日本小児外科学会雑誌
Online ISSN : 2187-4247
Print ISSN : 0288-609X
ISSN-L : 0288-609X
56 巻, 6 号
選択された号の論文の30件中1~30を表示しています
おしらせ
プログラム
原著
  • 大澤 絵都子, 北河 徳彦, 新開 真人, 望月 響子, 町田 治郎, 小林 眞司, 馬場 直子, 相田 典子, 田中 祐吉, 田中 水緒
    2020 年 56 巻 6 号 p. 906-913
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】Lipoblastomaの適切な診療方針について検討する.

    【方法】1981年4月から2019年3月の期間に当院で外科的切除を行い,病理組織学的にlipoblastomaと診断された51症例を対象とし,発生部位,症状,手術所見(被膜・癒着・浸潤・全摘の有無),再発の有無,術後合併症,再発腫瘍の病理所見について後方視的に検討した.

    【結果】発生部位は四肢と体幹に多く,無痛性の増大する腫瘍として気づかれるものがほとんどであった.体腔内に発生した症例は4例でうち3例は咳嗽や嘔吐など周囲臓器の圧排症状を呈した.2例に術後2か月と5年で再発がみられ,いずれも被膜不明瞭もしくは周囲に癒着がみられたが全摘された症例であった.不完全切除となった4例に再発はなかった.周囲の正常組織も含めて腫瘍を全摘した症例の中には術後瘢痕による機能障害を残した症例もあった.再発腫瘍の病理組織はいずれも初回手術時より分化が進んでいた.

    【結論】Lipoblastomaは局所再発のリスクがあるが,良性腫瘍であり,また経過とともに消失したり組織が分化する可能性もあるため,癒着や浸潤傾向の強い症例では,全摘に執着せず,術後機能障害を起こさない程度の切除に留めることも考慮してよいと考える.また,全摘の有無に関わらず術後長期間経過してから再発することもあるため,術後は最低5年以上の慎重な経過観察が必要である.

  • 石本 健太, 村守 克己, 福田 篤久
    2020 年 56 巻 6 号 p. 914-920
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】小児急性虫垂炎の手術症例で,虫垂に明らかな穿孔を認めないのに腹水の細菌培養が陽性となる症例が存在する.このような症例の術後経過は陰性例と比較して経験的に悪いことが多い.そこでどのような症例で腹水培養が陽性となりまたそれが術後経過にどのような影響を及ぼすのかの検討を行った.

    【方法】2015年4月から2018年12月までの間に当科で虫垂切除術を行った急性非穿孔性虫垂炎で,腹水と虫垂内容の細菌培養を行った67例を対象とした.患者背景や術前症状・血液検査値,手術所見,術後経過について培養陰性例と比較し後方視的に検討した.

    【結果】腹水細菌培養陽性は15例,陰性は52例であった.年齢および性別,術前嘔吐と下痢の有無,術前有症状期間,術前WBC値,術前CRP値,虫垂径,糞石の有無,虫垂内容細菌培養検出菌種数,合併症数には2群間に差を認めなかった.一方,術後経過では,最高体温(中央値)は陽性例38.8°Cに対して陰性例38.1°C,術後有熱期間(中央値)は陽性例2.0日に対して陰性例1.5日,術後絶食期間(中央値)は陽性例3日に対して陰性例2日,術後入院期間(中央値)は陽性例5日に対して陰性例4日とそれぞれ有意差を認めた.

    【結論】非穿孔性虫垂炎のうちどのような症例で腹水細菌培養が陽性となるのか,術前や術中に予測することは困難と考えられた.一方で,陽性例は陰性例と比較して,最高体温が高く,術後有熱期間や術後絶食期間,術後入院期間が長かった.従って非穿孔例でも,腹水の汚染は術後経過に影響することから,腹水中の細菌の有無を調べることは術後の経過観察に有益と考えられた.

