小児歯科学雑誌
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59 巻, 3 号
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原著
  • 近藤 亜子, 岡野 哲, 津金 裕子, 飯沼 光生, 犬塚 勝昭, 土岐 志麻, 石通 宏行, 岡 暁子, 倉重 圭史, 桒原 康生, 佐野 ...
    原稿種別: 原著
    2021 年 59 巻 3 号 p. 107-116
    発行日: 2021/11/25
    公開日: 2022/11/25
    ジャーナル 認証あり

    わが国における舌小帯異常の発生頻度は,報告によって大きな開きがある。そこで,発現頻度,年齢間の比較,形態的異常と機能的問題との相関について検討することを目的として,全国的に4~6歳の小児2,886名を対象として実態調査を行い,以下の結果を得た。

    1.舌小帯は,長さが1 cm未満および舌尖部の形態がハート型になる小児の割合が約10%であり,2 mm以上肥厚している割合は約3%,中程度(1~2 mm)は約25%であった。また,年齢間で差は認められなかった。

    2.舌の前方,側方および垂直運動で問題が認められた小児は,形態的な異常と同程度で,ポッピングや構音の不明瞭者は約30%であった。また,機能的項目については,年齢間で相関が認められ,年齢が増すごとに舌の可動域が大きくなり,指示通りに動かすことができた。

    3.舌小帯の形態と機能との間には相関が認められ,長さや舌尖の形態は前方,側方および垂直運動での機能的な問題と関連が強かった。

    4.下顎の正中離開や咬合関係は,舌小帯の形態的および機能的な問題との関連性は非常に弱かった。

  • 豊田 有希, 飯田 愛理, 澤田 武蔵, 髙崎 千尋, 大島 昇平, 吉原 俊博, 八若 保孝
    原稿種別: 原著
    2021 年 59 巻 3 号 p. 117-124
    発行日: 2021/11/25
    公開日: 2022/11/25
    ジャーナル 認証あり

    薬剤耐性(antimicrobial resistance:AMR)が国際的な問題となっている。わが国では2016年にAMR対策アクションプランが制定され,医療機関には抗菌薬の使用動向の把握と適正使用の推進が求められている。医科においては,適正使用のための手引き,診療報酬制度,使用動向調査システムの開発が進んでいるが,歯科においては,抗菌薬の不必要な使用の状況や頻度についての検討が十分に行われていないと指摘を受けている。今回,全国の歯科大学・歯学部附属病院小児歯科外来における経口抗菌薬の使用状況を調査した。

    対象は2015年4月1日~2018年3月31日に,参加18病院の小児歯科外来を受診し経口抗菌薬を処方された1歳以上16歳未満の患者とした。抗菌薬名,処方当日の処置内容,16歳未満受診者延べ数について集計した。さらに,処方時の詳細な内容(用量用法,病名)について,参加病院に対し任意での調査を依頼した。使用日数からdays of therapy(DOT)を,病名から使用理由を集計した。

    本研究の結果から,小児歯科外来において広域の経口抗菌薬である第3世代セフェム系の使用が減少し,それに代わってペニシリン系の使用が増加している傾向が示された。しかし,抗菌薬の総使用量は減少していなかった。抗菌薬の使用理由としては歯性感染症治療が最も多く,次に術後感染予防が続き,その2つが8割強を占めていた。

症例報告
  • 小川 奈保, 岡田 裕莉恵, 秋鹿 ゆい, 海老原 春花, 加藤 早紀, 清水 邦彦, 清水 武彦
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 59 巻 3 号 p. 125-130
    発行日: 2021/11/25
    公開日: 2022/11/25
    ジャーナル 認証あり

    乳歯の埋伏は永久歯の埋伏に比べ,発現頻度は低いとされる。その中でも乳歯埋伏歯のほとんどは第二乳臼歯とされ,下顎第一乳臼歯は稀有である。今回,4歳男児の歯牙腫による第一小臼歯歯胚の位置異常を伴った第一乳臼歯埋伏の症例を経験したので報告する。

    埋伏した下顎左側第一乳臼歯歯胚上部にある歯牙腫を局所麻酔下にて摘出後,下顎左側第一乳臼歯の牽引を行った。2年後に,下顎第一乳臼歯は咬合位に達し,位置異常を生じていた下顎左側第一小臼歯歯胚が本来の位置に移動する傾向が確認できた。術後7年1か月後に,下顎左側第一小臼歯は咬合平面近くまで萌出した。乳歯埋伏は頻度が低いものの,後継永久歯の正常な発育を考慮し,埋伏乳歯の早期発見,治療が重要であることが示唆された。また位置異常を生じた後継永久歯の長期的な管理が正常な永久歯列の発育にとって重要であることが示唆された。

