小児歯科学雑誌
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35 巻, 5 号
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  • 吉原 俊博, 加我 正行, 小口 春久
    1997 年 35 巻 5 号 p. 773-777
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    口腔内に潜伏する単純ヘルペスウイルスの検出を目的として,本学歯学部附属病院小児歯科外来を受診した,口腔内に疱疹性歯肉口内炎および口唇ヘルペスを発症していない健常児241名(年齢0歳2か月~14歳8か月)の唾液を採取して検体とし,PCR法を用いてHSVの検出を行い,以下の結果を得た。
    1)検体試料採取時,口腔内に疱疹性歯肉口内炎および口唇ヘルペスを発症していない健常児を対象としたにもかかわらず,被験児唾液中から17.0%の割合でHSVが検出された。
    2)年齢別のHSV検出率では,0歳および1歳において0%であり,2歳以降においてほぼ一定の検出率であった。
    3)兄弟姉妹の間の潜伏状況を調べると,兄弟姉妹全員がHSV(+)である群と兄弟姉妹のうち少なくとも1人がHSV(+)である群との間に有意差はなかった。
  • 中島 一郎, 村田 典子, 吉田 昌史, 市石 慶子, 村上 未央, 江崎 順子, 荒木 啓伸
    1997 年 35 巻 5 号 p. 778-782
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,小児を対象として睡眠時における筋電図記録において咀嚼筋活動量が睡眠姿勢の影響を受けるかどうかを予備的に検討することであった。そこで我々は,小児を対象に睡眠時を想定した姿勢での随意的噛みしめ動作の咀嚼筋活動量の変動を検討した。
    被験者は乳歯列期小児5名および永久歯列期成人3名とした。規定動作は,座位,仰臥位および横臥位の睡眠を想定した姿勢において随意的な最大噛みしめを行うことであった。筋電図記録は側頭筋および咬筋として,筋放電量について検討した。
    その結果,小児および成人群ともに姿勢の相違があっても咀嚼筋活動量が変化しないことが明らかになった。すなわち,小児では成人と同様に夜間睡眠時の咀嚼筋活動における姿勢の影響は少ないものと思われた。
  • 中田 志保, 早崎 治明, 西嶋 憲博, 中田 稔
    1997 年 35 巻 5 号 p. 783-789
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児における咀嚼の進行に伴う咀嚼運動の変化を評価するため,咀嚼ゼリーを被験食品とし,咀嚼経路と咀嚼リズムの経時的変化を成人と比較した。
    被験者はHellmanのIIA期の小児6名(男児3名,女児3名:平均年齢5歳11か月)および成人7名(女性7名:平均年齢24歳2か月)とした。
    被験運動は咀嚼ゼリーの咀嚼開始から嚥下に至るまでの自由咀嚼運動とし,解析点は切歯点とした。
    解析項目として,咀嚼運動終末位の上下的座標値,上下的咀嚼幅,左右的咀嚼幅を咀嚼経路のパラメータとして用い,サイクル時間,開口時間,閉口時間を咀嚼リズムのパラメータとして用いた。咀嚼の進行に伴う変化をみるため,全咀嚼サイクル数を前期.中期・後期に分割して解析を行い,以下の結果を得た。
    1)咀嚼運動終末位の上下的座標値は両群とも咀嚼の進行に伴い咬頭嵌合位に近づく傾向を示した。
    2)上下的咀嚼幅は両群とも咀嚼の進行に伴い小さくなる傾向を示した。
    3)左右的咀嚼幅は咀嚼の進行に伴い,成人群では小さくなる傾向を示したが,IIA群では一定の傾向を示さなかった。
    4)咀嚼の進行に伴う咀嚼リズムの変化は成人群では認められなかったが,一方IIA群ではサイクル時間と閉口時間に変化があったものの,開口時間には変化が認められなかった。
  • 丸亀 知美, 早崎 治明, 渡辺 里香, 藤崎 みずほ, 山崎 要一, 中田 稔
    1997 年 35 巻 5 号 p. 790-798
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    九州大学歯学部附属病院小児歯科を受診した乳歯列反対咬合者の上顎歯列の治療前後の変化について検討した。被蓋改善に用いた装置はチンキャップ,FKO,リンガルアーチ,上顎前方牽引装置である。これらの4装置について歯列石膏模型を用いて被蓋改善前後の上顎歯列,口蓋の表面積,容積の三次元変化を比較し,以下の結果を得た。
