日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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42 巻, 4 号
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巻頭言
原著
  • 内田 徹郎, 金 哲樹, 前川 慶之, 大塲 栄一, 中村 健, 林 潤, 吉村 幸浩, 貞弘 光章
    2013 年 42 巻 4 号 p. 251-254
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    【背景】Stanford A型急性大動脈解離における基部への解離進展は高頻度に認められる.A型急性解離における基部解離の進展範囲と冠動脈口との関連をもとに,基部修復法,手術成績,遠隔予後および治療方針の妥当性を検討した.【対象】1997年7月から2011年5月の期間に当科で施行した急性A型解離に対する手術80例を対象とした.【結果】手術死亡5例,病院死亡4例であった.Sino-tubular junctionをこえた解離の中枢側進展を72例(90%)に認めた.冠動脈周囲へ解離が及んだ症例は28例であった.左右両方の冠動脈へ波及した解離は11例であり,Valsalva洞の破裂と高度の大動脈弁閉鎖不全(AR)に対し,Bentall手術3例,David手術1例,大動脈弁置換術(AVR)1例を施行した.右冠動脈への解離進展は17例,このうち大動脈弁輪拡張症,ARに対する基部置換術(Freestyle弁)2例,partial remodeling 1例,断端形成+CABG 2例であった.左冠動脈のみに解離が及んだ症例はなかった.基部置換術以外の症例(74例)は,GRF糊による中枢側断端形成を行った.術後に高度のARを伴った基部再解離を5例に認めた.いずれも,初回手術時に左右冠動脈周囲の広範な解離を呈した症例であり,術後8,12,18,20,108カ月後に再手術を行った(基部置換術4例,AVR 1例).再手術では手術死亡,病院死亡ともに認めなかった.観察期間内に基部再解離以外には末梢側大動脈拡大などを認めた症例はなかった.【結論】A型急性解離に対する手術成績は比較的良好であった.解離が大動脈基部に広範囲に進展した症例では,中枢側断端形成後に遠隔期の基部再解離を来す可能性が高いため,生体糊の適正使用と厳重な経過観察が必要である.解離の中枢側進展範囲を正確に把握し,断端形成が困難な場合は基部置換術の同時施行を躊躇すべきではない.
  • 藤吉 俊毅, 松田 均, 堂前 圭太郎, 伊庭 裕, 田中 裕史, 佐々木 啓明, 湊谷 謙司, 小林 順二郎
    2013 年 42 巻 4 号 p. 255-259
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    ハイリスクを有する弓部大動脈瘤患者に対する頸部動脈バイパス術を併用したHybrid arch TEVAR 62例のうち脳梗塞を合併した5例について検討した.2例は弓部から下行大動脈にかけて高度な粥状変化を認めるいわゆるshaggy aortaを呈し,バイパス術後もしくはTEVAR後に多発性の脳梗塞をきたし長期入院の後に感染を契機に失った.他の3例は右腋窩-左総頸/左腋窩動脈バイパスの後TEVARを行ったが,全例がTEVAR後に視覚障害で発症した.責任血管は椎骨動脈の分枝である後大脳動脈と後下小脳動脈であった.バイパス後の血流動態からは,大動脈内で発生した塞栓子が左鎖骨下動脈から左椎骨動脈を介して脳塞栓症をきたしたと考えられた.
