症例は47歳男性.労作時の意識消失で前医に救急搬送された.頭部MRI,脳波等では異常なく,冠動脈造影検査,冠動脈CTで右冠動脈は右-左冠尖交連上方から起始し大動脈-肺動脈間を走行していた.諸検査で明らかな虚血は示されなかったが,搬入時採血で心筋逸脱酵素の上昇があったため右冠動脈の一過性虚血による失神の可能性が高いと考え,右冠動脈移植術を施行した.経過は良好で症状再燃なく経過観察中である.右冠動脈起始異常は無症状の症例や虚血を証明できない症例が諸家から報告されており,治療方針に一定の見解が得られていない.今回,失神を契機に判明した右冠動脈起始異常に対し冠動脈移植術を行い良好な結果が得られた1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
症例は82歳男性.虚血性心疾患(IHD)とDebranching TEVAR(右腋窩動脈-左腋窩動脈-左総頸動脈)の既往があり,突然の胸痛で当院に搬送となった.急性冠症候群:左主幹部(LMT)を含む2枝病変(右冠動脈(RCA)#2 75%,#3 90%,LMT#5 50%,左前下行枝(LAD)#7 75%)の診断となった.責任病変であるRCA(#2~3)に経皮的バルーン血管形成術(POBA)を施行し,残存病変については待機的に心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)を予定していた.しかし心原性ショックとなり大動脈内バルーンパンピング(IABP)を挿入し緊急で胸骨下部部分切開(左側への逆L字)によるOPCAB(SVG-LAD, SVG-#4PD)を施行した.術後のCAGでグラフトの開存を確認し,合併症を認めることなく良好な経過を辿った.腹膜透析(PD)患者では術後に横隔膜交通症を合併することや,将来的に透析用内シャントの作製を考慮する必要がある.自験例では将来,内シャント使用中にデブランチによる血流の影響が内胸動脈(ITA)に及ぶ可能性があることから,大伏在静脈グラフトでの血行再建を施行した.また,右腋窩動脈-左腋窩動脈バイパスグラフトが開存していることや胸骨の安定性の観点から開胸方法に胸骨下部部分切開を選択した.グラフト選択のみならず開胸方法を工夫することは,早期離床と周術期合併症予防の観点からも重要であると考えられた.
症例は84歳,女性.76歳時に冠動脈肺動脈瘻結紮,冠動脈瘤切除および冠動脈バイパス術を施行された.胸痛を主訴に前医へ救急搬送され,冠動脈造影検査で急性心筋梗塞と診断された.入院翌日血圧低下をきたし,心エコー検査にて左室破裂所見を認め当院へ転院搬送となった.即日IMPELLAを導入し,1週間の全身管理後,第8病日に手術を施行した.術中所見では側壁に破裂孔を認め,パッチ閉鎖で修復した.術後24日目にリハビリ目的に転院となった.多臓器不全を合併した高齢者であり,手術リスクが高かったため,梗塞心筋のリモデリングを得るべく待機期間を設けることが修復術成功への鍵と考えた.破裂部位の拡大を防ぐべくIMPELLAにより左室を減圧し,7日間の術前期間を設けることで臓器障害も改善し,十分にpreoptimizationできた.左室破裂症例における術前IMPELLA補助下管理は,本症例のような血行動態の安定した開心術後のblow-out ruptureやoozing ruptureで有効となる可能性がある.
乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症は急性心筋梗塞に伴う重篤な合併症として知られ,特に後内側乳頭筋に生じることが多い.本症例は41歳男性.上室性頻拍症に対するカテーテルアブレーション治療中に乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症を生じた.原因はカテーテル操作中に腱索が絡まり,過度な牽引で乳頭筋が断裂したと考えられた.患者はエホバの証人の信者であり,輸血を拒否したが,希釈自己血貯血およびセルセーバーと人工心肺の使用は承諾したため,手術を実施した.僧帽弁の後内側乳頭筋が断裂していて,前尖(A2)に断裂した乳頭筋と腱索が付着していた.また前尖は弁腹にかけてV字状に裂開していた.断裂した乳頭筋を含む僧帽弁前尖を切除し,機械弁を用いた僧帽弁置換術を実施した.周術期に機械的循環補助を必要とせず,無輸血で良好な経過で退院された.本症例はカテーテルアブレーション中に乳頭筋断裂が生じた稀な合併症であり報告する.
心臓乳頭状線維弾性腫(PFE)は,良性の心臓腫瘍として主に,左心系の弁膜に発生するが,今回,脳塞栓症精査にて左心耳内に12 mm大の腫瘤として同定され組織学的にPFEであったので報告した.症例は72歳男性,脳梗塞の原因精査にて診断された.造影CT,経食道心エコーにて左心耳に12 mmの腫瘤を認めたため,塞栓症を発症していることもあり,準緊急で心臓腫瘍摘出手術の方針となった.術後病理学検査にて,左心耳に発生したきわめて稀な心臓乳頭状線維弾性腫であった.
