【目的】漏斗胸に対するNuss法は,良好な胸郭形態を得るための有用な手術方法である.しかし,手術適応年齢に関しては明確な根拠が示されていない.年少例では術後再発の危険性も指摘されている.年長例(10歳以降のバー抜去)における抜去後3年の経過観察例において,胸郭形態を胸部X線によるvertebral index(VI)で評価し,胸郭形態の変化,再発の危険性について検討した.
【方法】2004年11月から2013年3月31日にNuss手術を施行した症例のうち,10歳以降でバーを抜去し,抜去後3年以上の経過観察が可能であった18例(男児13例,女児5例)を対象にした.Nuss手術時年齢8.3±1.2歳,バー抜去手術時年齢11±0.7歳,バー留置期は30.7±10.7か月年であった.Nuss手術前,バー抜去直後(1か月以内),抜去後1年,2年,3年の胸部X線側面像からVIを計測した.
【結果】VIは,Nuss手術前31.7±7.9,バー抜去直後(1か月以内)23.7±2.9,抜去後1年23.9±3.2,抜去後2年25.2±3.8,抜去後3年24.8±2.9であった.抜去直後に対して1年後,2年後,3年後では,いずれも有意な変化は認められず,胸郭の扁平化は回避されていた.
【結論】Nuss法術後,10歳以上でバー抜去した小児例では術後3年の経過を通してVIに大きな有意差は認められなかった.この結果,10歳以上でバー抜去した小児例で術後の再陥凹はおこりにくいことが示唆された.Nuss法の手術時年齢として,8歳以降が望ましいということが示された.
【目的】過去に当施設で行われたcut back肛門形成術後の女児低位鎖肛例に対して肛門位置異常の治療目的にlimited posterior sagittal anorectoplastyで再手術を行った15例について年齢群別の術後経過別の差異を検討した.
【方法】再手術時期別に乳児期・幼児期・学童期3群に分け各群での術後入院期間・術後排便機能・合併症を比較した.
【結果】いずれの事項も各群では差は認めなかった.
【結論】各年齢群において,再手術を計画する際に,合併症や入院期間の延長を心配し再手術を躊躇する必要はないと考えられた.
【目的】小児特発性腸重積症(以下,本症)は65%以上が非観血的に整復されるが,その中に再発を繰り返す症例を認める.本症の発生には回盲部のリンパ組織が重要であるが,再発の原因は明らかにされていない.そこで整復後に再発した症例(以下,再発群)と再発しなかった症例(以下,非再発群)について回腸末端の腸管壁の厚みを比較,検討することで再発の原因について考察した.
【方法】非観血的整復術を行った特発性腸重積症27例(再発群4例,非再発群23例)を対象とした.まず整復時の性別,先行感染,月齢,体温,白血球数(以下,WBC),CRPを両群間の背景因子として検討した.次に整復後の回腸末端壁の厚み(以下,WTTI)を超音波検査で経時的に測定した.また非再発群のWTTIから単回帰分析を行い,回帰関数を求めた.さらに①整復直後から24時間までのWTTIと②整復後24時間以降のWTTIを両群間で比較,検討した.
【結果】両群の背景因子はいずれも有意差を認めなかった.WTTIは非再発群では急速に減少し約50時間で2 mmに収束すると推測された.回帰関数を用いて収束値2 mmに至る整復後の経過時間を求めたところ55時間であった.一方再発群では緩やかに減少し,およそ6.5 mmに収束していた.また両群のWTTIは整復後24時間以後の測定値についてのみ有意差を認めた.
【結論】本症の再発要因は整復後に回腸末端の腸管壁の肥厚が持続することと関連していると思われた.したがって整復後24時間経過後のWTTIを評価することで本症の再発のリスクを予見することが可能と思われた.
【目的】当施設で経験した乳児ビタミンK欠乏性出血症を呈した胆道閉鎖症(BA)を検討し,その臨床像を明らかにすることを研究の目的とした.
【方法】当施設で経験したBA 76例を対象とし,ビタミンK欠乏性出血症を呈した9例をA群,ビタミンK欠乏性出血症を呈さなかった67例をB群に分け,入院時日齢,手術時日齢,血液検査,臨床・周術期パラメータ,頭蓋内出血の合併,黄疸消失率,術後10年の自己肝累積生存率について統計学的解析を行った.さらにビタミンK欠乏性出血症を呈した9例については,患者背景や臨床パラメータ,頭蓋内出血の経過や予後の詳細を後方視的に検討した.