  • 岩出 珠幾, 安福 正男, 上林 エレーナ幸江, 鮫島 由友, 中尾 真, 大野 耕一, 久野 克也
    2020 年 56 巻 6 号 p. 921-925
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】小児の腹腔鏡手術でラリンジアルマスク(以下,LMA)の使用報告は少ない.腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(以下,LPEC法)での気道管理を検討し,腹腔鏡手術でのLMAによる気道管理の有用性を報告する.

    【方法】2017年1月~2018年12月にLPEC法で手術を行った3歳以上の女児84例をA群:気管挿管54例,B群:LMA 30例にわけ,麻酔時間,導入時間(麻酔開始より手術開始まで),手術時間,覚醒時間(手術終了より麻酔終了まで),術中や術後合併症を後方視的に検討した.

    【結果】手術時月齢:A群70.5±30.57か月 vs B群74.8±27.59か月,身長:A群111.2±17.77 cm vs B群114.1±13.67 cm,体重:A群19.7±7.80 kg vs B群21.3±5.74 kgであり,両群間で有意差は認められなかった.麻酔時間:A群54.8±10.83分 vs B群45.6±9.09分,導入時間:A群21.8±4.00分 vs B群17.5±3.52分,手術時間:A群20.6±7.82分 vs B群20.9±6.59分,覚醒時間:A群12.5±5.17分 vs B群7.3±2.22分であった.術中合併症は両群で認めず,術後合併症はA群:10例(18.5%:嘔吐9例,悪心1例),B群:2例(6.7%:嘔吐2例)であった.麻酔時間,導入時間,覚醒時間において有意にLMA群が良好であった.

    【結論】LMAによる気道管理は麻酔時間の短縮が可能であり,LPEC法のような短時間の腹腔鏡手術ではLMAによる気道管理も選択肢の一つとなる可能性が示唆された.

  • 安部 孝俊, 牧野 克俊, 金 聖和, 山道 拓, 田山 愛, 正畠 和典, 曹 英樹, 臼井 規朗
    2020 年 56 巻 6 号 p. 926-931
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】先天性横隔膜ヘルニアの中で新生児期以降に発症する遅発性Bochdalek孔ヘルニア(以下,本症)は内視鏡手術の良い適応とされる.一般に,パッチを用いた先天性横隔膜ヘルニアに対する内視鏡手術は再発率が高いといわれているため,欠損孔が大きい症例では内視鏡手術の適応外となる場合がある.そこで,当科における本症に対する内視鏡手術症例について,欠損孔の大きさおよびヘルニア門の修復方法に着目して後方視的に検討した.

    【方法】2015年10月~2019年9月の4年間に,当科において本症に対して内視鏡手術を施行した症例を対象とし,症例の背景,術前の状態,治療成績を診療録より後方視的に検討した.

    【結果】対象期間の4年間に本症と診断された症例は7例であり,男児5例,女児2例であった.全例に内視鏡手術を行い,2例には腹腔鏡下手術を,5例には胸腔鏡下手術を施行した.欠損孔の大きさは,欠損孔サイズの国際分類でA欠損が2例,B欠損が5例であった.ヘルニア門の修復方法は全例でパッチを必要とせず,欠損孔の大きい症例でも可及的に筋性部を直接縫合した後に,遺残部のヘルニア囊を縫縮することで欠損孔を閉鎖できた.全例において横隔膜ヘルニアの再発は認めていない.

    【結論】本症の横隔膜欠損孔サイズは,多くがA欠損またはB欠損であり直接縫合閉鎖できる可能性が高い.欠損孔が比較的大きい場合でも,有囊性であればヘルニア囊を縫縮することでパッチを使用せずにヘルニア門を閉鎖できることが示唆された.以上より本症は内視鏡手術の良い適応であると考えられた.

  • 仲谷 健吾, 野村 明芳, 牧野 晃大, 金井 理紗, 山田 進, 関岡 明憲, 三宅 啓, 福本 弘二, 漆原 直人
    2020 年 56 巻 6 号 p. 932-938
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】小児の外傷性膵損傷では,特に主膵管損傷例の治療における一定の見解はない.当科では保存的治療を可能な限り優先して行ってきたが,その妥当性について検討した.

