【目的】ボタン電池の普及に伴い,小児のボタン電池誤飲症例が多く報告されているが,治療方針について明確に提示されている文献は少ない.当科におけるボタン電池誤飲症例についてまとめ,治療アルゴリズムについて検討する.
【方法】2008年から2017年までの10年間に当科で経験したボタン電池誤飲の症例33例について,診療録を用いて後方視的にまとめた.
【結果】男児17例,女児16例であった.2例で電池2個,1例で電池3個を誤飲しており,電池の数は計37個であった.年齢中央値は1歳4か月(4か月~8歳6か月)であった.ボタン電池直径は,10 mm以下が14個,11~15 mmが18個,16~19 mmが1個,20 mmが3個,直径不明が1個であった.年齢によって誤飲する電池直径に明らかな差は認めなかった.当科診察時の電池位置臓器については,食道内2個,胃内22個,腸管内13個であった.臓器別の電池直径については食道と胃,食道と腸管にそれぞれ有意差を認めた.
【結論】自験症例の検討およびこれまでの報告より,電池誤飲症例の治療方針を次のように考える.食道内であれば内視鏡での早期摘出および内視鏡による粘膜観察が必要である.後日の内視鏡検査再検も望ましい.胃内であれば,透視下での摘出を行い,摘出困難時には内視鏡下摘出が必要である.腸管内であれば経過観察を行い,3日間排出がなければ腹部単純X線検査で確認する方針である.消化管のいずれの位置であっても,有症状時には外科的摘出の検討が必要である.
【目的】小児の膵臓に腫瘤性病変を認めることはまれである.今回,小児膵腫瘤性病変の鑑別診断のため,その臨床像および画像的特徴を比較検討した.
【方法】2005年4月から2017年3月までに関連7施設において,腹部超音波(胎児期を含む),CT,MRIなどの画像検査で膵臓に腫瘤性病変を認めた7施設17症例を対象として,症状,併存疾患,血清アミラーゼ濃度,画像所見,治療,予後について,後方視的に検討した.
【結果】全17症例の診断は,SPN 5例,acute peripancreatic fluid collection/pancreatic pseudocyst(以下APFC/PPC)5例,膵奇形腫1例,膵腺房細胞癌1例,インスリノーマ1例,転移性膵腫瘍1例,膵内副脾1例であり,先天性真性膵囊胞として経過観察中の症例が2症例であった.有症状例が11例であり,腹部外傷後に発見された症例が6例あった.膵dynamic CTを撮像したSPNの3例全例で,漸増性濃染の所見を認めた.またSPNの5例中2例では被膜を認めず,石灰化を認めた症例は1例のみであった.
【結論】小児膵腫瘤性病変には良悪性いずれの疾患も含まれるが,今回の検討ではSPNとAPFC/PPCの頻度が高かった.SPN症例の画像所見では,必ずしも特徴的とされる所見を認めるとは限らないが,膵dynamic CTにおける漸増性濃染の所見が診断に有用と考えた.
【目的】水溶性消化管造影剤アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン液(ガストログラフィン®)の便塞栓解除効果は経験的に認識されているが,慢性便秘症に関する報告は少なく臨床的根拠は乏しい.ガストログラフィン®注腸を行った慢性便秘症症例における便塞栓解除効果について,前向き観察研究(コホート研究)を実施した.
【方法】対象は2015年5月から2016年7月に,便秘を主訴に来院した1歳以上16歳未満の症例で,Rome III基準に合致し,超音波検査で直腸横径が27 mm以上の例.ガストログラフィン®注腸施行7~10日後に再診し,便性,直腸横径を評価した.
【結果】対象157例のうち,除外例を除く64例を検討した.年齢中央値は4歳2か月(37~68か月),男児41例.直腸横径は初診時に平均38.1 mm(標準偏差8 mm),再診時に27 mm未満に正常化した症例は33例(50.8%),初診時に比して縮小した症例は57例(87.7%)だった.便塞栓が残存した群と消失した群では,初診時の年齢と直腸横径に有意差を認めた.多変量解析では直腸拡大の改善に初診時の直腸横径(OR 0.67, 95% CI 0.47-0.96),年齢(OR 0.18, 95% CI 0.64-0.50)の関連が認められた.Bristol Scaleは初診時に平均3.2,再診時に平均4.6であり,有意に便性軟化を認めた.
【結論】ガストログラフィン®には便塞栓解除効果がある可能性が示された.これは便性軟化により便塞栓解除が促進されたためと考えられる.便塞栓を来した症例は,早期から積極的な介入を行う必要があり,ガストログラフィン®注腸はその一助となる.
