小児歯科学雑誌
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47 巻, 5 号
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総説
  • 森崎 市治郎
    2009 年 47 巻 5 号 p. 665-672
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    わが国における障害者歯科診療での行動調整,口腔衛生と歯科治療に関する考え方と方法は,この数 十年のあいだに大きく変化してきていると認識されている。本総説は,第47 回日本小児歯科学会学術大会で論じた「臨床講演4」の内容を,以下のような5 つのトピックについて,その変化と潮流を臨床的視点からまとめたものである。1 .スペシャルニーズのある患者に対する行動調整法の変化,物理的対応から心理学的あるいは薬理学的対応へ。2 .学習障害(LD),注意欠如(欠陥)・多動性障害(ADHD)および自閉症スペクトラム(ASD)のある小児の増加とその歯科保健上の重要性。3 .重症心身障害児の長寿化や虚弱高齢者の増加に伴って生じている歯科における新たな問題点。4 .多くの障がい児は歯科的に健康な状態を保たれるようになってきているが,一方で,少数ではあるがきわめて重症の歯科疾患を有する障害児が存在するという二極化した現象。5 .スペシャルニーズのある子どもの歯科疾患および口腔機能不全に対する,保健医療従事者による超職種的なアプローチの重要性。
  • 上顎中切歯と上顎犬歯
    田口 洋
    2009 年 47 巻 5 号 p. 673-682
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    上顎中切歯の萌出障害は,先行乳歯の重度齲蝕や外傷による根尖病巣が原因となって,歯胚の萌出方向が唇舌的に異常をきたすものが多い。時期が遅れると歯根が湾曲して形成されるため抜歯せざるを得ない場合があるので,発見したときには比較的早期の牽引が必要となる。臨床で頻繁に遭遇する永久歯の萌出過剰歯は,必ず歯列不正の原因となるので発見後ただちに抜去した方がよい。また,米粒大程度でエックス線不透過度の低い歯牙腫であっても萌出障害の原因となる。まれに,形成遅延の側切歯歯胚が中切歯の萌出を障害することがある。先行乳歯が癒合歯の場合に多く,前歯部交換期での精査が必要である。上顎犬歯の萌出障害は,特定の局所的原因が認められないものが全体の75%を占める。埋伏犬歯の歯軸は近心傾斜していることがほとんどで,歯冠部尖頭の側切歯歯根や中切歯歯根との重なり程度によって重症度が判別できる。軽症のものでは,先行乳歯の抜去で埋伏犬歯の歯軸改善が期待できるが,重症のものでは牽引が必要となる。側切歯が矮小であったり,先天欠如していたりすると,骨内での犬歯萌出路のガイドが欠落するため,犬歯萌出障害の原因となりうる。犬歯の萌出障害は片側性に発現するものがほとんどのため,乳犬歯の動揺度や犬歯部頬側歯肉の膨隆を両側で比較し,左右差が顕著なときにはエックス線写真による精査がきわめて重要である。
  • 有田 憲司
    2009 年 47 巻 5 号 p. 683-692
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    外傷による歯根破折は,歯の外傷のなかで頻度が少なく,科学的研究による検証が不足しており,広くコンセンサスが得られた治療法は少ない。歯根破折の発現頻度は,全永久歯外傷の0.5~7%,全乳歯外傷の2~4%とされているが,エックス線診断の精度を高めた最近の研究はその値より多い可能性を示唆している。歯根破折の治癒のメカニズムは未解明な点が多いが,永久歯では硬組織形成を伴う治癒を目標に治療すべきである。その対応としては,破折部を密着させる整復処置と,破折部が振動しないようしっかりとした固定が原則である。固定期間は,IADT のガイドラインでは4 週間が推奨されているが,硬組織による治癒を目指すならエックス線写真で硬組織形成の兆候が確認されるまで,固定期間を延長すべきである。一方,乳歯の歯根破折では,原因は不明であるが硬組織形成を伴う治癒が生じないようである。したがって,乳歯では変位や動揺のない場合は無処置でよく,根尖側破折片は生理的に吸収される。変位や動揺がある場合は,いくら長期に固定しても硬組織形成を伴う治癒は生じず,IADT のガイドラインでは抜歯が推奨されている。しかし,低年齢の小児においては,歯の喪失による形態的,機能的および精神的な発育への影響が大きいため,後継永久歯の交換間際までの長期固定による歯根破折乳歯の保存を試みる価値は高いと考える。
  • 山口 登
    2009 年 47 巻 5 号 p. 693-699
