【目的】外科的処置の必要性が高い複雑性虫垂炎は,できる限り早期の診断が望ましい.今回,Pediatric Appendicitis Score(以下PAS)を用いて複雑性虫垂炎を予測できるか検討した.
【方法】2013年5月から2017年9月までに当科で虫垂切除を行った小児急性虫垂炎症例120名を対象とし,後方視的検討によって,複雑性虫垂炎に対するPASのカットオフ値を求めた.
【結果】男児75例,女児45例,平均年齢は10.3歳であった.複雑性虫垂炎50例,単純性虫垂炎70例であり,術後病理所見は壊疽性44例,蜂窩織炎性71例,カタル性3例,正常2例であった.PASは複雑性虫垂炎で優位に高値を示していた(複雑性虫垂炎:中央値8.0,IQR 7.3-9.0 vs 単純性虫垂炎:中央値6.0,IQR 5.0-7.0,p<0.001).ROC曲線を作成すると,AUCが0.83(95%信頼区間;0.80-0.93)となり,カットオフ値を8とした場合は,感度0.74,特異度0.89となった.
【結論】今回の検討結果より複雑性虫垂炎の診断においてはPAS単独での有用性には限界があると思われた.ただし,PASは単純性虫垂炎に比べ複雑性虫垂炎で有意に高値であり,PAS≧8では複雑性虫垂炎の疑いが強くなるため,エコーで診断がつかない場合にはCTを行うべきと考えられた.
【目的】胆道閉鎖症(以下,BA)スクリーニングのために便色カラーカードが2012年に母子健康手帳へ導入され5年が経過した.しかしながら未だに3か月を越えて紹介されてくる患児も多く,便カラーカードの意義や本症に対して医療従事者らがBAおよびカードをどのように認識しているかを評価し,知識を深めることを目的にアンケート調査と啓蒙活動を行った.
【方法】当院に勤務する小児科医,産婦人科医,小児もしくは産科病棟の看護師および准看護師,助産師ら172名を対象に便色カードに関するアンケートテストと本症に関するプレゼンテーションを行い,結果と効果を確認する.
【結果】109名(63.3%)の回答を得られた.カラーカードを知らないと回答したのは13名(11.9%)であった.カラーカードを用いずに便色を判定していただき39名(35.7%)がわからないと回答した.一方でBAを知っていると回答したのは105名(96.3%)で,59名(54.1%)が生後1か月以内で発見されると回答した.BAが完治すると回答したのは45名(41.2%)であった.BAに関するプレゼンテーションについて「ものすごく勉強になった」と回答したのは92名(84.4%)であった.
【結論】今回のアンケートから,小児外科医以外の医師や看護師のBAに対する認識は低いものと考えられた.カラーカードは導入されたが,その意義やBAに対する認識を患者両親に正しく伝えるためにも,今後さらなる啓蒙活動の推進が必要である.
症例は右胸壁原発Ewing’s sarcoma family of tumors(ESFT)治療後の8歳男児.4歳時に発症し,化学療法,腫瘍摘出術,放射線治療により寛解を得た.治療終了1年9か月後に肝S6に23 mmの腫瘤性病変,右肺下葉に結節影を認めた.化学療法を追加し7歳時に腹腔鏡下肝部分切除術を施行した.その後肺転移巣切除術を施行し,術後化学療法を行った.再寛解後11か月時に肝S2に16 mmの腫瘤性病変を認め,8歳8か月時に2度目の腹腔鏡下肝部分切除術を施行した.前回のS6切除部位周囲に小範囲の癒着を認めたが,外側区域に癒着はなく,安全に手術を施行することができた.2回の腹腔鏡下手術において合併症はなく,輸血は行わなかった.腹腔鏡下肝切除は成人領域では普及しつつあるが,小児における報告は少ない.腹腔鏡下手術は低侵襲,癒着の少なさなど,再発リスクが高い本症例において有用であると考えられた.
晩期放射線腸炎は放射線照射後6か月以降に生じる虚血性変化に伴う障害であり,重症例では外科的手術の対象となる.悪性腫瘍に対する放射線照射後の患者では発症リスクが長期的に認められ,注意を要する.今回,放射線照射後10年で腸管壊死,穿孔を生じ4度の手術を要した晩期放射線腸炎の1例を経験したので報告する.症例は25歳女性,骨盤部横紋筋肉腫Stage IVに対し,10歳から5年間の治療の後,寛解に至った.2度の放射線照射を行っており,骨盤部に計95.4 Gyの照射歴があった.放射線照射野と考えられた小腸での吻合を行うも2度の縫合不全を生じた.最終的に空腸結腸吻合を行い残存小腸は100 cmとなり,一旦在宅中心静脈栄養を導入したが,その後離脱可能となった.晩期放射線腸炎では,症例の病態を考慮した適切な術式を検討する必要がある.
