日本小児外科学会雑誌
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56 巻, 3 号
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おしらせ
原著
  • 髙澤 慎也, 五嶋 翼, 谷 有希子, 内田 康幸, 髙本 尚弘, 島田 脩平, 小山 亮太, 西 明
    2020 年 56 巻 3 号 p. 253-261
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    【目的】近年,夫婦共働きや核家族の増加により,両親が長期休暇を取得することや,祖父母の手を借りることが困難となっており,子供の手術の日程調整に難渋するケースが増えてきている.また,小児の全身麻酔手術では体調不良による延期が多く,そのたびに患者家族はスケジュール調整をしなければならない.そこで患者家族の利便性向上を目的に,手術日のインターネット予約システム(以下,ネット予約)を試験導入し,その効果について検討した.

    【方法】2017年9月より鼠径ヘルニア根治術などの待機的手術の予約管理に,ドクターキューブ株式会社の提供するネット予約システムを導入した.ネット予約の効果を検証するために,アンケートによる患者家族の満足度調査と,カルテの後方視的検討による手術待機期間調査を行った.

    【結果】通常予約群28名,ネット予約群12名からアンケートを回収した.予約方法に対する5段階評価の満足度は,通常予約群で4.1±0.9,ネット予約群で4.8±0.4と,ネット予約群で統計学的に有意に高かった(p=0.027).手術待機期間調査では,通常予約群28名,ネット予約群13名のカルテを後方視的に調査した.初診から手術までの期間は,通常予約群が中央値75日(95%信頼区間:61–106),ネット予約群が176日(54-NA)で,ネット予約群が有意に長かった(p=0.004).

    【結論】手術日のネット予約は運用上の大きなトラブルなく導入可能であり,通常予約に比べて患者家族の満足度も高く,新たな手術予約システムとして期待できる.しかし,手術待機期間が通常予約より長くなる可能性があるので,早期手術が必要な疾患への適用には配慮が必要と思われる.

  • 池田 均, 畑中 政博, 五十嵐 昭宏, 藤野 順子, 長谷川 真理子, 菊地 健太, 岡崎 英人, 西 明, 大串 健二郎, 鈴木 信
    2020 年 56 巻 3 号 p. 262-272
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    【目的】根治的摘除が困難なMYCN非増幅の乳児神経芽腫について,無症状例と有症状例を後方視的に検討し,乳児神経芽腫の治療方針について再考する.

    【方法】対象は過去28年間に経験した連続する18例で,無症状の発見例が7例,有症状の診断例が11例である.検討項目は臨床的特徴,腫瘍の根治的摘除が困難な理由,腫瘍特性,リスク分類,および治療と治療結果である.

    【結果】無症状例における腫瘍の摘除が困難な理由は局所進展,リンパ節転移,肝転移で,原発巣がIDRFまたはIDRF相当の要因で摘除困難であった症例は7例中3例(43%)であった.無治療経過観察の1例を除き標準的な治療プロトコールを用いて治療を行い,7例全例が腫瘍なしで生存している.有症状例は11例のうち7例がoncologic emergencyと判断された.腫瘍の摘除が困難な理由は局所進展,リンパ節転移,肝他の遠隔転移で,原発巣がIDRFまたはIDRF相当の要因により摘除困難と判断された症例は11例中9例(82%)であった.治療は手術,化学療法に加え,4例で放射線療法が併用された.8例が腫瘍なし生存,2例が腫瘍あり生存で,1例が腫瘍死である.無症状,有症状を含めた全例の全生存率は94.4%,無増悪生存率は83.0%であった.

    【結論】腫瘍の根治的摘除が困難なMYCN非増幅の乳児神経芽腫において,無症状例では無治療経過観察,または生検後に化学療法のいずれかを選択できる可能性が示唆された.また有症状例では生検後に速やかに化学療法を開始し,oncologic emergencyの場合には放射線療法の併用も選択肢となり得ることが示唆された.

  • 安部 孝俊, 牧野 克俊, 金 聖和, 山道 拓, 田山 愛, 正畠 和典, 曹 英樹, 臼井 規朗
    2020 年 56 巻 3 号 p. 273-278
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    【目的】当科で後天性結腸狭窄症・閉鎖症と診断・治療された症例を集積し,その臨床像および治療法を明らかにした.

