【目的】胆道閉鎖症の子どもを守る会(以下,守る会)会員を対象に胆道閉鎖症(以下,本症)長期生存例の現状と公的助成の受給についてアンケート調査し,自己肝生存症例と肝移植後症例の状況を比較検討し現行の公的助成制度の問題点を解析した.
【方法】守る会所属本症成人451例にアンケート調査し,回答の得られた179例を対象とした.検討項目は年齢,性別,肝移植の有無,黄疸および疾病関連症状の有無,通院・入院状況,重症度,公的助成申請・受給状況とし,自己肝(NL)群と肝移植施行(LT)群に分けて比較した.
【結果】性別NL群女性60例男性32例,LT群女性56例男性31例.年齢NL群20~46歳,LT群20~49歳(p=0.13).黄疸や疾病関連症状を認める例はNL群31例(33.7%)LT群35例(40.2%)(p=0.63).定期通院例はNL群76例(82.6%)LT群86例(98.9%)(p<0.05).最近1年間入院なしはNL群70例(76.1%)LT群61例(70.1%)(p=0.51).指定難病申請はNL群36例(39.1%),LT群39例(44.8%).何らかの公的助成を受けていたのは軽症者NL群1例(1.8%)LT群35例(77.8%)(p<0.05),重症度1患者NL群6例(21.4%)LT群30例(96.8%)(p<0.05),重症度2・3患者NL群6例(75%),LT群4例(100%)(p=0.27).
【結論】肝移植の有無に関わらず,成人例の3割以上で何らかの症状を抱えている中で,公的助成はLT群により厚く支給されていた.本症は生涯にわたる適切な管理が必要で,そのためには公的助成制度の改善や運用の適正化など包括的な取り組みが必要と考える.
【目的】小児の術後疼痛管理において標準的な方法は確立されていないのが現状である.今回,当院における小児腹腔鏡下虫垂炎手術の術後鎮痛法における局所浸潤麻酔(local anesthetic infiltration: LAI)と腹直筋鞘ブロック(rectus sheath block: RSB)の術後鎮痛効果を比較検討した.
【方法】対象は2009年9月から2020年8月まで,当科で行った小児緊急腹腔鏡下虫垂炎手術115例とし診療録をもとに後方視的に検討した.当初は3ポートを標準術式とし,2011年7月から全例,単孔式虫垂切除に変更した.術後鎮痛法は,2013年8月からLAIを,2018年6月からはRSBを導入した.術後鎮痛法を行わなかった57例をA群,術後鎮痛法を行った58例をB群とした.B群のうちLAIを施行した38例をLAI群,RSBを施行した20例をRSB群とした.
【結果】A群とB群の比較では,帰室時に疼痛を訴えた症例はB群で有意に少なく(40.3 vs 18.9%),初回疼痛を訴えるまでの時間はA群で有意に短かった(65.8 vs 213.4分).LAI群とRSB群の比較では,帰室時に疼痛を訴えた症例はRSB群で有意に少なかったが(23.7 vs 10.0%),初回疼痛を訴えるまでの時間については(219.6 vs 204.7(分)),有意差を認めなかった.
【結論】術後鎮痛法は帰室時に疼痛を訴える頻度を有意に減少させ,またLAIよりRSBの方が帰室時の疼痛抑制効果が有意に高かった.小児急性虫垂炎腹腔鏡下緊急手術において術後鎮痛法は,帰室時の疼痛抑制に有効で,かつLAIよりもRSBが望ましいと思われた.
【目的】当施設はCOVID-19クラスターを経験し厳密な院内感染対策の一環として,全入院患者を対象としたSARS-CoV-2検査のLAMP法検査(LAMP)を行っている.小児外科患者の結果を後方視的に検討し,入院時LAMPの意義について考察した.
【方法】院内感染が発生し,診療患者制限が始まった2020年4月28日から11月30日までの小児外科入院患者を後方視的に検討した.定時入院患者をA群,緊急入院患者をB群とした.緊急入院の中で気管切開がありエアロゾル発生防止のためカフ付きカニューレに変更した患者をC群とした.全症例でLAMPを行った.