【目的】先天性喉頭閉鎖症(以下,本症)は,出生直後から上気道閉塞症状をきたし,致死的な経過をたどる予後不良な疾患である.本症の治療経験から,本症の治療成績と問題点について検討した.
【方法】1982年から2017年までの35年間に当院と関連施設で経験した本症9例を対象とした.各症例の臨床的背景,出生前画像診断,周産期経過,出生後の治療経過,転帰などにつき,診療録に基づいて後方視的に検討した.
【結果】本症9例のうち7例に胎児腹水を認めており,7例中5例は中央値在胎21週時にCHAOS(congenital high airway obstruction syndrome)として出生前診断された.CHAOSとして出生前診断されていた5例のうち,心不全の悪化により子宮内胎児死亡した1例を除く4例に対して,出生時の気道確保のため,ex utero intrapartum treatment(EXIT)による気管切開を施行した.EXIT下に気管切開した全例が出生時に救命され,母体にも合併症は認めなかった.CHAOSとして出生前診断されていなかった4例中3例は出生直後に気管切開で気道確保を行ったが,食道閉鎖症を合併した症例のみが救命され生存退院した.出生した症例の在胎週数の中央値は37週,出生体重の中央値は2,015 gで,5例に本症以外の先天異常の合併を認めた.生存退院できた4例のうち,他の先天異常を伴わない2例と食道閉鎖症を合併した1例が人工呼吸器から離脱して長期生存した.
【結論】本症のうちCHAOSとして出生前診断された症例に対して,EXIT下の気管切開は児を救命する有効な治療法であった.
症例は在胎30週で18トリソミーと診断され,在胎32週体重1,013 gで出生した女児.出生前の病状説明により保温,補液,酸素投与,栄養投与などの標準的治療のみを行う方針であったが,呼吸困難症状に対して,両親が人工呼吸管理を希望し次第に積極的治療へ方針変更となった.C型食道閉鎖症に対し生後6日目に胃瘻造設術・腹部食道バンディングを施行.生後1か月時に動脈管閉鎖術を施行,生後6か月時に気管切開術を施行し,生後10か月時に退院となった.その後,上部食道の唾液吸引が困難となり,1歳10か月時に食道閉鎖症根治術・腹部食道バンディング解除術を施行.術後,食道吻合部狭窄拡張術を要したが経口摂取が多少可能となり少しずつ成長発達が得られている.重篤な疾患を持つ新生児の治療方針決定には医療者と家族の話し合いが必須であるが,本患者において,食道閉鎖症根治術に引き続いてバンディングを解除して行うというほとんど前例のない治療という難しさがあった.貴重な経験と思われ,ここに報告する.
症例は4歳10か月の男児.間欠的腹痛を主訴に前医を受診,腹部超音波検査にて腸重積症を指摘された.下口唇の色素沈着と家族歴とからPeutz-Jeghers症候群が疑われ,小腸病変の精査加療目的にて当科紹介となった.当院のCTで小腸小腸型の腸重積を認め,先進部としてポリープの存在が示唆されたため全身麻酔下にシングルバルーン小腸内視鏡を施行した.手技や安全性に問題なく,切歯から60 cmの空腸内に25 mmと8 mm大のポリープ2個を発見して切除した.小腸内視鏡は2000年にわが国で開発されたが,小児ではダブルバルーン内視鏡による治療報告は散見されるもののシングルバルーン内視鏡を使用した報告はほとんどない.シングルバルーン内視鏡は,小児の小腸病変の精査・治療においても選択肢の一つになり得ると考えられた.
症例は14歳の男児.夜間より増悪する腹痛を主訴に当院に救急搬送された.来院時の体温は37.5°Cで,腹部は心窩部中心に自発痛と限局性の筋性防御を認めた.CTで上腹部にfree airと腹水を認め,上部消化管穿孔(十二指腸潰瘍穿孔の疑い)と診断された.日本消化器病学会の消化性潰瘍診療ガイドライン2015(以下,消化性潰瘍診療ガイドライン)を適用し保存的治療を開始し,絶食,輸液管理で抗生剤,制酸剤の投与を行った.入院2日目に解熱を認め,腹部所見も軽快した.入院5日目に経口摂取を再開し,入院8日目に退院した.ヘリコバクターピロリIgG抗体(以下,HP-IgG抗体)が高値であり,十二指腸潰瘍穿孔はヘリコバクターピロリ(以下,H. pylori)の関与が疑われた.退院後13日目の上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部に穿孔後の潰瘍瘢痕を認めた.H. pyloriの除菌療法を行い,除菌を確認後,外来で経過観察しているが十二指腸潰瘍の再発は認めていない.小児の十二指腸潰瘍穿孔例に対する保存的治療は,消化性潰瘍診療ガイドラインの適用条件を満たす症例であれば有効な治療の選択肢であると考えられた.