    【方法】2000年から2019年の間に当科で治療した外傷性膵損傷18例を対象とし,診療録を用いて後方視的に検討した.

    【結果】年齢中央値は7.1歳(0.9~14.5歳)であった.日本外傷学会臓器損傷分類によりI型9例,II型2例,IIIa型2例,IIIb型5例に分類された.膵仮性囊胞は5例(I型2例,IIIa型1例,IIIb型2例)に認め,全例でドレナージ(開腹1例,経皮4例)が行われた.I・II型では血性腹水を伴う膵囊胞に対する開腹囊胞ドレナージ術と,肝実質損傷に対する肝縫合術およびドレナージ術が初期治療としてそれぞれ1例に行われた.IIIb型のうち2例では,合併した肝実質損傷に対する開腹止血術およびドレナージ術,代償性ショックと大量腹水に対する膵尾部切除術およびドレナージ術が初期治療としてそれぞれ1例で行われた.IIIb型の別の2例では,膵液瘻に対するLetton-Wilson手術,膵仮性囊胞増大に対する囊胞胃吻合術が経過中にそれぞれ1例で行われた.内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)は3例で施行されたが,いずれも受傷から1週間以上経過し,損傷部を超えた膵管ステント留置は困難であった.

    【結論】IIIb型では手術を要する症例が多く,主膵管損傷を伴う場合は早期手術介入を検討すべきである.

症例報告
  • 上野 悠, 片山 修一, 後藤 隆文, 中原 康雄, 人見 浩介
    2020 年 56 巻 6 号 p. 939-943
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    症例はSotos症候群の3歳女児.不明熱の精査の際に肝逸脱酵素の上昇を指摘され,当科へ紹介となった.造影CTにて肝臓のS8の横隔膜と接する領域に腫瘤を認めた.腫瘍生検を施行したところ,病理診断で肝芽腫(胎児型)と診断された.画像検査で他臓器転移やリンパ節転移は指摘されず,肝芽腫の術前病期分類のPRETEXT Iと診断した.肝芽腫の標準リスク群プロトコールに沿って,術前化学療法としてCDDP単独療法(80 mg/m2)を4コース行い,腫瘍の縮小を確認した後に肝右葉切除術を施行した.術後CDDP単独療法を2コース追加して治療を終了した.その後は良好な経過を辿り,現在も再発なく過ごしている.

  • 愛甲 崇人, 橋詰 直樹, 深堀 優, 石井 信二, 七種 伸行, 升井 大介, 東舘 成希, 坂本 早季, 田中 芳明, 八木 実
    2020 年 56 巻 6 号 p. 944-948
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    11歳女児.腹痛,嘔吐を主訴に近医受診した.造影CT検査で絞扼性イレウスと診断され当科搬送となった.腹腔鏡下に緊急手術を行い,絞扼を解除した.術直後は良好に経過していたが,術後5日目に再度腹痛が出現した.造影CT検査で再び絞扼性イレウスの所見を認め,緊急で開腹手術を行った.腹腔内を検索し,左傍十二指腸裂孔ヘルニアを認め,絞扼を解除し裂孔部を修復した.術後腸管浮腫による通過障害を認めたものの,術後37日目に退院した.本症例で傍十二指腸裂孔に腸管が出入りすることが原因と思われる小腸間膜と横行結腸間膜の癒着が生じていた.初回手術では,その癒着が絞扼性イレウスの原因と考え癒着剥離術を施行した.再手術の際に,左傍十二指腸ヘルニアと判明し陥入腸管の解除後,ヘルニア囊を閉鎖する修復術をした.今回,初回診断に難渋した左傍十二指腸ヘルニアを経験したので報告する.