  • ——超高齢者・開腹既往例は除外すべきか?——
    古屋 隆俊, 加賀谷 英生
    2013 年 42 巻 4 号 p. 260-266
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    過去19年6カ月間,緊急を含む非破裂性腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤666例のうち,80歳以上の高齢者を85歳以上(EO群:56例)と84歳以下(O群:113例),開腹歴(+)(A群:164例)と開腹歴(-)(B群:497例),既往で胃胆嚢(M群:120例),結腸(C群:22例),大動脈(Ao群:16例),ストマ(S群:6例)に分けて周術期データを検討した.手術方針は禁煙の徹底,開腹アプローチ,ASOを除きnon-heparin手術,クリニカルパスによる早期歩行と早期退院である.EO群とO群の術前因子の比較では瘤径(6.1 cm/5.6 cm)と腎疾患(80%/63%)に有意差を認め,その他の因子では差を認めなかった.手術時間(201分/210分)と出血量(442 ml/430 ml)は同等で,EO群で合併症率(29%/11%)は高いが術後入院日数(9.4日/8.2日)と自宅退院率(93%/96%)は良好で,高齢者全体の死亡率は0.6%(1/169)であった.A群はB群より剥離時間(74分/63分)と手術時間(218分/204分)が有意に延長するが出血量と輸血率に差はなかった.M群とC群,Ao群とS群はほぼ同等のデータだったので,両群をまとめてM+C群とAo+S群として検討すると,M+C群はB群より剥離時間は6分,手術時間は8分延長した.Ao+S群はM+C群より剥離時間は37分,手術時間は45分延長し,出血量(820 ml/396 ml)と輸血率(22.7%/4.2%)に差はあるが,両群とも85%以上は10日以内に退院した.開腹既往例では慎重な剥離操作を要するが通常の管理で成績は良好で,高齢や開腹既往歴は開腹手術を避ける理由とはならないと考えられた.
  • 小池 裕之, 井口 篤志, 中嶋 博之, 上部 一彦, 朝倉 利久, 森田 耕三, 神戸 将, 高橋 研, 池田 昌弘, 新浪 博
    2013 年 42 巻 4 号 p. 267-273
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    急性大動脈解離や腹部大動脈瘤破裂,心臓血管外科手術後に生じる播種性血管内凝固症候群(以下DIC)は,感染,敗血症,低心機能や循環不全を伴い,大動脈瘤内や解離腔の血栓とも関連した独特の病態である.遺伝子組換ヒトトロンボモジュリン製剤(TM製剤)がDICに対して臨床使用可能となった.今回,当科で経験した心臓血管外科疾患を有するDIC症例に対するTM製剤の安全性および効果を検討したので,その使用経験を報告する.2010年10月より2012年3月の間にTM製剤を使用した35症例(平均69±11歳)を対象とした.疾患は,胸部大動脈瘤6例,大動脈解離5例,腹部大動瘤6例,弁膜症3例,拡張型心筋症3例,その他3例だった.当科におけるDIC治療のプロトコルは,急性期DIC診断基準でDICと診断された,あるいは血小板とFDPの値でDIC準備状態と診断された場合に開始し,初期の6カ月はガベキサートメシル酸塩を開始,AT III低下症例に関してはAT III投与が検討され,AT III高度低下例,あるいは無効例に対してTM製剤投与を6日間行った.2011年6月以降(後期)はDIC診断早期からTM製剤を投与した.TM製剤投与後28日の生存は27/35(77.1%)であった.生存例においてTM製剤投与中にDICの急性期スコア,FDP,D-Dimer,PT比,フィブリノゲン,血小板数AT III活性値が改善した.死亡例ではこれらの指標に改善がなかった.35症例の使用において,TM製剤の副作用と思われる合併症はなかった.心臓血管外科領域におけるDICに対しても,今回の検討ではTMの安全性が示されたが,有効性に関してはさらに詳細な検討が必要であると考えられた.