【結果】術前血液検査では,両群間で有意差は認めなかった.肝門部空腸吻合術の日齢はA群74日(54~102日),B群48日(7~128日)とA群で有意に遅かった.患者背景,臨床・周術期パラメータは両群間で有意差はなかった.術後の黄疸消失率と術後10年の自己肝累積生存率はA群で有意に低かった.A群を詳細に検討すると,9例中母乳栄養が8例であり,出血症状の発症日齢は中央値60.9日(41~84日)であった.頭蓋内出血は4例に認められ,保存的治療は3例,開頭血腫除去は1例に行われた.生存中の症例には神経学的後遺症を認めていない.
【結論】ビタミンK欠乏性出血症を呈したBA症例は肝門部空腸吻合術の時期が遅く,頭蓋内出血を合併する頻度が高く,長期予後が不良であった.今後,ビタミンK欠乏性出血症や頭蓋内出血を防止するためには,BAの早期発見を行うことが重要と考えられた.
横紋筋肉腫は,頭頸部,泌尿生殖器系からの発生が多いと言われているが,卵巣原発の報告は極めて稀である.今回我々は,術前化学療法が奏功し,腫瘍全摘出術を行った卵巣原発胎児型横紋筋肉腫の1例を経験した.症例は9歳女児.入院2か月前から腹痛と便秘を自覚していた.次第に腹痛が増強し,近医を受診したところ腹部腫瘤を指摘され,当院へ紹介となった.腹部造影CT検査の結果,下腹部全体を占める腫瘤と骨盤内液体貯留を認めた.画像所見より骨盤内腫瘍が疑われ,開腹腫瘍生検を施行した.病理組織学的診断より,胎児型横紋筋肉腫と診断した.VDC-IE交替療法にて,腫瘍の縮小を認め,入院7か月後に腫瘍全摘出術を行った.術中所見より,原発部位は左卵巣と診断した.術後TI療法を4コース施行したのち,退院となり,腫瘍全摘出術から45か月再発なく経過している.
症例は8歳男児.右下腹部を蹴られ,その頃から右陰囊内に精巣がないことを自覚していたが,特に症状もなく経過していた.受傷15日目に右鼠径部の腫脹・疼痛を認め当科を受診した.右鼠径部は腫脹し圧痛を軽度認めるのみであった.右陰囊内に精巣が認められず,各種検査で右精巣の鼠径部捻転と診断し観血的整復術を施行した.精巣は外鼠径輪で頭側に約180°屈曲し,精巣脱出症による精巣捻転と診断した.精巣壊死を認め精巣摘除術を施行した.精巣脱出症は陰囊底部に正常に下降した精巣が,陰囊外に脱出する比較的稀な疾患である.全身状態が許せれば精巣機能的予後を考慮し可及的速やかに観血的整復を施行するべきである.
症例は男児.胎児期より水頭症を指摘されており,帝王切開にて出生した.性別と身体所見よりX連鎖性遺伝性水頭症(X-linked hydrocephalus; XLH)を疑われ,遺伝子検査にてL1 cell adhesion molecule(L1CAM)遺伝子異常が確認された.水頭症に対してVPシャント術を施行したが,出生後より見られていた腹部膨満が徐々に増悪してきた.L1CAM遺伝子異常を認めることからHirschsprung病(Hirschsprung’s disease; HD)の合併を疑い,注腸造影,直腸肛門内圧検査および直腸粘膜生検にてHDと診断,開腹Soave法を施行して腹部症状の改善を認めた.L1CAM遺伝子変異に起因する疾患は先天性水頭症を含む様々な表現型を呈することが知られているが,近年,HDを合併した報告例が散見される.XLHの患者における腹部膨満や頑固な便秘では,HDの存在を念頭において診療に当たるべきであると思われた.
症例は胎児期に重複膀胱が疑われ,出生後に鎖肛を伴わない直腸膣前庭瘻の診断で人工肛門を造設した女児.術中に管状型回腸・全結腸重複症が判明し,また重複尿道,重複膣,重複子宮を合併していた.6生月に会陰部横切開で直腸膣瘻閉鎖術および重複直腸側々吻合術を施行したが,直腸膣瘻が再発し,8生月に後方矢状切開で直腸膣瘻再閉鎖術,10生月に重複回腸・上行結腸切除,隔壁部分切離および人工肛門閉鎖術を行った.術後2年の現在,腸管の通過障害はなく経過は良好である.今後,妊娠・出産を含めた長期的フォローアップが重要である.
