日本小児外科学会雑誌
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52 巻, 7 号
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おしらせ
原著
  • ―倫理的観点をふまえて―
    中村 弘樹, 古賀 寛之, 宮野 剛, 土井 崇, 岡和田 学, 山高 篤行
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1285-1289
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    【目的】周産期医学の著しい進歩により,外科的疾患を持つ新生児の生命予後は徐々に向上している.しかし,染色体異常を合併する症例では倫理的問題も含め,診断・治療方針の決定から退院まで診療に難渋する場合もある.当科において経験した染色体異常を伴う外科疾患症例について検討する.

    【方法】1980 年から2015 年までに小児外科が関わった13 トリソミー,18 トリソミーを有した症例は36 例であった.そのうち転帰不明の4 例を除外した32 例に関して,原疾患,在胎週数,出生体重,転帰と外科治療の関連について後方視的検討した.

    【結果】平均在胎週数;33.6 週,平均出生体重;1,459.7 g.疾患の内訳は消化器・腹壁疾患25例,呼吸器疾患5 例,腫瘍1 例,その他の疾患1 例.心疾患合併率は90.6%.生存期間は小児外科手術施行群91.8±250.6 日,非施行群3.5±3.5 日であった(P=0.015).心臓血管外科手術施群2,559.5±1,740.5 日,非施行群74.1±227.0 日であった(P=0.007).平均生存期間は小児外科および心臓血管外科手術施行例でともに手術非施行例に比して有意に長かった.

    【結論】13 および18 トリソミーの生命予後は不良であるが長期生存する可能性もあり,その治療方針については医療スタッフチーム,両親とともに児の最善の利益を得るため十分な検討を要する.外科治療の有無が生命予後に影響を与えると考えられるが,多職間によるチームとして,患児・家族の社会背景を十分に理解し治療にあたる姿勢が望まれる.また,重症例に対するサポートに関しては,更なる対応改善を要すると思われる.

  • 佐藤 英章, 古田 繁行, 眞鍋 周太郎, 辻 志穂, 北川 博昭
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1290-1294
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    【目的】従来リンパ管腫(リンパ管奇形)に対する治療の選択肢は硬化療法ならびに手術療法が選択されてきたが,近年漢方治療の報告が散見される.当院においても2013 年以降リンパ管腫全例に対し越婢加朮湯の投与を開始した.その使用経験を検討し,本症に対する越婢加朮湯の有用性を検証する.

    【方法】2013 年から2015 年まで本症に対し越婢加朮湯を投与した10 例に対し,投与前後の画像所見ならびに臨床経過を検討した.

    【結果】投与患者の投与開始時平均年齢は8 歳で,画像上リンパ管腫の消失・縮小までの薬剤投与期間は平均5.8 か月であった.発症部位は頭頸部6 例,体幹1 例,四肢3 例であり,病型内訳は全例囊胞状リンパ管腫であり,単房性1 例,多房性9 例であった.治療効果は縮小5 例,消失5 例であり,特に囊胞状リンパ管腫における囊胞の縮小消失により全体的な縮小を得た.全例とも投与中の感染,増大は認めなかったが,1 例に投薬終了後増大を認め再投与を要した.

    【結論】越婢加朮湯を投与した囊胞状リンパ管腫10 例のすべてに縮小あるいは消失の効果が得られた.囊胞状リンパ管腫に対し本剤は有効と考える.

  • 吉元 和彦, 寺倉 宏嗣, 緒方 さつき, 関 千寿花
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1295-1298
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    【目的】重症心身障がい児(者)の胃食道逆流症(以下GER)に対する腹腔鏡下modified Nissen-Rossetti 法(Rossetti 法から食道裂孔の修復を省略した術式,以下Rossetti 変法)の短期的な成績を後方視的に検討する.

    【方法】対象は基礎疾患を有する重症心身障がい児(者).嘔吐を主訴とするGER に対してRossetti 変法を行った18 人を対象とした.術後1 年目を過ぎた時点で嘔吐の再発があったかについて検討した.

    【結果】18 人全員で嘔吐の再発は認めなかった.

    【結論】短期的な検討では,Rossetti 変法は重症心身障がい児(者)の嘔吐を主訴とするGER に対して有効な術式である.

症例報告
  • 小原 由紀子, 齋藤 武, 照井 慶太, 光永 哲也, 中田 光政, 照井 エレナ, 大野 幸恵, 三瀬 直子, 小林 真史, 吉田 英生
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1299-1302
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    高血圧と高カルシウム血症を呈し,oncologic emergency として緊急手術を必要とした間葉芽腎腫の1 例を経験した.症例は2 か月女児で,発熱,腹部腫瘤を主訴に当科を受診した.左腎上極に84×107×89 mm の巨大な腫瘤を認めた.血圧150/90 mmHg,血漿レニン活性≧20 ng/ml/hr,血清カルシウム14.8 mg/dl と高値を認めた.内科的治療を開始したが血圧がコントロールできず,第5 病日に左腎腫瘍摘出術を施行した.病理組織診断は間葉芽腎腫,富細胞型であり,ETV6-NTRK3 キメラ遺伝子陽性であった.術後は速やかに血圧と血清カルシウムは正常化した.後療法は行わず5 年間再発を認めていない.