    【方法】2009年7月~2019年6月までの10年間で,当科にて後天性結腸狭窄症・閉鎖症と診断して治療した症例を検討の対象とした.発症の原因疾患,発症時期,病変の局在部位と局在数,治療方法を診療録から後方視的に検討した.

    【結果】10年間で経験した症例数は6例で,性別は男児3例,女児3例であった.発症の原因疾患は3例が先天性心疾患に伴う虚血性腸炎,2例が小腸穿孔後の敗血症性ショック,1例が両側総腸骨動脈閉塞であった.診断時日齢は中央値82(31~133)日で,原因疾患の発症から本症の診断までの期間は中央値77(30~101)日であった.病変の局在数は4例が単発で,術後敗血症を原因疾患とした2例が多発であった.5例に外科的治療を,1例に保存的治療を行った.外科的治療を行った症例のうち3例は開腹手術を,2例は単孔式腹腔鏡下手術を行った.

    【結論】後天性結腸狭窄症・閉鎖症の臨床像と治療法を検討した.腸管虚血後に発症する本症は,3か月間程度狭窄が進行することや,病変が多発する可能性があることを念頭に置いて注意深く治療を行う必要がある.

症例報告
  • 河北 一誠, 本多 昌平, 荒 桃子, 武冨 紹信
    2020 年 56 巻 3 号 p. 279-284
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    先天性門脈体循環シャント(congenital portosystemic shunts:以下CPSS)は,肝内外門脈の低形成の程度や門脈が体循環へ流入する形状に応じて治療方針を決定する必要がある.当科で2013年1月から2017年12月までにCPSS Type IIと診断し外科的治療を施行した4例を後方視的に検討した.3例は一期的シャント血管結紮が可能であったが,1例は初回手術時にシャント血管クランプで門脈圧が40 mmHgと著増したため半結紮のみ行い,二期的結紮術を施行した.術後早期合併症は認めなかったが,11歳時にシャント結紮した1例で術後7か月に肺高血圧を発症した.CPSS Type IIは,治療時期を逃さず介入できれば良好な予後が得られるが,時期を逸すると不可逆性の肺高血圧症をきたしうる.更に症例数を蓄積しCPSSに対する外科治療戦略の標準化し,肺高血圧症を減らすことが肝要と考えられた.

  • 小梛 地洋, 渡邊 峻, 長島 俊介, 山崎 信人, 島田 脩平, 酒井 正人, 田中 章大, 緒方 公平, 与田 仁志, 黒岩 実
    2020 年 56 巻 3 号 p. 285-290
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    症例は1か月男児.出生前診断で胎便性腹膜炎を疑われ,精査で多囊胞性の腹腔内リンパ管奇形と診断した.入院時,全身状態や哺乳に問題なく,腹部膨満も認めないため外来経過観察となった.日齢52に腹部膨満増強,発熱,哺乳不良で緊急入院となり,呼吸障害を認めたため緊急避難的に囊胞穿刺を行い,全身状態の落ち着いた日齢70で囊胞切除を施行した.リンパ管奇形の原発部位はS状結腸間膜から後腹膜であり,S状結腸を合併切除し摘出した.腸間膜リンパ管奇形の胎児期発見例は比較的まれであり,腹腔内の囊胞性病変や胎便性腹膜炎などと鑑別が必要であるが,診断確定後は発生部位と感染を考慮した手術時期の決定が重要である.

  • 小野 賀功, 古屋 武史, 星 玲奈, 川島 弘之, 金田 英秀, 上原 秀一郎, 越永 従道
    2020 年 56 巻 3 号 p. 291-296
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    空腸空腸型小児腸重積症の報告は回腸重積に比べ少ない.12歳女児で受診2日前から続く腹痛と繰り返す嘔吐で受診した.腹部骨盤造影CT検査で上腹部に限局性腸管拡張と腹水貯留を認め小腸腸重積症の診断で緊急手術を行い,Treitz靭帯から80 cm肛門側の空腸ポリープを先進部とする空腸空腸型小腸腸重積を認めた.重積腸管は整復不能で小腸部分切除・吻合を行い術後1年半で再発はない.二次性の空腸空腸型腸重積症は本邦で17例報告がある.本症は学童期に好発し器質的疾患は有茎性ポリープが最も多い(76%).粘血便はみられず5例(記載のある15例中)に貧血を認める.発症24時間以内に診断に至った5例は整復が可能で10 cm以内の腸管切除に留められる.また切除腸管が50 cm以上の4例は診断までの時間の中央値が3日を要している.学童期の腹痛や嘔吐の患者の診療において粘血便がなくても本症を疑い早期発見治療が重要である.

