【目的】先天性横隔膜ヘルニア(CDH)は重篤な疾患であるが治療方法の確立により生存率は改善しつつある.しかし,救命率の改善に伴い術後合併症は増加傾向にある.当院で治療を行ったCDH患者について,出生前診断の重症度と外科的合併症(再発,腸閉塞,胃食道逆流症(GERD))との関連,それらの発症時期を後方視的に検討することを目的とした.
【方法】当院で治療を行ったCDH患者のうち①出生前診断された症例,②左側症例,③isolated症例,の3つの項目を満たし,かつ生存退院した51例を対象とし,手術を要した合併症について検討した.
【結果】51例を北野分類で重症度別に分類すると,Group Iが27例(52.9%),Group IIが14例(27.4%),Group IIIが10例(19.7%)であった.パッチによる修復を行った症例はGroup Iで1例(3.3%),Group IIで7例(50%),Group IIIで10例(100%)であった.外科的合併症に対する手術は16/51例(31%)に22件の手術が行われた.横隔膜修復術8件,腸閉塞解除術6件,噴門形成術8件であった.重症度別ではGroup Iが6例(18.5%),Group IIが3例(21%),Group IIIが7例(70%)であった.総合併症数,再発,GERDはGroup IIIではGroup IとIIに比較し有意に多かった.合併症の発症時期については各合併症間に有意差を認めなかった.
【結論】当院で経験したCDHの外科的合併症について出生前診断の重症度別に検討した.再発,GERDは重症例に多い合併症であった.重症例では合併症の頻度が高く慎重なフォローが必要である.
【目的】腹壁異常(腹壁破裂,臍帯ヘルニア)(以下本症)は出生前診断率の向上,周術期の新生児管理の進歩,二期閉鎖の導入等により治療成績が向上している.当科における本症の治療成績について後方視的に検討した.
【方法】過去30年間の本症手術症例35例(臍帯ヘルニア21例,腹壁破裂14例)に対して患者背景,術式,治療成績,予後について検討した.
【結果】出生前診断は臍帯ヘルニア8例(38.1%),腹壁破裂10例(71.4%)であった.合併奇形は臍帯ヘルニア18例(85.7%),腹壁破裂5例(35.7%)に認め,染色体異常は臍帯ヘルニア4例(19%)に認めた.手術は臍帯ヘルニアでは一期閉鎖14例(66.7%),silo造設のみ1例(4.8%),二期閉鎖6例(28.6%)が施行され,腹壁破裂では一期閉鎖3例(21.4%),二期閉鎖11例(78.6%)が施行された.術後合併症は臍帯ヘルニアでは10例(47.6%),腹壁破裂8例(57.1%)に認めた.腹壁瘢痕ヘルニアを臍帯ヘルニア2例,腹壁破裂では1例に認め,components separation techniqueによる修復術を要した.臍の形成不全は臍帯ヘルニア3例(14.3%),腹壁破裂5例(35.7%)に認めた.生存率は臍帯ヘルニア81.0%,腹壁破裂が92.9%であった.臍帯ヘルニア4例は重症合併奇形により,腹壁破裂の1例は術後アシドーシスで死亡した.
【結論】本症の予後を左右するのは重症合併奇形の有無と考えられる.救命例にも臍形成や腹壁瘢痕ヘルニアに対する治療など問題点も多く残存し,生命予後の改善と共に中長期的治療戦略が必要である.
【目的】胆道閉鎖症(以下本症)の自己肝生存率に関連する予後因子を,自験例をもとに検討した.
【方法】1984年4月1日より2017年3月31日まで当科で葛西手術を施行した本症84例を対象として患者背景,術前生化学検査所見,初回手術日齢,ステロイド初回投与量,漢方薬投与の有無について自己肝生存例(native liver survival群;NLS群)と死亡または肝移植例(非NLS群)で比較検討した.