  • 伊藤 啓太, 石井 大介, 宮城 久之, 平澤 雅敏, 宮本 和俊
    2020 年 56 巻 6 号 p. 949-954
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    喉頭気管分離術(Lindeman変法)は重症心身障害児における誤嚥防止術の1つである.我々は気管盲端異物とそれによる皮膚瘻という稀な合併症を経験した.症例はMiller-Dieker症候群の12歳女児.嚥下障害と胃食道逆流症に対して1歳時に腹腔鏡下噴門形成術と胃瘻造設術を施行,慢性呼吸不全に対して2歳時にLindeman変法を施行した.11歳時に気管孔上部に唾液流出を伴う直径1 mmの瘻孔を認めた.瘻孔は気管盲端に繋がっており気管盲端には異物を認めた.摘出異物は脱落乳歯であった.摘出後も瘻孔は閉鎖せず,シアノアクリレート充填術にて瘻孔は閉鎖した.Lindeman変法術後の気管盲端異物の報告は検索する限り本邦で1例のみであり,気管盲端異物が瘻孔形成源となった報告はない.異物による合併症予防として口腔ケアが重要である.シアノアクリレート充填術は有効な瘻孔治療法であった.

  • 清水 裕史, 滝口 和暁, 角田 圭一, 町野 翔, 尾形 誠弥, 三森 浩太郎, 後藤 悠大, 鈴木 雄一, 山下 方俊, 田中 秀明
    2020 年 56 巻 6 号 p. 955-960
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は男児で,5歳時に自閉スペクトラム症で通院中の小児科より,便失禁を主訴に当科紹介となった.宿便除去を得た後に維持療法を実施したが,一時通院中断の時期を経て再度宿便形成が生じた.7歳時,排便に対する恐怖心から完全に排便拒否の状態となり,入院の上で洗腸処置が導入された.退院後,週2回の洗腸にて便性は粘土状で維持されたが,排便拒否が続いた.10歳時,ポリエチレングリコール(以下PEG)製剤が導入されると泥状便へと変化した.使用開始から2か月経過後,トイレ着座での自排便が可能となり,洗腸処置は中止となった.11歳現在,PEG製剤単独での維持療法で排便管理は良好である.自験例では,ASD特有の感覚過敏とこだわり行動が排便拒否行動に関与したと考えられた.PEG製剤導入後,児は便性の軟化を感覚的に認識することで排便行為を受け入れるに至った.また本剤は腹痛,腹部膨満などの副作用も少なく,自閉スペクトラム症に合併した便秘症の維持療法において理にかなった薬剤であると考えられた.

  • 矢田部 玲子, 五嶋 翼, 吉田 真理子, 中原 さおり
    2020 年 56 巻 6 号 p. 961-965
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は5歳女児.3歳時に右胸鎖関節部の腫瘤に気付き,徐々に増大してきたため5歳時に当院を受診した.右胸鎖関節部から鎖骨上に約3 cm大の軟らかい腫瘤を触知した.エコーで腫瘤は被膜を有する境界明瞭な充実性であり皮下の脂肪腫を疑ったが,深部が境界不明瞭であったためMRIを施行した.MRIでは,腫瘤はT1強調画像,T2強調画像で高信号,脂肪抑制造影T1強調画像で低信号を示し,右胸鎖関節付近の皮下から大胸筋を貫いて右腋窩に及んでいた.脂肪肉腫も鑑別に挙がったが,年齢から脂肪芽腫を疑い,全身麻酔下に高周波ラジオ波メスを用いて腫瘤を一塊に摘出した.病理診断は脂肪芽腫であった.術後5か月現在,再発を認めない.本例は視診・触診では皮下腫瘤のようであったが,実際には大胸筋筋束間を貫く特異な進展を呈していた.本症でしばしば問題となる局所再発のリスク低減のために,術前の画像診断,ラジオ波メスの使用が有用であった.

