【目的】成人では上腹壁ヘルニアはまれとされているが,小児ではよくみかける疾患である.この違いが何に起因するのかそれぞれの臨床像に焦点をあて検証した.
【方法】2005 年4 月から2015 年3 月まで関連小児外科6 施設および同施設の成人外科6 施設で手術された上腹壁ヘルニア症例を対象とし,カルテ記載から比較した.
【結果】今回小児76 例,成人11 例の87 例が集計された.症例は全年齢に分布していたが,幼児期が圧倒的に多かった.性別はともに女性が多かった.症状は小児では上腹部腫瘤以外ではほとんど無症状であったが,成人では11 例のうち8 例に腹痛を認めた.多くの例が診断後1,2 年以内に手術が施行されていた.ヘルニア門径は小児では10 mm 以下,成人では20 mm 以上が多かった.ヘルニア内容は小児では腹膜前脂肪,成人では大網が多数を占めた.術式は全例単純縫合閉鎖が行われ,再発例はなかった.
【結論】上腹壁ヘルニアの小児と成人の報告数の差は手術適応に起因すると考えられた.小児では整容及び将来の嵌頓リスク,成人では腹痛などの嵌頓症状である.成人の有症状例の少なさを考えると,小児において将来の嵌頓リスクを高く見積もり過ぎている可能性がある.幼児期の上腹壁ヘルニアの手術適応には議論の余地があると考える.
【目的】顕在性二分脊椎症例に対して微温湯による洗腸の有用性について検討した.
【方法】対象は2004 年から2013 年の間に洗腸による排便管理を行った顕在性二分脊椎の患児12 例とした.洗腸開始年齢は平均9 歳4 か月(4 歳4 か月~14 歳3 か月)であった.方法は,洗腸器はConvaTec のバリケア新洗腸器®(ストマコーン付)を用い,洗腸器を直接肛門に当て微温湯を平均800 ml(300~1,500 ml)大腸内に注入した.更に自己導尿ができていること,洗腸を1 年以上継続できていることを条件に自己洗腸を勧めてみた.
【結果】顕在性二分脊椎で排便調整を依頼された12 例の全例に直腸肛門内圧検査を施行した.全例が直腸肛門反射陽性で,肛門管圧は平均33.4±11.1 mmHg と正常範囲内であった.洗腸の同意を得た12 例に洗腸を開始し,10 例が継続できた.継続できた10 例のうち学校での便失禁は8/10 例において消失し,下着汚染は6/10 例で消失した.合併症は女児の1 例で粘血便を認めたが, 微温湯を生理食塩水に変更,注入量を減らして洗腸を継続し粘血便は認めなくなった.2 例が離脱した.自己洗腸を10 例に試みたが,下肢麻痺のない2 例が部分的に成功したものの自己導尿とは全く異なり実際の手技が困難で,現実的に自己洗腸は困難であった.
【結論】顕在性二分脊椎の排便障害に対して微温湯を使用した洗腸を施行し,学校など公共の場での便失禁や下着汚染を少なくする結果となった.一方で,洗腸に一定の時間が掛かり,家族による介助が必須であるなど,本人と家族に掛かる負担が大きいことが分かった.
【目的】神経芽腫Stage 4S の治療と結果を後方視的に検討し,特に胎児期の無症状発見例の治療について考察する.
【方法】過去33 年間に経験したStage 4S の神経芽腫9 例について,臨床的特徴,治療内容と転帰,全生存率,予後因子を検討した.
【結果】症例は男児2 例,女児7 例,年齢は0 日~9 か月(中央値,1 か月)で,神経芽腫マススクリーニング発見例が4 例,胎児期発見例が2 例,有症状診断例が3 例であった.全例,副腎原発で,転移は肝8 例,皮膚2 例,骨髄1 例であった.腫瘍組織が検索された8 例では全例がfavorable histology で,3 例がdiploid,5 例がhyperdiploid,またMYCN の増幅例はなく,5 例が低リスク,3 例が中間リスクと分類された.治療は,マススクリーニング発見例では原発巣の一期的摘出と化学療法を行い,胎児期発見例では出生後に無治療経過観察を試みたが,結果的に腫瘍増大あるいは腫瘍マーカーの上昇により治療を必要とした.無症状発見例は1 例を除いて腫瘍なしで,全例が生存中である.一方,有症状発見例については積極的な治療を行い1 例のみ救命できたが,2 例が死亡した.全生存率は無症状発見例が100%,有症状診断例が33%であった.