  • 栗田 沙由梨, 田中 聖至, 三瓶 伸也, 上津 豪洋, 藤生 桃, 下村-黒木 淳子
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 59 巻 3 号 p. 131-139
    発行日: 2021/11/25
    公開日: 2022/11/25
    ジャーナル 認証あり

    今回著者らは,上顎左側乳犬歯が歯牙腫により萌出障害をきたした症例を経験した。患児は3歳児歯科健康診査にて上顎左側乳犬歯の未萌出を指摘され近医を受診し,4歳0か月時に当科への紹介に至った。4歳0か月時に近医で撮影されたパノラマエックス線写真にて,埋伏した上顎左側乳犬歯と,乳犬歯尖頭付近の不透過像が認められた。4歳2か月時に全身麻酔下にて検体1(臨床診断:歯牙腫)と検体2(臨床診断:嚢胞様組織)の摘出を行った。摘出物は病理組織検査にて検体1が複雑性歯牙腫,検体2が集合性歯牙腫であると診断された。4歳3か月時に上顎左側乳犬歯の萌出を認めたが,萌出位置が低位であり,歯列内への自然萌出は困難であると判断したため,牽引を開始した。牽引には,フック付きリンガルアーチとFMスーパースレッド®を用いた。牽引開始から11か月後,歯列内への誘導を認めたため装置の撤去を行い,その後は1か月間隔で経過観察を行った。5歳4か月時に上顎左側乳犬歯歯根の外部吸収が認められた。咬合紙による咬合診査を行ったところ,早期接触を認めたため,早期接触の除去を目的とした咬合調整を行った。その後,外部吸収の急激な進行は認められなかったが,7歳4か月時に脱落し,9歳1か月時に上顎左側犬歯が萌出を開始した。上顎左側犬歯は唇側低位の位置に萌出しており,今後さらに咬合誘導を行う必要があると考えられる。

  • 大木 調, 岡 暁子, 藤池 美保子, 阿部 亜美, 板家 智, 橋村 隆, 吉本 尚平, 岡村 和彦, 馬場 篤子, 尾崎 正雄
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 59 巻 3 号 p. 140-147
    発行日: 2021/11/25
    公開日: 2022/11/25
    ジャーナル 認証あり

    下顎左側第二乳臼歯の埋伏を主訴として来院した6歳の男児に対し,パノラマエックス線写真撮影および歯科用コーンビームCT撮影を行った。第二乳臼歯は,著しく歯軸を遠心傾斜させて埋伏しており,歯冠部周囲に顎骨内病変が認められた。放射線学的観察では,病変は単房性でエナメル質様硬組織の小塊を内包しており,埋伏している下顎左側第二乳臼歯の歯嚢とは連続していなかった。また後継永久歯である下顎左側第二小臼歯歯胚が確認されなかった。臨床学的な検索から,下顎左側第二乳臼歯部の歯牙腫とそれに伴う第二乳臼歯の埋伏と診断した。局所麻酔下において歯牙腫を摘出し,周囲組織を生検組織として採取した。下顎左側第二乳臼歯は歯冠周囲の歯嚢を除去し粘膜開窓の状態で温存した。下顎左側第二乳臼歯開窓部の保持と下顎左側第一大臼歯の近心傾斜を防止することを目的として創部にレジン床を装着した。

    歯牙腫摘出から1年半後,温存した下顎左側第二乳臼歯に自発的な歯軸の改善が観察されたため,萌出スペースを得る目的で下顎左側第一大臼歯の近心傾斜に対する咬合誘導を開始し,下顎左側第二乳臼歯を下顎歯列弓内へと配列した。

    本症例の4年以上にわたる治療経過と歯牙腫周囲の病理組織像についての考察を報告する。

  • 橋口 大輔, 佐橋 喜志夫, 鷲野 嘉映, 齊藤 桂子, 森川 和政
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 59 巻 3 号 p. 148-153
    発行日: 2021/11/25
    公開日: 2022/11/25
    ジャーナル 認証あり