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    本稿では,小児歯周炎で特徴的な限局型侵襲性歯周炎(LAP : localized aggressive periodontitis)および遺伝性疾患を伴う歯周炎の中で最も遭遇する頻度の高いダウン症患児の歯周炎について述べる。まず,LAP の主な特徴は,臨床的に歯肉の炎症が比較的軽度であるにもかかわらず,一方では永久前歯および第一大臼歯部の急速な歯槽骨吸収のため,早期に歯の動揺を引き起こす。口腔内からは,血清型b のロイコトキシン(Ltx : leukotoxin)高産生株であるAggregatibacter actinomycetemcomitans(Aa)が高頻度に検出される。 そのためLAP が疑われた場合は細菌検査を行う。したがって,通常の歯周治療に加えAa 菌に感受性の高いテトラサイクリンなどの抗生物質の全身投与を併用して除菌を行う必要がある。 また,ダウン症患児では,早期に難治性の重篤な歯周組織の破壊を呈することが多い。そのため,徹底的なプラークの除去を行い,一方,細菌検査で歯周病細菌が検出された場合には,感受性の高い抗生物質を投与した併用療法を行うことが望まれる。ダウン症患児の口腔内環境については,まだ不明な点が多い。したがって同患児の口腔内環境をさらに詳しく分析しながら,ダウン症患児のみならず小児の歯周疾患の予防と治療に貢献していきたい。
  • 宮新 美智世
    2009 年 47 巻 5 号 p. 700-709
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    歯は外力を受けると歯髄や歯周組織が短時間に損傷される。すなわち,歯髄には,露髄部や破折,亀裂から,また断裂した歯根膜を通して,刺激と細菌が到達し,歯髄炎や歯髄壊死を生じさせる場合がある。 また,受傷歯は何らかの脱臼性の損傷をともなうため,歯髄に出血や虚血など循環障害を生じている危険性がある。幼若永久歯が受傷した場合の歯内療法においては,可能な限り歯髄を保存するよう努力がなされてきたが,ひとたび歯髄を失った場合,未完成な歯はさらに脆弱な状態に陥り,歯冠―歯根破折の危険性が高まるため,接着性レジンを用いた修復や咬合への配慮が欠かせない。他方で,進行性歯根吸収の一部や,感染を伴う歯根破折には,外科的歯内療法が有用であった。このような小児独特の高い治癒力を活かすためには,適切な経過管理による異常の早期発見・早期治療と,応急処置と予防法についての広報活動が大切であると思われた。
  • 八若 保孝
    2009 年 47 巻 5 号 p. 710-718
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    乳歯の根管治療において炎症のコントロールと歯根吸収のコントロールを行うことができれば,良好な予後が獲得できる。しかし,複雑な乳歯根管系や生理的歯根吸収の存在により,理想的な根管治療が可能にならない場合が認められる。現段階では,根管壁の細菌(バイオフィルム)およびリーミング・ファイリング操作により形成されたスメア層を効果的に除去することが重要である。次亜塩素酸ナトリウムおよびEDTA と超音波の併用による根管洗浄により,根管壁のスメア層などの除去が可能となる。 これにより,根管貼薬剤の効果を十分に利用すること,並行して根管内および根尖周囲に対して水酸化カルシウム製剤の効果を発揮させることができ,根管治療の予後が良好になると考えられる。さらに,セメント質添加による乳歯歯根修復機構に関する研究を含め,良好な方法の開発・発見に努力が必要である。
原著
  • 1.直行座標系の検討
    西嶋 憲博, 深水 篤, 稲田 絵美, 長谷川 大子, 齋藤 陽子, 井形 紀子, 奥 猛志, 齋藤 一誠, 早崎 治明, 山﨑 要一
    2009 年 47 巻 5 号 p. 719-725
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    小児の顔面の成長は,小児歯科医にとっては非常に興味深いが,軟組織に関する研究は限られている。そこで,本研究は幼児の顔面における三次元形態解析を行なうための,基準座標の設定について検討した。本研究はレーザー型非接触型三次元デジタイザを用い,鹿児島市のT 保育園・幼稚園に通園する健康な4~6 歳の幼児(年齢毎に男女各20 名:計120 名)の顔面形態を計測し,得られた画像より17 の基準点について三次元座標として出力した。基準座標は,原点と平面をそれぞれ2 種類,下記の通り設定し比較検討した。原点は,1)矢状面における鼻根最底部(以下,N 点)と,2)左右内眼角点の中央(以下,内眼角中点)であり,平面は,1)N 点と左右鼻翼外側点でできる鼻の外形(以下,A 平面)と,2)左右内眼角点,左右外眼角点,左右鼻翼外側点,左右口角点の8 点による回帰平面(以下,B 平面),である。2 種類の原点を用いたときの各基準点の標準偏差および変動係数から原点を内眼角中点と決定した後に,A 平面,B 平面における矢状面および水平面のなす角度を算出した。その結果,両平面の矢状面角度は増齢的に減少する傾向があり,4 歳と6 歳の女児では有意差が認められた。この結果,顔面における基準平面の作成は,成長に伴う変化を観察する上で重要であり,事前に各計測点の特徴を考慮した上で,適切に設定する必要があることが示唆された。
  • 2.幅径と高径について
    西嶋 奈緒美, 深水 篤, 岩崎 智憲, 武元 嘉彦, 窪田 直子, 稲田 絵美, 井形 紀子, 奥 猛志, 齋藤 一誠, 早崎 治明, 山 ...