  • 東 修平, 東上 震一, 川平 敏博, 松林 景二, 頓田 央, 薦岡 成年, 平松 範彦, 降矢 温一, 西村 真人
    2013 年 42 巻 4 号 p. 274-278
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    慢性透析患者における大動脈弁狭窄症に対する外科治療についてはその手術適応,手術時期等に議論の余地があると思われる.1993年1月から2012年9月までの間に当院にて施行された慢性透析患者の大動脈弁狭窄症に対して施行した大動脈弁置換術75症例(単独大動脈弁置換術40例,冠動脈バイパス術を伴う大動脈弁置換術35症例)を対象とし,その遠隔成績および予後因子の検討を行った.患者背景としては,男性53例,女性23例,平均年齢66.7±8.5歳であった.腎不全の原疾患としては,糖尿病性腎症は22例(29.3%),非糖尿病性の腎不全は53例(70.7%)で,平均透析歴は8.1±6.2年(最長26年)であった.遠隔期予後調査(追跡率98.2%,平均観察期間9.9年)の結果としては,手術死亡6.6%で,Kaplan-Meier法による遠隔成績は,1年生存率74.5%,3年生存率42.1%,5年生存率29.9%,10年生存率6.8%であった.予後因子の検討では,術前弁口面積0.9 cm2 未満であること,術前血清コリンエステラーゼ値が200 IU/l未満であることが統計学的に有意に予後不良な因子(p<0.05)であることが明らかとなった.慢性透析患者の大動脈弁狭窄症に対する外科治療については,その遠隔成績は非透析患者に比し不良であった.予後因子の検討により,早期の外科的介入により予後改善の可能性が示唆され,術前の耐術能の評価のひとつとして血清コリンエステラーゼ値が有用であると思われる.
症例報告
  • 野村 陽平, 堀 大治郎, 野口 権一郎, 田中 弘之
    2013 年 42 巻 4 号 p. 279-283
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    術後吻合部動脈瘤は破裂や分枝および末梢動脈の閉塞などの重篤な経過をたどるため,適切な治療が必要である.今回われわれは胸腹部大動脈瘤術後,18年の経過を経て発生した吻合部動脈瘤の手術症例を経験した.再手術症例であり動脈瘤へのアプローチをはじめ脊髄保護など手術戦略に工夫を要した.症例は66歳の男性で18年前に胸腹部置換を施行したが,外来経過中に吻合部末梢側近傍に最大径110 mmにおよぶ動脈瘤を発症した.本症例では切開方法や中枢血流のコントロール,脊髄や腹腔内臓器の保護をいかにして行うかが課題であった.腹部正中切開,遮断鉗子による中枢側遮断,ナロキソン持続投与および分節遮断による脊髄保護,選択的分枝灌流による臓器保護により,左腎動脈再建+下腸間膜動脈温存+腰動脈温存の腹部大動脈人工血管置換術を施行し,術後良好な経過をえたので文献的考察を加えて報告する.
  • 山下 築, 藤田 知之, 秦 広樹, 島原 佑介, 佐藤 俊輔, 小林 順二郎
    2013 年 42 巻 4 号 p. 284-288
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,女性.大動脈弁位の人工弁感染性心内膜炎(PVE)の診断で当科紹介となった.術前の心エコーでは人工弁に付着する2 cmを超える巨大疣贅が確認されていたが,執刀時の経食道心エコーでは巨大疣贅を確認できず,術中所見でも認めなかったことから飛散した可能性が考えられた.臓器塞栓を考慮し慎重な術後管理を行っていたが,術後11時間後から右下肢の冷感と末梢動脈の拍動触知不能となり,右下肢急性動脈閉塞の診断に至った.速やかに血栓除去術を行い,菌塊による塞栓子と多量の新鮮血栓を除去し,救肢することができた.PVEの疣贅飛散による下肢動脈閉塞は稀であり,報告する.
  • 中山 正吾, 坂本 和久, 伊藤 恵
    2013 年 42 巻 4 号 p. 289-292
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.嗄声を主訴とし,胸部レントゲン検査,CT検査にて右鎖骨下動脈瘤を指摘された.動脈瘤は最大径85 mmで壁在血栓を伴い,気管を左方に圧排し,気道狭窄を来していた.麻酔導入時の換気不全に備え補助循環装置を準備のうえ,麻酔を開始した.慎重に麻酔導入を行うことで補助循環を用いることなく麻酔管理が可能であった.手術は右鎖骨下切開と胸骨部分正中切開により,動脈瘤の末梢と中枢にアプローチし,瘤切除,人工血管置換術を施行した.術後経過は良好で,術後気道狭窄は改善した.右鎖骨下切開と胸骨部分正中切開の組合せは本例のような巨大右鎖骨下動脈瘤の手術では有効な方法であった.また,術前より気道狭窄を来している症例では,麻酔科と綿密な協議を行ったうえで慎重な麻酔管理をすることが重要であると考える.