    口唇閉鎖時に活動する口輪筋は表情筋であり顔面皮膚に繋がる皮筋である。したがって,口すぼめ時の顔面皮膚から口輪筋の活動を定量的に評価できる可能性がある。そこで,著者らは口すぼめ時の顔面3次元写真撮影という新しい手法を考案した。これを用いて非侵襲で非接触な口唇閉鎖の検査方法を開発する目的で10歳男児の1例について検討した。撮影にはハンディタイプの3次元画像撮影装置VECTRA H1(キャンフィールド,米国)を用いた。安静時と口すぼめ時にそれぞれ左側45度,正面,右側45度の3方向から連続して撮影した。これらはVECTRA VAM ver.6.5.4(キャンフィールド,米国)を用いて1つの顔面3次元画像に合成し重ね合わせて解析した。顔面皮膚に広く分布し口輪筋に繋がる表情筋の口すぼめ時の活動も調べるため顔面領域と口唇領域の2つの選択領域を抽出した。それぞれ安静時と口すぼめ時の顔面3次元画像の表面積の差,画像間の距離と画像間の凸と凹の体積の和を算出し比較検討した。その結果,顔面領域では表面積の差が0.6 mm2,画像間の距離が-0.1 mm,体積の和が1.5 cm3であった。口唇領域では表面積の差が3.3 mm2,画像間の距離が2.3 mm,体積の和が3.4 cm3であった。いずれも口唇領域が顔面領域より大きい値を示した。以上,顔面3次元画像から口唇領域で優位な口輪筋の活動による口すぼめを定量化できた。

  • 松本 紗耶, 白瀬 敏臣, 内川 喜盛
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 59 巻 3 号 p. 154-160
    発行日: 2021/11/25
    公開日: 2022/11/25
    ジャーナル 認証あり

    小児における顎口腔領域の腫瘍性病変の中で,血管腫は比較的多く見られる疾患の一つである。しかし,経過や所見は多岐にわたり成人と異なるため,その診査・診断は困難を要する。今回,乳歯の外傷の既往がある3歳0か月の患児において,血管腫様の異常所見を認めるも確定診断を下せず,経過観察する中でMasson's intravascular hemangioma(MIH)と診断された症例を経験したので報告する。

    患児は上顎乳前歯部の外傷後の歯冠変色と上顎左側乳臼歯部の歯肉腫脹を主訴に当科を来院した。エックス線検査より歯肉腫脹部周囲の乳歯は健全であり,原因は不明であった。経過観察を行うも,腫脹部の増大化と審美面の障害から,外来にて摘出術を実施し,病理組織検査よりMIHと診断された。腫瘍摘出後の経過は良好で,現在再発の徴候は認めない。歯肉腫脹部に隣接する乳歯は歯髄の生活反応を認め,機能面・審美面の回復もできた。

    成長発育過程にある小児では,介入時期の選択にあたりエックス線検査の頻度や患児への対応面を配慮する必要がある。今後,腫瘍再発の有無の確認を永久歯萌出完了まで経過を追う予定である。

  • 山口 真奈, 杉山 智美, 安藤 有里子, 丸岡 靖史, 船津 敬弘
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 59 巻 3 号 p. 161-167
    発行日: 2021/11/25
    公開日: 2022/11/25
    ジャーナル 認証あり

    歯の外傷を主訴に小児歯科外来を受診する小児は近年増加傾向にある。当院でも外傷を主訴に来院する小児は多い。

    今回われわれは外傷受傷後,上顎乳犬歯および下顎乳切歯が下唇へ刺入し,開口不能になった1例を経験したので報告する。

    患者は3歳男児。外傷により開口不能に陥り,近隣の内科より精査依頼があった。受傷から1週間開口できず,発語がなく,食事摂取が困難とのことであった。パノラマエックス線撮影では原因が特定できなかったため,頭頸部単純CTを撮影したところ,上顎乳犬歯および下顎乳切歯の下唇への刺入,下顎左側乳中切歯の歯根破折が確認された。静脈内鎮静下にて開口を試みたところ上顎乳犬歯および下顎乳前歯の下唇への刺入が開放され,開口が可能となった。下唇の乳歯刺入部には一部組織に壊死が疑われたため,同部位に対してデブリードマンを行った。その後経過観察を行い,下唇の創傷治癒,開口および食事摂取が可能となったことを確認した。

    本症例において開口不能となった要因には多因子が考えられ,コミュニケーション能力が確立されていない低年齢児への対応の困難性が再認識された。

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