  • 亀井 尚美, 赤峰 翔, 植野 百合, 大津 一弘
    2020 年 56 巻 3 号 p. 297-301
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    症例は8歳女児.離断型小腸閉鎖に対して生後1日目に腸管切除およびend-to-back吻合術を施行された.術後縫合不全を認めたが,保存的加療にて改善した.その後,発育は正常に経過したが,7歳時,近医にて貧血を指摘された.当科にて小腸造影検査,CT検査,MRI検査,RIシンチ検査を行い,小腸狭窄もしくは癒着による通過障害を疑い手術となった.開腹すると,回腸末端から80 cmの部位で,小腸は癒着してループを形成し,肛門側腸管は盲端となり,口側小腸と肛門側小腸は瘻孔を形成して交通していた.blind loop syndromeと診断し,病変部を切除,単々吻合にて再建した.先天性小腸閉鎖症術後縫合不全により生じたと思われるblind loop syndromeの1例を経験したので文献的考察を加えて報告した.

  • 牟田 裕紀, 小高 明雄, 井上 成一朗, 竹内 優太, 別宮 好文
    2020 年 56 巻 3 号 p. 302-308
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    一般的に腹壁破裂は臍帯の右側に開口し,左側腹壁破裂はまれである.症例1は女児.妊娠35週0日に帝王切開で出生.出生体重2,606 g.臍帯の左側に腹壁欠損孔あり.腸管外先天合併異常なし.日齢0にサイロ造設術,日齢10に腹壁閉鎖術を施行した.術後経過は良好で特記すべき合併症なし.症例2は男児.妊娠36週1日に帝王切開で出生.出生体重2,014 g.臍帯の左側に腹壁欠損孔あり.腸管外先天合併異常なし.日齢0にサイロ造設術,日齢6に腹壁閉鎖術を施行した.術後経過良好で臍ヘルニア以外に有意な合併症なし.左側腹壁破裂は女児に多く,腸管外先天合併異常を高率に合併する.腹壁閉鎖法は症例に応じ一期的もしくは多期的閉鎖が選択される.左側腹壁破裂そのものの予後は良好だが,腸管外先天合併異常に影響される.そのため,左側腹壁破裂の知識を有することは臨床上有用である.左側腹壁破裂の検討は腹壁破裂の発生機序解明の一助になると考えられる.

  • 宮國 憲昭, 古村 眞, 合原 巧, 花田 学, 尾花 和子, 鷹野 夏子, 左 勝則, 金 玲, 石澤 圭介, 佐々木 惇
    2020 年 56 巻 3 号 p. 309-313
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    症例は13歳女児.腹痛を主訴に近医受診し,卵巣囊腫茎捻転疑いにて当院産婦人科紹介受診.疼痛部位は右上腹部であり,同部に腹腔内囊胞を認め当科紹介となった.腹部超音波検査・CT検査施行し,右上腹部肝下面には90 mmの多房性囊胞,骨盤内には115 mmの単房性囊胞を認めた.右上腹部囊胞に炎症所見があったため抗生剤投与を行ったところ,症状・炎症反応は著明に改善し,右上腹部囊胞は40 mmに縮小.3か月後に腹腔鏡による両囊胞摘出術の方針とした.術前診断は大網囊胞(右上腹部囊胞)と卵巣囊腫(骨盤腔内囊胞)とした.手術所見では,右上腹部囊胞は大網内に存在し,炎症による周囲組織との癒着を認めた.骨盤内囊胞は大網から続く捻転した茎を有する大網囊胞であった.今回我々は卵巣囊腫と鑑別が困難であった有茎性大網囊胞を含む多発性大網囊胞の1例を経験した.骨盤内囊胞性病変の鑑別として有茎性大網囊胞は一考の余地があると考えた.

