胃十二指腸潰瘍の主な原因であるHelicobacter pyloriの感染はなく,急性胃腸炎やインフルエンザといった小児が一般的によく罹患する感染症に続発して胃十二指腸潰瘍を発症し,重篤な経過を辿った7症例をレビューした.症例は年齢中央値5歳(1~9歳)で,4例に基礎疾患を認めた.先行感染は3例がロタウイルスやノロウイルスを含む急性胃腸炎で,4例がインフルエンザA型であった.2例が十二指腸潰瘍穿孔の診断で腹腔鏡下手術が行われた.5例が胃十二指腸潰瘍出血の診断で,全例に輸血療法を要し,2例に内視鏡的止血術が行われた.胃十二指腸潰瘍は小児では稀であるが,発見が遅れると重篤な経過を辿る可能性があるため,急性胃腸炎やインフルエンザ感染症に続発して急性腹症や消化管出血症状がみられる場合は,胃十二指腸潰瘍を鑑別に挙げて精査を進めるべきである.
【目的】小児慢性機能性便秘症(以下,本症)に対するマクロゴール4000配合内容剤(モビコール®配合内容剤,EAファーマ株式会社,東京,以下モビコール®)の使用症例における有効性を検討した.
【方法】2018年11月から2019年5月の間にモビコール®の投与を開始した小児例を対象とし,本症に対して内服歴のない初回治療群および酸化マグネシウム,ピコスルファートナトリウムのいずれかもしくは両方で先行治療を受けていた移行群の2群に分類した.患者背景,内服の可否,投与前後の排便回数,便性,グリセリン浣腸の有無,本症診断基準項目数,有効性,副作用の有無について診療録に基づき後方視的検討を行い,満足度調査を電話アンケートで行った.
【結果】対象は36例で,初回治療群は8例,移行群は28例であった.モビコール®の内服は,33例(91.7%)で可能であった.両群で排便回数の増加,移行群では便性の改善が有意に認められた.両群ともほぼ全例で浣腸が不要になった.内服開始2~4週間後で初回治療群6例(85.7%)と移行群21例(80.8%)でモビコール®は有効と判定され,内服開始後1年半~2年で初回治療群5例(100%)と移行群25例(100%)と内服継続可能であった30例全てで有効性が確認された.副作用として1例で下痢を認めたが,重篤な有害事象は認めなかった.患者満足度アンケートの回収率は,33例(91.7%)で平均は10段階評価で7.3であった.
【結論】モビコール®は91.7%の児で内服可能であり,初回投与群,移行群いずれも本症に有効であり,第1選択になりえると考えられた.
症例は8歳の女児.左鼠径部の膨隆を認め,当科紹介受診された.診察時に通常の鼠径ヘルニアに比べて,やや外側に背の低い膨隆を認めた.外鼠径ヘルニア以外の可能性を考慮し,正確な診断・治療が可能な腹腔鏡下手術を施行した.腹腔内を観察すると左膀胱上窩にヘルニア門を認め,外膀胱上窩ヘルニアと診断した.治療については小児例でありメッシュの使用は回避すべきと考え,ヘルニア門の縫縮および内側臍ヒダを用いた壁の補強を行った.これまで外膀胱上窩ヘルニアを認めた小児例の報告はなく,手術手技に工夫を要した.術後1年現在,再発を認めていないが,中長期的な再発の評価が課題である.
2016年より小児がんに対する陽子線治療が保険診療となり,2019年には粒子線治療を目的としたスペーサー留置術が保険収載された.現在承認されているスペーサーはポリグリコール酸(PGA)を原料としたシート型の吸収性材料であるが,これが開発される以前は非吸収性医療材料をスペーサーとして用いることが多かった.この過渡期において,非吸収性と吸収性の異なる2種類のスペーサーを留置した症例を経験した.症例は11歳の男児.仙骨部悪性腫瘍に対する陽子線治療のため,延伸ポリテトラフルオロエチレン製シートを用いてスペーサー留置術を施行した.この非吸収性スペーサーは照射終了後に摘出されたが,その後に腫瘍の再発をきたした.再発時には吸収性PGAスペーサーが使用可能であったため,これを用いてスペーサー留置を行った.PGAスペーサーは体内で吸収されるため照射終了後に摘出する必要がなく,優れた医療材料であると思われた.
肺葉外肺分画症は,先天性肺気道奇形より低値のCPAM(congenital pulmonary airway malformation)volume ratio(CVR)で胎児水腫を呈し得る他,病態の急激な悪化を来し得るため頻回の胎児超音波検査と適切な胎児治療を要する.今回,胸水貯留から胎児水腫へ急激に進行した肺葉外肺分画症の胎児に対し,複数回の胎児治療により安全な周産期管理し得た症例を報告する.症例は7経妊2経産37歳女性の胎児.妊娠26週に胎児超音波検査で胸水を伴う左肺葉外肺分画症と診断された.その後に胎児水腫が出現し,母体ステロイド投与2回,胸腔穿刺3回,左胸腔-羊水腔シャント2回の胎児治療を実施した.胎児治療により胸水をコントロールすることで胎児水腫の悪化を防ぎ,妊娠33週以降より胎児水腫の改善と病変の縮小を認め,妊娠継続できた.正期産・経腟分娩で出生し,人工呼吸管理を要したのは一時的であった.1歳時に待機的に胸腔鏡下分画肺摘出術を施行し,術後経過良好である.