    2009 年 47 巻 5 号 p. 726-731
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    顔面の形態は歯科だけでなく,人体寸法・形状という観点からも関心が持たれている。しかし,小児を対象とした近年の報告は限られており,特に幼児に関する報告は見当たらない。そこで,本研究はレーザー型三次元非接触型デジタイザを用い,鹿児島市のT 保育園・幼稚園に通園する健康な4~6 歳の幼児(年齢毎に男女各20 名:計120 名)の顔面形態を計測し,成長に伴う変化と性差について横断的検討を行なった。計測項目は幅径として,外眼角幅径,内眼角幅径,鼻翼外側間幅径,口裂幅径の4 個,高径として,鼻部高径,上顔面高径,口裂高径,顔面高径,下顔面高径,赤唇高径の6 個を設定した。全体として,増齢的に幅径・高径が増加する傾向を認めた。しかし,5 歳と6 歳の年齢間には多くの計測項目において有意な差を認めたものの,4 歳と5 歳の年齢間では女児の2 項目だけに有意差を認めたことから,この2 年間においても1 年毎に成長量が異なることが示唆された。幅径の計測項目は,頭蓋に近い,より上方の計測項目ほど成人に近い値を示した。年齢毎に行なった性差の検定では,3 つの年齢における,それぞれ10 個の計測項目,計30 項目の中で5 個の項目において有意差を認めたが,一定の傾向は見られなかった。 以上より,幼児の顔面は全体として成長していく中で,その量は年齢,性別,部位のそれぞれにおいて特徴があることが示唆された。
  • 立川 義博, 石井 光治, 山座 治義, 野中 和明
    2009 年 47 巻 5 号 p. 732-737
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    協力的に歯科診療を受けられない障害児に対し新しい行動調整法を考案した。患児はネット式レストレーナーに入ってもらう。そして定期的に来院してもらい,痛くない予防処置や歯石除去を施す。幾度かの来院を経てネットの中でリラックスできるようになったら行動療法を用いて苦手な歯科器具に対する脱感作トレーニングを始めるという方法であり,当科ではネット・リラックス法と呼んでいる。今回ネット・リラックス法の有効性を検討する目的で,ネット・リラックス法を実施した障害児の保護者に対し,実施前後の患児の行動変化に関するアンケート調査を行った。その結果知的障害のある自閉症児はネット・リラックス法実施後,歯科へ来る,ネットに入る,歯科診療の各々の場面での協力状態が著しく改善し統計学的にも有意差を認めた。一方自閉傾向のない知的障害児も協力状態が改善していたが統計学的には有意差は認められなかった。以上のことからネット・リラックス法は知的障害のある自閉症児に対して有効な行動調整法であると示唆された。
  • アンケートからの報告
    藤岡 万里, 吉田 美幸, 長友 文, 田邉 千佳, 本多 正典, 宗田 友紀子, 根日屋 祥子, 橋本 博, 井上 美津子
    2009 年 47 巻 5 号 p. 738-745
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    出産後の母親は,育児や家事におわれ,歯科受診にまで時間を割くことは難しい。当歯科は産科が併設しており,院内に託児所がある利点を活かし,当産科で出産した母親を対象に「出産後歯科健診」を行っている。この健診によって,口腔衛生指導や必要である歯科治療を受け,母親の口腔環境が健全になることが期待される。今回,健診を受診した110 名の母親を対象に行ったアンケート調査から以下の結果を得た。1 .健診を受診するまでの期間は,出産後2 か月が一番多かった。2 .69%の母親は妊婦歯科健診を受診していたが,ほとんどの母親が,かかりつけ歯科医はいないと答えていた。3 .歯磨きの回数は,妊娠中と出産後で大きな違いはなかった。4 .喫煙経験のある母親は29%いたが,1 人の母親を除いて,妊娠前か妊娠を機会に禁煙していた。5 .生まれた子どもの口腔の健康については,半数の母親が考えていることがあり,その関心事項は「齲蝕」が一番多かった。6 .当小児歯科が行っている支援外来において,母親の悩みや心配ごとは,アンケート結果とは異なり,「歯磨き」「離乳食」など親子の生活に密着した内容が多くあげられた。 以上のことより,出産後の母親への歯科からの支援は,妊婦と同様に大切であり,歯科医療サイドは,出産後でも受診しやすい環境や体制を作ることが必要であると考える。また歯科からの親子支援を行うためには,他の職種との連携が必要であると考える。
