小児歯科学雑誌
Online ISSN : 2186-5078
Print ISSN : 0583-1199
ISSN-L : 0583-1199
49 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
原著
  • 髙藤 美帆子, 齊藤 正人, 倉重 圭史, 安彦 善裕, 五十嵐 清治
    2011 年 49 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2015/03/13
    ジャーナル フリー
    歯科治療をストレスと感じる者は多い。特に,心身が未熟で様々な経験が少ない小児や拒否反応の強い障害者(児)は,成人と比べストレスの耐性は低い。ストレスによる免疫機能低下の機序について様々な研究も行われてきているが,自然免疫の影響については未だ不明である。本研究では,ストレス関連内分泌介在物質である副腎皮質ホルモンの合成薬,デキサメタゾン(以下Dex)が口腔粘膜上皮の自然免疫機構,特に病原微生物認識機構及び抗菌ペプチドであるヒトβ ディフェンシン(以下hBD)の発現に与える影響とそのメカニズムを明らかにすることを目的とした。ヒト正常培養角化細胞を用い,Toll-Like receptor(TLR)2 agonist およびTLR4 agonist を使用した。Dex を添加した時のhBD-1, -2 および-3 の発現変化を検討し,さらに細胞内情報伝達経路を明らかにするために,MAPK/ERK inhibitor によりhBD が抑制されるか否か検証した。Dex によりhBD-3 ペプチドの発現減少がみられ,Dex とTLR4 agonist の共添加時ではhBD-1, -2 のmRNA 発現減少がみられた。本研究により,Dex は病原微生物による刺激がある際に,自然免疫を担うhBD の発現を抑制する傾向にあり,それはMAPK/ERK pathway を介した発現調節であることが示唆された。
  • 三浦 梢, 大谷 聡子, 鈴木 淳司, 海原 康孝, 光畑 智恵子, 小西 有希子, 河村 誠, 香西 克之
    2011 年 49 巻 1 号 p. 11-19
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2015/03/13
    ジャーナル フリー
    近年,小児の歯肉のメラニン色素沈着は受動喫煙が関係しているとの報告が多くある。しかし受動喫煙環境下にない小児の歯肉にもメラニン色素がみられることがあり,これについて検討を行った報告はあまりない。そこで,小児の歯肉のメラニン色素沈着の要因となる可能性のある項目ついて研究した。3~11 歳の日本人小児50 名を対象に,歯肉のメラニン色素沈着を,沈着濃さと沈着範囲の2 項目で判定した。沈着濃さは「ない」「極めて薄い」「薄い」「濃い」の4 段階で,沈着範囲はHedin の分類を参考に「0」色素沈着を認めない,「1」1~2 箇所の独立した沈着を認める,「2」3 箇所以上の独立した沈着を認める,「3」色素沈着が帯状をなし左右で独立している,「4」色素沈着が帯状をなし左右で連続している,の5 段階で評価した。調査項目は口呼吸,上顎前歯部歯肉の腫脹,笑った時の上顎歯肉の露出,皮膚の色,日焼け,頭髪の色,唾液中のコチニン濃度,同居者の喫煙状況(同居者の現在および過去における喫煙,喫煙年数あるいは禁煙後の経過年数,喫煙場所,タバコの銘柄,日平均の喫煙本数,同居者以外からの受動喫煙の可能性),偏食,年齢である。これらの項目とメラニン色素沈着との関係を統計学的に分析した結果,「沈着濃さ」に対し日焼け,喫煙者との同居年数,頭髪の色,口呼吸,年齢が,「沈着範囲」に対し日焼け,喫煙者との同居年数,頭髪の色がそれぞれ正に相関した。
  • 混合歯列期歯周組織検査の導入と課題について
    一般社団法人日本小児歯科学会社会保険委員会, 品川 光春, 田中 光郎, 犬塚 勝昭, 大原 裕, 國本 洋志, 鈴木 広幸, 早崎 治明, ...