【結果】自己肝生存率は術後1年77.4%,術後10年62.7%,術後20年56.6%,術後25年46.9%となった.初回手術日齢はNLS群:60.4±16.0日,非NLS群:73.1±29.5日でNLS群が有意に早かった(p=0.0135).術前ALT,γGTP値において各群に有意差はなかった.術前AST値(IU/ l)はNLS群:180.1±113.8,非NLS群:257.2±231.4,T-bil値(mg/dl)はNLS群:9.16±3.65,非NLS群:12.77±5.45,D-bil値(mg/dl)はNLS群:6.27±2.00,非NLS群:8.77±4.15であり,NLS群においてAST(p=0.0489),T-bil(p=0.000489),D-bil(p=0.000484)が有意に低値であった.ステロイド初回投与量(mg/kg/day)はNLS群:3.49±1.21,非NLS群:2.49±1.73とNLS群で有意に多かった(p=0.00247).
【結論】今回の検討では自己肝生存に関連する因子として初回手術日齢,術前ASTおよびビリルビン値,ステロイド初回投与量が示唆された.
症例は20歳の男性.18歳時に漏斗胸に対するNuss法施行後,2年間のバー留置後にバー抜去術を施行した.バー抜去後に創部から観察した限りでは出血を認めず,術直後に手術室で撮影した胸部レントゲン写真でも異常は認めなかった.しかし術翌日に左胸痛と呼吸困難感を訴えたために胸部レントゲン撮影をしたところ,左血胸を認めた.止血剤及び鉄剤の投与での保存的加療を開始した.術前14.8 g/dlであった血中ヘモグロビン値は術後3日目に9.6 g/dlまで低下したが自覚症状が消失して胸部レントゲン写真でも左血胸の改善傾向を認めたため同日退院した.術後1か月時には左血胸は胸部単純レントゲン写真上指摘できなくなり,鉄剤の内服でヘモグロビン値も正常化した.バー抜去術は入院期間の短い比較的安全な手術と報告されているが,術中術後に合併症を生じる可能性があり十分な注意が必要と考えられた.
症例は生後5日目の男児.妊娠経過中異常はなく在胎38週3日,経膣分娩にて出生した.出生体重2,480 g,Apgar score 9/10であった.生後3日目に非胆汁性嘔吐が出現した.その後胆汁性嘔吐となり全身状態も不良となったため当院NICUに緊急入院となった.入院時,腹部膨満を認めていた.腹部レントゲンにてsaddle bag signを認めたため胃破裂と診断して緊急手術を施行した.術中所見では胃体上部大弯側に10 mm大の破裂孔を認めたため周囲を切除し縫合閉鎖した.また中腸軸捻転を合併しておりLadd手術および虫垂切除術も併せて施行した.術後は敗血症およびDICを併発したが術後35日目に軽快退院となった.近年,周産期医療の発達とともに新生児胃破裂の発症頻度は著明に減少しているが,新生児胃破裂の手術の際には術中の下部消化管の検索が肝要であると考えられたため報告する.
症例は3歳,女児.感冒症状にて近医を受診した際に,下腹部に可動性腫瘤を触知し,腫瘍性病変が疑われ当科紹介となった.下腹部正中のやや右寄りに径7×5 cmの囊胞性病変を認め,超音波検査,MRI検査所見で一部充実性成分を認めたため,卵巣腫瘍を疑い開腹手術を施行した.手術所見では腫瘤は腹膜前腔に存在し,頭側は臍皮下に付着,尾側は索状物となり膀胱頂部へ連続していた.尿膜管囊胞と術中診断し,膀胱頂部を含め腫瘤を全摘した.病理所見は,血性内容物を有する囊胞性病変で,数か所で尿路上皮および立方上皮,円柱上皮を認め,尿膜管囊胞と診断した.幼児で,感染を伴わない巨大尿膜管囊胞の報告は稀である.囊胞が巨大な場合は卵巣腫瘍に類似した形態となることもあり,注意が必要である.巨大尿膜管囊胞は腹部囊胞性腫瘤の鑑別診断として考慮する必要がある.