    1)歯列弓形態の概形は,チンキャップ群,FKO群には変化はみられなかった。これに対しリンガルアーチ群は歯列弓周長,歯列弓長径の増加による歯列弓の伸長化を,上顎前方牽引群は歯列弓周長,歯列弓長径の減少による歯列弓の扁平化を示した。
    2)口蓋の表面積および容積全体は,チンキャップ群,FKO群,リンガルアーチ群は増加,上顎前方牽引群は減少していた。チンキャップ群,FKO群において前方部表面積は増加していたが,前方部容積は減少傾向を示し,上顎前方牽引群において後方部表面積は若干増加していたが,後方部容積は減少傾向を示した。
    3)歯列弓幅径においてチンキャップ群,FKO群,リンガルアーチ群,上顎前方牽引群とも変化率は小さく4装置間に差は認められなかった。
  • 三輪 晃成, 矢田部 晃, 外崎 肇一
    1997 年 35 巻 5 号 p. 799-811
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    本研究は実験1として味覚感受性が加齢に伴ってどのように変化するか,および実験2として成長期における味の学習が成長期以降,味覚感受性にどのような影響を与えるかを知る目的で行った。実験にはマウス(ICR,SAM P-1)を用い,行動学的実験(二瓶法)と電気生理学的実験(鼓索神経味応答)の二方法で週齢を追って比較検討し,以下の結論を得た。
    実験1.行動学的実験結果から塩味,酸味,苦味に対しては加齢に伴い味覚閾値が上昇を認めた。甘味に対しては変化は認められなかった。電気生理学的実験からは塩味にのみ,加齢に伴う閾値の上昇を認めた。
    実験2.通常飼育したマウスに比べ,10週齢まで特定の味溶液で飼育したマウスでは,行動学的実験から,その特定の味溶液に対してのみ閾値の上昇を認めた。電気生理学的実験結果からは両群の味応答に差は認められなかった。
    以上の結果から,加齢に伴う味覚感受性の低下は末梢味覚受容器の変化よりも,上位の中枢の関与による可能性が示唆された。
  • 八若 保孝, 長内 正数, 秋山 明美, 小島 寛, 小口 春久
    1997 年 35 巻 5 号 p. 812-820
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,著しい根尖性歯周炎などにより,口腔内に露出した上顎乳前歯根尖部分の吸収不全の状態を組織学的に明らかにすることである。組織学的検索および三次元画像観察の結果,根尖象牙質に病的吸収および部分的なセメント質添加による修復が認められた。この結果により,根尖露出に至る経過の中で,その早期において,感染歯質に対する吸収とそれに引き続く修復が生じていたことが明らかになった。結果的に排出された根尖部分に対し,このような生体の各種の反応が生じていたことを考慮すると,根尖露出の成立には,根尖歯質の状態,細菌感染の程度,炎症の状態,歯槽骨の厚さ,後継永久歯の萌出力など,根尖を取りまく多種多様な環境因子と時間の関与が,極めて大きな影響を与えているものと考えられた。
  • ― 東京都幼児基礎身体・栄養調査より―
    市石 慶子, 北村 倫代, 益守 真木雄, 土肥 順尚, 菊池 元宏, 赤坂 守人
    1997 年 35 巻 5 号 p. 821-828
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    平成6年11月に実施された「東京都幼児基礎身体栄養調査」の対象となった東京都内の保育園と幼稚園の各6園の3歳児から6歳児1,096名の調査結果をもとに,乳歯齲蝕罹患状況,歯列・咬合異常,「食べ方の状況」について,昭和62年に行われた同調査及び他の同種の調査報告と比較検討し,以下の結果を得た。
    1)本調査のdf者率は増齢的増加傾向を示し,6歳児で89.2%で昭和62年同調査とほとんど変わらなかった。またdf歯数においては3,4歳の低年齢で本調査の方が減少する傾向が現れた。
    2)甘味飲料を高頻度に摂取している者ほど齲蝕罹患率の高い傾向が現れた。
    3)歯列・咬合異常の調査では,過蓋咬合,切端咬合,上顎前突が比較的多く認められ,昭和62年同調査と比較すると上顎前突,交叉咬合,過蓋咬合が増加し,反対咬合,切端咬合,開咬が減少した。
    4)食べ方の調査では"食べ物を食べているとき,牛乳や飲み物を飲みたがりますか"の設問に対し"よくある"と回答した者が3歳児及び5歳児において半数以上に認められた。また,本調査では食べにくいものに対し"嫌がって食べない"とする者が昭和62年同調査に比べ多く認められた。
  • -骨折部位における後継永久歯の動向-
    園本 美惠, 萩原 智子, 西村 佳容子, 新司 佳世, 山尾 雅朗, 大谷 敬三, 白數 慎也, 嘉藤 幹夫, 大東 道治, 菊池 優子, ...