【結果】A群57例(手術54例),B群30例(手術20例),C群2例(手術0例).このうち発熱を伴っていた患者(>37.5°C)はA群0例,B群7例,C群2例.気道症状および家族内感染は全例で認めなかった.LAMPはA群57例(陽性0例),B群30例(陽性0例)であったが,C群2例(陽性1例)だった.この陽性1例は嘔吐を主訴とした重症心身障害児で,即日COVID-19対応病院に転院した.転院先のLAMP再検査およびRT-PCR検査は陰性だった.
【結論】家族内感染者のいない小児外科患者に対して入院時LAMPは不要で,入院時の問診および診察で代用可能と考えられた.一方で重症心身障害児に関しては詳細な問診や診察が困難であることが多いため入院時LAMPが検討される.
【目的】胆道閉鎖症の診断においてshear wave elastography(SWE)を用いた肝の組織弾性の測定が有用であることが報告されつつあるが,新生児期のSWEが胆道閉鎖症の診断に有用かどうかの報告はない.本研究ではSWEによる肝の組織弾性の測定が胆道閉鎖症の早期診断に有用かどうかを検討した.
【方法】当院で2015年9月より2020年11月までの期間に生後30日以内に直接ビリルビン1 mg/dl以上の高ビリルビン血症を認め,かつSWEを含む肝の超音波検査を施行した26例を対象として後方視的に検討した.症例を胆道閉鎖症と非胆道閉鎖症の2群に分け,血液検査所見および超音波検査における高度萎縮胆囊やtriangular cord signの有無,SWEによる肝の組織弾性を比較した.また肝の組織弾性の診断能を評価するためROC解析を施行した.
【結果】26例中10例が胆道閉鎖症,16例が非胆道閉鎖症であった.血液検査所見では,γGTPのみ胆道閉鎖症で有意に高値であった(p=0.004).超音波検査所見では,triangular cord sign(p=0.014)とSWEによる肝の組織弾性(p=0.004)で2群間で有意差を認めた.肝の組織弾性のROC解析ではカットオフ値を8.80 kPaとした場合AUCは0.844であり,感度90.0%,特異度75.0%,陽性的中率69.2%,陰性的中率92.3%と感度および陰性的中率が高かった.
【結論】SWEを用いて肝の組織弾性を測定することは,胆道閉鎖症の早期診断,特にスクリーニング検査として有用であると考えられた.
膵・胆管合流異常症を伴う胆道拡張症は,様々な病態の原因および胆道癌の発生母地となることが知られている.胆道癌は一般に予後不良であり,早期の発見,治療を要し,胆道拡張症術後に発生する胆管癌も同様に予後不良といわれる.今回,我々は先天性胆道拡張症の診断で手術治療を施行した14歳男児において,切除胆管の病理診断で胆管癌を認めた症例を経験した.術後,gemcitabine+テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤による化学療法を施行した.術後11か月で腫瘍マーカーが上昇し,PET-CTで膵鉤部に再発と思われる所見があったため,他施設にて亜全胃温存膵頭十二指腸切除術が施行された.術後テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤による化学療法を継続していたが,初回手術より4年経過した段階でのCT検査でリンパ節再発の診断となり,現在gemcitabine+cisplatinによる化学療法を継続している.また,当初の病理所見では胆管癌の転移再発と思われた膵腫瘍について,本論文作成にあたって病理像の再検討をした結果,重複癌の可能性があるとの判断となった.治療内容,方針に変更はないものの,今後の慎重なフォローアップが必要であり,先天性胆道拡張症術後の長期のフォローアップの重要性を再確認する必要があると思われた.
症例は1歳9か月女児,嘔吐と発熱を主訴に前医受診,先天性胆道拡張症の診断で入院となった.入院6日目に胆道穿孔が明らかになり当科に転院し,緊急手術を行った.手術では総胆管と胆囊管合流部に約2 cm大の穿孔部を認めた.胆道ドレナージや穿孔部の修復は極めて困難であり,腹腔鏡下に一期的根治術を施行した.また,肝門部の左右胆管に強い膜様狭窄を認め胆管形成も施行した.合併症なく経過し,術後10日目に軽快退院となった.胆道穿孔をきたした先天性胆道拡張症に対する治療は二期的手術が推奨されている.一方,近年は一期的根治術が有用であるという報告が散見されるが,ほとんどは開腹手術である.今回,我々は腹腔鏡下に一期的根治術を施行した1例を経験した.胆道穿孔症例でも,腹腔鏡下胆道拡張症手術に習熟した施設において,全身状態が良好な症例であれば腹腔鏡下での一期的手術は有用であると考える.