  • 荒井 勇樹, 窪田 正幸, 小林 隆, 大山 俊之, 横田 直樹
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1303-1308
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    葛西手術後の長期生存例は,肝癌発生例が問題となる.今回我々は,術後肝細胞癌と肝内胆管癌の同時性重複癌の症例を経験したので報告する.症例は39 歳男性.85 生日に胆道閉鎖症(I-b2-γ型)に対し,有茎空腸間置肝門部十二指腸吻合術が施行された.10 歳で食道静脈瘤が出現し,17 歳から増悪した.27 歳頃より胆管炎が生じ,35 歳頃から腹水が貯留する肝硬変となった.39 歳時に腫瘍マーカーの上昇を認め,画像検査所見から肝S1 に発生した肝細胞癌と肝内胆管癌の同時性重複癌と診断された.cT3cN0cM0 Stage III,肝障害度C と診断され,肝動脈化学塞栓療法を施行された.治療により肝細胞癌領域の完全壊死が得られたが,肝内胆管癌領域の縮小は認められなかった.Gemcitabine を用いた全身化学療法を追加したが,腫瘍マーカーの再上昇と腫瘍増大による肝不全の進行を認め,治療後8 か月で死亡した.文献的症例集積を行ったが,重複癌の発生は本例のみであり,また最年長症例であった.胆管癌発生例は全例死亡しており,予後不良であった.胆道閉鎖症に対する葛西術後の長期生存例において,肝癌発生を念頭に置いた定期的な経過観察が重要である.

  • 高山 勝平, 青井 重善, 千葉 史子, 坂井 宏平, 津田 知樹, 樋口 恒司, 文野 誠久, 古川 泰三, 木村 修, 田尻 達郎
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1309-1314
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    症例は正期産・自然分娩の男児.外表奇形は認めなかったが,出生直後より進行する腹部膨満および嘔吐を認め,注腸造影検査にて直腸閉鎖症(以下,本症)が疑われた.腸閉塞症状が高度であり,生後3 日目に左側横行結腸に人工肛門造設術を施行した.術後精査にて,閉鎖部位は歯状線から20 mm 口側の直腸で,隔壁の厚さは4 mm の本症・膜様閉鎖と確定診断した.生後10 か月時に,経肛門的膜様部切除術を施行した.術後経過は極めて良好であった.本症では,人工肛門造設術を先行することで,閉鎖部のより詳細な評価が可能となり,低侵襲かつ排便機能を温存する術式を選択できたと思われた.閉鎖部位の状況が不明な本症は人工肛門造設が必須と考えられた.

  • 津川 二郎, 冨岡 雄一郎, 西島 栄治
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1315-1320
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    症例は10 歳,女児.新生児期の人工呼吸管理後に後天性声門下腔狭窄症を発症し気管切開で管理されていた.術前の気管支鏡検査は,声門下腔は95%の狭窄を認め,狭窄範囲は声門から声門下腔の広範囲に及び,Modified Myer-Cotton 分類Grade IIIc と評価した.手術は,輪状軟骨前壁から側壁を切除し,甲状軟骨前壁の正中尾側1/3 まで切開し,声門下腔から声門までの瘢痕組織を切除し内腔を確保した.気管切開孔尾側の気管断端を声門まで拳上し甲状軟骨-気管吻合を行った.吻合部のステントと気道確保を目的に頭側の断端を閉鎖したT チューブを喉頭気管の内腔に留置した.術後2 年目にT チューブの抜去に成功した.Grade III~IV の声門下腔狭窄症に対してpartial cricotracheal resection は優れた術式である.術後にT チューブを使用し,長期間の吻合部のステントと安全な気道確保が行えた.

  • 福原 雅弘, 永田 公二, 栗山 直剛, 久田 正昭, 三好 きな, 孝橋 賢一, 田口 智章
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1321-1326
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    症例は6 か月男児.出生後より遷延する低血糖を認め,遺伝子異常を伴わないdiffuse type の先天性高インスリン血症(congenital hyperinsulinism:以下,CHI)と診断された.内科的治療を先行して行ったが治療抵抗性であった.生後5 か月時に18F-DOPA PET を施行し,膵頭部に2 か所の病変を有するfocal type CHI と診断され,手術目的に当科紹介となった.生後6 か月時に十二指腸温存膵頭部切除,膵体尾部空腸吻合,Roux-en Y 法による腸管再建を行い,術後44 日目に退院した.術後1 年経過した現在,インスリン依存性糖尿病などの合併症は認めていない.遺伝子異常を伴わないfocal type のCHI は,本邦からの報告はなく,本症例では18F-DOPA PET が局在診断に有用であった.膵頭部に病変部を有するCHI の標準的術式について文献的考察を加え報告する.