    2011 年 49 巻 1 号 p. 20-28
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2015/03/13
    ジャーナル フリー
    少子超高齢社会では,国や社会制度は高齢者主体になりがちである。しかし,歯科疾患では,小児期の健康状態がその後の成人期,高齢期に大きく影響を与える。従って小児における口腔保健と歯科医療は非常に重要である。今回,平成22 年度の保険点数改定結果および「混合歯列期歯周組織検査」に関するアンケート調査を実施した。対象は一般社団法人日本小児歯科学会の役員130 名で,回答のあった58 名(44.6%)について検討した結果,以下の結論を得た。1 .保険改定結果については,非常に良かった3.5%,まあまあ良かった39.6%,かなり悪くなった5.2%,やや悪くなった17.2%,変化がない34.5%であった。2 .本年度と昨年度との総点数の比較では,4 月は1.7%上昇,5 月は0.6%減少,6 月も0.7%減少していた。3 .点数増加の原因として,初診料・再診料の増点を92.9%,6 歳未満の加算の復活を88.9%,自治体における乳幼児医療費助成の拡大を48.0%が回答していた。4 .点数減少の原因として,子どもの受診が減少を55.6%,齲蝕の減少を52%が回答していた。また,混合歯列期歯周組織検査の導入は,39.1%が点数減少の原因として認め,60.9%は認めていなかった。5 .歯周組織検査の実施割合は,P 混検は4 月30.7%,5 月35.7%,6 月35.2%であった。P 基検は,4 月31.4%,5 月29.1%,6 月29.8%であった。全く算定していないが,4 月37.9%,5 月35.2%,6 月35.0%と3 分の1 以上に認められた。6 .歯周組織検査に必要な時間は,P 混検が約7.3 分,P 基検が約7.2 分,P 精検が約13.3 分であった。7 .成人の歯周病予防にも乳歯および混合歯列期の歯周組織検査の普及が必要であり,乳歯列期および混合歯列期の検査方法および検査用紙を考案した。
臨床
  • 山本 健也, 山本 友絵, 鈴木 純一
    2011 年 49 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2015/03/13
    ジャーナル フリー
    両側下顎第二小臼歯の先天欠如を有する女児の歯列改善に,以下のような下顎第二乳臼歯の段階的分割抜去を取り入れるとともに,連続抜去法を応用した。8 歳8 か月時に両側下顎第二乳臼歯の遠心面をスライスカット,8 歳9 か月時に両側下顎第二乳臼歯の遠心部分のみ分割抜去した。下顎第一大臼歯が近心に移動し,下顎第二乳臼歯近心部分に近接した10 歳2 か月より,下顎左側および下顎右側第二乳臼歯の近心部分,上顎左側および上顎右側第一小臼歯を2 週毎に順次抜去した。その後は定期的に経過観察しているが,13 歳6 か月までに先天欠如部の空隙は閉鎖し,ほとんど自動的な歯の移動による歯列改善ができた。永久歯の歯冠近遠心幅径が大きかったため下顎第二乳臼歯の抜去が可能となったが,下顎第一大臼歯の近心傾斜を抑える目的で,下顎第二乳臼歯を一度に抜去せず,スライスカットから分割抜去という手順を踏んだ。また,下顎第二大臼歯萌出以降に先天欠如部の空隙閉鎖が完了したことから,両側下顎第三大臼歯の存在が空隙閉鎖へ有利に働いたものと考えられた。本症例は成長発育途上にあり,今後も慎重に経過観察する必要はあるが,本方法は装置装着などの患者負担を軽減でき,かつ,簡便な方法と考えられた。
  • 西山 未紗, 那須 大介, 髙森 一乗, 片倉 麻里子, 白川 哲夫
    2011 年 49 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2015/03/13
    ジャーナル フリー
    Irritation fibroma は歯や補綴物などの慢性の刺激による粘膜下組織の反応性の過形成病変と考えられており,成人の女性に多いと報告され,小児においては少ないとされている。今回我々は,口蓋粘膜の腫瘤および同部の接触痛を主訴に来院し,病理組織検査の結果Irritation fibroma と診断された1 例を経験した。患 児は初診時1 歳11 か月の男児で,上顎右側乳中切歯の口蓋側に縦11 mm,横8mm,高さ4mm大の有茎性の腫瘤を認めた。被覆粘膜は平滑で歯肉色を呈しており,硬さは弾性硬であった。また同歯は,唇側に軽度転位してい た。咬合時に下顎前歯との接触は認められなかった。Er : YAG レーザーを用いて腫瘤の切除を行ったところ,再発もなく良好な経過が得られた。Er : YAG レーザーは,小児の軟組織疾患の治療にも有用と考えられた。