  • 藤田 久徳, 武内 重康, 沖本 光典, 渡辺 裕之, 山口 聖一
    2013 年 42 巻 4 号 p. 293-296
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    62歳男性.急性大動脈解離Stanford A型を発症し,上行大動脈置換術を行った.解離した大動脈壁の断端形成法は,酸化セルロース綿とフィブリン糊を注入しフェルト帯で内側と外側から挟み水平マットレス縫合で固定した.術後急性期から溶血尿が出現し,溶血性貧血が進行したため,心電図同期のCT検査を施行したところ,中枢側吻合部内フェルト近位側がグラフト内腔へ反転していた.同部に血流が衝突することで溶血が生じていると診断し,修復術を行った.手術は人工血管を切開し,内フェルト反転部を可及的に切除し,内フェルトを覆うようにウシ心膜パッチを縫着した.大動脈吻合部の補強に用いた内フェルト帯による合併症は比較的稀であり,診断には心電図同期のCT検査が有用であった.
  • 大久保 由華, 高橋 昌, 白石 修一, 渡邉 マヤ, 土田 正則
    2013 年 42 巻 4 号 p. 297-301
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    症例は4歳7カ月の男児.出生後よりチアノーゼを認めFallot四徴症(TOF)・肺動脈閉鎖(PA)と診断されていた.肺動脈は膜様閉鎖であり,中心肺動脈と上行大動脈は大動脈肺動脈窓(APW)を介して交通していた.4歳時に手術目的に当院を紹介され,心臓カテーテル検査と造影CTにてはじめて主要大動脈肺動脈側副動脈(MAPCA)が指摘された.手術は胸骨正中切開アプローチで行った.MAPCAを剥離同定した後に体外循環を確立し,左肺下葉に灌流するMAPCAを中心肺動脈へ統合した.APWの開口部は直接閉鎖し,VSDをpatch閉鎖した後に右室流出路を再建した.体外循環離脱は問題なく右室/体血圧比は0.8であった.術後経過は良好であり26病日に退院した.術後7カ月時に行われた心臓カテーテル検査では右室/左室圧比(RVp/LVp)は0.56まで低下していた.今回われわれは非常に稀なAPWを合併したTOF/PA/MAPCAに対し一期的修復術を経験したので報告する.
  • 佐藤 浩之, 山内 英智, 山下 知剛, 松居 喜郎
    2013 年 42 巻 4 号 p. 302-306
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    ‘flap suffocation’は,冠動脈近傍に生じた内膜の全周性断裂により,解離した内膜がflap状となり,間欠的に冠動脈口を閉塞し,心筋虚血を惹起する病態で,冠動脈虚血を呈する急性A型解離のうちでもまれなものと考えられる.症例は52歳の男性である.就業中に胸背部の激痛を自覚し当院に救急搬送された.心電図上広範なST低下を認め,左冠動脈主幹部を責任病変とした急性心筋梗塞を疑われ循環器科で緊急冠動脈造影を試みたが,偽腔造影となり冠動脈口へのアプローチはできなかった.この時点で当科紹介となり,緊急CTを行ったところ大動脈基部から腸骨動脈に及ぶStanford A型解離でバルサルバ洞内も全周性に解離し両冠動脈入口部にも解離が及んでいた.心エコーでは3/4の大動脈弁逆流と解離内膜の存在を認め緊急手術となった.麻酔導入後体血圧低下と肺動脈圧上昇が進行しPp/Psが0.8を超える急性左心不全を呈し,経食道心エコーでは‘flap suffocation’を呈しており,左室壁運動は経時的に低下した.人工心肺確立後すぐに心室細動となり冠血流の途絶が考えられたため,心筋虚血時間を短縮するためすみやかに大動脈を遮断し直視下に選択的冠還流と逆行性心筋保護を行い心停止を得た.手術は上行大動脈置換術と冠動脈周囲内膜の固定,大動脈弁吊り上げを行った.術後経過は良好で,第25病日に独歩退院した.冠動脈虚血を伴うA型解離においては広範な心筋梗塞が完成する前に迅速かつ的確な治療が必要である.比較的まれな病態と考えられる‘flap suffocation’の救命例として報告する.