  • ―至適手術時期についての検討―
    仲谷 健吾, 飯沼 泰史, 平山 裕, 倉八 朋宏
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1327-1332
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    症例は8 歳女児.原因不明の発熱,右腹部痛,左肩・胸部・腰背部痛で当科に紹介された.来院時,左腰背部の叩打痛と,反跳痛や筋性防御を伴わない右腹部圧痛を認めた.CT では左胸腔内に造影効果を伴わない36×35×20 mm 大の腫瘤性病変が確認された.臨床経過と画像所見から肺葉外肺分画症の茎捻転を疑ったが,翌日のダイナミックCT でも栄養血管は描出されず,左胸水の出現を認めた.入院4 日目に施行した開胸手術では,分画肺の茎捻転所見が確認され,分画肺を切除した.病理所見も併せて肺葉外肺分画症の茎捻転と診断した.術後経過は良好で,術後4 日目に退院した.肺葉外肺分画症の多くは無症状で偶然発見されるが,稀に栄養血管の茎捻転による腹痛や胸痛を呈することがある.術前診断は通常困難だが,時間経過と共に癒着が進行するため,茎捻転を疑った際には発症から7 日以内の手術が望ましいと考えられた.

  • 細田 利史, 井上 幹也, 越永 従道
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1333-1336
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    今回,我々は非常に稀な鼠径部尿管ヘルニアの1 例を経験したので報告する.症例は14 歳男児.主訴は左陰囊腫大で,既往に1 歳時の左鼠径ヘルニア手術があった.左陰囊水瘤の診断で,全身麻酔下に手術を施行したところ,鼠径管内に管状構造物が内鼠径輪より脱出しており,臨床的印象から尿管を疑い温存した.術後のDIP-CT(drip infusion pyelography-computed tomography)で左尿管が鼠径管内に脱出する走行異常を認め,また,1 歳の手術時にヘルニア囊が確認されていたことにより,先天的な傍腹膜型の鼠径部尿管ヘルニアと診断した.本疾患は術前診断が困難であり,鼠径ヘルニア根治術時に異常に太い精管様構造物を認めた際は,本疾患を考慮し加療する必要があると考えた.本邦においては鼠径部尿管ヘルニアの報告症例はなく,我々の症例が最初の論文報告例である.

  • ―単孔式腹腔鏡補助下イレウス手術における術中消化管減圧の工夫―
    小野 健太郎, 増本 幸二, 高安 肇, 瓜田 泰久, 新開 統子, 田中 秀明, 五藤 周, 佐々木 理人
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1337-1341
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    症例は9 歳女児.交通事故により受傷し,前医で骨盤骨折に対し加療された.受傷後5 日目より経口摂取を開始したがイレウス症状を反復した.同6 週目に腹部膨満に加え発熱をきたし当科紹介となった.腹部造影CT 検査で腸管の拡張と骨盤内膿瘍を認め,臍部小切開による腹腔鏡補助下手術を行った.腸管拡張が強かったため,最初に臍部創から小腸を引き出し,術前に挿入しておいたイレウス管を操作し腸管を減圧した.その後腹腔鏡下に観察したところ右下腹部前腹壁と回腸との癒着が判明し,これを剥離・授動し創外に脱転すると腹壁と癒着していた箇所に腸間膜の欠損を伴う全周性狭窄を認めたため同部位を切除した.術後経過は順調で,術後13 日目に骨盤骨折の治療のため前医へ転院した.鈍的腹部外傷後の遅発性小腸狭窄によるイレウスは診断に苦慮することがあるが,臍部を用いた単孔式腹腔鏡補助下手術は安全に施行でき,診断にも治療にも有用であった.

  • ―症例報告と本邦報告例の集計―
    五十嵐 昭宏, 菊地 健太, 長谷川 真理子, 畑中 政博, 藤野 順子, 岸 陽子, 池田 均
    2016 年 52 巻 7 号 p. 1342-1349
    発行日: 2016/12/20
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    コイン形リチウム電池の誤飲により食道気管瘻および反回神経麻痺をきたした1 例を経験した.症例は9 か月,男児.全身麻酔下に食道内視鏡を行い,誤飲から6 時間後に食道入口部に嵌入した電池を摘出した.誤飲から8 日目に飲水を開始したが,むせ込みと誤嚥性肺炎を認め,食道気管瘻と反回神経麻痺と診断した.その後,絶飲食として経管栄養および経静脈栄養と第XIII 因子製剤による保存的治療を行い,誤飲から71 日目,食道気管瘻の閉鎖を確認して経口摂取を再開した.小児のリチウム電池誤飲による食道異物の本邦報告例を検索すると,症例報告は2000 年以降に急増しており,自験例を含め57 例が集計された.リチウム電池の誤飲は重大な組織損傷を招くため,家庭内では事故防止の意識を高め,電池の製造者等に対しては早急の対策を求める必要がある.

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