  • 新開 統子, 増本 幸二, 白根 和樹, 堀口 比奈子, 根本 悠里, 伊藤 愛香里, 田中 尚, 相吉 翼, 佐々木 理人, 千葉 史子
    2020 年 56 巻 6 号 p. 966-970
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    【はじめに】外傷による打撲と手術に伴う皮下組織の腫脹・疼痛に対し,通導散を用いて良好な結果を得た症例を経験したので報告する.【症例1】14歳男児,自転車走行中にトラックと接触し全身を打撲した.受傷後1日目から打撲部の腫脹疼痛に対し通導散と頭痛に対し五苓散を5.0 g/日で開始し,経過良好で受傷後3日目に退院した.打撲部の腫脹は受傷後6日目で軽快したため,通導散と五苓散を2.5 g/日に変更し,13日目には消失した.通導散は13日間投与した.【症例2】10歳男児,木村氏病が疑われた左下顎部の腫瘤を摘出した.顔面創部周囲の腫脹と疼痛に対し,通導散を術後1日目から2.5 g/日で7日間投与した.初回は苦味のため服用できなかったが,術後2日目からは服用でき,創部周囲の腫脹は術後2日目をピークに減少し,術後9日目には消失した.【まとめ】通導散は,局所の炎症や浮腫,疼痛を軽減させ,急性期に用いる漢方として有用であると考えられた.

  • 馬場 優治, 芦塚 修一, 三澤 健之, 上野 健太郎, 和田 靖之
    2020 年 56 巻 6 号 p. 971-976
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    【症例】6歳,女児.3時間前からの間欠的腹痛を主訴に受診.腹部単純CT検査にて肝弯曲部に腸重積像を認め,非観血的整復術を施行した.第3病日,再び間欠的腹痛を認めた.腹部超音波検査にて肝弯曲部にtarget signと,重積部先進部に低輝度病変を認めた.腸重積症の再発と判断し,非観血的整復術を施行した.器質的疾患を伴う腸重積症に対して手術施行となった.手術所見では,回腸-回腸-結腸型の腸重積であり,Hutchinson手技で整復を行うと,回腸に漿膜面にも一部露出するように23×22×9 mmの隆起性病変を認めた.小腸部分切除,端々吻合を施行した.病理組織は小腸リンパ管腫であった.術後は再燃なく経過している.小児の小腸リンパ管腫はまれだが,超音波検査にて重積部先進部に低輝度病変を認めた場合には,小腸リンパ管腫など器質的疾患を疑い早期に手術することが重要である.

  • 武本 淳吉, 小幡 聡, 渋井 勇一, 宗﨑 良太, 伊崎 智子, 孝橋 賢一, 田口 智章
    2020 年 56 巻 6 号 p. 977-981
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    小児陰茎尖圭コンジローマの症例を経験したので報告する.症例は6歳男児.外尿道口部の腫瘤を主訴に当科紹介受診された.亀頭先端に乳頭状の腫瘤を認め泌尿器科,皮膚科コンサルトするも,確定診断に至らず,手術目的に入院となり,膀胱鏡検査および腫瘤切除術を施行された.膀胱及び尿管に異常所見を認めず,病理組織検査で尖圭コンジローマの診断となった.術後合併症なく経過していたが,術後4か月経過時に再発を認め,近医で凍結療法が追加された.小児尖圭コンジローマの報告は稀であり,小児外科医にとっては診断が難しい疾患である.小児尖圭コンジローマは悪性腫瘍との鑑別が必要となり得るが,非腫瘍性病変であり,過大な外科療法は不要である.よって,陰茎の腫瘤を認めた際は尖圭コンジローマも鑑別疾患に挙げつつ診断・治療を行い,過剰な侵襲を回避することが望まれる.

  • 前川 昌平, 須田 健一, 福田 祥大, 古形 修平, 佐々木 隆士
    2020 年 56 巻 6 号 p. 982-987
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は11歳女児.左大腿骨骨肉腫にて患肢温存根治手術と化学治療が行われたが,治療前CTで指摘された右肺S8の3 mm大の小結節影が消失せず,診断的治療目的で手術適応となった.手術はハイブリッド手術室を利用した.胸腔鏡手術の体位でcone beam CT(CBCT)を行い,病変まで最短距離で到達できる部位を同定した.同部から23G針を胸壁内まで刺入して再度CBCTを行い,病変が針先の延長線上に位置することを確認後に針を肺内まで進めindocyanine greenを局注した.胸腔鏡手術を開始し,マーキングした肺組織に支持糸とクリップをかけ三たびCBCTを行い,クリップと病変が近接していることを確認し同部を切除した.病変は切除組織内に含まれ,術後経過も良好であった.ハイブリッド手術室を利用し,CBCTによるマーキングと胸腔鏡下肺部分切除を一連の流れで行った小児の報告はなく,本法は有効な選択肢と思われた.