総排泄腔遺残症・外反症や性分化異常症では,生命予後やQOLは改善されてきたが,生殖機能における長期的予後は十分に改善されているとは言えない.当院では小児外科,小児科,泌尿器科,産婦人科でチームを形成し,症例ごとに治療を行っている.今回,外陰部形成術を施行した5例を後方視的にまとめ,術式の選択と至適な手術時期について検討した.原疾患は総排泄腔遺残症が2例,総排泄腔外反症,先天性副腎皮質過形成症,原発性性腺機能低下症が1例ずつであった.外陰部形成には,結腸間置法,skin flap法,pull-through法,total urogenital mobilization,骨盤腹膜利用法をそれぞれ用いた.外陰部形成術を行う疾患は多岐にわたり,病態も多様なため,症例に応じたアプローチが必要である.疾患に応じて手術時期を設定し,乳児期より多科連携による治療戦略のロードマップを描くことが重要である.
学童期の唾液腺芽腫を経験したので報告する.症例は12歳女児.出生時から左顎下部の腫瘤を認めていた.大きさの変化はなかったが,最近軽度の圧痛を伴うようになり,当院を紹介受診した.触診上,左顎下部に可動性良好で直径2 cmの弾性やや硬の腫瘤を認めた.本人・家族とも手術を希望したため,全身麻酔下に腫瘤を摘出した.病理診断は,唾液腺芽腫であった.唾液腺芽腫は,世界では50例ほど報告されているが,検索しえた範囲では本邦では初めての報告であった.ほとんどが4歳未満での報告であり,本症例のような学童期での診断例は非常に珍しい.術後1年半経過したが再発は認めておらず,外来にて経過観察中である.
腸管重複症は新生児期に腸閉塞を起こしうる.新生児期に腸閉塞を呈する腸管重複症の病態につき自験例3例と本邦報告例を検討した.症例1は日齢3の女児.在胎39週,3,540 gで出生.日齢3に手術を行った.5 cm大の回盲部重複腸管を伴う盲腸窩内ヘルニアであった.症例2は日齢2の男児.在胎38週,3,544 gで出生.日齢2に手術を行った.回腸末端の0.7 cmと2 cmの重複腸管が隣接腸管を圧排していた.症例3は日齢22の女児.在胎39週,2,896 gで出生.日齢22に手術を行った.回腸末端の2 cm大の重複腸管が隣接腸管を圧排していた.全症例で腸閉塞を呈し手術適応となり,手術は重複腸管を含めた周囲腸管の切除を行った.また全症例で重複腸管は術前の超音波検査と造影CTから診断が可能であった.術前に重複腸管自体の診断は可能であるが,これが引き起こす腸閉塞の病態は様々であることを念頭におく必要がある.
症例は,在胎42週2日に3,740 gで出生した男児.出生時より臍帯内に異常構造物を認め,当院へ搬送となった.構造物は2 cm大の暗赤色を呈し,臍帯と強固に癒着し腹腔内への還納は困難であり,エコーやMRI検査でも腹腔内との交通を確認できなかった.4生日にベットサイドで臍帯部の羊膜を切開し構造物の確認したところ,内腔より胎便の排泄を認めたが,スリットがあるのみで腹腔内との連続性は確認できず,6生日に臍帯内の卵黄囊管遺残と判断し手術を施行した.上腹部を横切開すると臍帯内の構造物はメッケル憩室の盲端であり,臍輪がほぼ閉鎖していたため体表の腸管は孤立している状態であった.臍輪を開放し腸管をくり抜いた上,メッケル憩室楔状切除と臍形成術を施行した.本症は卵黄囊管遺残の代表的な分類にない稀な形態であったため,類似症例と合わせて報告する.