幽門筋切開術(ラムステッド手術)を行うことにより肥厚性幽門狭窄症の大部分の症例は症状が改善するが,稀に残存した幽門筋肥厚により術後に嘔吐が遺残し再手術を要することがある.現在広く普及しているTan-Bianchi法で初回手術が施行されている場合,同一法での再手術は瘢痕や癒着などによる手術困難が予想されるが,このリスクは同一創を用いて右上腹部で開腹する臍sliding window法を用いることで軽減できると考えられる.症例は7か月男児で,Tan-Bianchi法を用いて新生児期に幽門筋切開術を行ったが術後嘔吐が遺残し持続した.画像所見にて幽門通過障害と幽門筋肥厚を認め,臍sliding window法にて幽門筋再切開術を行った.手術操作は容易であり,術後経過は良好であった.嘔吐症状は消失し創部の整容性も良好であった.
症例は7歳男児.黒色便,高度貧血にて当科紹介となった.既往歴に低酸素性虚血性脳症,慢性腎不全などがある.上部下部消化管内視鏡,99mTcシンチグラフィでは出血点は不明であった.カプセル内視鏡で上位空腸に出血点を認め,小腸内視鏡で空腸に湧出性出血を伴う約3 mmの隆起性病変を認めた.出血点にクリッピング止血を行ったがその後も黒色便が持続し,6日後に開腹小腸切除術を行った.手術所見では,Treitz靱帯から約3 cm肛門側の空腸腸間膜対側にクリップを触知した.経口的に内視鏡でクリップが腫瘤と同部位にあることを確認し,小腸楔状切除を行った.術後経過は良好で術後26日目に問題なく退院となった.病理検査の結果,自験例は小腸異所性Brunner腺からの出血であったと考えられた.本症は稀な疾患であるが消化管出血の原因として考慮すべきである.
症例は2歳,女児.嘔吐,腹痛,高アミラーゼ血症で発症し,前医での画像検査で総胆管拡張を認めたため,先天性胆道拡張症と診断され,当科紹介となった.MR胆管膵管撮影(MRCP)および胆管造影CT(DIC-CT)にて,総胆管の重複と特殊な形態の膵・胆管合流異常を認めた.開腹術を施行し,術中胆道造影にて総胆管および副胆管の走行を確認してから,肝外重複胆管切除による分流手術を行った.重複胆管の斎籐分類ではIIIb型と診断した.重複胆管は総胆管が2本存在する極めて稀な奇形であり,特に小児では胆道拡張症に合併し,術中に診断されることがほとんどである.胆道拡張症の術前MRCPにおいては,本症を念頭に置いて読影することが望ましく,術前DIC-CT,あるいは術中胆道造影を丁寧に行い詳細な情報を得たことが,副損傷を避け,安全で確実な手術を施行するために有用であった.
症例は6歳女児,直腸脱を主訴に当院紹介受診となった.数年前より排尿時痛と排尿困難があった.便秘はなく,腹部レントゲン検査で骨盤内に4 cm大の石灰化した構造物を認めた.直腸診では便塊や腫瘤は触知しなかった.CT検査およびMRI検査にて膀胱内に4.5 cm大の石灰化を伴う腫瘤を認め,膀胱結石と診断した.排尿時痛がコントロールできず,翌日準緊急手術を施行した.全身麻酔下に膀胱を開放し,結石を摘出した.結石分析および尿中アミノ酸分析にてシスチン尿症と診断した.現在術後9か月経過するが,排尿時痛は消失し,直腸脱も消失した.膀胱結石と直腸脱を合併した報告は少ない.膀胱結石による排尿困難に伴って生じる怒責により腹圧が上昇したことに加え,膀胱結石により骨盤神経が刺激され,その刺激により膀胱の過剰収縮と同時に肛門括約筋の弛緩を起こし,直腸脱が生じたものと考えられた.便秘を伴わない直腸脱は,排尿障害の問診が重要と思われた.
Winslow孔ヘルニア(本症)は非常に稀な疾患であり,症状が非特異的であることから術前診断に至らずに手術を行う症例もある.また成人例では腹腔鏡手術を行った報告も散見されるが,小児例に対する腹腔鏡手術はこれまでに報告されていない.今回われわれは小児に発症した本症に対して術前にCTにて診断し,腹腔鏡下に整復し得たので報告する.症例は13歳女児.夜間に急な右上腹部痛が出現したため前医を緊急受診し,急性腹症の診断で当院へ搬送となった.腹部造影CTにて本症と診断し,発症から約12時間後に緊急手術を行った.腹腔鏡下にWinslow孔を展開し,嵌入した小腸を全て引き出した後にWinslow孔を縫合閉鎖した.嵌入小腸に虚血性変化は認めず,腸切除は行わなかった.術後は特に合併症なく軽快退院した.小児Winslow孔ヘルニアにおいて,術前に診断し速やかに手術を行うことが低侵襲な治療を行うために重要である.