  • 川村 知紀, 茂木 健司, 榎本 吉倫, 櫻井 学, 松浦 馨, 高原 善治
    2013 年 42 巻 4 号 p. 307-311
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    家族性高脂血症ホモ接合体は100万人に一人の頻度でみられるまれな疾患であり,特徴的な腱黄色腫,著明な高コレステロール血症,若年性心血管疾患を主徴とする.症例は56歳の女性,他院で上記診断され,LDL吸着療法を23年間にわたり行っていた.心エコー検査で重度の大動脈弁狭窄症と,同時に狭心症(右冠動脈狭窄)も指摘された.家族性高脂血症ホモ接合体症例に合併した大動脈弁狭窄症,狭心症の手術治療例を報告する.
  • 川尻 英長, 高 英成, 増田 憲保, 山崎 琢磨
    2013 年 42 巻 4 号 p. 312-315
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    心臓原発悪性リンパ腫はその頻度が非常に稀であり,臨床症状に乏しいことからも診断に至ることも困難とされ予後不良な疾患である.症例は76歳,女性.労作時呼吸苦を主訴に近医を受診した.胸部CT上,右房および下大静脈を圧排する不均一に造影される腫瘍を認めた.血清IL-2r値も高値であり,心臓原発悪性リンパ腫の疑いにて精査の予定であったが,心不全症状が急速に増悪し,そのコントロールおよび確定診断目的に準緊急的に手術の方針となった.手術は上行大動脈送血,上大静脈,下大静脈(右大腿静脈経由)脱血にて右室前面,右房の腫瘍を可及的に切除し,欠損した右房はePTFEパッチにて閉鎖し手術を終了した.術後,心不全症状は改善していたが,術後7日目に心不全の増悪を認め,CT検査にて腫瘍の急速な増大を認めた.術後14日目に化学療法(CHASER療法)を開始し,心不全症状は徐々に改善した.術後6コースを終了し,CT上腫瘍は著明な減少をきたし完全寛解を得ている.
  • 石川 智啓, 畠田 和嘉, 半田 武巳, 宮島 敬介, 高橋 政夫
    2013 年 42 巻 4 号 p. 316-319
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    食道癌に対し胸骨前胃管再建術および放射線治療施行後19年目の労作性狭心症症例に対しoff-pumpで冠動脈バイパス術を施行し良好な結果を得た.症例は71歳男性.労作時胸痛と呼吸苦を主訴に冠動脈造影検査でLAD#6に90%狭窄とRCA#4PDに完全閉塞を認めた.高度石灰化により経皮的冠動脈形成術は不成功であったため冠動脈バイパス術を施行した.麻酔は気管内挿管にて行った.手術は仰臥位で両側橈骨動脈を採取後に,右半側臥位とし胸骨前再建胃管を避けて左前側方開胸にて行った.左鎖骨下小切開にて左鎖骨下動脈へ橈骨動脈を側端吻合したのち,左前側方開胸創内で橈骨動脈をYグラフト吻合した.それぞれを左前下行枝,右後下行枝に吻合した.術後経過は良好で術5年目に施行した造影検査でも良好なグラフト血流が確認された.
  • 平田 雄一郎, 飛永 覚, 税所 宏幸, 和田 久美子, 大野 智和, 中村 英司, 細川 幸夫, 廣松 伸一, 明石 英俊, 田中 啓之
    2013 年 42 巻 4 号 p. 320-323
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    心臓手術後の胸部仮性大動脈瘤は稀な合併症であるが,破裂した場合,予後は非常に不良である.真性大動脈瘤と同様に無症状で経過することが多いため,画像検査にて偶然発見されることが多い.今回われわれは先天性心疾患術後遠隔期に胸部仮性大動脈瘤と診断され,手術を施行した3例を経験した.いずれの症例も他科受診時に胸部レントゲン,胸部CT検査にて胸部仮性大動脈瘤を指摘され,当科にて待機的に上行大動脈人工血管置換術を行った.若年時に手術を施行された場合,合併症や併存症を有する症例は少なく,術後遠隔期において医療機関を受診されないことが少なくない.若年時の心臓手術の既往がある症例においては術後仮性大動脈瘤の発生の可能性を念頭に置き検査を進めることが重要と思われた.