    1997 年 35 巻 5 号 p. 829-838
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    1985年から1994年までの10年間に大阪歯科大学附属病院歯科放射線科を受診した12歳以下の患児945例を対象に統計学的集計を行い,以下の結果を得た。
    1.疾患別分布は,嚢胞,外傷,炎症,腫瘍,唾液腺疾患,顎関節疾患,その他の順で少なくなった。
    2.外傷症例は男女比1.4:1,顎骨骨折を認める症例は男女比1.6:1であった。
    3.外傷症例は男児では混合歯列期で多く,女児では乳歯列期で多かった。
    4.受傷月は春夏に多く,冬が少なかった。
    5.来院経路は医科の病院からの紹介が最も多かった。
    6.受傷日から1週間以内に来院した症例は外傷症例で86.7%,そのうち顎骨骨折を認める症例では85.3%であった。
    7.受傷原因は,転倒が最も多かった。
    8.顎骨骨折は下顎骨骨折が最も多かった。
    9.顎骨骨折があり,骨折部位に永久歯歯胚を含む症例のうち,長期経過観察を行っているものは少なかった。
    10.骨折線が歯胚を横断している場合は歯根の形成阻害があるが,歯冠部についてはあまり影響はないと思われる。また,骨折部位に大きな転位がある場合は歯の位置異常,萌出遅延,歯根の形成異常が認められたが,転位が小さい場合は正常に萌出しており,歯の形態への影響はほとんどないようである。
    小児では,外傷の症例では経過観察が重要である。特に骨折部位に永久歯歯胚を含む場合は,その永久歯の萌出が完了するまでの経過観察が必要である。
  • 浜田 作光, 進士 久明, 大館 満, 井上 裕之, 内村 登
    1997 年 35 巻 5 号 p. 839-844
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    日本小児歯科学会は,食生活など小児を取り巻く環境の変化による乳歯列への影響を確認することを含め,日本人乳歯列の標準値を求める目的で,乳歯および乳歯列・咬合状態に関する全国規模の調査を行った。その調査結果のうち,乳歯歯冠および乳歯列弓の大きさには,過去の結果との差異はほとんど認められなかった。しかし,歯間空隙の発現頻度および乳歯列咬合状態については先人の報告,とくに多くの成書に記載されている報告との相違が大きかった。このことは,正常乳歯列の選択基準による相違と考え,1991~1992年に本学小児歯科外来に来院した初診患者の診断資料のうち,上下顎乳歯列石膏模型のなかから,小児歯科学会の設定した第一次および第二次選択基準に基いて正常乳歯列を選別し,これを日常の小児歯科臨床の代表的数値と比較検討し,次の結果を得た。
    1)歯間空隙発現頻度およびターミナルプレーンの分類別発現頻度の相違は,正常乳歯列の選択基準によると考えられた。
    2)年代,地域差,食生活などの要因が計測値や頻度分布に影響していない可能性が示唆された。
    3)乳犬歯咬合関係の分類別発現頻度は,第一次・第二次選択群ともI型,II型,III型の順であった。
  • -本学医学部附属病院からの紹介患者について-
    田中 浩二, 壼内 智郎, 山地 由希子, 宮城 淳, 東 知宏, 松村 誠士, 下野 勉
    1997 年 35 巻 5 号 p. 845-850
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    岡山大学歯学部附属病院小児歯科外来における,本学医学部附属病院からの紹介患者への対応を検討する目的で,過去5年間の同紹介患者を対象に調査を行い,以下の結果を得た。
    1.1992年から1996年の5年間に,医学部附属病院から紹介され,当科外来を受診した初診患者の総数は145人で,その年次推移は,過去5年間で増加傾向を示していた。
    2.初診年齢は6~12歳が最も多かった。
    3.小児科と小児神経科からの紹介が多く,約90%は入院患者であった。
    4.主訴では齲蝕・痛みが多く,予防・精査は少なかった。
    5.口腔内状態は,齲蝕経験のないものが27%で,重症齲蝕者も全体の22%を占めていた。
    6.転帰に関しては,現在まで継続して通院しているものが22%で,何らかの理由で中断となってしまった者が64%を占めていた。
    今回の調査より,近年における本学医学部附属病院からの紹介患者の実態が把握された。そして,紹介患者に対し,状況に応じた適切な対応をするとともに,早期からの継続的な齲蝕予防・管理を行っていくことが,大学病院小児歯科の一つの使命であると思われた。
  • 黒田 洋史, 佐藤 秀則, 船山 ひろみ, 真柳 秀昭
    1997 年 35 巻 5 号 p. 851-856
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    破歯細胞の硬組織吸収過程を形態学的に検討し,その機能を把握することを目的として,象牙質研磨片上で培養したウシ乳歯歯根吸収組織由来の培養破歯細胞をF-アクチンに特異的に反応するFITC標識ファロイジンを用いて染色し,明帯におけるF-アクチンの形態を検索した。