症例は2歳,女児.右外鼠径ヘルニアに対して単孔式で腹腔鏡下経皮的腹膜外ヘルニア閉鎖術(LPEC)を企図した.腹腔鏡下に観察すると,腹壁臍部から腹腔内右下方へ伸びる索状物を認めた.左側腹部にポートを追加し鉗子にて検索すると,索状物は回腸腸間膜に付着していた.索状物はmesodiverticular bandであると考え,腸閉塞予防目的に切除する方針とした.索状物を腸間膜付着部と腹壁付着部でそれぞれ凝固切離し,切除した.索状物付着部近傍の回腸の検索ではMeckel憩室は同定されなかった.続いてLPECを行い手術を終えた.病理組織学的には索状物内に動静脈を認め,走行と合わせてmesodiverticular bandと診断した.mesodiverticular bandは多くがMeckel憩室に繋がるが,本症例のように臍部から小腸間膜に繋がる走行もあり,その場合はMeckel憩室を伴わないこともある.
症例は1歳,女児.発熱と間代性痙攣とを主訴に当院小児科に搬送となった.痙攣頓挫の後,熱性痙攣の診断で入院し,熱源精査を行った.腹部超音波検査,CT,MRIで左腎近傍に7 cmの囊胞性病変を認め,脾囊胞の疑いで手術を行った.審査腹腔鏡で囊胞の発生部位を同定して術前の診断を確定し,腹腔鏡下に天蓋切除術を行った.囊胞壁は可能な限り切除し,脾臓は温存した.病理組織所見で脾囊胞と診断された.術後1年の現在,再発はない.脾囊胞に対する適切な治療方針の検討のため,本邦報告例を中心に考察を行った.年少児では有症状となり得る大きな囊胞が見つかることは稀であるが,5 cmを超える場合は治療を考慮すべきと考えられた.
胸腺脂肪腫は前縦隔に発生する稀な良性腫瘍であり,多くは無症状で偶然発見されることが多い.今回,7年の経過で肺活量低下を呈するまで巨大化した1例を経験したので報告する.11歳の女児.4歳の頃に偶然前縦隔腫瘍を指摘された.生検で胸腺過形成と診断され,画像評価を継続しながら経過観察されてきた.転居に伴い当院受診.無症状だが両側胸腔を圧排する巨大腫瘍を認め,緩徐ながら増大傾向であったため精査を行った.MRIは胸腺様の軟部組織成分と脂肪成分の混在した巨大縦隔腫瘍を示し,胸腺脂肪腫が疑われた.また%肺活量が70%まで低下しており,腫瘍切除の方針とした.仰臥位で両側胸腔よりアプローチした.胸腔鏡下に上縦郭で血管処理を行った後,両腋窩切開で腫瘍の分割切除を行うことで,安全かつ低侵襲に病変切除を施行しえた.半年後の呼吸機能検査は正常化し,術後2年経過するが再発なく経過観察中である.
症例は13歳女児で,左下腹部痛を主訴に受診した.腹部CTで骨盤内に130 mm大の腫瘍を認め,左尿管および左腸骨動静脈を巻き込んでいた.腹腔鏡補助下生検で横紋筋肉腫と診断した.化学放射線療法後に腫瘍縮小を認めたため根治切除の方針とした.左総腸骨動静脈および左尿管の合併切除を伴う腫瘍摘出術を施行し,左総腸骨動脈は人工血管を用いて再建し,左尿管は右尿管に吻合する交叉性尿管尿管吻合を施行した.術後経過は良好で術後化学療法を施行し,現在術後3年3か月経過したが無再発生存中である.左尿管および左腸骨動静脈浸潤を伴う後腹膜原発横紋筋肉腫に対して,集学的治療により良好な予後が得られている症例を経験した.主要血管や尿管の合併切除を要するような横紋筋肉腫においても,各領域の専門家と連携して治療することで安全にかつ有用な治療を施行できると考える.