高分子論文集
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66 巻, 10 号
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総合論文
  • 永 直文, 曽根 正人, 野口 恵一, 村瀬 繁満, 今西 幸男
    2009 年 66 巻 10 号 p. 381-395
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    筆者らは,共重合によるポリオレフィンの結晶構造制御を目的に,メタロセン触媒を用いて主鎖に小さい環状構造であるシクロペンタン環を有するポリエチレン,ポリプロピレンの合成を検討してきた.その中で,エチレンと 1,5-ヘキサジエン(HD)との環化を伴う共重合により合成される主鎖に 1,3-シクロペンタン構造を有するポリエチレンが,共結晶を形成し,1,3-シクロペンタン構造の増加に伴い斜方晶から六方晶へ転移することを明らかにした.このエチレン系重合体の六方晶が,結晶から液晶相へ転移する中間状態を表すものではないかと考え,分子設計によるポリオレフィンの液晶化を検討してきた.その結果,連鎖移動剤の存在下でメタロセン触媒を用いた HD の環化重合(単独重合)で得られる低分子量のポリ(メチレン-1,3-シクロペンタン)(PMCP)が,常温,常圧下のネマチック液晶を形成することを見出した.
  • 藤原 進, 橋本 雅人, 伊藤 孝
    2009 年 66 巻 10 号 p. 396-405
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    高分子構造形成および両親媒性分子自己会合に関する大規模な分子動力学シミュレーションを行った.具体的には,孤立した一本の高分子鎖,孤立した多数本の短い鎖状分子,溶液中における一本の高分子鎖の構造形成に関する研究,および両親媒性溶液中における自発的ミセル形成に関する研究を行った.構造形成過程を詳細に解析することにより,鎖状分子系および両親媒性分子系の非平衡ダイナミクスに共通する性質として,「段階的エネルギー緩和」および「動的共存」という二つの性質を明らかにした.本研究の成果は,高分子系や両親媒性分子系などのさまざまな複雑系に普遍的に存在する非線形法則を見いだす上で,大きな手掛かりを与えるものである.
  • 森田 智行, 渡辺 潤, 竹田 和樹, 甲斐 美奈子, 有熊 洋子, 岡本 紳平, 木村 俊作
    2009 年 66 巻 10 号 p. 406-418
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    レドックス活性なフェロセン部位を末端に有するさまざまなヘリックスペプチドを用いて金表面上に自己組織化単分子膜を調製した.エリプソメトリー,赤外反射吸収スペクトル測定,電気化学ブロッキング実験などの結果,これらのヘリックスペプチドは垂直配向の規則正しい単分子膜を形成していることが示された.種々の電気化学測定により,フェロセン部位から金への長距離電子移動について調べ,ダイポールモーメント,ペプチド側鎖,鎖長,分子配向,単分子膜のパッキング,ペプチドと金とを繋ぐリンカー部位,のそれぞれが電子移動に及ぼす効果について検討した結果,以下のような興味深い知見を得た.1)ダイポールと同方向の電子移動は逆向きの場合に比べ数倍加速される場合がある,2)側鎖に発色基を導入しても電子移動は加速されない.3)へリックスペプチド鎖長が長くなると短距離電子移動で支配的なトンネリング機構とは異なる電子移動機構へ変化する.長距離電子移動で支配的となる電子移動機構としてアミド基を介したホッピング機構が考えられる.4)側鎖が小さく膜中でペプチド主鎖どうしが近接している場合,電子移動は複数のペプチド分子を介する分子間移動も可能となる.5)電子移動はへリックスペプチドに許容される分子運動の容易さと関係しており,膜のパッキングが緩く特定の分子運動が促進されると電子移動は加速される.6)16~18 量体へリックスペプチドにおいて,リンカー部位をアルキル鎖から芳香族に変えると電子移動は顕著に加速されるが,芳香族リンカーに電子供与性あるいは電子吸引性基を導入してレドックス準位を変化させても電子移動速度は影響を受けない.
  • 松葉 豪, 趙 雲峰, 寺谷 誠, 林 裕司, 高山 義之, 荻野 慈子, 西田 幸次, 金谷 利治
    2009 年 66 巻 10 号 p. 419-427
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    結晶性のアイソタクチックポリスチレンに対して,融点より十分高い温度においてせん断を印加すると配向構造が観測される.この配向構造に着目し,偏光顕微鏡測定・偏光光散乱測定,小角・広角 X 線散乱測定を行った.通常の融点(223℃)より高温においてせん断を印加したときに観測されるミクロンスケールの配向構造は 250℃ にて,一日以上アニールしても融解せずにそのまま存在していた.しかし,昇温すると 270℃ 付近で融解した.また,この配向構造を通常の融点以下に冷却した場合,配向構造を中心にいわゆるシシケバブ構造が成長していた.さらに,アイソタクチックポリスチレンで観測される融点以上での配向構造の形成過程を明らかにするために,配向構造のせん断印加速度およびひずみ量による変化に着目して,顕微鏡観察を行い,臨界せん断速度,臨界ひずみ量の存在を示した.ポリオレフィン系高分子における融点以下でのせん断流動場結晶化でも,臨界ひずみ量,臨界せん断速度が評価できたことから,アイソタクチックポリスチレンにおいて観測された配向構造はせん断による高分子鎖の配向と緩和プロセスに依存していると考えられる.