  • 石塚 悦昭, 下島 直樹, 東 紗弥, 原田 篤, 加藤 源俊, 富田 紘史, 下高原 昭廣, 石立 誠人, 馬場 信太郎, 廣部 誠一
    2020 年 56 巻 3 号 p. 314-318
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    症例は15歳男児.既往に脳性麻痺があり,肺炎を契機に気管挿管・人工呼吸器管理となった.肺炎治療後,抜管したが換気不全に陥り,再挿管となった.胸部造影CT検査で腕頭動脈と接した気管内腔に,肉芽による狭窄所見を認め,肉芽による窒息と考えられた.人工呼吸器からの離脱困難と気管腕頭動脈瘻の高リスクのため,当院へ紹介となった.頭部造影CT検査にてWillis動脈輪の開存確認を行い,気管腕頭動脈瘻回避のための予防的腕頭動脈離断術と気管切開を施行した.術後人工呼吸器からの離脱が可能となったが,術後2週毎に気管内肉芽の増大を認め,術後49日目にレーザー焼灼術を施行し,その後肉芽は消退した.腕頭動脈と接した気管内肉芽に対しては,腕頭動脈離断術を行うことで,気管腕頭動脈瘻のリスクを減らすのみならず,レーザー焼灼術を行う際にも有利になると考えられた.

  • 加藤 紘隆, 三谷 泰之, 合田 太郎, 和田 卓三, 辻本 弘, 津野 嘉伸, 神波 信次, 上田 祐子, 窪田 昭男, 山上 裕機
    2020 年 56 巻 3 号 p. 319-323
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    症例は男児で,在胎32週3日の胎児超音波検査で後腹膜腫瘍および羊水過多を指摘され当院に紹介された.羊水過多による腹部緊満感を呈し,切迫早産徴候を認めたため,羊水穿刺を行った.その後,切迫早産徴候は軽快したが,腫瘍は増大傾向を呈し,出生後に胸郭の圧排による呼吸障害の可能性があるため,在胎36週2日に帝王切開で出生した.出生体重2,638 g,アプガースコア2点(1分値)/4点(5分値)であった.出生後より腹部膨満が著明で,自発呼吸がないため,心肺蘇生処置を行いNICUに入院した.酸素化とアシドーシスが進行したため,日齢1日に緊急手術を行った.腫瘍は右腎原発であり右腎摘除術を行った.病理組織学的検査により先天性間葉芽腎腫と診断された.術後,呼吸状態や循環動態は安定し,術後45日に退院した.現在,術後12か月経過したが再発や合併症は認めていない.本腫瘍は比較的予後良好の疾患であるが,胎児期より増大しoncologic emergencyを呈することがあるため注意が必要である.

  • 山道 拓, 東堂 まりえ, 安部 孝俊, 田山 愛, 正畠 和典, 曹 英樹, 松山 聡子, 松井 太, 野崎 昌俊, 臼井 規朗
    2020 年 56 巻 3 号 p. 324-329
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)保菌者に対する周術期抗菌薬投与法について一定の見解はない.我々はCPEを保菌した鎖肛患児に対して手術部位感染予防を目的として周術期抗菌薬投与を行ったため報告する.症例1は総排泄腔遺残症の1歳4か月女児.入院時便培養でCPEが検出された.セフメタゾール,ゲンタマイシンを根治手術前日から3日間投与した.症例2は高位鎖肛(直腸膀胱頸部瘻),プルーンベリー症候群,先天性尿道狭窄の3か月男児.日齢23に尿からCPEが検出された.尿路感染の制御に難渋しため,早期に直腸膀胱瘻を離断する目的で日齢114日に根治術を行った.MRSA尿路感染に対するリネゾリドに加えてセフメタゾール,ホスホマイシンを手術2日前から5日間投与した.2例とも術後感染症なく退院した.CPE保菌者に対して手術操作部位を考慮のうえ,感受性を参考に抗菌薬を投与することが重要と考えられた.

  • 加藤 大幾, 関 崇, 岡本 眞宗, 牧田 智, 新井 利幸
    2020 年 56 巻 3 号 p. 330-334
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    症例は6歳男児.腹痛を主訴に受診.腹部CTで腹腔内遊離ガス像を認めたが穿孔部位を同定することはできなかった.穿孔性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.臍に逆Y字切開(以下,Benz切開)をおき,multi-channel port(5 mm port 2本)を装着して腹腔鏡で腹腔内を観察した.回腸に炎症所見を認め創外へ引き出すと,回腸末端から40 cm口側に3 cm大の囊胞状構造を認め,基部で穿孔していた.回腸重複腸管穿孔と診断して,小腸部分切除を施行した.今回,術前診断が困難であった重複腸管穿孔というまれな疾患に対して,創を延長することなく単孔式腹腔鏡補助下手術を完遂した.Benz切開を用いた単孔式腹腔鏡補助下手術は,小児における急性腹症の診断,治療を行う上で有用であった.

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