フッ素(F)イオンが,口腔内環境に与える影響を検討する際の基礎的データを得ることを目的に,超微量F イオン濃度の測定が可能なフローインジェクション分析法を応用し,幼児唾液中F イオン濃度を測定した。対象は2 つの保育園の4~6 歳の園児101 名(男児44 名,女児57 名)とし,朝食後2 時間以上経過後に刺激全唾液の採取を行った。採取唾液は遠心処理後,上清0.2 m
l を用いF イオン濃度を測定した。また,NaF 溶液(0.05, 0.1, 0.5 ppmF)を採取唾液に1: 9の割合で添加し,F イオン濃度の経時的変化を測定した。唾液中F イオン濃度の計測は,本装置にて安定し再現性も高く良好であった。幼児唾液中F イオン濃度の平均値(標準偏差)は0.0082(0.0026),最大0.017,最小0.0017 ppmF であった。性差および年齢間での差は認められなかったが,2 つの保育園間に有意な差が認められ,フッ化物洗口を行っている保育園児のF イオン濃度が高い値を示した。また,唾液中に添加したF のイオン濃度は,純水に添加した濃度と比べ17~45%の減少が認められ,添加濃度が低いほど減少率は高かった。被験児の唾液中F イオン濃度は,すべてが通法のF イオン電極法の測定限界以下であったことから,本法を用いたF イオン濃度測定法は,低年齢児に対するフッ化物製剤の安全で効果的使用方法を検討するにあたり有効であると考えられた。
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