【結論】神経芽腫Stage 4S では,有症状診断例では迅速かつ積極的な対応が必須であり,一方,無症状でも胎児期発見例はマススクリーニング発見例と異なり腫瘍進展の可能性があり,厳重な監視のもとに治療の要否を判断することが極めて重要である.
【目的】先天性食道狭窄症(CES)の治療は症例に応じた検討が必要である.今回われわれは当院で経験したCES の背景・治療方法・成績などを検討した.
【方法】1977 年から2015 年に当院で治療した計15 例のCES を対象とし,診療録をもとに後方視的に検討した.
【結果】主な合併疾患はC 型食道閉鎖4 例,先天性心疾患4 例,十二指腸閉鎖症2 例であった.発症は11 例が離乳食開始時期であったが,早期例も3 例認めた.発症から診断までの期間は平均9.3 か月で,10 例が半年以内であったが,4 例で1 年以上を要した.狭窄部位は食道上部1 例,中部2 例,下部12 例であった.食道造影所見はtapered narrowing が11 例,abrupt narrowing が4 例であった.15 例の治療の内訳は,初期の2 例では初めから手術が行われ軽快した.他の13例には拡張術を行ったが,軽快したのは4 例のみであった.軽快しなかった9 例に手術と術後拡張術を行い,うち8 例は軽快したが,狭窄を2 か所に認めた1 例は再手術を要した.手術を施行した11 例の到達法は狭窄部に応じて胸部(4 例),腹部(6 例),胸腹部(1 例:狭窄部2 か所)が選択され,近年の4 例は内視鏡外科手術であった.術式は筋層切開術4 例,部分切除術6 例,狭窄部2 か所に対する部分切除端々吻合と筋層切開1 例で,うち腹部到達法の7 例は噴門形成術が付加された.病型は気管原基性狭窄4 例,筋線維性狭窄10 例,膜様狭窄1 例であった.
【結論】本症は病型診断が困難であり,個々の症例に応じて治療方針の検討が必要である.外科治療における術式は,病型に関わらず食道狭窄部部分切除・横縫合が成績良好であった.
【目的】乳児臍ヘルニア絆創膏固定中の細菌増殖による皮膚炎を防止する目的で固定部の細菌集落数を測定し効果的な清拭薬を検討し報告する.
【方法】2015 年1 月からの15 か月間に,当院を受診した症例を対象とした.無清拭,80%エタノール(Ethanol)清拭,0.05%クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)清拭,0.05%クロルヘキシジングルコン酸塩80%エタノール(CHG-E)清拭の各10 症例に,クリーンスタンプ「ニッスイ」を用い細菌を採取した.培養し中央部4 cm2 の細菌集落数を測定した.
【結果】皮膚炎発生は,無清拭4 件/10 例,Ethanol 清拭3 件/10 例,CHG 清拭1 件/10 例であり,CHG-E 清拭例では認めなかった.細菌集落数測定を初診時,固定交換時,固定終了時,治癒確認時に行った.初診および治癒後の細菌集落数は500 個/4 cm2 未満で,これを通常の細菌集落数とした.皮膚炎例は500 個/4 cm2 を越えていた.無清拭は,742.1±531.1 個/4 cm2 から固定後には999.2±404.6 個/4 cm2 に増加した.Ethanol 清拭は,691.1±439.8 個/4 cm2 から清拭直後には56.7±85.9 個/4 cm2 に減少し,固定後には939.1±334.1 個/4 cm2 に増加した.CHG 清拭は,626.6±511.1 個/4 cm2 から清拭直後には695.6±602.4 個/4 cm2 であり,固定後には875.3±471.7 個/4 cm2 に増加した.CHG-E 清拭は,清拭前後から固定後までほぼ500 個/4 cm2 以下であった.
【結論】固定部はCHG-E で清拭すれば通常範囲内の細菌集落数に維持でき,皮膚炎の発症防止に極めて効果的である.