14歳男児.日常的にサーモンの刺身を食べていた.突然生じた右上下腹部痛のため当院を受診したところ同部に筋性防御,反跳痛を認めた.血液生化学検査で白血球および肝胆道系酵素の上昇を,腹部造影CTでは胆囊周囲および右下腹部に腹水貯留を認めたが胆石や胆管拡張の所見はなかった.審査腹腔鏡では黄色透明な胆汁性腹水貯留および胆囊漿膜の黄色変性を認めたが,明らかな穿孔部位はなく,胆囊摘出は施行せず腹腔内を洗浄しドレーンを留置して終了した.全身状態は速やかに改善し,術後1日目に腹痛はほぼ消失しドレーン排液も淡血性となった.原因検索のため便を鏡検したところ多数の虫卵を認め,形状から日本海裂頭条虫と診断した.プラジカンテル内服により翌日虫体が排泄され,腹部症状の再燃なく経過し,術後14日目に軽快退院した.条虫の感染を伴う漏出性胆汁性腹膜炎は極めて稀であり,文献的考察を踏まえ報告する.
症例は在胎39週で絨毛膜羊膜炎にて緊急帝王切開で出生した男児.在胎33週の胎児超音波検査で左胸腔内に囊胞病変を指摘されていた.出生後の頸胸部CTで左頸部から前縦隔にかけて空気を入れ増大した66×26×24 mmの囊胞が存在したため,更なる囊胞増大と感染予防を意図し,栄養は経鼻胃管注入とした.その後の咽頭・食道造影で梨状窩瘻の瘻管が描出され,左梨状窩瘻(囊胞)と診断して生後36日に梨状窩瘻摘出術を行った.術後,左反回神経麻痺による嗄声が出現したが,経口摂取問題なく術後19日で退院した.嗄声は約1か月で自然に軽快した.今回我々は生後早期から経管栄養による囊胞の増大と感染予防を行い,問題なく待機的な手術を行い得た巨大梨状窩瘻の1例を経験したので報告する.
肛門病変を契機にクローン病(CD)と診断した年長児の3症例を経験したので報告する.症例は8,11,10歳の男児で,それぞれ当院受診の2年,2か月,1か月前から他医で肛門病変に対して治療を受けていたが改善せず来院した.腹部症状はなかったが,3症例とも貧血,白血球増多,CRP上昇を認めたためCDを疑い,全身麻酔下に内視鏡検査を施行した.大腸および小腸にアフタ性潰瘍を認め,小腸大腸型CDと診断した.また成長曲線において体重は3症例で,身長は2症例で下方への逸脱を認めた.CDは肛門病変が腹部症状に先立ち発症することが少なくない.年長児に肛門病変,また身長,体重の増加不良を認めた場合,CDを念頭におき内視鏡検査で診断していく必要がある.
小児に対する胸腔腹腔シャントは国内外で使用の報告例が散見されるが,デバイスが成人用規格しか流通しておらず,その安全性や手術手技は確立されていない.今回我々は幼児期の胸水貯留に対して胸腔腹腔シャントを造設する経験を得た.症例は4歳の女児で,新生児期に乳糜胸水を認めるも保存加療で軽快していたが,その後再発を認めず経過した.4歳で呼吸困難が出現し特発性大量胸水と診断された.胸水の性状は漏出性胸水であり利尿薬や頻回の胸腔ドレナージなどの保存加療に反応しなかった.画像検査ではリンパ管機能は正常であると判断し胸腔腹腔シャントを造設した.術後,胸腔ドレナージは不要となり,呼吸困難の再燃なく自宅への退院が可能となった.胸腔腹腔シャントは,その適応を慎重に選択すべきではあるが比較的安全な手技で造設が可能であり,特に難治性の漏出性胸水には良い適応である.本症例の経験をふまえ文献的考察を加えて報告する.
結腸カポジ肉腫様血管内皮腫(Kaposiform Hemangioendothelioma,以下KHE)はISSVA分類では中間悪性腫瘍に分類され,増大するとKasabach-Merritt症候群の原因となるが,消化管に発生することはまれである.今回,我々は下行結腸に発生した症例を経験した.患児は5か月の男児.生下時に特記すべき事項なし.3か月時に血便が出現し前医を受診,高度の貧血を指摘され出血源精査目的に当院小児科へ転院となった.下部消化管内視鏡検査にて,下行結腸にびらんと露出血管を伴った隆起性病変を認めた.活動性の出血がないため,当初保存的にみていたが出血を繰り返すため粘膜下腫瘍の可能性も考慮し,小児外科紹介・手術となった.単孔式腹腔鏡下に下行結腸を授動し,体外へ導出し腫瘍を摘出した.術後経過に問題なく術後7日目に退院となった.今後も局所再発がないかフォローアップが必要である.