    また,破骨細胞と同様に破歯細胞のマーカー酵素である酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性(tartrate-resistantacid phosphatase:TRAP)の検出を行った。
    その結果以下の所見を得た。
    1.培養破歯細胞は,破骨細胞と多くの類似点があった。それらは大型の細胞であり,明帯を有し,吸収窩を形成し,多核でありそしてTRAP活性を有していた。
    2.培養破歯細胞の明帯は,リング状F-アクチン帯とアーチ状F-アクチン帯として観察された。リング状F-アクチン帯を有する培養破歯細胞による吸収窩は単房性であり,これは以前著者らの報告した破骨細胞の形態的特徴より高い骨吸収活性を有していると考えられる。一方アーチ状F-アクチン帯を有する培養破歯細胞による吸収窩は多房性であり,吸収窩の形態から破歯細胞の進行方向にF-アクチン帯を向けた像を示しており,低い骨吸収活性を有していると考えられる。
    以上より,F-アクチン染色による培養破歯細胞の明帯の形態の観察は,細胞の機能状態を把握するために有益であることが明らかとなった。
  • 新門 正広
    1997 年 35 巻 5 号 p. 857-870
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    歯根基端部組織が歯の萌出に与える影響を調べる目的で実験を行った。3週齢雄性wistar系ラットに通常食を与えた群(対照群)と,低ビタミンA食を与えた群(実験群)に分け,各群の下顎切歯の萌出量を経時的に測定し,さらに歯根基端部を免疫組織化学的に比較検討したところ,以下の結果が得られた。
    切歯の萌出量は,6週齢から両群の間に有意差が認められた(p<0.001~0.01)。
    歯根基端部の免疫組織化学的な所見では,歯根基端部を構成するすべての細胞に増殖細胞核抗原(PCNA)陽性細胞が認められた。また7週齢から対照群と実験群の内エナメル上皮,中間層細胞および前象牙芽細胞のPCNA陽性細胞率に有意差が認められた(p<0.001~0.01)。
    上皮成長因子レセプター(EGFR)は,象牙芽細胞,歯髄線維芽細胞,歯根膜線維芽細胞,歯小嚢,血管,エナメル芽細胞および中間層細胞に発現していた。上皮成長因子(EGF)はこれらの細胞の細胞質内に発現していた。
    以上の結果からEGFは,内エナメル上皮や前象牙芽細胞がエナメル芽細胞や象牙芽細胞に分化する際,上皮-間葉系組織間のシグナルの1つである可能性が示唆された。また,ビタミンA欠乏により萌出が遅延し,歯の内エナメル上皮,中間層細胞および象牙芽細胞に増殖の抑制が認められたことから,これらの細胞の増殖が歯の萌出に関与していると考えられる。
  • -3年間の経年的調査について-
    桑原 さつき, 岡田 貢, 光澤 佳浪, 岡本 真理子, 岩本 由紀, 佐久間 信彦, 一瀬 智生, 高木 かおり, 二井 典子, 佐牟田 ...
    1997 年 35 巻 5 号 p. 871-879
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    中学生における歯周疾患の罹患状態を経年的に把握する目的で,広島市内の某中学校の平成4年度入学117名を対象にOral Rating Index(以下ORI)を指標とした3年間の経年調査を行い,以下の結果を得た。
    1.ORIの評価が「-」の生徒の割合は1年次で全体の19.7%,2年次で30.8%,3年次で45.3%と学年が上がるに従って増加した。
    2.ORIの全体平均は1年次0.38,2年次-0.13,3年次-0.26と経年的に有意に低下した(p<0.001)。男女別では1年次は男子の方がORIが高く(P<0.01),3年次では女子の方が高かった(P<0.05)。
    3.1年次と3年次のORIの経年変化を比較すると,3年次にORIが低下した生徒の割合は52.1%で,全体の半数以上を占めた。男子では73.7%が,女子では31.7%がORIの低下を認め,男子で歯周状態の悪化する生徒が多かった。さらに,1年次のORIの評価が「+」であったが,3年次に「-」に転じた生徒の割合は32.1%で,歯周状態は不良となっていた。また,1年次にORIの評価が「-」であった生徒の60.9%に歯周状態の改善は認められなかった。以上より,中学生の歯周状態は,学年が上がるに従って経年的に悪化する傾向が認められ,その変動には性差があることが明らかとなった
  • 第2報歯科健診の結果と勧告後の受診動向
    福原 信子, 竹辺 千恵美, 野中 歩, 藤村 良子, 平野 洋子, 武田 康男
    1997 年 35 巻 5 号 p. 880-885
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    本研究は,北九州市内の障害児(者)施設のうち,就学前のMR通園の3施設,292名を対象に行った健診内容から,早期口腔衛生指導と地域歯科健診の効果,健診後の歯科受診勧告の動向について検討したものである。以下の結果を得た。
    1.齲歯率の減少,シーラント処置者率の増加およびf歯率の増加傾向が認められた。