限局性腸管拡張症は,腸閉塞機転がなく腸管神経叢の形態異常を認めないにもかかわらず,腸管が限局性に拡張を呈する疾患で,新生児期から拡張を認めるものは先天性限局性腸管拡張症として報告されている.治療は拡張腸管の切除であるが,拡張腸管が結腸にある場合,一時的な人工肛門造設やendorectal pull-through法が施行されることもある.我々は新生児期に発見され,拡張腸管の減圧によって待機的に根治手術を施行したS状結腸における先天性限局性腸管拡張症の1例を経験したので報告する.症例は在胎37週3日,2,274 gで出生した男児.単純X線写真にて腸管拡張を指摘されて日齢1に当院へ紹介された.下部消化管造影検査にてS状結腸に限局性の拡張を認めたが,口側・肛門側の腸管径は正常であった.拡張腸管の減圧によって管理を行い,待機的に生後9か月で拡張腸管切除術を行った.術後9か月の現在,体重は増加しており,排便障害もなく外来経過観察中である.
症例は6歳,女児.1週間持続する腹痛に対し撮影された造影CTで膵臓に囊胞性病変が認められたため当院に搬送された.既に仮性膵囊胞を形成した膵損傷と診断し,囊胞の退縮傾向がみられたため保存的治療を選択した.第20病日に左胃動脈の仮性動脈瘤が破裂し,緊急で血管塞栓術を施行した.第31病日に行った内視鏡的逆行性膵管造影で主膵管の断裂が判明し,第78病日に手術を施行した.膵実質は体部で部分断裂し,同部で主膵管が完全断裂していた.断裂部で膵を離断し,膵頭部断端は主膵管を結紮後に縫合し,膵体尾部は胃体部後壁を開窓して胃内に吻合した.術後2年が経過し,膵臓の萎縮はみられず,普通食を摂取している.膵損傷の治療に際しては主膵管損傷の有無を早期に診断することが肝要であり,その疑いが強ければ全身状態が安定している症例に対して,小児においても全身麻酔下に内視鏡的逆行性膵管造影を行うことは有用であると考えられた.
先天性食道閉鎖症や気管無形成症に対する食道再建の術式は多岐に渡り,標準的な治療法はないとされる.今回,胃を代用食道とした再建術を施行した3例を提示する.症例1は気管無形成症Floyd I型に対して下部食道バンディング,胃瘻造設術,頸部食道離断術および唾液瘻造設術を施行した3歳2か月の男児.胸骨後経路で胃管吊り上げにて食道再建を行った.症例2はB型食道閉鎖症に対して瘻孔切除術および唾液瘻造設術を施行した10か月女児.Collis-Nissen法による食道再建を行った.症例3はC型食道閉鎖症に対する根治術後吻合部狭窄に拡張術を施行した後,縦隔膿瘍を発症した2歳3か月の男児.胸骨後経路で全胃吊り上げにて食道再建を行った.全例で吻合部縫合不全を認めたが保存的治療で改善し,その後の長期的な経過は良好であった.食道再建方法に関しては,個々の症例に応じて有用な術式やアプローチ方法を選択する必要がある.
症例は11歳男児.臍窩の皮膚をつまんで遊んでいたところ翻転し還納不能となったため小児外科外来を受診した.初診時,臍窩の皮膚は翻転し,うっ血を伴っていた.外来で意識下に用手的整復を試みたが,患児の苦痛が強く整復困難であったため,全身麻酔下に整復を行った.整復後の経過は良好で翌日退院した.整復後9か月経った現在も再発なく経過している.臍窩の皮膚が翻転し陥頓した報告例は会議録を除き本邦に1例のみである.その病態は翻転した臍窩の皮下組織が臍縁と臍窩の瘢痕組織により挟まれることでうっ血を呈したと考えられる.臍窩の皮膚の翻転を意識下に行うことは困難であるが,本症例では日ごろから臍窩の皮膚を引っ張る癖があった.その結果臍窩の瘢痕組織が伸展しやすくなることで翻転の発症に寄与したと考えられた.
症例は8歳男児.自転車走行中に転倒し,ハンドルのブレーキレバーが右前胸部に刺さり受傷した.ドクターヘリ要請となり,創部より胸腔内へドレーンが留置され,当院へ搬送された.バイタルサインは安定しており,体表観察で右鎖骨中線上第5肋間に2 cmほどの刺創を認め,同部位のドレーンから少量の血性排液を認めた.CT検査より,外傷性血気胸,右下葉肺挫傷Ib(rLL)型と診断し,同日,胸腔鏡補助下肺縫縮術,胸腔ドレナージ術を施行した.術後経過は良好であり,術後8日目に退院した.胸部外傷に対する胸腔鏡手術は,胸腔内の観察に優れ低侵襲な手術が可能であり,加えて早期に日常復帰が可能なことから,成人例では有用と考えられているが,小児例の報告は少なく適応についても明らかではない.血行動態が比較的安定した症例で,穿通性外傷や持続性血気胸,横隔膜損傷が疑われる場合は胸腔鏡補助下手術が可能であり,本症例はその良い適応と考えられた.