサーによる窩洞・支台歯形成技能評価についての比較,および学生へのアンケート結果から,下記の結果を得た。
1 .教員評価は,6 項目中平均合格項目数は4.2 項目であった。また,評価項目ごとの合否の結果にはばらつきがみられた。
2 .機械評価は,60 点以上群と60 点未満群でその分布が異なっていた。
3 .項目別評価の学生1 人あたりの合格項目数は,機械評価60 点以上群と60 点未満群とでは差が認められなかった。また,重回帰分析の結果からは両群ともに関連している項目はなかった。
4 .学生のアンケートからは,「機械の採点と教員の採点の両方とも良い」,「機械の採点の公平性が高い」,「教員の採点のほうがわかりやすい」という意見に加え,「教員の採点と機械の採点の違いに混乱した」という意見があった。
今回の結果から,機械による評価と教員による評価は異なっていた。しかし,機械の採点と教員の採点に差を感じない学生が半数いることや,模範窩洞と自分の形成した窩洞を横に並べた画像を提供することがわかりやすいという意見が多かったことから,今後はソフトによる採点方法の検討とともに学生にわかりやすい採点結果のフィードバックが必要と考えられた。
近年,シミュレーション教育は歯学教育に広く取り入られているが,その実施には質の高いシミュレーション課題,教材の蓄積が不可欠である。学修者ができるだけ多くの症例を体験できるような環境作りを構築するためには,課題作成とその検討が必要である。今回,小児歯科臨床で高頻度に遭遇する症例の患児 ・保護者シナリオを作成し,同意を得られた研修歯科医を対象としてロールプレイを実施し,その様子をビデオで録画した。終了後のフィードバックとアンケートから,テーマに対する学修者の準備状況の確認や,実施前にわかり易くシナリオを提示することが重要であると考えられた。またフィードバックでは,指導者は評価のみを行うのではなく,学修者自らが気づけるようなフィードバックを心がけることで失敗を学びに変え,何を学んだかを学修者自身がまとめることが重要であると考えられた。ビデオによるフィードバックは簡便でかつ反復利用が可能であり,学修者の気づきを促し,指導者,学修者,模擬患者,その他の参加者全員で気づきを共有できる方法であることが確認できた。
家庭における子どもの歯科保健に対する保護者の意識とその実態について把握し,今後の保健指導に活用することを目的として,幼稚園に通う3 歳~6 歳の園児の保護者を対象に,子どもの歯科保健に対する意識調査を行い,以下の結果を得た。
1 .齲蝕予防において歯磨き以外に気をつけていることは,父母ともに「定期検診」が最も多く,その重要性は広く認識されていたが,父親では「なし」も多かった。
2 .母親の95.2%,父親の56.8%が仕上げ磨きを行っており,全体からは少数であるものの母親が働いている場合,父親が仕上げ磨きを行っている割合は高かった。また,父親の多くは「なんとなく」仕上げ磨きを行っていた。
3 .子どもの口腔内への興味は,父母ともに「むし歯」が最も多く,次いで「歯並びや咬み合わせ」であった。
4 .参加している育児項目において「仕上げ磨き」は父母ともに頻度の高いものであった。
今回,子どもの歯科保健に対する幼稚園児の保護者の意識を,父母別々にその違いについて把握できたことは,今後の口腔衛生指導につながる意義のあるものであった。育児の主体が母親から両親へと移行してきているなか,父親の子どもの口腔内への関心は,母親に比べ低かった。今後,父親にも積極的に子どもの定期検診に来てもらい,仕上げ磨きに参加してもらえるよう,かかりつけ歯科医院での検診方法や口腔衛生指導も,提案していく必要が示唆された。
ⅢA 期の小児40 名の下顎石膏模型とトモシンセシスパノラマエックス線(TSPX)写真を使った混合歯列分析を行なった。小野の回帰方程式を使った石膏模型のみの混合歯列分析(A 法)と,石膏模型とTSPX 写真を併用した混合歯列分析(B 法)の左右全体の歯列空隙の平均値に有意差を認めなかった。 TSPX 写真の測定値のみを使用して,B 法の歯列空隙を予想する単回帰方程式(E 法,F 法)と重回帰方程式(G 法)を作成した。各方法の歯列空隙とも平均値ではA 法との有意差を認めなかった。leaveoneout 交差検証法を使って,E 法,F 法,G 法の検証結果の歯列空隙とB 法の歯列空隙との平均絶対誤差を比較した。F 法の左右全体の歯列空隙の平均絶対誤差0.735 mm が最も小さかった。重回帰方程式を使ったG 法の左右全体の歯列空隙の平均絶対誤差は1.055 mm であり,TSPX 写真の左右歯列周長と全ての前歯・側方歯の永久歯幅径を計測したE 法との平均絶対誤差と同程度であった。ゆえに,計測箇所をTSPX 画像の6 項目に軽減できるG 法が,チェアサイドでのスクリーニング検査法として適切であると考えられる。
本邦において,小児における白斑出現頻度の調査は少なく,その実態は不明である。本研究は,平成 26 年7 月22 日から8 月30 日の間に本学附属病院小児歯科を受診した小児患者1130 名に対して,白斑罹患の実態を調査した。上下顎前歯,および犬歯唇側面の白斑の有無を視診にて判定し,歯の外傷の既往歴,並びにその他特記事項についても調査し以下の結論を得た。
1 .乳歯列期では対象者の12.9%(19/147 人)に白斑を認め,上顎での白斑出現率は下顎よりも有意に高かった。
2 .混合歯列期では対象者607 人のうち168 人に白斑を認めた。168 人のうち乳歯のみに白斑を認めた者は 19 人(3.1%,19/607 人),永久歯のみに白斑を認めた者は138 人(22.7%,138/607 人),乳歯と永久歯どちらにも白斑を認めた者は11 人(1.8%,11/607 人)であった。上顎両側中切歯の白斑出現率は,他部位に比較して有意に高かった。
3 .永久歯列期では対象者の23.9%(90/376 人)に白斑を認め,上顎前歯部の白斑出現率は他部位に比較して有意に高かった。
4 .乳歯歯頸部に白斑を有する者の割合は,混合歯列期に比べて乳歯列期の方が有意に高い値であった。一方,永久歯歯頸部に白斑を有する者の割合は,混合歯列期と永久歯列期で有意差は認めなかった。
5 .乳歯外傷が原因と考えられる永久歯の白斑が,混合歯列期で14.3%,永久歯列期では10.0%認められた。
以上より,乳歯列期からの継続的な口腔衛生指導,齲蝕予防処置と共に,幼若永久歯の白斑病変への積極的な対応が必要であることが示唆された。
乳歯の埋伏は稀であり,その中でも乳切歯の埋伏は非常に稀であり,報告されている症例数も限られている。永久前歯の埋伏はその原因が比較的特定しやすく,先行乳歯の外傷や根尖病巣がその後継永久歯の歯胚に影響を及ぼし,萌出方向を変えてしまったり,病巣を回避してしまったりすることによって,生じることが多い。しかしながら乳歯については不確定要素が多く,外傷の既往の有無,あるいは外傷による外力が未萌出の乳歯歯胚の位置や方向に影響を与えうるのかということについても明確に結論付けることが困難である。また,乳切歯の埋伏は抜歯した後も,保隙の問題,後継永久歯の萌出の異常などを伴う事が多く,永久歯列に与える影響が少なくない。本症例報告では,上顎左側乳中切歯の水平埋伏により永久歯歯胚の位置異常をきたし,歯列に影響を与えた症例について,過去の報告と比較しながら原因について考察し,対応法を含めた検討を行った。