症例は10か月,男児.胆汁性嘔吐および経口摂取不良を主訴に来院し,熱源不明の発熱およびイレウスの診断で入院した.翌日の腹部CTにて絞扼による小腸イレウスを疑い,緊急手術を行った.トライツ靱帯から約80 cmの部位に捻転した重複腸管を認め先端が炎症性に大網と癒着し,付着部を閉塞起点とした小腸イレウスを来していたため,重複腸管および付着部を含む約20 cmの小腸切除を施行した.病理所見では捻転部は腸管粘膜上皮や平滑筋など腸管構造を有し,重複腸管壁は捻転による絞扼で壊死を来していた.膵組織や胃粘膜の迷入は認めなかった.術後にイレウスは順調に改善したが,腹腔内感染による筋膜離開と皮下膿瘍のためドレナージ術を施行し,退院後1か月で腹壁再建術を行った.重複腸管はしばしば遭遇するが本症例は捻転形式が稀で,術前診断が困難であった.今回我々は,まれな重複腸管自体の捻転によりイレウスを発症した1例を経験したので報告する.
小児期の十二指腸潰瘍出血は成人に比して稀であるが時に止血困難な症例に遭遇する.止血処置を要した小児期の十二指腸潰瘍出血3例を経験したので報告する.症例1:10歳男児.吐血及び貧血を認め上部消化管内視鏡検査を行い十二指腸球部にDieulafoy潰瘍を認めたためクリッピングにて止血した.症例2:9歳男児.喘息発作に対しステロイド投与を連日行っていたところ,吐下血を認め上部消化管内視鏡検査を行った.十二指腸球部に潰瘍出血を認めたが止血困難であり,interventional radiology(以下IVR)を施行し止血した.症例3:14歳男児.吐下血,出血性ショックを認め上部消化管内視鏡検査を施行した.十二指腸前壁の潰瘍から出血を認め一時止血できたが,入院5日目に再出血し再度内視鏡検査を施行するも止血困難で,IVRにて止血した.小児の十二指腸潰瘍出血に対しても内視鏡治療が第一選択と考えるが,止血困難な場合はIVRも有効な手段である.
尿膜管開存症は臍帯囊胞や臍帯浮腫との関連を有する稀な先天異常である.今回胎児期に臍帯囊胞を指摘され出生後尿膜管開存と診断された症例を経験したので報告する.症例は女児.妊娠23週妊婦検診で羊水腔内に囊胞性病変を指摘された.在胎38週1日帝王切開で出生した.臍帯に囊胞と臍帯内に赤色の内容物を認め,臍帯ヘルニアや尿膜管遺残症が疑われ当院搬送となった.臍帯内部に赤色構造物が透見され,当初は臍帯内ヘルニアの診断で臍帯結紮処理としたが,臍帯は脱落し赤色組織が露出した.膀胱造影で尿膜管開存が明らかとなり,尿膜管摘出術を行った.臍形成は臍が中心に収束するように臍頂点の皮下を巾着縫合した.術後4か月時には整容上満足する結果が得られた.胎児期に臍帯囊胞を指摘された症例では染色体異常や合併奇形を認めなくても尿膜管遺残の併存を念頭におく必要であり,新生児科,産科,小児外科の連携のとれた施設の管理が望ましいと考えられた.
症例は8か月の男児.嘔吐,下痢症状で前医を受診した.画像検査で肝内に多房性囊胞性病変を指摘され,当院を受診した.血液検査で肝機能障害認めず,血清α-fetoprotein(AFP)の軽度上昇を認めた.肝生検の所見から肝間葉性過誤腫が考えられた.経過観察中に血清AFPの漸増,腫瘍の急速な増大を来し,拡大肝左葉切除術を施行した.組織学的に線維性又は粘液水腫様間葉系組織に少数の肝細胞,細胆管が混在する充実性成分と内部に黄色透明な漿液を含む囊胞性成分を認めた.一部にAFP,glypican-3陽性の肝細胞を認め,胎児肝細胞が遺残した肝間葉性過誤腫と診断した.明らかな悪性所見は認められなかった.術後経過は良好で,術後4か月の現在,再発は認められておらず,血清AFPも正常化した.肝間葉性過誤腫では初期に血清AFP高値であっても漸減するが,自験例は経過中に漸増するという異なる経過を示した.その要因に胎児肝細胞の遺残が考えられた.