  • 坂本 滋, 坂本 大輔
    2013 年 42 巻 4 号 p. 324-328
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性.主訴は下肢浮腫,動悸息切れを訴え入院した.既往歴で20年以上の大量飲酒歴を認めた.家族歴には心筋症を疑う病歴は認めなかった.胸部X線写真では,胸水,心拡大,肺うっ血像,心電図は心拍数40/分の洞性徐脈,左室肥大と冠性T,心室内伝導障害を認めた.心エコーでは心室中隔と左室自由壁のdyssnchrony,駆出率20%,左室心尖部に2.5 cm大の有茎性可動性の腫瘤影を認めた.脳CT検査では多発性の梗塞所見を認めた.緊急手術を計画したが,約2週間,出血性梗塞の経過を見るため手術は延期した.その間,ヘパリンによる抗凝固療法を併用しつつ,2週間後に左室血栓摘出術,徐脈,ventricular dyssnchronyと手術周術期の低心機能に対してatrio-biventricular pacingを同時施行した.手術時の心内膜心筋生検では心筋細胞の肥大と線維化の進行所見が認められ心筋症が強く疑われた.術後心拍はペースメーカーでリズムコントロールができ,循環動態は安定化した.また,脳出血などの合併も認めず,術後3週間で退院した.アルコール性心筋症は多年にわたるアルコール摂取により,特発性拡張型心筋症に類似した臨床像がみられることがある.実際に心筋症になるか否かは,遺伝的要因が関わってくる.重篤な心不全に至る前に断酒あるいは節酒を行えば進行を抑えることができ,予後は悪くない.本例は,脳血栓塞栓症を合併していたために,準緊急的に開心術を施行したが,できれば脳血栓塞栓を発症する以前に,心内血栓を発見しだい,血栓摘除術を施行すべき症例と考えられた.
  • 松尾 辰朗, 戸部 智, 林 太郎, 納庄 弘基, 杉山 博信, 山口 眞弘, 谷村 信宏
    2013 年 42 巻 4 号 p. 329-332
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    症例は62歳男性.28歳時に壁とトラックに胸部を挟まれる事故に遭遇し,35歳頃より労作時息切れなど症状が出現し,経胸壁心エコーでIV度の三尖弁閉鎖不全症を認めた.以後,保存的加療で経過観察されていたが,心不全症状の悪化と下肢浮腫が半年前から出現したため,手術を行った.三尖弁前尖の腱索断裂と右室中隔心筋に腱索起始部の瘢痕跡を認めたため,手術は三尖弁に対して人工腱索再建と弁輪形成を施行し,同時に心房細動に対してMaze手術を施行した.受傷後30年を経過していた時点における手術介入にもかかわらず,心機能は改善し,洞調律に回復維持している.
  • 水本 雅弘, 内田 徹郎, 吉村 幸浩, 金 哲樹, 前川 慶之, 宮崎 良太, 大塲 栄一, 廣岡 秀人, 安本 匠, 貞弘 光章
    2013 年 42 巻 4 号 p. 333-336
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    左房瘤は稀な疾患である.今回,僧帽弁輪変形をきたし僧帽弁閉鎖不全症を合併した左房瘤の1手術例を経験したので報告する.症例は71歳男性.呼吸困難,下腿浮腫を主訴に近医を受診した.精査の結果,左房後壁の冠動脈回旋枝と冠静脈の間から心尖側へ突出する左房瘤と僧帽弁閉鎖不全症,および重症心不全と診断された.術中所見では僧帽弁輪(P2~3)に接する5×6cm大の左房瘤を認めた.瘤の一部が弁輪に達しており,弁輪が心尖方向へ落ち込み,変形していた.弁尖逸脱や腱索断裂は認めず,左房瘤による弁輪変形に起因した僧帽弁閉鎖不全症と判断した.瘤を左房内腔より僧帽弁後尖の弁輪と平行方向に背部に位置する回旋枝と冠静脈に注意しながら縫縮閉鎖し,弁輪形成術を施行した.重症心不全に対して心臓再同期療法を併施した.術後心臓CTで回旋枝と冠静脈に変形なく,瘤の縮小を確認した.心エコーでも僧帽弁逆流を認めず経過良好で退院した.