子宮腟溜血腫はまれな疾患で,外陰および腟の奇形により,第二次性徴発現時期に達してから発症することが多い.当科で子宮腟溜血腫を呈した2 例を経験したので報告する.2 例ともに11歳で間欠的腹痛を主訴に前医を受診し,卵巣囊腫茎捻転が疑われ当院紹介となった.症例1 は卵巣囊腫茎捻転の術前診断で緊急開腹術を施行したところ両側卵巣は正常であったが,子宮および膣内腔が血液で充満しており子宮腟溜血腫と診断した.外陰部診察で腟横中隔と診断し,開窓術を施行した.症例2 は外陰部診察で腟口の閉鎖を認め,術前に腟閉鎖と診断可能であった.術中診断は下部腟欠損症で,腟盲端部を腟入口部まで牽引吻合する単純再建術を施行した.2 例ともに順調に月経がみられている.年長女児でTanner 分類がII~III 度であるにもかかわらず初経発来がなく,間欠的な下腹部痛を訴える症例は子宮腟溜血腫を疑うことが大切である.
【はじめに】症状が軽微な気管支異物症例では,喘鳴・咳嗽を呈し診断が遅れることがある.発症から9 年後に診断された気管支異物の1 例を経験したので報告する.【症例】10 歳男児.1 歳時に魚を摂取中に誤嚥し,以後喘鳴が出現し喘息として加療された.2 歳時に気道の精査を行い異常なしと診断された.4 歳時に症状が一旦軽減したが,7 歳時より肺炎を反復し,気管支拡張症と診断された.9 歳時に気管支鏡検査で右中間気管支幹にポリープを認め当科紹介となった.胸部CT 検査施行し,ポリープの遠位側に高吸収域を認め異物が疑われた.気管支鏡下に,ポリープおよび不整形で暗緑色の病変を切除した.病理学検査で魚骨による反応性ポリープと診断された.術後症状は改善したが,気管支拡張は残存し1 年に1 回肺炎を反復している.【考察】気管支異物の診断と治療のためには詳細な病歴聴取と気道異物の可能性を念頭におくことが重要であり,気道異物が否定できない場合は胸部CT を考慮すべきであると考えられた.
症例は異染性白質ジストロフィーの13 歳男児.繰り返す誤嚥性肺炎のため,11 歳時に第1-2気管軟骨レベルで高位気管切開が行われた.しかし,その後も誤嚥性肺炎を繰り返し,またCT,気管支鏡所見から将来的な気管腕頭動脈瘻の発生が危惧された.このため,誤嚥の改善と,気管腕頭動脈瘻のリスク低下を目的に,12 歳時に福本らの提唱する術式(福本法)で喉頭気管分離術を施行した.手術では,気管を拳上することなく大きな気管孔を確保できたが,高位気管切開術後のため,頭側気管は甲状軟骨レベルの閉鎖が必要であり,甲状軟骨裏側の粘膜を剥離し,粘膜の縫合閉鎖をする方法を選択した.術後は合併症なく経過し,誤嚥性肺炎は減少し,気管カニューレも一時的に抜去可能となった.福本法は気管切開術後でも,大きな気管孔を確保できる有用な術式であるが,本症例のように高位気管切開後は,頭側気管の閉鎖に工夫が必要な場合があることを認識しておく必要がある.
副脾は中胚葉由来組織であり,管腔構造を欠く副碑に囊胞性病変が発生することは稀である.今回,類皮囊胞を有する膵内副脾の女児例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は,13 歳の女児.腹痛を主訴に近医を受診し,腹部CT で膵尾部囊胞性病変を指摘され,当科紹介となった.画像上,膵尾部に径15 mm の囊胞性腫瘤を認め,腫瘍性病変の可能性も否定できなかったため,膵尾部切除術を施行した.術後は特に合併症なく,術後12 日目に退院となった.病理にて,膵内副脾類皮囊胞と診断され,悪性所見は認めなかった.文献的に検索し得た膵内副脾類皮囊胞の症例報告は43 例で,そのうち小児期発症は本症例を含め2 例であった.現在,術後8 年が経過するが,症状の再燃や合併症を認めず,外科的切除が有効であった.
