【目的】原発性自然気胸は思春期以降の長身の痩せた男性に好発する疾患であり,15歳以下の小児では比較的稀である.今回は当科の経験症例を基に,小児症例での臨床像を後方視的に検討した.
【方法】2006年4月から2011年12月までに,小児外科が関係した15歳以下の小児自然気胸症例7例11側(異時性両側4例)を対象とした.検討項目は臨床像,身体的特徴,既往歴,CT所見,手術所見,術後経過とした.また対側発症については同時期に治療した成人症例と比較検討した.
【結果】症例の内訳は男児6例,女児1例で,7例中6例が15歳であり平均14歳7か月であった.同時両側発症症例はなく初発時は右側3例,左側4例であった.肺虚脱度は軽度2例,中等度4例,高度1例で,中等度以上の4例に胸腔ドレーンを挿入し,2例で手術まで空気漏れが持続した.患児の身体的特徴はBMIやRohrer指数から痩せ型であることが分かった.特に既往歴や家族歴は認めなかった.全例がCT所見で明らかな責任囊胞のある手術適応症例と判断し,video-assisted thoracic surgery(以下VATS)を行った.手術では病変部の肺部分切除を行い,胸膜補強を追加した.患側部位の術後再発例はなかったが,術後早期の対側発症を4例に認めた.小児症例での対側発症は成人症例より有意に高かった(p=0.0002).
【結論】自験例では男女比や体型は成人症例と同様の傾向が見られた.術後同側の再発は認めず,VATSによる肺部分切除と胸膜補強は小児症例でも有用であった.しかし術後早期の対側発症は成人症例より有意に多く,十分留意すべきだと考えられた.
【目的】腹壁破裂男児にはしばしば停留精巣を合併する.胎児期の腹圧低下が停留精巣の発生に影響していると言われているが,その原因ははっきりしていない.我々は腹壁破裂と停留精巣の関連を検討したため文献的考察を加えて報告する.
【方法】当施設で2006年から2015年の10年間に出生した腹壁破裂男児13例を停留精巣群(以下UDT群)と非停留精巣群(以下N群)の2群に分類し,在胎週数,出生体重,腹壁欠損孔の大きさ,サイロ形成術後の腹壁閉鎖に要した日数を後方視的に比較検討した.また,停留精巣の自然経過に関しても検討した.
【結果】症例は13例.全例で生直後にサイロを形成し二期的に腹壁閉鎖を施行した.13例中6例(46.2%)に停留精巣を認めた.全例片側の停留精巣であった.在胎週数,出生体重,欠損孔サイズは両群間で有意差を認めなかったが,腹壁閉鎖に要した日数はUDT群9.8日に対しN群では6日とUDT群で有意に延長(P=0.011)していた.また,当施設では腹壁破裂に合併した停留精巣では合併症のない停留精巣と同様に1歳まで経過観察を行った上で手術適応の検討をしているが,精巣の自然下降を認めたのは1例(16.7%)のみでありその他の症例では外科的介入を必要とした.
【結論】UDT群ではサイロ形成後に腹壁閉鎖に要する日数が長くなる傾向にあり,胎児期の腹腔内圧低下が腹腔容積の不十分な発育並びに停留精巣の原因となっている可能性が示唆された.また,腹壁破裂に合併した停留精巣の治療は待機的手術で良いと考えられるが,一般的な停留精巣と比較して精巣の自然下降が少なく手術が必要である可能性が高いと考えられる.
【目的】Obstructed hemivagina and ipsilateral renal anomaly(OHVIRA)症候群は,古典的には重複子宮の片側膣閉鎖とその同側腎欠損とを合併する症候群であるが,近年種々の亜型が報告されてきている.当院で経験した中にも特殊な経過を辿った症例があり,その臨床像について検討した.
【方法】2003年から2015年の間に当科で経験したOHVIRA症候群を対象とし,診療録を用いて後方視的に臨床所見を検討した.また同期間に当科受診し,画像検査を施行していた女児の片側腎欠損症例を検索し,腎欠損症にOHVIRA症候群を伴う頻度を推測した.