  • 成島 順子, 小川 京
    2009 年 47 巻 5 号 p. 746-751
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    骨格性不正咬合の遺伝子診断法開発のためにSMXA Recombinant 近交系(RI)マウスを用い,下顎角の大きさを規定している遺伝子の探索を,量的形質遺伝解析(QTL 解析)法にて行った。SM/J 系統およびA/J 系統マウス,さらにこの2 系統マウスを交雑することで得られたSMXA RI マウスを90 日齢まで飼育した後,乾燥下顎骨の下顎角の大きさを測定した。下顎角の最大値は,SM/J 系統において98.5 度を示し,最小値はA/J 系統の87.0 度であった。その他のSMXA RI マウスの下顎角の大きさはこの値の間に分布したため,得られた値を量的形質値とした。SMXA RI マウスのStrain Distribution Pattern と量的形質値とを指標としてQTL 解析ソフトMap Manager QTb 28 を用いて全染色体を対象にQTL 解析を行った。その結果,第13 番染色体のマーカーD 13 Mit 130 においてLOD スコアーが2.3, X 染色体のマーカーNdA 29 においてLOD スコアーが2.2 でありsuggestive な値を示した。この結果から,第13 番及びX 染色体のこれらの領域に下顎角の大きさを規定する遺伝子が存在していることが示唆された。
  • 保護者の歯科保健に対する意識と学童の定期歯科健診の関連
    佐藤 公子
    2009 年 47 巻 5 号 p. 752-759
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    本研究では小学校1~6 年生を持つ保護者317 名と3~6 年生237 名を対象に,学童の口腔状態と保護 者の口腔の健康に関する意識を調査し,定期歯科健診に影響を及ぼす要因の検討を行った。その結果,以下の結論を得た。1 .保護者の「関心」や「関心」を持たせる動機づけとなる「価値観」,子どもに対する歯科保健行動を通じた関わりは定期歯科健診受診を促進する要因になることが示唆された。2 .学童期には家庭での適切な健康管理とセルフケア向上に関わる学童に対する歯みがき方法,生活習慣の見直しなどが重要である。学童のセルフケアを支えるには家庭の健康管理機能を高める支援が必要であるが,保護者と学童の口腔の健康や生活状態に意識の差があることを考慮して行う必要性が示唆された。
  • 岩崎 てるみ, 内川 喜盛, 石川 力哉, 上原 正美, 吉野 園子, 白瀬 敏臣
    2009 年 47 巻 5 号 p. 760-766
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    フッ素(F)イオンが,口腔内環境に与える影響を検討する際の基礎的データを得ることを目的に,超微量F イオン濃度の測定が可能なフローインジェクション分析法を応用し,幼児唾液中F イオン濃度を測定した。対象は2 つの保育園の4~6 歳の園児101 名(男児44 名,女児57 名)とし,朝食後2 時間以上経過後に刺激全唾液の採取を行った。採取唾液は遠心処理後,上清0.2 ml を用いF イオン濃度を測定した。また,NaF 溶液(0.05, 0.1, 0.5 ppmF)を採取唾液に1: 9の割合で添加し,F イオン濃度の経時的変化を測定した。唾液中F イオン濃度の計測は,本装置にて安定し再現性も高く良好であった。幼児唾液中F イオン濃度の平均値(標準偏差)は0.0082(0.0026),最大0.017,最小0.0017 ppmF であった。性差および年齢間での差は認められなかったが,2 つの保育園間に有意な差が認められ,フッ化物洗口を行っている保育園児のF イオン濃度が高い値を示した。また,唾液中に添加したF のイオン濃度は,純水に添加した濃度と比べ17~45%の減少が認められ,添加濃度が低いほど減少率は高かった。被験児の唾液中F イオン濃度は,すべてが通法のF イオン電極法の測定限界以下であったことから,本法を用いたF イオン濃度測定法は,低年齢児に対するフッ化物製剤の安全で効果的使用方法を検討するにあたり有効であると考えられた。