  • 横田 典子, 石橋 広樹, 森 大樹, 島田 光生, 遠藤 秀子, 坂東 良美
    2020 年 56 巻 6 号 p. 988-991
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は3歳,男児.両側鼠径部外側と右背部の紡錘状の皮下腫瘤を認めたため,当科紹介受診となった.外来で経過観察を行っていたが,その後,左腋窩部及び右季肋部にも同様の皮下腫瘤が出現した.非典型的に多発し,悪性の可能性も否定できなかったため,背部皮下腫瘤を摘出し,脂肪芽腫と診断した.残りの4か所を追加で切除したところ,最初の病変と同様に,脂肪芽細胞や小型の脂肪細胞を認め,同時・異時性に多発した脂肪芽腫と診断した.術後,約1年半が経過しているが,新たな腫瘤の発生や再発は認めていない.脂肪芽腫では,発見後の早期摘出が一般的であるが,稀に本症例のような多発例が存在することも念頭におき,早期摘出後も慎重な経過観察が必要であると思われた.

  • 尾山 貴徳, 野田 卓男, 谷 守通, 納所 洋, 谷本 光隆, 小谷 恭弘
    2020 年 56 巻 6 号 p. 992-997
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は女児.在胎28週時に前縦隔に径14 mmの囊胞性病変を指摘された.その後,大きさや性状に変化は認めなかった.在胎38週1日,体重3,036 gで出生した.CTやMRIにて胸腺右葉下極に囊胞を含む内部不均一な腫瘤を認めたが,この腫瘤は胸腺左葉下極の内部均一な囊胞状腫瘤と正中で接していた.胸腺右葉の奇形腫と,奇形腫が胸腺左葉内に穿破して囊胞を形成したと考えられた.出生直後は無症状であったが,日齢18頃に啼泣時の経皮動脈血酸素飽和度の低下を認めるようになったため,日齢22に手術を行った.胸骨正中切開にて開胸し,胸腺を温存して腫瘤を切除した.病理検査にて右葉の病変は成熟奇形腫であったが,左葉の病変は単房性胸腺囊胞と診断され,奇形腫の穿破ではなかった.術後経過は良好である.前縦隔には様々な囊胞状腫瘤が発生するが,両者ともに出生前に指摘されることはほとんどなく,さらに両者を合併した報告はなかった.

  • 堀池 正樹, 諸冨 嘉樹, 北田 智弘, 東尾 篤史
    2020 年 56 巻 6 号 p. 998-1004
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    膵・胆管合流異常(以下合流異常)に膵石を伴うことは比較的少なく,巨大膵石を伴った症例に対して確立された治療方針はない.今回拡張膵管内に直径10 mm以上の巨大膵石を伴った合流異常症例を経験したので報告する.症例は12歳,女児.来院3日前に突然腹痛を認め前医で急性膵炎を疑われ,当院小児科経由で当科に紹介された.精査の結果,拡張膵管内に巨大膵石を伴う戸谷Ic型の先天性胆道拡張症の所見を認め膵石嵌頓による急性膵炎様発作と診断,内視鏡的アプローチで膵管及び胆管ドレナージチューブを留置し症状改善を得た.拡張膵管と下部胆管が鋭角合流のため術中に胆管切離断端から拡張膵管内にアプローチするのは困難と判断し,肝外胆管切除・肝管空腸吻合術と同時に内視鏡下経乳頭的採石術を行った.術後経過は良好で術後12日で軽快退院した.術中採石が困難な小児合流異常症例では経乳頭的な内視鏡的採石術が有効であると思われた.