【結果】患側は右5例,左4例.発見の契機は,思春期の腹痛3例,胎児超音波検査4例,他疾患精査時1例,単腎の膀胱尿管逆流症の経過観察中1例であった.経過は開窓,中隔切除を施行した症例が4例,新生児期の自然穿破症例が1例,経過観察中が4例であった.合併する腎奇形は最終的に腎欠損が7例,低異形成腎・尿管異所開口が2例(1例は画像上腎欠損と診断していた)であった.同一期間の女児の画像上腎欠損症例は15例あり,画像上腎欠損を認めた場合のOHVIRA症候群合併頻度は15例中8例(53.3%)であった.
【結論】OHVIRA症候群は,片腎欠損を有する女児に高頻度に認めることが確認できた.OHVIRA症候群は,一連の形態異常の総称であり,腎泌尿器,生殖器両方において様々な形態異常をとりうることは周知されるべきであり,腎欠損のみならず低形成腎,multicystic dysplastic kidney(MCDK)症例においても本疾患の可能性を考えて診療を行うことが重要である.
【目的】近年,腹腔鏡下ヘルニア修復術(以下LPEC:laparoscopic percutaneous extraperitoneal closure)は多くの施設で採用されており,当科では2007年より同術式を採用し,小児鼠径ヘルニアの標準術式としている.過去8年間のLPEC施行例とPotts法施行例を後方視的に評価し,LPECの安全性および有益性を検討した.
【方法】2002年1月から2015年12月までに当科で,小児鼠径ヘルニアに対して手術を施行した792例を対象とした.このうち2007年6月から導入したLPECを施行した400例をL群,Potts法を施行した392例をP群とし,両群の手術所見および合併症発生率を比較検討した.
【結果】平均手術時間は片側の場合,L群で45.8分,P群で41.4分でありL群が有意に長かった.一方両側の場合は,L群で54.8分,P群で83.2分でありL群が有意に短かった.L群で術前に片側鼠径ヘルニアと診断された362例中125例(34.5%)が,術中所見で対側腹膜鞘状突起開存(CPPV)陽性の診断となりLPECが追加で施行された.対側発症はL群で片側237例中4例(1.7%),P群で片側367例中38例(10.4%)であり,L群で術後対側発症率が有意に低いことが明らかとなった.再発はL群で400例中4例(1%),P群で392例中8例(2%)であり,両群で再発率は同等であった.
【結論】LPECは術中・術後合併症率がPotts法と変わりなく低く,両側鼠径ヘルニアの手術時間短縮や,術後対側発症率低下を実現できることから,LPECの安全性および有益性は非常に高いと考えられた.
症例は日齢24,女児.在胎37週6日で出生し,出生直後より吸気性喘鳴を聴取し呼吸障害が出現した.喉頭鏡による観察で喉頭蓋右側に腫瘤性病変を認め,気管内挿管で気道確保された.画像検査で喉頭に囊胞性病変を認め,喉頭蓋を左側に圧排していた.日齢24で精査・加療目的に当院転院となり,日齢28で経口的内視鏡下喉頭囊胞開窓術を施行した.囊胞の基部は右披裂部~披裂喉頭蓋ヒダに存在し,囊胞の開窓で透明な粘液が排出された.術後4日目に抜管し,術後20日目に退院となった.切除した囊胞壁は重層扁平上皮で,ductal cystと考えられた.術後3か月の現在,再発や呼吸障害はない.新生児の喉頭囊胞は出生時より重篤な呼吸障害を発症することがあり,迅速な気道確保や治療が必要となる.本疾患に対する治療法として経口的内視鏡下喉頭囊胞開窓術は,低侵襲で安全であり,充分な開窓により根治性も確保できると考えられる.
症例は2歳5か月,男児.当院受診の1週間前から38°Cの発熱および咳を繰り返し,嘔吐と食事摂取不良を認めた.一旦解熱するも,食事摂取不良は継続し,受診日より再度38°Cの発熱と黒色嘔吐が出現したため,当院を受診した.胸部X線検査および腹部CT検査にてfree air認め,上部消化管穿孔を疑い緊急手術を施行した.腹腔鏡で腹腔内を観察すると上腹部中心に腹膜の発赤と肝下面に白苔や気泡を認め,十二指腸球部前壁に径4 mm大の穿孔部を認めたため,十二指腸穿孔と判断し大網充填および腹腔内洗浄を行った.術後はPPIと抗菌薬の静注を行い,術後5日目に退院した.外来にてPPIの内服からH2-blocker内服に変更し,減量後内服終了とした.術後に上部消化管内視鏡は施行していないが検査結果や経過より十二指腸潰瘍穿孔と診断した.まれな幼児の十二指腸潰瘍穿孔に対して診断的腹腔鏡から腹腔鏡下大網充填術を施行し,良好な経過を得た1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
症例は腹壁リンパ管腫に対して加療予定であった1歳8か月の女児.前日より続く外傷後の不機嫌と腹部の膨満,高度の貧血を認めたため精査加療目的に近医より当科へ紹介となった.来院時,腹腔内出血による出血性ショックと診断したが腹部造影CTでは明らかな出血源を認めなかった.集中治療室へ入室後,いったん安定したショック状態が増悪し,リンパ管腫による腹腔内への出血が判明したためインターベンショナルラジオロジー(以下,IVR)が施行された.腹壁リンパ管腫によりショックを伴う腹腔内出血を来した重症例の報告はなく,本症例は非常にまれな病態であった.