先天性声門下狭窄症は比較的まれな疾患であり,高度狭窄例では気管切開からの離脱に難渋することが多い.症例は4 歳10 か月女児.出生直後より呼吸不全が出現し,緊急で気管切開を施行された.3 歳時の精査で,両側声帯麻痺・声門の軽度狭窄・声帯から連続する高度の声門下狭窄が確認された.経時的に狭窄は改善せず,気管切開から離脱目的にextended-Partial Cricotracheal Resection;ePCTR と声門開大術(Ejnell 法)を同時に施行した.術後,声門前交連の瘢痕による癒合と右仮声帯の肉芽による気道狭窄を認め,抜管に難渋した.喉頭顕微鏡下に瘢痕・肉芽の切除を行い,術後19 日目に抜管に成功,術後3 か月で自宅退院した.術後1 年で新たな合併症は生じていない.高度の声門下狭窄症に対して,ePCTR と声門開大術を同時に施行し,術後に喉頭顕微鏡下喉頭形成術を行うことで,気管切開から一期的に離脱した.
2 歳女児.嘔吐を繰り返し活気不良となり救急外来を受診した.非胆汁性嘔吐,頻脈,傾眠傾向を認め,上腹部は膨満していたが圧痛はなかった.血液検査ではBUN の上昇・高ビリルビン血症・高アミラーゼ血症を認めた.腹部エコーは胃の著明な拡張と胆管拡張,膵腫大,十二指腸の膜様構造物を認めた.CT およびMRI では十二指腸下行脚に4 cm 大の単房性囊胞を認めた.上部消化管造影は十二指腸下行脚内に囊胞様の陰影欠損を認め,肛門側の十二指腸は造影されなかった.以上より閉塞性胆管炎・膵炎を伴う十二指腸重複症を疑い手術を施行した.十二指腸を切開して内腔を観察したところ,大きな球型の異物を認めたため摘出した.家族に問診すると発症前に高吸水性樹脂を口に入れていたことがわかり,誤飲による十二指腸閉塞と診断した.術後経過は良好であった.小児が誤飲する異物として高吸水性樹脂を経験したため,その危険性について報告する.
症例は15 歳女児,両側の側頸瘻に対して瘻管切除術を行った.家族歴は認めなかったが,幼少期より内耳,中耳の奇形を伴う難聴を指摘されていた.側頸瘻と耳奇形,難聴の合併所見よりBranchio-otic 症候群(BO 症候群)と診断した.BO 症候群は第2 鰓弓奇形としての側頸瘻,難聴,耳奇形を特徴とし,常染色体優性遺伝をとる疾患である.腎奇形を伴う場合にはBranchio-oto-renal 症候群(BOR 症候群)と呼ばれる.BO/BOR 症候群は,その認知度の低さから診断に至っていない症例も数多くいると考えられている.側頸瘻を有する症例のうち,両側性や完全瘻を呈する症例は比較的少ないが,BO/BOR 症候群に伴う側頸瘻は両側性や完全瘻の報告が多い.自験例は左側が完全瘻の両側側頸瘻であった.両側例や完全瘻を有する症例に対しては本症候群も考慮する必要があると考えられた.
巨大縦隔腫瘍の切除では,低侵襲性と安全性を考慮してそのアプローチ法の選択に難渋する.我々はpartial median sternotomy(以下本法)で良好な視野を得て安全に切除しえた小児縦隔腫瘍の2 例を経験したので報告する.症例1 は13 歳女児.呼吸苦と胸痛を主訴に近医を受診しCT で最大径8 cm の縦隔腫瘍を指摘された.成熟奇形腫を疑い,本法で切除術を施行した.後療法は行わず,術後3 年で再発なく整容性も良好である.症例2 は15 歳男児.発熱と咳嗽を主訴に近医受診し,CT で長径16 cm の縦隔腫瘍を認めた.腫瘍マーカーの上昇から胚細胞腫瘍を疑い,化学療法を施行した.腫瘍の長径は7 cm にまで縮小し,本法で切除術を施行した.術後も化学療法を行い,術後3 年で再発なく経過している.縦隔腫瘍の切除には本法が安全で良好な視野を取れるため,アプローチの選択肢として検討するべきであると考える.