    2.初健診時に関してみると,0歳からの早期指導を受けた「療育群」が,開業医,病院歯科等を受診した「その他群」や「未受診群」に較べ齲歯率が低く,f歯率,シーラント処置者率が高かった。
    3.健診回数が増すに従い,平均齲歯率の減少,平均歯率,平均シーラント処置者率の増加傾向が認められた。
    4.初健診時の歯垢重症度,歯肉炎重症度は「療育群」が「その他群」,「未受診群」に較べ良好であり,また健診回数の増加に従い両重症度とも軽減が認められた。
    5.健診後に歯科受診不要とされた者の割合は年次とともに増加した。
    6.勧告後の歯科処置の内容は,「療育群」では「その他群」の医療機関に較べて歯磨き指導や予防処置に重点が置かれていた。
    以上の結果は,北九州市における施設職員を含む地域の歯科健診システムの有効性を示すものと考えられる。
  • -第2報 デンタルプレスケール®のタイプ別相違-
    大山 洋, 熊坂 純雄, 小松 太一, 木本 茂成, 井上 裕之, 内村 登
    1997 年 35 巻 5 号 p. 886-894
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児歯科臨床医にとって,成長発育途上にある若年者の咬合機能を明らかにすることは重要課題である。我々は,まず,咬合評価が比較的簡便に行えるデンタルプレスケール®およびオクルーザー®FPD703からなるシステムを臨床応用するため,第一報で測定の最適条件を確認した。本研究では,デンタルプレスケール®の再現性について比較検討することを目的とし,連続測定および繰り返し採得により,咬合接触面積,平均咬合圧力,最大咬合圧力,咬合力および有効圧を測定した。対象は,個性正常咬合を有するIIA期(4歳6か月以前をIIA前期,4歳7か月以降をIIA後期とした)からIIC期までの小児32名とした。さらに,歯年齢別平均値についても比較検討を行い,以下の結果を得た。
    1.30Rおよび50Rの連続測定による各計測項目の変動係数の平均値は,約0~5%と低い値であったが,30Wでは約8~36%と高い値を示した。
    2.30Rおよび50Rの個人内変動係数の平均値は,各計測項目とも約0~13%と比較的低い値であったが,30Wでは約8~42%と高い値であった。
    3.30Rおよび50Rの咬合接触面積,咬合圧において,IIA後期はIIA前期と比較して有意に高い値を示した。
    4.30Rおよび30Wの最大咬合圧力および有効圧は測定範囲外のものが多く存在したが,50Rでは良好な値を得た。
    以上のことから,タイプ別の再現性や圧力測定範囲を考えると,3歳以上に用いる場合,50Rを用いて複数回測定し,複数回採得したものの平均値を用いるのが,最も良好であると考えられた。
  • 加我 正行, 橋本 正則, 荒木 吉馬, 大野 弘機, 小口 春久
    1997 年 35 巻 5 号 p. 895-900
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    乳歯ならびに永久歯と象牙質接着性レジンとの接着性を比較検討するため,2種類のコンポジットレジンシステムを実験に使用した。ヒト第二乳臼歯と第一小臼歯の象牙質とレジンとの接着強さをせん断試験を行って測定し,破断した界面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察を行った。
    その結果,第二乳臼歯象牙質とMulti-Purpose®の接着強さは,10.1±4.8MPaであり,第二乳臼歯象牙質とLiner Bond II®との接着強さは,9.2±3.8MPaであった。第二乳臼歯象牙質と使用した2種類のレジンとの間に接着強さに有意差はなかった。また,第一小臼歯象牙質とMulti-Pulpose®との接着強さは,10.7±2.6MPaであり,第一小臼歯象牙質とLiner Bond II®との接着強さは,12.8±3.1MPaであった。第一小臼歯と使用した2種類のレジンとの間に接着強さに有意差はなかった。レジンと象牙質の接着強さについて,統計処理をtwo-way ANOVAで行った結果,歯種間と材料間のいずれの組み合わせで比較しても,有意差が認められなかった(p<0.05)。
    破断面のSEMの観察結果から,破断面には界面破壊,象牙質内凝集破壊およびボンディング材内凝集破壊がみられ,第二乳臼歯,第一小臼歯それぞれの破壊様式を特徴づける様相を見出せる観察結果は得られず,ほとんど全ての試料の破断面が混合破壊であることが確認された。
  • -過去5年間の初診患者の動態について-
    吉村 譲, 石野 愛子, 清水 良昭, 佐藤 直芳, 時田 幸子, 盛島 美智子, 辻川 裕久, 逢坂 亘彦, 渡部 茂
    1997 年 35 巻 5 号 p. 901-906
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    疾病構造の変化,少子化が進む中,歯科大学附属病院の地域での役割も以前とは違った様相を示してきている。今回著者らは,平成4年1月から平成8年12月までの過去5年間に,明海大学歯学部附属病院小児歯科外来を訪れた初診患者の動態について調査し,埼玉県下の大学附属病院としての現状について考察を行った。