先天性胆道拡張症(CBD)の分流手術後,膵炎を繰り返し,膵石合併慢性膵炎へと移行,反復する腹痛に対してDouble Roux-en-Yを用いたFrey手術を施行した症例を経験した.症例は20歳,女性.4歳時に特発性胆囊穿孔に対し腹腔鏡下胆囊摘出術,7歳時にCBDに対し分流手術を施行されたが,以降も膵炎で入退院を繰り返していた.ERP,MRCPでは遺残胆管や膵癒合異常は確認できず,主膵管減圧目的に内視鏡的乳頭切開も行ったが再燃を繰り返した.19歳時に腹部CTで膵石形成,膵尾部の萎縮,末梢側膵管の拡張を認め,膵石合併慢性膵炎と診断された.膵石は27 mm大で内視鏡的治療は困難と判断し,分流手術後であったためDouble Roux-en-Yを用いたFrey手術を施行した.術後,膵炎を起こすことなく腹痛も軽快した.CBDに対する分流手術後の慢性膵炎に,Double Roux-en-Yを用いたFrey手術は有効な術式の1つと考えられた.
今回我々は,毒キノコによる食中毒を契機に発症した急性虫垂炎の1例を経験したため報告する.症例は11歳,男児.山で採取したキノコを家族4人で摂取した.食後3時間後に母,弟,男児の3人が嘔気,腹痛の症状が出現したがしばらく様子をみていた.翌朝になると母と弟の症状は改善したが,男児に強い右下腹部が出現したため当院を受診した.血液検査にて白血球数の上昇と腹部CTにて虫垂腫大と腹水貯留を認めたため,急性虫垂炎と診断し腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.手術所見は虫垂の腫大と発赤を認め,回腸には回腸炎により広範囲にわたり浮腫状変化を認めた.術後経過は良好で術後5日目に退院した.家族が食したキノコを改めて確認すると,毒キノコであるツキヨタケであった.自験例の急性虫垂炎の発症の機序として,毒キノコによる回腸炎により回盲部に炎症が波及し,腸管粘膜の浮腫により虫垂の閉塞をきたしたためと考えられた.
症例は0生日の男児.近医で出生したが,肛門を認めず,直腸肛門奇形の診断で出生2時間後に当院搬送となった.出生22時間後に倒立位X線撮影,尿道造影検査を施行し無瘻孔型の低位型疑いと診断した.出生40時間後に直腸盲端までの距離確認のため,再度倒立位X線撮影を行い,出生44時間後に会陰式肛門形成術を行った.術後の全身状態は良好であったが,術後第1病日のCRPが11.4 mg/dlと高値で,徐々に腹部膨満を認めた.腹部X線検査を行ったところfree airを認め,消化管穿孔が疑われため手術となった.手術所見では,腹膜翻転部直上の直腸前壁が黒色調であり,同部位に穿孔を認めた.穿孔部の縫合閉鎖,人工肛門造設,腹腔内洗浄,ドレーン留置を行った.X線写真を見直すと,2回目の倒立位X線写真では既にfree airが存在していた.直腸肛門奇形は,稀ではあるが消化管穿孔を合併することがあるため,穿孔の可能性を認識しておく必要があると考えられた.