臨床
  • 西田 綾美, 松村 誠士, 堀 雅彦, 保富 貞宏, 下野 勉
    2009 年 47 巻 5 号 p. 767-772
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    先天性表皮水疱症の3 歳児を5 年間にわたり口腔ケアを行った。初診時,プラークコントロールは不良で,多数歯に重症齲蝕を認めた。加えて歯科診療に対する不安が強く,診療は困難をきたした。治療方針を(1)歯科診療に対する協力性の向上(2)口腔衛生の改善(3)齲蝕の進行抑制とし,2 週間に1 回の間隔で来院させた。Tell Show Do 法(TSD)などで行動変容を行い,使用する歯ブラシを加工する等の工夫,診療室でのフッ化物塗布,家庭でのフッ化物洗口等を行った。その結果,プラークの付着が減少し,健全な永久歯が萌出中である。また,初診時には歯冠崩壊のため咀嚼が困難であったが,永久歯の萌出に伴う咬合部位の増加により,食事内容や量が増加し栄養状態もよくなった。患児と信頼関係を築き,両親の理解や協力を得る事で口腔ケアが容易となり,健全な永久歯の萌出を迎えることができた。
  • 細川 由佳, 松山 順子, 田口 洋
    2009 年 47 巻 5 号 p. 773-779
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    埋伏した下顎右側第二乳臼歯の咬合面側に後継永久歯である第二小臼歯歯胚が存在した稀な症例を経験したので報告する。 患児は6 歳8 か月の女児で下顎右側第二乳臼歯は完全に埋伏していた。周囲歯肉に発赤,腫脹などは認められなかった。エックス線写真所見で,埋伏した乳臼歯の歯冠遠心上部に石灰化物が認められた。第二小臼歯の歯胚は乳臼歯の歯冠上部かつ近心舌側に歯軸を遠心に傾斜して認められた。6 歳9 か月時に開窓と過剰歯の除去を行い,その後開窓と牽引を行ったが萌出傾向がみられないため,第 二乳臼歯を抜去した。その際,第二小臼歯の歯胚は保存した。第二乳臼歯の抜去から1 年1 か月後,第二小臼歯は萌出した。原因は不明であったが,第二小臼歯歯胚が第二乳臼歯の歯根間に移動する過程で,何らかの障害が発生し第二小臼歯が咬合面側に留まり,第二乳臼歯の埋伏が生じたと考えられた。後継永久歯歯胚の位置が逆転している症例では,永久歯の抜去例も報告されているが,本症例では状態や位置関係を精査した上で永久歯を保存し,萌出まで導くことが可能であった。また,乳歯の埋伏は頻度が少ないものの,永久歯への影響も重大であるため,早期発見と処置が望ましいと考えられた。
  • 吉村 剛, 海原 康孝, 林 文子, 香西 克之
    2009 年 47 巻 5 号 p. 780-786
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    大臼歯の咬合誘導は,その歯根が複根であり,表面積も広いという解剖学的構造などにより,歯の移動には大きな力が必要となる。そのため,これまでに報告された大臼歯の治療法は,数歯にわたる固定源を必要とするものが多く,いずれの治療法も複雑であった。しかし,咬合誘導はできるだけ単純で容易であることが望ましい。そこで著者らは,パワーチェーンやセクショナルワイヤーなどを利用した装置により,咬合誘導を2 例行った。下顎第二乳臼歯の低位が原因で,下顎第一大臼歯が近心傾斜し,咬合不全を生じた症例に対しては,リンガルアーチとパワーチェーンから構成されるsimple molar controller を用いて治療した。下顎の萌出スペース不足が原因で,下顎両側第二大臼歯が近心傾斜し,萌出困難となった症例に対しては,クリンパブルフックとセクショナルワイヤーを用いて咬合誘導を行った。右側はエラスティックの弾性力を,左側はワイヤーの復元力を利用して治療した。これらの治療の結果,以下のことが明らかとなり,治療法の有効性が示された。1 .いずれの装置も構造が単純で,施術や調整が容易であるため,チェアータイムが短かった。2 .装置の装着期間は3~7 か月と比較的短く,装着期間中に患者が苦痛や違和感を訴えることはなかった。