症例は日齢143の男児.在胎週数24週0日出生体重610 gの超低出生体重児である.日齢143に左鼠径部膨隆が出現し,用手還納が不可能であったため当科に受診となった.超音波検査で膀胱壁の一部が左鼠径部に脱出する所見と,逆行性膀胱尿道造影検査で膀胱の一部が左鼠径部に向かって脱出している所見を認めたため,左鼠径部膀胱ヘルニアと診断した.腸管をヘルニア内容とする右鼠径ヘルニアを合併しており,日齢173にMitchell-Banks法による右鼠径ヘルニア手術を施行したが,左鼠径部膀胱ヘルニアについては経過観察したところ,その後症状が消失し自然治癒した.乳児の鼠径部膀胱ヘルニアは,術前診断を確実に行った上で,術中の膀胱損傷の危険性も考慮し,経過観察することで手術を回避することは十分可能であると考えられた.
下大静脈に浸潤した肝芽腫に対する生体肝移植においては,その近位側での下大静脈の確保と血行再建が必要となるため,体外循環が有用であることがある.我々の施設で,最近経験した3例の生体肝移植の外科的戦略について報告する.症例1は,右房進展が見られたPOSTEXT IVの症例で,体外循環下に腫瘍を完全摘出し,自己心外膜パッチを用いて心囊内下大静脈欠損部を閉鎖した.症例2は,術前に下大静脈が完全に閉塞し,肝内のシャントを介して下半身の血流が還流していた.そのため,ドナーの浅大腿静脈を使用して下大静脈の再建を行った.症例3は,同様に化学療法後に下大静脈への浸潤が否定できず,腫瘍破裂を防ぎ安全に腫瘍を摘出するために体外循環を併用し,無血野で肝全摘を行った.3例いずれも乳幼児症例であるが,下大静脈浸潤が存在する困難な肝芽腫に対して,体外循環を積極的に用いることは,安全性かつ根治性を追求する上で有用である.
頸部の瘻孔性病変は小児外科領域ではしばしば遭遇するが,正常顎下腺に由来する唾液腺瘻は極めて稀である.症例は2歳,男児.瘻孔の部位は左胸鎖乳突筋中央前縁であり,出生時より透明な粘液を排出していた.側頸瘻の術前診断で手術施行したが,皮下に1 cm大の囊胞を認め,囊胞は頭側に向かい左顎下部でたこ足状に分岐し,瘻管はすべて左の顎下腺に連続していた.顎下腺の位置および形状は正常で,Wharton管は左右とも口腔底の正常位置に開口し異所性開口は認めなかった.瘻管が分岐する顎下腺の一部を含めて囊胞および瘻管を摘出し,顎下腺は温存した.瘻管内腔は多列円柱上皮に覆われていた.術後経過は良好で4年を経過し,現在再発や顎下腺炎は認めていない.今回,正常顎下腺に由来する先天性頸部唾液腺瘻の1例を経験したので報告する.
女児鼠径ヘルニアにおいて,ヘルニア内容として両側付属器および子宮が脱出するものは0.3%とされ,非常に稀である.症例は1歳1か月の女児,生後1か月から右鼠径部膨隆を認め,術前の超音波検査でヘルニア内容を確認し得たが,術直前の触診所見から,手術に混迷を来し,注意を要した症例を経験した.Potts法にて手術を施行した.本症の発生機序としては,①付属器が脱出する際に子宮広間膜が牽引され子宮および対側卵巣が脱出する.②子宮,卵巣の固定靭帯の脆弱性.③過剰な腹圧.④内鼠径輪の拡大などが指摘されている.鼠径ヘルニアの原因として真性半陰陽に伴うものや単角子宮に伴うものの報告もあり,ヘルニア内容の確認は確実に行われるべきである.自験例のようにヘルニア囊を開放し直視下で確認すること,もしくは腹腔鏡による観察が最も確実と考えられる.
腹痛を契機に診断された回腸捻転を伴う続発性大網捻転を経験したので術前画像と発症機序について文献的考察を加え報告する.症例は11歳女児.1年前から腹痛嘔吐を繰り返していた.当日朝からの激しい右下腹部痛で救急受診.腹部造影CTで回腸末端の捻転像を認め原発性回腸捻転の術前診断で緊急手術を計画した.手術開始時には回腸捻転は自然に解除されていたが,捻転した大網が回腸壁に広範囲に癒着しており切離した.回腸に器質的病変は認めなかった.CTを後方視的に検討するとらせん状の大網血管を指摘でき,大網捻転の所見であった.癒着した大網によって牽引された回腸が捻転と自然解除を繰り返し慢性的な腹痛の原因になったと考えられた.本症例では大網が回腸壁に強固に癒着していたが大網や小腸自体に癒着の原因となる病変は認めず,解剖学的異常や肥満などの素因,手術歴,外傷などの誘因もないことから続発性双極性大網捻転と診断した.