    1)初診患者の年間来院数は,300人前後で年次推移は,ほぼ横這い状態であった。
    2)初診時年齢の年次推移は,3歳~5歳の患者が約44%,2歳以下の患者が約16%を占め過去5年間ほとんど変化はなかった。
    3)主訴の年次推移は,齲蝕・痛みが減少し,歯列・咬合,精査・予防が増加する傾向にあった。
    4)初診患者の通院距離は5km範囲からの患者が,全体の52%を占めた。
    5)一人平均DMF歯数の年次推移より,齲蝕の減少傾向が見られた。
    6)他医療機関よりの紹介患者は,全初診患者の26%であった。
    7)心身障害児は,総計69人で全初診患者の4%であった。
    以上のことから,本学小児歯科は県民の高いニーズに応えるため,より高度な歯科医療の提供に努めねばならないことを認識させられた。また,地域歯科医療にさらなる貢献をするためには,個々の患者の生活環境を理解したうえでのきめ細かな歯科医療体制の整備が必要であると考えられる。
  • 鈴木 広幸, 城山 博, 小林 雅之, 平木 淳一, 椎名 和郎, 種市 良厚, 下岡 正八
    1997 年 35 巻 5 号 p. 907-913
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    日本歯科大学新潟歯学部附属病院小児歯科診療室(本学小児歯科診療室)において,抑制治療を減らし,無くしていくにはどうすればよいか情報を得るため,平成元年から5年までの新規初診患者を対象に,抑制治療の実態を調査し,以下の結論を得た。
    1.調査対象となった小児患者は1,478名で,そのうち抑制治療を行ったのは,138名,9.3%であった。
    2.抑制治療を行った小児患者の初診時年齢平均は3歳6か月で,抑制治療を行わなかった小児患者の平均4歳9か月と比較して低かった。
    3.抑制治療の回数別人数では,1回のみが最も多く56名(40.6%)であった。回数の増加とともに人数は減少する傾向を示した。
    4.抑制治療の種類別延べ人数では身体抑制が最も多く89名,以下V.C.とHOMEのみ49名,一部抑制26名の順であった。
    以上より,応急処置が必要な場合以外,抑制治療を行わず,やむを得ず抑制治療を行った場合はその後の小児患者への対応に気を配ることを徹底している本学小児歯科診療室でも抑制治療を行う割合は,来院患者の約1割と多く,より抑制治療を減らしていく努力が必要なことがわかった。
  • 鈴木 広幸, 城山 博, 小林 雅之, 平木 淳, 椎名 和郎, 種市 良厚, 下岡 正八
    1997 年 35 巻 5 号 p. 914-920
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    日本歯科大学新潟歯学部附属病院小児歯科診療室において抑制治療を受けた小児患者にはどのような性格傾向があるか調べることを目的に,林式数量化理論III類を用いて抑制治療を受けた小児患者を対象に高木.坂本幼児児童性格診断検査結果の類似性を調べ,以下の結論を得た。
    1.累積寄与率が60%を越えたところを基準にすると相関軸は3つ求められ,固有値は1軸,2軸,3軸と順に,0.3949,0.1410,0.0997,寄与率は同様に,39.5%,14.1%,10.0%であった。
    2.1軸は性格の安定・不安定を意味する相関軸であると解釈された。2軸は,性格の外向性・内向性を意味する相関軸であると解釈された。3軸は環境への対応の仕方を意味する相関軸であると解釈された。
    以上より,抑制治療を行った小児患者において自制力なし,依存的,体質的不安定の性格傾向をもつものが多いことがわかった。
  • 1.耳下腺管開口部の位置について
    鈴木 昭, 木根淵 真知子, 南 真紀, 渡部 茂
    1997 年 35 巻 5 号 p. 921-925
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    唾液クリアランスは口腔の各部位で異なっており,唾液腺管開口部に近い部位では優れていることが示されている.Lecomte(1987), Watanabe(1992)らは,上顎頬側部の唾液クリアランスは被験者によってかなりの変動があることを報告しているが,耳下腺管開口部の位置と唾液クリアランスの関係を調べることは意義のあることと思われる.
    本研究では,成長に伴い耳下腺管開口部の位置がどのように変化するのかを調べ,唾液クリアランスとの関係を考察した.耳下腺管開口部は乳歯列期(8名),混合歯列期(8名),永久歯列期(8名)での各被験者(総数24名)より印象採得を行い,石膏模型を作製して評価した.その結果,乳歯列期の耳下腺管開口部は,基準とした上顎第二乳臼歯遠心面より近心に位置していた.一方混合歯列期では,上顎第一大臼歯遠心面よりも近心側に位置していた.永久歯列期では,基準とした上顎第一大臼歯のほぼ遠心面に位置していた.結果として,耳下腺管開口部の位置は,年齢と共に後方に変化していくことが示された.このことは,耳下腺唾液は口腔に分泌されると前方(近心)に流れるという報告から考えると,その部位の唾液クリアランスが良好に維持されるためには都合の良いことと思われた.