  • 山下 基
    2009 年 66 巻 10 号 p. 428-437
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    アイソタクチック・ポリブテン 1 の正方晶について光学顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いた成長形のモルフォロジーの観測と X 線小角散乱実験と密度測定による結晶厚の測定を行った.結晶厚は過冷却度の逆数に対して 2 つの傾きの異なった線形依存性を示し,2 つの依存性の間の転移が結晶成長面がキネティックラフニング状態にある 60~70℃ 付近で観測された.2 つの依存性は低過冷却域と高過冷却域のそれぞれで核形成理論に従う挙動を示した.
      低過冷却域において決定された分子鎖の折りたたみの自由エネルギー q の値は高過冷却域での q 値に比べて大きい値を示した.結晶成長面が速度論的に荒れる高過冷却域では分子鎖の折りたたみ方向が乱れるのに対し,低過冷却域では分子鎖の折りたたみ方向が揃うと考えられる.このため,分子鎖の折りたたみ方向のエントロピーが低過冷却域で小さくなり,より高い分子鎖折りたたみの自由エネルギーとして観測されたと考えられる.
一般論文
  • 藪 浩, 本吉 究, 田島 孝訓, 樋口 剛志, 下村 政嗣
    2009 年 66 巻 10 号 p. 438-441
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    高分子の溶液に貧溶媒を加え,良溶媒を蒸発させるという簡便な手法で球状のポリマー微粒子が得られることを見いだしている(Self-ORganized Precipitation(SORP)法).SORP 法を用いて polyvinylpyridine(PVP)と polystyrene(PS)からなるジブロックコポリマーである poly(styrene-block-vinylpyridine)(PS-b-PVP)の微粒子を作製し,これらにパラジウムや金の塩溶液を反応させることで,PVP 部位に選択的に金属を錯化させた.走査型透過電子顕微鏡観察を行った結果,金属錯化に伴い PVP セグメントが染色され,微粒子内部に相分離構造が形成されていることが明らかとなった.相分離構造は PVP セグメントの割合に依存して変化した.以上の結果から,相分離構造を持つ金属-ポリマーハイブリッド粒子の形成が可能であることが示唆された.
  • 高木 秀彰, 山本 勝宏, 岡本 茂, 櫻井 伸一
    2009 年 66 巻 10 号 p. 442-449
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    結晶性-非晶性ブロック共重合体である Polybutadiene-block-poly(ε-caprolactone)(PB-b-PCL)ジブロック共重合体の溶融状態における相挙動について小角 X 線散乱(SAXS)測定を用いて調べた.Disorder 状態における SAXS プロファイルを Leibler によって導出された理論曲線を用いて fitting することで PB-b-PCL の Flory-Huggins の相互作用パラメータである χ の温度依存性式を決定した.Disorder 状態における高分子鎖の慣性半径,Rg,の値は,一般的なガウス統計から求められる Rg の値よりも大きい値が得られた.そのため Disorder 状態における高分子鎖の広がりは,ガウス鎖よりも非常に引き延ばされた状態になっていることがわかった.この χ の温度依存性式を用いて相図の作成を行ったところ,実験から求まった(χN)ODT(N は重合度を表す)は計算から求まった(χN)ODT よりも小さい値になることがわかった.(χN)ODT が理論値よりも低い値となる原因として,“分子量分布とブロック鎖間のセグメントサイズの非対称性”と“Disorder 状態における高分子鎖の引き延ばし効果”の 2 つ観点から考察を行った.その結果,比較的低分子量で秩序-無秩序転移(ODT)を示す系では,“Disorder 状態における高分子鎖の引き延ばし効果”が秩序-無秩序転移温度(TODT)に大きな影響を与えていると考えられる.
  • 池原 飛之, 片岡 利介
    2009 年 66 巻 10 号 p. 450-453
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    Poly(butylene succinate)/poly(ethylene oxide)(PBS/PEO)ブレンドにおいて PEO の融点以上の温度で PBS が結晶化するとき,PBS 球晶の成長面が別の PBS 球晶内に侵入して成長した.このような同種成分の球晶間での侵入現象は,膜厚が 10~60 μm で球晶中心間距離が膜厚の約 2 倍以内のとき,一部の球晶間で生じた.球晶が侵入成長した部分の偏光顕微鏡像では 2 つの PBS 球晶の消光リングが重なっていた.同じ場所の原子間力顕微鏡像には球晶間の境界が生じており,一方の球晶のラメラが他方の球晶内に侵入して成長したことは確認できなかった.これらの結果から,膜の上面と下面で核生成した PBS 球晶が三次元的に重なっているためこの現象が生じる可能性が高いと考えられる.