症例は12歳女児.突然の上腹部痛と嘔気を主訴に近医を受診し,腹部超音波で膵尾部に腫瘤を認め,精査目的に紹介となった.血液検査は異常認めず,腫瘍マーカー上昇も認めなかった.造影CTで膵尾部に径40 mmの被膜を有する境界明瞭な腫瘤性病変を認めた.以上より,膵solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)と診断し,腹腔鏡下脾温存膵体尾部切除術を施行した.術後膵液瘻を認めたが重症化することなく保存的治療で軽快し退院となった.術後1年が経過し,再発を認めていない.SPNは低悪性度腫瘍であり,低侵襲で根治性にも優れた本術式は,小児においても有用であった.また脾動静脈の処理などの微細な操作が細径鉗子でも十分に可能であり,腫瘍を臍から摘出することでさらに整容性の向上を図ることができると考えられた.
Anterior cutaneous nerve entrapment syndrome(ACNES)は腹壁痛の原因として認知されておらず,本邦における小児の報告例はほとんど認めない.今回ACNESの2例を経験したので報告する.症例1,14歳,女児.運動中に右下腹部痛を発症した.血液・画像検査で異常なくCarnett’s test陽性であった.症状増悪あり腹直筋鞘ブロック施行するも効果なく受診後4か月で神経切除術を施行した.症例2,9歳,男児.原因不明の右下腹部痛あり,病悩期間は9か月であった.画像検査は異常なくCarnett’s test陽性にてACNESを疑った.手術希望あり神経切除術を施行した.ACNESは近年報告例が増加しており潜在的な症例数は多い可能性がある.検査所見は異常なく身体所見で疑うため疾患を認知することが重要である.局所注射も効果があるが,神経切除術が根治的で有効な治療と考える.
症例は12歳女児.既往歴:1年前に左卵巣非腫瘍性捻転の診断で緊急手術にて捻転解除,卵巣固定術を施行.経過観察にて患側卵巣内の囊胞性病変が増大し,腹痛も伴うようになった.画像所見(超音波検査,MRI)では単純性囊胞であったが,術後1年で17 cmに急速に増大した.経過中腫瘍マーカー(AFP, HCG-β, CA125)は正常範囲内であった.術前鑑別診断としては卵巣囊胞,囊胞性奇形腫,漿液/粘液性囊胞腺腫を考慮し手術を施行した.臍Ω切開にて開腹し,直視下で囊胞内容物を吸引した.内容物は黄色透明な粘液であった.減圧後,創より卵巣を創外へ脱転し観察するも捻転は認めなかった.充実成分は認めず囊腫核出術を行った.病理組織検査では卵巣子宮内膜症の診断であった.生理前に子宮内膜症を発症することは非常に稀である.今後骨盤内の癒着に伴う不妊,生理開始後の疼痛の可能性に関して長期的な観察が必要である.
症例は,1歳4か月男児で,円筒状・母指頭大の臍ヘルニアを認めた.手術適応と判断し,ヘルニア門の閉鎖と同時に臍形成術を施行した.通常の臍ヘルニアと同様にヘルニア門の縫合閉鎖後,皮膚切開線を臍上縁の皺に沿って延長し,臍輪全周皮膚切開とした.臍の円筒状側面部分の皮膚を真皮レベルで剥離除去し,皮下組織は円筒状に残した.臍輪周囲を全周性に縫合閉鎖し,臍窩形成のために臍底部を術後1週間ツッペルガーゼで圧迫固定した.術後2年経過した現在も,臍窩のある正常形態の臍を維持している.巨大臍ヘルニアにおける臍形成術は,多くの場合,余剰皮膚が経過とともに縮小することがあり,術後長期間の形態維持は容易ではない.本術式は,臍窩部を利用するため皮膚が縮小する可能性が少なく,切開創が臍内にあるため整容性に優れており,長鼻様臍ヘルニアに対する臍形成術として有用である.
症例は在胎33週3日,出生体重1,425 gにて出生した女児.日齢7より灰白色便を認め,腹部超音波検査,胆道シンチグラフィの所見からも胆道閉鎖症が疑われた.便色や血清ビリルビン値を注意深く観察しながら患児の体重増加を待ち,日齢37(修正38週5日)に試験開腹術を施行した.術中胆道造影検査では胆道閉鎖症(I-b1-β)と診断し,葛西手術を施行した.術後45日目に退院し,現在術後5か月を経過したが,合併症なく経過している.本邦における出生体重1,500 g未満の胆道閉鎖症患児は全体の約1%未満と少なく,手術時期やその予後について十分な検討はない.そこで,早産児,極小および超低出生体重児の胆道閉鎖症について,自験例の経験と文献を基に,手術時期を中心に考察を加えた.