  • 向井 亘, 西田 翔一, 佐伯 勇, 尾山 貴徳, 今治 玲助
    2020 年 56 巻 6 号 p. 1005-1009
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は14歳,男児.腹痛と嘔吐を主訴に近医を受診し,腹部超音波検査で下腹部正中の囊胞性病変を指摘され当科紹介となった.腹部造影CT検査で下腹部正中に腹壁と連続し,造影効果を有する厚い皮膜に覆われた90×67×46 mm大の膿瘍を認め,膀胱を頭側より圧排していた.尿膜管膿瘍と判断し,抗生剤投与により症状は改善したが,その後膿瘍の膀胱頂部内腔への突出とS状結腸への穿通も疑われたため,腹壁とS状結腸への穿通部と膀胱頂部を一塊にして切除した.病理検査結果で炎症性肉芽腫が膀胱頂部及びS状結腸へ穿通していた.他臓器へ穿通する尿膜管膿瘍は非常に稀であり,保存的治療に抵抗する尿膜管膿瘍では膿瘍が他臓器への穿通を起こすことがあり,臨床像が酷似する腹部放線菌症との鑑別を行った上で外科的治療を念頭に置く必要がある.

  • 渡邉 佳子, 浮山 越史, 阿部 陽友
    2020 年 56 巻 6 号 p. 1010-1015
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    舌根部囊胞の3例を経験した.3例とも新生児期から吸気性喘鳴,無呼吸,陥没呼吸といった呼吸器症状を認め,喉頭ファイバースコープ検査,CT検査,MRI検査で診断された.全例,開窓術を施行した.症例2は初回手術時の麻酔導入時に囊胞による圧排で声門の観察ができず緊急気管切開術を施行し,後日開窓術を施行した.全例,再発なく経過している.本症は突然死の原因にもなる可能性があるため,診断後は可及的早期に手術が必要である.乳幼児の喘鳴などの呼吸障害をみた場合は舌根部囊胞も念頭において診察をすすめることが重要である.術前に緊急気道確保が必要な場合や,手術の際の気道確保が問題になるため,術前の気道評価および緊急時における気管切開も含めた準備に関して小児科,麻酔科,耳鼻科との連携をとることが重要である.

  • 河北 一誠, 新開 真人, 篠原 彰太, 都築 行広, 八木 勇磨, 藤井 俊輔, 臼井 秀仁, 望月 響子, 北河 徳彦
    2020 年 56 巻 6 号 p. 1016-1020
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は在胎33週出生の男児.在胎31週に胎児胸水を指摘され当院に母体紹介となった.胎児胸水穿刺吸引後も再貯留したため,胸腔―羊水腔シャント術(thoraco-amniotic shunting:TAS)を施行したが,ダブルバスケットカテーテル1本が胸腔内脱落した.バスケットの一端が胸壁内に埋没していることが出生後に判明し,日齢26に摘出術を施行した.胸壁内のバスケットの剥離・牽引のみでは抜去できず,胸腔鏡下に縦隔胸膜へ強固に癒着した他端のバスケットを剥離することで抜去できた.TASの合併症の一つにカテーテルの胸腔内遺残がある.その一端が胸壁内に埋没したカテーテルは胸壁の剥離操作のみで摘出できると期待されるが,本例のように困難な場合がありうる.胸腔側バスケットを観察しながら安全を確認し抜去するために,胸腔鏡を準備しておくことは有用である.

  • 鳥飼 源史, 武藤 充, 野口 啓幸, 杉田 光士郎, 馬場 徳朗, 松久保 眞, 谷口 貴之, 三上 裕太, 石原 千詠, 茨 聡
    2020 年 56 巻 6 号 p. 1021-1026
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    当院NICUは年間700例以上を支えるhigh volume centerであるが,今回,非観血的整復を完遂した腸重積症例を初めて経験したので報告する.症例は,日齢3の満期産男児.日齢2の夜間,緑色便に一部血性粘液の付着がみられた.翌朝,中等量の赤色粘血便をみとめ紹介となった.腹部膨満はなかったが,右側腹部にソーセージ様腫瘤を触知した.腹部超音波検査でmultiple concentric ring signをみとめ,回腸結腸型腸重積症と診断した.発症から19時間で高圧浣腸を試み,非観血的整復を完遂した.その後,再発はみられなかった.新生児期の腸重積は稀であるが,超音波検査により本症例の診断は容易であった.全身状態が良好で,腸管壊死を示唆する所見がない満期産新生児の回腸結腸型腸重積症例に対しては,穿孔時の緊急開腹手術体制を整えたうえで,安全に非観血的整復を試みることも妥当であると思われた.