  • 中島 謙二, 青木 浩子, 加藤 敬, 田村 康夫
    1997 年 35 巻 5 号 p. 926-935
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    本研究は,乳首の違いが乳児の吸啜運動に及ぼす影響を検討する目的で,乳房哺乳群(BRF群),丸型人工乳首群(ROF群)および有弁型人工乳首群(SV群)を対象に,吸啜時の口腔周囲筋筋活動を筋電図学的に比較検討したものである.その結果,
    1)最大筋活動量は,咬筋と口輪筋においては3群間で差はみられなかったが,側頭筋ではBRF群がROF群より有意(P<0.05)に高い活動を示し,舌骨上筋群もBRF群とSV群がROF群より有意(P<0.01)に高い活動を示した.
    2)総筋活動量はBRF群とSV群がROF群よりそれぞれ有意(p<0.01,p<0.05)に高い活動を示した.
    3)吸啜サイクル時間はBRF群とROF群で差はなく,SV群が有意(p<0.01)に長いサイクル時間を示した.
    4)口腔内の動きと筋の協調の観察では,丸型人工乳首も有弁型人工乳首も舌の蠕動様運動を伴い基本的には差はみられず,有弁型人工乳首は舌の下降時に弁が上下に大きく離開し,その時舌骨上筋群が大きい活動を示していた.
    以上の結果より,丸型人工乳首が乳房哺乳や有弁型人工乳首に比べ筋活動量が小さかったことから,乳児にとって丸型人工乳首は比較的容易に吸引できることが示唆された.
  • 血清アルブミンの歯胚組織への滲出
    谷川 良謙, 若松 紀子, 尾辻 渉, 棚瀬 精三
    1997 年 35 巻 5 号 p. 936-945
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    著者らは,外傷による乳歯根尖部ならびに歯胚周囲組織での小出血が,いかにエナメル質の形成障害を引き起こすかのメカニズムを知ることを目的に,一定条件で発現率の高いエナメル形成障害を引き起こす外傷方法を検討してきた.その結果,4日齢ラットの下顎外部より,3Nの力量で,エナメル芽細胞の基質形成期と石灰化期の移行部で打撲を行う外傷法が,形成障害の発現率はもっとも高く,ほぼ均質な低石灰化エナメル質を引き起こすことができた.さらに,細束X線回折法,TEM観察により,形成障害部エナメル質の結晶成長の抑制がうかがえた.
    そこで,本実験では,この外傷法を用いて,外傷から生じる局所的出血より組織内に滲出する血清アルブミンがエナメル質形成過程におよほす影響を考慮し,アルブミンの歯胚・組織への滲出を検討するために免疫組織化学的方法,ならびに125I-albuminのオートラジオグラムによる方法で,その局在性を検討した結果,以下の結論を得た.
    1.受傷直後に,受傷部位に相当して,エナメル芽細胞とエナメル基質との間に空胞化を示すものから,エナメル芽細胞そのものに障害を認めた.
    2.免疫組織化学法,および125I-albuminのオートラジオグラフィーにより,受傷による局所的出血から滲出したアルブミンは,受傷から30分以内に,エナメル芽細胞内,分離し空胞化の見られたエナメル芽細胞遠心端,および隣接するエナメル基質,特に,トームス突起に対応する部位にアルブミンの局在が認められた.
    3.アルブミンの滲出経路は,エナメル芽細胞の断裂破壊部から直接,アルブミンが滲出する他,エナメル芽細胞の空胞化のみを示す場合においては,中間層細胞,およびエナメル芽細胞の細胞間隙からの滲出の可能性が考えられた.
    4.受傷1週間後も,石灰化開始したエナメル質内に吸収されずに残留していた.
    以上,外傷にともなう局所の小出血,これに関与する血清アルブミンはエナメル基質に滲出,残留することによってエナメル質の石灰化障害に少なからずかかわっていることが示唆された.
  • 井出 正道, 梅澤 朋子, 星 仁史, 大森 郁朗
    1997 年 35 巻 5 号 p. 946-954
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    無汗型外胚葉異形成症に伴う部分性無歯症の男児の咬合管理を5歳4か月から成人に至るまで行ったので,その咬合管理と顔面頭蓋の発育変化について報告した.
    上下顎両側乳犬歯のみが認められ,それらは全て栓状歯であった.部分床義歯を装着して咬合機能と審美性の改善を行ったが,下顎両側乳犬歯は萌出方向の異常や外傷により喪失したため,最終的な義歯は,上顎は残存する上顎両側乳犬歯に硬質レジンジャケットクラウンによる歯冠形態修正を施した上でオーバーデンチャー,下顎は総義歯であった.
    咬合高径の決定は,側貌頭部エックス線規格写真から計測した顔面頭蓋の各部分の長さ分析値を用いて行った.前顔面高や下顔面高は歯槽部の成長の欠如に関連して小さいため,義歯装着によって下顔面高を補正し,後顔面高や上顔面高に対する比率を一定に保つことにより,患児に受入れられる咬合高径を維持した.