症例は73歳男性で10年前に食道癌に対して食道全摘術および胸骨後経路での胃管再建術を施行された.右冠動脈近位部に対して経皮的冠動脈形成術の既往があるが,今回胸痛を主訴に当院受診し,急性冠症候群の疑いで冠動脈造影検査を施行され,右冠動脈近位部に留置されたステント内に再狭窄を認め,責任病変と判断された.薬剤溶出性バルーンによる拡張を施行され症状は改善したものの,ステントの拡張不良による狭窄が残存したため,冠動脈バイパス術目的に当科紹介となった.CTでは胸骨直下に再建した胃管があり,胸骨正中切開でのアプローチは胃管損傷のリスクが高いと考えられた.左小開胸アプローチとし,グラフトは大伏在静脈を選択した.手術は右半側臥位で左第5肋骨上に前腋窩線から鎖骨中線上まで約10 cmの皮膚切開をおき,同一皮膚切開から第5肋間と第3肋間をそれぞれ開胸し,房室結節枝と上行大動脈の視野を展開した.まず第3肋間から3.8 mmのパンチャーとハートストリングIII(Getinge, Lindholmspiren, Sweden)を用いて大伏在静脈を上行大動脈に中枢側吻合した.次に大伏在静脈を左胸腔内経由で誘導し,第5肋間の視野で房室結節枝に側々吻合した.吻合後のグラフト血流量は48 ml/minであった.術後経過は特記した異常なく,造影CTでバイパス血流が保たれていることを確認し,術後12日目に自宅退院となった.食道癌術後に心臓手術が必要となった症例報告は散見されるが,アプローチや術式選択に工夫を要することが多いため,文献的考察を加えて報告する.
症例は89歳の女性.数日前からの胸痛を主訴に近医を受診した.12誘導心電図で急性冠症候群が疑われたため,当院へ救急搬送された.緊急冠動脈造影検査で左主幹部に高度狭窄を認めた.大動脈内バルーンパンピング(IABP)を留置し,準緊急手術の方針とした.心拍動下冠動脈バイパス術を施行したが,術後に僧帽弁前尖収縮期前方運動(SAM)による僧帽弁逆流を生じ,循環動態が不安定であった.カテコールアミンの減量,容量負荷,β遮断薬の投与などSAMに対する一般的な治療に加えて,IABPを抜去することでさらに循環動態の改善が得られた.本症例においてIABPがSAMの増悪因子であった可能性がある.
症例1:60歳女性,くも膜下出血にて入院加療し,精査にて感染性心内膜炎を認めた.心エコー上四尖弁による中等度大動脈弁閉鎖不全症と卵円孔開存症を認め、手術となった。術中所見では右冠尖と無冠尖の間に副冠尖をもつ四尖弁だった。自己心膜を用いて三尖弁化し大動脈再建術(Ozaki手術)と卵円孔直接閉鎖術を行った.症例2:54歳男性,労作時呼吸苦を認め,心エコーにて四尖弁による重症大動脈弁閉鎖不全症を認め,手術施行した.術中所見では左冠尖が最も大きく,他の三尖はほぼ均等な四尖弁であり,自己心膜を用いて三尖弁化しOzaki手術を行った.稀な大動脈四尖弁に対し自己心膜を用いた大動脈再建術が奏功した2例を経験した.三尖弁化することで生理的で良好な血行動態が得られることからも先天的な大動脈弁異常に対して良い適応と考える.
MYH9異常症は巨大血小板を伴う血小板減少および白血球封入体を特徴とする常染色体優性遺伝性疾患である.本疾患は先天性巨大血小板症の中で最も高頻度であり,10万人に1人程度と推測される.今回,MYH9異常症を伴った大動脈弁狭窄症,僧帽弁閉鎖不全症に対して二弁置換術を行い,出血性の合併症や感染症の合併なく施行できた.症例は78歳女性.維持血液透析中であったが,自覚症状は特になかった.胸部X線にて心拡大を指摘され,心エコー検査を施行したところ,大動脈弁狭窄症,僧帽弁閉鎖不全症と診断された.血小板減少に対しては周術期に血小板輸血を行い,手術を施行した.手術時間短縮と出血量減少を目的に僧帽弁に関しては弁形成術ではなく弁置換術を選択し,大動脈弁および僧帽弁の二弁置換術を行った.周術期に出血性の合併症や感染症は認めず,術後経過は良好であった.