  • 片山 雄三, 郷田 素彦, 鈴木 伸一, 磯松 幸尚, 益田 宗孝
    2013 年 42 巻 4 号 p. 337-339
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    症例は,10歳男児.生後3カ月に,完全大血管転位の診断で大血管スイッチ手術を施行されている.経過観察中に,大動脈弁閉鎖不全症と大動脈基部拡張が進行したため,大動脈基部置換術を施行した.手術は,Jatene(Lecompte変法)術後のため,右肺動脈離断後に機械弁を用いたBentall手術を行った.今症例のような大動脈スイッチ手術後の晩期合併症に対し,積極的な外科的介入を行うことで,遠隔期成績の改善につながるものと考えられる.
  • 川村 知紀, 茂木 健司, 櫻井 学, 松浦 馨, 高原 善治
    2013 年 42 巻 4 号 p. 340-343
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    症例は56歳の男性.1年前から労作時呼吸困難を自覚していた.当院外来を受診し,重度の大動脈弁閉鎖不全症による心不全との診断で入院治療を行った.心不全治療の後に手術治療の方針となる.精査で,心筋シンチグラム(123I-BMIPP)の無集積像を認め,CD36表面マーカー測定と併わせて,CD36欠損症と診断される.CD36欠損症は輸血関連の重篤な合併症の報告があり,計画的に自己血1,200 mlを貯血し手術に臨んだ.無輸血で手術を終了することができた.術後経過も良好であった.CD36欠損症を合併した開心術症例として報告する.
  • 尾畑 昇悟, 向井 省吾, 森元 博信, 平岡 俊文, 打田 裕明, 山根 吉貴
    2013 年 42 巻 4 号 p. 344-348
    発行日: 2013/07/15
    公開日: 2013/08/15
    ジャーナル フリー
    症例は54歳女性.2012年3月に約10 cmの腎動脈分枝下腹部大動脈瘤にて腹部大動脈人工血管置換術を施行した約半年後にStanford A型急性大動脈解離を発症した.緊急CTでは上行大動脈から弓部下行,腎動脈まで解離を認め,腹部大動脈の人工血管は造影されず,完全閉塞していた.上下大静脈脱血と左腋窩動脈送血および両側下肢灌流にて体外循環を開始したが,流量の増加に伴い脳酸素飽和度が低下したため,上行大動脈を切開して真腔に直接送血カニューラを挿入,弓部大動脈人工血管置換術を行った.弓部置換術後も両側大腿動脈の血流は改善せず,血栓除去術を付加し,中枢側より血栓を除去するも血流は改善しなかったため,左腋窩-両側大腿動脈バイパス術を付加した.術後はMNMS(myonephropathic metabolic syndrome)およびコンパートメント症候群を合併したが対麻痺はなく,感覚維持および軽度の自動運動は可能であり,リハビリテーションを開始した.また筋酵素および白血球の異常な上昇に対し,血液透析を必要としたが,最終的に腎機能の改善に伴い血液透析より離脱,術後54日目にリハビリ転院となった.腹部人工血管置換術後のA型急性大動脈解離の治療は,大腿動脈送血が不可能な状態での体外循環経路の確立や人工血管閉塞後の下肢血流の再建,広範囲の虚血に陥った下半身,筋肉の術後の再灌流障害などの問題があり,非常に困難であったがDirect True Lumen Cannulationの使用や術後の血液浄化療法の継続などにより,救命することができた.
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