    さらに,本症例の顎顔面頭蓋の発育過程を長さ分析値とその成長率により回顧的に分析した.その結果,後顔面高は絶対値および成長率ともに標準値と比較して小さく,上顎の歯槽基底の高さや深さ,下顎の歯槽基底の深さにも成長率において標準値と比較して差が認められたが,下顔面高や前顔面高などのその他の部位では,計測値は標準値と差があっても,成長率の推移は標準値のそれとほぼ一致していることが示された.
  • 内藤 真理子, 瀬尾 令士, 大久保 和久, 井手口 博, 上田 和茂, 木村 光孝
    1997 年 35 巻 5 号 p. 955-958
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    日常の歯科臨床において,エプーリスは遭遇する機会が多い疾患である.小児の発現率は低いといわれているが,乳歯列期や混合歯列期の症例にもしばしば遭遇する.今回,著者らは混合歯列期に発現したエプーリスの一症例に遭遇したので,臨床病理学的観察および過去に報告された混合歯列期の症例との比較検討を行った.
    1)患児は6歳10か月の女児で,部位は上顎左側第一大臼歯相当部歯肉であった.
    2)上顎左側第一大臼歯は未萌出であり,対側同名歯より低位に位置していた.
    3)術後の病理診断は肉芽腫性エプーリスであった.
    4)外科的切除術後,第一大臼歯の崩出は順調に進み,現在に至るまで良好な経過を得ている.
  • 甲原 玄秋, 柴田 敏之, 五十嵐 清治, 佐藤 研一
    1997 年 35 巻 5 号 p. 959-964
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    1歳の男児が下顎乳中切歯の着色を主訴に千葉県こども病院歯科を紹介され受診した.出生直後,播種性血管内凝固症候群を生じ,出血傾向著明で,出生後10日まで頻回の交換輸血が行われ,その間血清総ビリルビン値は20~59.6mg/dlと高値を示していた.既往からビリルビン着色歯と診断した.
    齲蝕予防に努め経過観察を行ったところ,萌出した全ての乳歯に緑色の着色をみた.その着色の範囲は乳前歯は歯冠部の4/5におよび,第2乳臼歯は咬頭頂に限局し,後方歯になるに従い着色は小範囲に限局した.
    しかし,3歳6か月ころには緑色は減弱した.5歳6か月では著明な退色をきたし,淡い黄色を示すのみとなった.
    交換期のため脱落した乳前歯の研磨切片では象牙質内に着色帯が観察された.さらに象牙質内の着色帯は546nmの波長の光源で蛍光を発した.分光光度計分析において着色歯はビリルビンが示す吸光度曲線と相似した曲線を描き,ビリルビンが含有されていることが証明できた.
    以上より高ビリルビン血症により生じた緑色の着色歯は高ビリルビン血症が消失した後,次第に色調が変化してくることが判明した.
  • 佐野 正之, 平澤 雅利, 鈴木 昭, 渡部 茂, 嶋田 淳, 山本 美朗, 関 康弘
    1997 年 35 巻 5 号 p. 965-969
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    患者は8歳5か月の女児で著しい歯肉肥大・歯列不正を主訴として当院を受診した.口腔内所見は上下顎歯肉は全体的に肥大しており永久歯部において著明である.色調は正常歯肉と同様であり,硬さは上顎前歯部唇側は弾性硬である.病理組織学的所見は,被覆上皮は肥厚し,角化が亢進していたほか,上皮突起の不規則な増殖が認められた.また,上皮下では細胞成分が乏しく,肥厚したコラーゲン線維の増生が著明で,線維束が錯走している所見もみられ,その一方でコラーゲン線維が細網線維の状態を呈する所見もみられた.またごく軽度ではあるが炎症性の細胞浸潤も認められた.
    本疾患は,常染色体優性遺伝で,再発の報告もあり,長期にわたり慎重に経過観察を行うことが重要である.
  • 松根 健介, 清水 武彦, 丸山 等, 朝田 芳信, 宇都宮 忠彦, 山本 浩嗣, 前田 隆秀
    1997 年 35 巻 5 号 p. 970-975
    発行日: 1997/12/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    今回,著者らは全身の皮膚形成異常および多発奇形を有する6歳11か月の患児の上口唇内側部に複数か所に出現した,孤立性の乳頭腫を経験した.摘出処置にあたり,従来より用いられている病理組織学的診断に先立ち,患部組織より得た微量のウイルスDNAをPCRを応用し,悪性・良性の識別およびヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の型同定という分子生物学的検討を行った結果以下のことが示唆された.
    1.分子生物学的検討および病理組織学的診断の両者の結果より,今回摘出した乳頭腫は良性型であった.
    2.PCRを用いた分子生物学的検討は簡便かつ迅速な診断に応用でき,今後さらなる発展が期待される.
    3.今回,摘出した乳頭腫の型同定を行ったところ,口腔内に出現する頻度の高いHPV-6,11とは異なることが示唆された.
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