  • 田中 夏美, 銭谷 昌弘, 野瀬 聡子, 大植 孝治
    2020 年 56 巻 6 号 p. 1027-1031
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は3歳7か月男児.2歳2か月時に右外鼠径ヘルニアに対し腹腔鏡下根治術(LPEC法)を施行し,術中所見で左内鼠径輪が閉鎖していることを確認していた.術後経過に問題なく一旦終診となったが,術後1年5か月時に左鼠径部の軽度膨隆を主訴に来院した.外来経過観察中に膨隆が増大して超音波検査で左鼠径部に腸管脱出を確認したため手術の方針とした.腹腔鏡下に観察したところ,左の腹膜鞘状突起は閉鎖しており,これより腹側の下腹壁動静脈外側に左内鼠径輪の開大を認め,de novo型の外鼠径ヘルニアと診断した.LPEC法にて腹膜鞘状突起も含めて左内鼠径輪を広く2重に結紮した.術後1年10か月の現在,再発なく経過している.LPEC法を2回施行した結果,小児期においても腹膜鞘状突起の開存に由来しないde novo型のヘルニアが後天的に発症することが確認できた.LPEC法は小児におけるde novo型外鼠径ヘルニアの診断と治療にも有用と考えられた.

  • 鳥飼 源史, 麻田 貴志, 近藤 千博, 鮫島 浩, 家入 里志
    2020 年 56 巻 6 号 p. 1032-1036
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は男児,在胎29週時の胎児超音波で羊水過多とtriple bubble signを指摘され,高位空腸閉鎖症を疑われていた.在胎35週2日に出生体重2,090 g,Apgarスコア5/8,経膣分娩にて出生した.出生後の腹部X線でもtriple bubble signを認めたが,上部消化管造影では十二指腸下行脚部分の囊胞が造影されず,注腸造影では回盲部がその囊胞に接していた.腹部単純CTでは囊胞と肝胆道系との関連はなく,上部消化管造影時の造影剤が囊胞内に貯留していたため,十二指腸狭窄と十二指腸閉鎖の合併および腸回転異常を疑い,1生日に開腹手術を施行した.輪状膵による十二指腸狭窄症と遠位側の十二指腸閉鎖症(Type II),腸回転異常症を認めた.ラッド靭帯を処理した後,輪状膵の上下で十二指腸十二指腸吻合し,遠位側の閉鎖部は側々吻合とし,手術を終了した.術後経過良好にて41生日に退院した.

総説
  • 長谷川 利路
    2020 年 56 巻 6 号 p. 1037-1045
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2020/10/20
    ジャーナル フリー

    腸管不全は小児に多い短腸症候群や機能障害等による吸収障害で,水分・栄養状態,成長維持に長期の静脈栄養を要するが,カテーテル感染症,血栓閉塞,腸管不全関連肝障害等により予後は不良である.欧米を中心に1980年頃から腸管不全患児に対して腸管リハビリテーションプログラム(IRP)が発足した.小児外科医,小児消化器内科医,看護師,栄養士,薬剤師等による多職種チームにより,カテーテル管理,栄養管理,薬剤療法,外科的手術,小腸移植の適応等を討論し治療に進む.欧米5施設においてIRP導入後には導入前に比し,生存率,カテーテル感染,静脈栄養への依存度,肝障害が改善している.IRPを有する欧米の施設において,腸管不全患児の生存率73~95%,静脈栄養離脱29~60.8%,小腸移植施行率5.4~25%である.多職種チームによる腸管リハビリテーションプログラムは,腸管不全患児における腸管順応を獲得するのに重要な役割を果たす.

研究会
役員名簿
訂正文
あとがき
feedback
Top