  • 歯髄診断に透過型光電脈波法(TLP)を応用した1 例
    三輪 全三, 柿野 聡子, 上原 奈緒子, 土橋 なつみ, 今村 由紀, 黒原 一人, 髙木 裕三
    2011 年 49 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2015/03/13
    ジャーナル フリー
    先天性無痛無汗症(CIPA)は遺伝性感覚・自律神経ニューロパチーのⅣ型であり,精神発達遅滞を伴う常染色体劣性遺伝性疾患である。無随のC 線維や細い有随のAδ 線維が欠如するために,痛覚と発汗機能が欠如している。しかし,太い有髄のAβ 線維は存在しており触覚などはあるとされている。自傷行為による舌,口唇や手指の咬傷,歯の自己抜去まれに下顎骨骨髄炎などが多くみられ,歯科的な治療,ケアが重要な疾患である。今回,無痛無汗症と診断されている11 歳5 か月の女児で歯の自己抜去が原因で下顎骨骨髄炎を発症し,2 か月間に6 歯を喪失し同部位の腐骨除去手術を行った症例を経験した。術前に当科で腐骨の除去範囲および抜去する歯の決定のために歯髄の生死診断を行った。EPT(歯髄電気診)では,測定したすべての歯が無反応であり,歯髄診断が無効であったが,これは本疾患における歯髄感覚の伝達機構(C 線維およびAδ 線維)が欠如するためと思われた。これに代わって,歯髄血流の有無が測定可能なTLP(透過型光電脈波)法を用いて歯髄血流の有無を測定した。その結果,腐骨と境界領域にある下顎右側第2 小臼歯は血流が確認でき生活歯と診断され,抜去せずに保存したところ,手術より10 か月後における当該歯と下顎骨のエックス線検査およびTLP 法による検査では予後の経過は良好であった。
  • 荻田 修二, 片野 雅之, 田中 敏博, 小倉 勇人, 東 知宏, 荻田 美紗子, 酒井 英一
    2011 年 49 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2015/03/13
    ジャーナル フリー
    小児歯科臨床では,乳歯の外傷に遭遇する機会が多いが,外傷のうち歯根破折の頻度は比較的少ない。乳歯の歯根破折に対する治療は,破折部位や動揺・変位の程度によって異なるが,明らかな動揺があって歯頸側に破折が認められる場合には抜歯の適応とされる。今回,1 歳5 か月の男児の上顎右側乳中切歯の歯頸部直下における歯根破折に対して,整復固定を行い,保存を試みた。その結果,硬組織形成による治癒がみられ,1 年6 か月間にわたり,良好な経過をみたので報告する。
  • 柳井 みず紀, 田代 知帆子, 島田 幸恵, 井上 美津子, 入江 太朗, 立川 哲彦
    2011 年 49 巻 1 号 p. 52-59
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2015/03/13
    ジャーナル フリー
    乳歯の萌出障害は永久歯に比べて頻度が少ないが,後継永久歯の萌出遅延や位置異常,形成不全などを惹起するため,早期発見が重要である。今回著者らは,埋伏した下顎右側第二乳臼歯を開窓,牽引により萌出誘導した症例を経験したので報告する。患児は1 歳11 か月時より定期健診のため来院していた男児で,2 歳8 か月時には下顎右側第二乳臼歯萌出遅延の可能性が考えられた。4 歳3 か月時に撮影されたパノラマエックス線写真にて,下顎右側第二乳臼歯が遠心に傾斜して埋伏している状態が確認され,その歯冠周囲に石灰化物様の不透過像を含んだ透過像を,また下顎右側第一大臼歯上方には嚢胞様所見が認められた。5 歳2 か月時に全身麻酔下で下顎右側第二乳臼歯および下顎右側第一大臼歯部の過誤腫様組織の摘出を行い,約半年後から下顎右側第二乳臼歯の牽引を開始し,その約1 年後に萌出をみた。その後下顎右側第一大臼歯は8 歳7 か月時に萌出し,下顎右側第二乳臼歯脱落後,10 歳11 か月時に下顎右側第二小臼歯も萌出を開始した。本症例では,早期発見と適切な時期の治療開始により,下顎右側第二乳臼歯の萌出を導くことができ,さらに,下顎右側第一大臼歯の形成発育をも促すことができたと考えられる。
feedback
Top