  • 三宅 奈美, 林 文子, 鈴木 淳司, 角本 法子, 太刀掛 銘子, 香西 克之
    2009 年 47 巻 5 号 p. 787-795
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    従来,外傷時の乳歯の再植は,後継永久歯胚への影響を危惧して禁忌とされてきた。しかし,低年齢期に乳歯が完全脱臼で喪失すると,発音・咀嚼障害,審美的障害や口腔習癖を生じることも多い。今回著者らは,外傷により下顎乳切歯3 本を脱臼した3 歳2 か月の男児(症例1)と,下顎左側乳側切歯を脱臼した 2 歳0 か月の女児(症例2)に対して脱臼乳歯の再植を行い,後継永久歯交換期まで予後を観察する機会を得た。2 症例とも再植した乳歯は,自発痛,根尖部圧痛,発赤,腫脹および変色などの症状を認めず,歯髄処置を行うことなく経過した。その後,正常な歯根吸収を呈し,脱落も正常範囲内に自然に行われ,後継永久歯へと交換した。後継永久歯への影響については,症例1 の下顎両側中切歯歯冠部唇側切端よりに白斑を認めたが,エナメル質の粗造感や実質欠損,萌出時期および位置の異常は認めなかった。一方,症例1 および症例2 の下顎左側側切歯には後継永久歯の歯冠形態や色調に異常は認めなかった。このことは,乳歯の再植処置が永久歯胚の形成に必ずしも影響を与えるとはいえないことを示唆している。以上より,低年齢児の外傷において再植に適した条件が揃っている場合は,保護者への十分なインフォームドコンセントを行った上で,乳歯脱臼症例の処置法として再植を選択肢に含めてもよいのではないかと考える。
  • 平川 貴之, 壺内 智郎, 松村 誠士, 下野 勉
    2009 年 47 巻 5 号 p. 796-803
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    今回,10 歳1 か月の女児で上顎右側第二乳臼歯の完全埋伏と上顎右側第二小臼歯の先天性欠如を疑った1 例に遭遇し,処置および継続的な経過観察と口腔内管理を長期に行なった。1 .初診時の口腔内所見ならびにエックス線所見より,上顎右側第二乳臼歯の完全埋伏を認めた。この時,後継永久歯の歯胚は認められなかった。2 .初診から1 か月後,埋伏上顎右側第二乳臼歯の開窓を行ない,自然萌出を期待し,3~6 か月経過観察した。3 .開窓して3 か月間は萌出傾向を認めたが,それ以降は著明な変化はなく,再開窓して牽引処置を行なった。4 .牽引処置開始から3 か月後,上顎右側第二小臼歯を認めた。5 .継続的に経過を追い,17 歳5 か月時に上顎右側第二小臼歯の萌出を認め,18 歳10 か月時に咬合平面に達したことを確認した。
  • 上里 千夏, 手島 陽子, 船津 敬弘, 吉本 新一郎, 宮内 康範, 山下 一恵, 佐藤 昌史, 井上 美津子
    2009 年 47 巻 5 号 p. 804-809
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    Marshall 症候群は,1958 年にMarshall が1 家系3 世代中の7 症例についてはじめて報告した極めて稀な症候群である。主症状は難聴,近視,白内障,中顔面の低形成である。本邦では歯科治療を行った報告はほとんどない。今回,著者らは4 歳児のMarshall 症候群患者の歯科治療を経験し,口腔内の形態について若干の知見を得た。本症例も,中顔面低形成,側貌の陥凹,浅い眼窩,上向きの鼻孔等を認めMarshall 症候群の特徴的な顔貌を示した。歯列形態は上顎が台形に近い形態を示し,上顎の歯列弓幅径が著しく大きく,歯列弓長径が著しく小さかった。乳歯歯冠近遠心幅径は小児歯科学会の調査と比較して,平均値より全て大きい値を示した。エックス線写真より上顎永久切歯萌出のスペース不足が予測された。本症候群に関する情報が少なすぎるため全身的な成長予測は困難であり,今後も定期的な観察を続けていきたいと考えている。
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