症例は18歳,女性.2歳時に先天性胆道拡張症に対して肝外胆管切除,肝管空腸吻合術を当院で施行され,経過良好であった.今回,上腹部痛,嘔気にて近医を受診し,画像検査で肝内胆管結石を指摘され,精査加療目的に当院へ転院となった.左右肝管の拡張と数個の結石を認め,これに対してダブルバルーン小腸内視鏡(DBE)による採石術を施行した.処置中より腹痛が出現し,翌日に血清アミラーゼの上昇を認め,造影CTにて重症急性膵炎と診断された.保存的加療にて膵炎は軽快し,DBE後57日で退院となった.DBE後急性膵炎の発症機転として,Vater乳頭への刺激やスコープによる膵への機械的外力などが示唆されている.また,検査時間とスコープ深度が関係するとの報告もある.DBEは本来,低侵襲であるが,本例のように重篤な膵炎を起こすことがあり,十分な準備と説明を行った上で施行するべきである.また,長時間におよぶ場合は計画的に数回に分けて行うなどの対応が必要である.
症例は日齢2,男児.在胎34週の母体超音波検査で左精巣に囊胞性病変を指摘されていた.在胎37週2日,2,890 g,帝王切開分娩で出生した.出生後のMRI検査では10 mm大の囊胞性病変を認め,明らかな充実成分・脂肪成分は指摘されず,単純囊胞や類表皮囊胞が疑われ,生後1か月時に手術を施行した.手術所見は精巣実質と境界明瞭な単房性囊胞であり,囊胞のみを核出した.病理検査では囊胞壁内に扁平上皮と一部脂肪を含む線維筋性組織,腸管組織を認め,成熟囊胞奇形腫の診断であった.陰囊内精巣腫瘍が出生前診断されることは非常に稀で,発生頻度的には圧倒的に胚細胞腫瘍が多いが,本症例では画像所見上,充実成分を全く認めず,精巣囊胞が最も疑われた.新生児精巣腫瘍において囊胞のみの病変であっても胚細胞腫瘍を念頭に診断・治療を行う必要がある.
メッケル憩室の多くは無症状であるが,さまざまな病態を引き起こすことがある.今回,我々はメッケル憩室が腹壁に穿通し膀胱前腔膿瘍を形成した稀な1例を経験したので報告する.症例は6歳,男児.4日前より下腹部痛を認め,腹痛の増強,発熱を認めるようになったため,前医を受診した.消化管穿孔が疑われたため当院に救急搬送され,同日緊急手術を行った.腹腔鏡で観察したところ,メッケル憩室と大網が腹壁に癒着し,腹壁に1 cm弱の孔を認め,同部位より膿の流出を認めた.メッケル憩室が腹壁に穿通して膀胱前腔膿瘍を形成したと診断し,メッケル憩室の切除及び膿瘍ドレナージを施行した.術後経過は良好であり,術後8日目に退院した.病理所見では,メッケル憩室先端に異所性胃粘膜を認め,潰瘍穿孔が原因であると考えられた.メッケル憩室穿通の術前診断は困難であるが,審査腹腔鏡から開始したことで術中診断が可能となり,良好な経過を得ることができたと考えられる.
症例は1歳,男児.胎児超音波で腹腔内に約12 mmの囊胞を指摘され,出生後の腹部超音波で肝臓下部,右腎近傍に隔壁を有する約20 mmの低エコー像を認め,腸間膜囊腫の疑いで経過観察されていた.生後7か月時に腹部超音波と腹部MRIでサイズの増大傾向を認め,当科紹介となった.1歳6か月時に腸間膜囊腫の疑いで臍内切開にて腹腔鏡で観察したところ,約4 cmの回盲部回腸重複症を認め,核出術を試みたが回盲弁に近く,狭窄を来すため単孔式腹腔鏡補助下回盲部切除術を行った.腫瘤は腸管と内腔に交通はなく,内容液は粘液性だった.病理検査では一部回腸の固有筋層から連続する筋層を有する囊胞状病変で,内腔はMUC5AC(+),MUC2(-)の円柱上皮で被われ,MUC6(+)の幽門腺様の固有胃腺を伴った囊胞型回腸重複症と診断した.術後は狭窄症状なく経過し,術後4日目に退院した.
症例は14歳の男子.腹痛を主訴に当院を受診され,腸閉塞と診断された.CTで骨盤内回腸に狭窄が疑われ,第3病日に開腹手術を施行した.回腸と近傍の腸間膜間の線維性索状物および近傍のMeckel憩室が認められたため,索状物切除およびMeckel憩室単純切除を施行した.術後10日目に再度腹痛が出現し,術後再狭窄が疑われたため,術後12日目に再開腹術を施行した.切除部同士が癒着して回腸が一塊となっており,小腸部分切除を施行した.術後経過は良好であり,腸閉塞の再発なく経過している.小児における臍腸管・卵黄血管遺残物以外の索状物による腸閉塞報告例は極めて少なく,さらに無症候性Meckel憩室が合併したという症例はこれまでに報告されていない.無症候性Meckel憩室に対する手術は通常単純憩室切除が施行されるが,近傍に本症例のような索状物が存在する場合,腸管切除を選択肢の1つとするべきと考えられた.