症例は45歳,男性.既往なし.左下肢痛と左下肢不全麻痺を認めたため前医を受診した.CTで右鎖骨下動脈起始異常にKommerell憩室を伴うStanford A型大動脈解離および左総腸骨動脈の真腔狭小化を認め,下肢症状を伴っていたため当院へ搬送され緊急手術となった.手術はfenestrated Frozen Elephant Trunk法による全弓部置換術と経皮的右鎖骨下動脈塞栓術による二期的手術とした.胸骨正中切開,右総大腿動脈および左腋窩動脈から送血し,右房脱血にて人工心肺を確立した.超低体温循環停止法,順行性選択的脳灌流法を用いた.Entryは遠位弓部大動脈に認めた.弓部大動脈は左総頸動脈と左鎖骨下動脈の間で離断した.Open Stent Graftを挿入し憩室化した右鎖骨下動脈起始部を閉鎖した.左鎖骨下動脈はfenestration法にて再建した.4分枝人工血管を使用し上行弓部大動脈と左右総頸動脈を再建した.右鎖骨下動脈は右胸腔を経路として再建した.二期目として術翌日に経皮的に右鎖骨下動脈起始部の塞栓術を施行した.術後CTではKommerell憩室への血流は消失しており,開窓部からのエンドリークも認めなかった.術後経過は良好であった.右鎖骨下動脈起始異常にKommerell憩室を伴うStanford A型大動脈解離に対してfenestrated Frozen Elephant Trunk法による全弓部置換術を施行した1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.
症例は80歳男性.78歳時に最大短径60 mmの腎動脈下腹部大動脈瘤(AAA)に対して腹部大動脈ステントグラフト内挿術(EVAR)を行った.術中造影でエンドリークを認めたが,起源は不明であったため術後経過観察とした.術後の造影CTでメインボディ中枢側のinfoldingとType 1aエンドリークを認めたが患者から追加の治療同意が得られなかったため経過観察とした.術後1年半で瘤径60 mmから63 mmまで拡大を認めたため血管内治療による追加治療を行った.Infoldingした部分に対してバルーンでの圧着を試みたが,エンドリークは残存した.そこでinfoldingした初回手術のステントグラフトに内張するように追加のステントグラフトを留置するとエンドリークは消失した.術後4カ月経過するがステントグラフトの再infoldingは認めていない.
今回われわれは,小児期に治療介入を要したロイス・ディーツ症候群(Loeys-Dietz Syndrome,以下LDS)合併の左鎖骨下動脈瘤という稀な症例を経験した.症例は12歳女児.11歳時に大動脈弁輪拡大および大動脈弁逆流にてマルファン症候群を疑われ,遺伝子検査にてLDSと診断された.12歳時,大動脈弁輪拡大の経過観察目的で施行された胸部MRIにて左鎖骨下動脈に最大径25 mmの嚢状動脈瘤を指摘された.同病変に対し,動脈瘤に対するコイル塞栓術,および左鎖骨下動脈と左椎骨動脈の外科的血行再建のハイブリッド治療を施行した.術後8日目に独歩退院した.
ハイリスクAS患者に対するカテーテル的治療としてTAVIが登場し,その低侵襲性,良好な臨床成績から国内でも急速に普及している.TAVIは大動脈弁の治療戦略に大きなインパクトを与えており,AS患者においてはすべての治療方法をオプションとしたライフタイムマネージメントを行うことが求められている.現在,TAVIはローリスク患者にも適応が拡大し,患者背景や解剖,患者希望等からTAVIあるいはSAVRの適切な治療法をハートチームで決定することが望ましい.エビデンスが揃いつつあるTAVIにおいても,耐久性の点では外科生体弁と比較していぜん不明な状態が続いている.近年SAVRでは生体弁の使用比率が増加しており,今後生体弁機能不全に対する治療に遭遇する場面は多くなることが予想される.患者余命が弁の耐久性を上回ることが予想される症例では初回SAVRの実施時に,将来的な追加治療(Redo AVRあるいはTAV-in-SAV)が問題なく行えるよう配慮した手技の実施が望まれる.また,国内でもTAVI導入から時間が経ちTAVI後の再治療に対する準備も必要となっている.構造的劣化かつ解剖学的制限がなければ,その低侵襲性からRedo TAVRによる治療が望ましいが,種々の理由からTAVR Explant,AVRが選択される患者も少なからず存在し,植込まれたTAVI弁の特性を理解した手術の実施が求められる.
本コラムはハンズオンの運営や企画に多く関わってきたU40メンバー3人とイービーエム株式会社(EBM)代表取締役である朴氏の4人で心臓血管外科領域におけるハンズオントレーニングについて語り合う対談企画である.心臓血管外科サマースクール,BLC(ベーシックレクチャーコース),オンラインBLC,ALC(アドバンストレクチャーコース),および冠動脈吻合コンテスト「チャレンジャーズライブ」などの経験を通じてハンズオンの本質,そして現状のハンズオンの課題や今後の展望について議論した.