症例は3歳の女児.右耳介後部をマダニに刺咬され,父親によって虫体は除去されたが,同部に肉芽腫を形成したため切除目的で当院皮膚科より当科紹介となった.手術は全身麻酔下で施行し,右耳介後部の肉芽腫周囲に紡錘形の皮膚切開を加えて皮下組織深部より全周性に筋膜層まで剥離を進め,病変部を一塊として全摘除した.切除標本の臨床病理検査では,真皮内に結節状に炎症細胞浸潤を認め,結節中央~先端部にモグラドリル様のマダニ口器が組織内に深く食込んで残存していた.マダニ刺咬症において虫体が固着している場合や,口器の残存が疑われる症例では膿瘍や肉芽腫形成の危険性があり,マダニ媒介感染症の感染率低下,重症化を防ぐためにも固着している皮膚ごと虫体,口器を迅速に切除することが望ましい.
大量の腹腔内遊離ガスを伴う壊死性腸炎空腸穿孔術後に離断型十二指腸閉鎖症と診断された超低出生体重児を経験した.症例は,在胎27週1日,834 gで出生した男児で,日齢2に経腸栄養を開始したがおさまらず,日齢5の単純X線写真で腹腔内遊離ガスを認め,当院へ搬送された.同日stoma造設を行い,術後の全身状態は落ち着いていたが経腸栄養がおさまらず,日齢14に行った上部消化管造影で十二指腸閉鎖症の診断となった.術後15日目(日齢20),離断型十二指腸閉鎖症に対し十二指腸十二指腸吻合を行った.上部消化管造影時に胆管は造影されず,術中も胆汁を認めたのは肛門側十二指腸内のみであったが,恐らく膵胆管を介する交通があり,下部小腸にもガスが通っていたと考えられる.先天性十二指腸閉鎖症には胆管開口異常を伴う特殊な病型が存在するため,小腸穿孔による腹腔内遊離ガスが認められても否定することなく,診断・治療を行う必要がある.
症例は日齢0,男児.胎児期より臍帯ヘルニアを指摘されていた.在胎35週1日に緊急帝王切開で出生した.出生体重3,188 g.臍帯ヘルニアに加え特徴的な顔貌や筋緊張低下,コートハンガー様の肋骨形態と小胸郭を認めた.ヘルニア囊の損傷はないため待機的に日齢10に腹壁閉鎖術を行った.術中に臍帯と回盲部に強い癒着があり,回腸の損傷を来したため臍部に回腸ストーマを造設した.日齢34にストーマ閉鎖術時に環状皮膚縫合法を施行し,術後の臍形態は良好であった.術後の精査でKagami-Ogata症候群と診断した.臍部ストーマは閉鎖術時に臍形成術を必要とする.本法は手技が容易であり手術時間の短縮につながることから手術侵襲の縮小に寄与するとともに優れた整容性を得ることができる.そのため本症例のように基礎疾患を持つ場合に有効であり,かつその他の臍部ストーマ閉鎖にも応用できると考えられる.
青色ゴムまり様母斑症候群(blue rubber bleb nervus syndrome,以下BRBNS)は,主に皮膚と消化管に静脈奇形(venous malformation,以下VM)を形成する全身疾患である.消化管出血により貧血を呈することが多く,保存的加療もしくは内視鏡による焼灼術を行う.今回,5歳女児に対してダブルバルーン内視鏡(double balloon endoscopy,以下DBE)下にアルゴン・プラズマ凝固(argon plasma coagulation,以下APC)を行ったところ処置翌日に,小腸壁の血腫を形成し壁外圧迫によるイレウスを呈した症例を経験した.経鼻胃管による保存的加療では奏功せず,更に消化管穿孔を発症したため緊急開腹手術を行った.外科治療を必要としたBRBNSの症例は複数報告されているが,本症例はDBEによる処置に伴って出血さらには穿孔をきたしたと考えられ外科治療を要した.DBEは全腸管の検索が行え有用であるが,予期せぬ合併症に対して注意が必要である.