  • 野口 侑利, 赤堀 敬一, 山本 祥正, 川面 哲司, 河原 成元
    2009 年 66 巻 10 号 p. 454-462
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    天然ゴム(NR)の延伸結晶化は NR ブレンドの力学物性に重要な役割を果たしていると考えられる.本研究では,組成および架橋密度の異なる NR/スチレンブタジエンゴム(SBR)ブレンドの引裂エネルギー(G)への NR の延伸結晶化の効果を検討した.SBR もしくは NR/SBR(1/9)ブレンドの G はシフトファクターを用いることによって 1 本のマスターカーブに換算されたが,NR の G は重ね合わせることができなかった.一方,NR/SBR(3/7)ブレンドの G は不連続なマスターカーブになったが,NR/SBR ブレンドの架橋密度を約 3 倍高くすることによって重ね合わせることができた.NR/SBR ブレンドは NR の組成を低くしたとき,NR の架橋密度を高くしたときおよび脂肪酸を除去したときに延伸結晶化しなかったことから,NR の延伸結晶化がブレンドの物性に重要な役割を果たしていることが明らかとなった.
  • 田中 穣, 宇田川 洋
    2009 年 66 巻 10 号 p. 463-469
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    poly(6-(4′-cyanobiphenyl-4-yloxy)undecylacrylate)(PCBA11 と略記する)を試料として,ガラス転移点より下の温度で所定の時間だけ熱処理した後に DSC でエンタルピー測定を行った.熱処理時間に応じて,試料のエンタルピーは減少する;偏光顕微鏡観察の結果とあわせて,このエンタルピー減少は熱処理にともなう構造緩和に対応すると考えた.拡張指数型の緩和関数を導き,算出した緩和時間について,温度依存性からアレニウスの式を経て見かけの活性化エネルギー(Eapp)を求めた.Eapp=300 kJ/mol でありポリスチレンの Eapp よりも大幅に低いことを PCBA11 のくし型構造に関係付けて解釈した.得られた緩和関数を基に活性化エネルギースペクトルを算出した.スペクトルは単峰性のピークで,ピークの立ち上がり・立ち下りの意味,極大におけるエネルギー,ピーク下の面積について熱処理温度の影響という観点から考察した.
  • 仲村 佳代, 中村 佐武郎, 梅本 晋, 奥居 徳昌
    2009 年 66 巻 10 号 p. 470-474
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    高分子融体からの結晶化過程は,一次核生成と結晶成長という二つの主な機構からなっている.アイソタクチックポリプロピレン(iPP)の結晶構造,結晶成長速度およびモルフォロジーについては,多くの研究結果が報告されている.しかし,一次核発生速度の結晶化温度依存性を詳しく報告した論文は少ない.iPP の核発生速度は非常に速いため,従来高温域の極めて狭い結晶化温度範囲でしか実測することができなかったが,測定法を改善することにより,広い結晶化温度範囲での測定を可能にした.本報では,iPP の α 型,β 型(β 核剤添加)の核発生速度(I)および飽和核数(Ns)を広い結晶化温度範囲で実測し,それぞれの結晶型の結晶化温度依存性について考察を行った.iPP の α 型および β 型の核発生速度の結晶化温度依存性は,約 50℃ および 78℃ で極大核発生速度(Imax)を持つ釣鐘型曲線を示した.また,β 核が発現するには,核剤の添加だけでなく核形成温度も重要な因子であることがわかった.
  • 山崎 慎一, 岡 卓也, 木村 邦生
    2009 年 66 巻 10 号 p. 475-482
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    ジャーナル フリー
    脂肪族ポリエステル類のエステル交換反応を介した絡み合い解消経路の可能性を示すために,ポリ L-乳酸(PLLA)とポリ ε-カプロラクトン(PCL)の球晶成長速度 G を等温結晶化前のメルトアニーリング時間 Δt の関数として測定した.PLLA 試料はオリゴマーの結晶化と固相重合を利用した“重合結晶化法”によって調製した.調製した試料が不明瞭な晶癖を持つ試料の場合,G は Δt < 30 min においてほぼ一定であり,その後 Δt の増加とともに単調に減少した.一方,調製した試料が明瞭な晶癖を持つ試料の場合,G は Δt に対し単調に減少するのみであった.バルク重合法で調製した PCL 試料に対しては,メルトアニーリング温度 Tmax が 100 および 130℃ の時に,Δt < 30 min において G に平坦域が現れたが,Tmax が 80℃ の時には G は単調に減少するのみであった.メルトアニーリング後の PLLA と PCL の GPC 測定から,試料の分子量は変化しないが,分子量分布が広くなることがわかった.これらのことは,PLLA と PCL がメルト中でエステル交換反応を介した絡み合い解消経路を有していることを示している.
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