【目的】perineal grooveは,後交連から肛門前縁の会陰全長にわたる赤色の湿潤した上皮を有する溝を特徴とし,Stephensらは発生学的に女児のみに見られる稀な直腸肛門奇形に分類した.これまで報告例が少なく十分な理解がなされていない疾患であったが,近年,部分型症例や男児例などStephensの分類と必ずしも一致しない症例が報告されている.当科では低位鎖肛に合併したperineal grooveの症例を6例経験したため,その臨床像について検討した.
【方法】当科で手術を施行した直腸肛門奇形の患児175例を対象とした.診療録をもとにperineal grooveの有無を確認し,治療経過について後方視的検討をおこなった.
【結果】7例(4.0%)にperineal grooveを認め,全例女児であった.うち6例で,肛門の前方開口・瘻孔様外観,外括約筋分布とのズレを認め低位鎖肛合併と診断し,肛門形成術施行時に粘膜切除を施行した.
【結論】最近の報告例の集積および発生学的な検討から,perineal groove症例では肛門外観や位置異常の有無など非典型例の存在を念頭に診察する必要があると考えられる.低位鎖肛の合併が明らかな例では鎖肛の治療適応に従って加療する.肛門位置異常のないperineal groove症例に対しては,一定の経過観察期間をおいたうえで判断すべきではあるが,grooveが深いままで上皮化が期待できない場合は手術を考慮してもよいと考える.粘膜部に対する手術の適否や適切な手術時期に関しては,今後の症例の蓄積による検討を要する.
【目的】声門下囊胞は気管挿管後に見られる上気道狭窄の原因の1つで,報告は少ない.当科での経験から治療適応と手術術式について検討した.
【方法】2018年1月~2019年12月に当院で経験した6例について診療録から後方視的に患者背景,重症度,手術術式,術後経過について検討した.
【結果】男児5例,女児1例で,在胎週数は中央値28週,出生体重は中央値991 gだった.全例気管挿管の既往があり,挿管日数は中央値11日間だった.診断時の月齢は中央値5か月,体重は中央値4.5 kgだった.主訴は陥没呼吸,チアノーゼ,反復するクループ症候群,喘鳴だった.全例で硬性気管支鏡検査を施行し,声門下腔の狭窄程度の評価方法として,声門下腔狭窄症の分類であるMyer-Cotton分類を準用した.6例のうち3例をGrade I,残り3例をGrade II以上と評価した.Grade Iの3例は,症状が軽快していたため,診断時は経過観察の方針とした.全例で硬性気管支鏡検査を再検した.3例のうち2例は囊胞病変が残存しており,手術を施行した.Grade II以上の3例は,診断後に手術を施行した.手術施行した5例のうち3例は囊胞穿刺術を,2例は囊胞開窓術を行った.囊胞穿刺術を行った3例では2例が再発し,囊胞穿刺術または囊胞開窓術を追加した.初回治療で囊胞開窓術を施行した2例では現在再発を認めていない.
【結論】声門下囊胞の診断と重症度評価には硬性気管支鏡検査が有用である.囊胞の大きさに関わらず,症状があれば治療の適応である.手術術式として,囊胞穿刺術は簡便で緊急時にも有用だが,囊胞開窓術の方が再発率は低く根治的である.
症例は19歳男児.在胎31週0日,体重1,572 g,常位胎盤早期剥離で出生,重症新生児仮死による重症心身障碍大島分類1で身体障碍者施設入所中.発熱と頻脈を契機に当科紹介となり,胆管結石を伴わない胆管炎(Tokyo Guidelines 2018/2013(以下,TG18/13)重症度判定基準:grade 1)及び胆囊結石症と診断した.保存的治療にて一旦軽快退院したが,1か月後,胆管炎の再発を認め,手術を行う方針とした.体格変形が高度であり,安全な内視鏡操作や手術が困難と予想されたが,内視鏡手技や術野確保の工夫によって内視鏡的逆行性胆道膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography: ERCP)と胆囊摘出術を施行し治療し得た.高度な体格変形を伴う患者の胆囊・胆管結石に対する外科治療において,多診療科にわたる入念な検討と準備が重要であった.
症例は36週4日,2,370 gで出生した腹壁破裂の女児.出生後,脱出した腸管を確認すると結腸閉鎖を合併していた.その口側盲端にはpinholeがあいていたが腹腔内の汚染はなく,一旦サイロ造設し翌日結腸閉鎖に対する手術を施行した.腸管を洗浄しながら癒着剥離を行い結腸閉鎖部の口側・肛門側を確認し,血流の十分ある部分で自動縫合器による機能的端々吻合を行った.腸管は浮腫が強く腹腔内に還納できなかったため,再度サイロを造設して手術を終了した.その後1週間かけて腸管を腹腔内に還納し,第9生日にsutureless法で腹壁閉鎖を行った.術後経過は良好で,第19生日にfull feedingとなり,第32生日に退院した.結腸閉鎖合併腹壁破裂症例では人工肛門造設が一般的であるが,自動縫合器を用いることで口径差を気にせず吻合を行うことができるため,有効な方法と考えられた.
日齢52からの白色便を契機に胆道閉鎖症を疑われ,術中胆道造影(以下,胆道造影)で総肝管を含む上流の胆管の描出がみられなかったものの,高ビリルビン血症の改善と増悪を繰り返し,その間も断続的に黄色便を認め,診断に苦慮した胆道閉鎖症の1例を経験した.肝生検でグリソン鞘内の胆管増生を認め,2度目の胆道造影でも上流胆管の描出がみられなかったことから,最終的に胆道閉鎖症と診断し,日齢97に葛西手術を施行した.本症例では,初診時に貧血(ヘモグロビン値9.7 g/dl)を認め,手術に至るまでの経過中,ヘモグロビン値と血中ビリルビン値はパラレルに連動しながら推移しており,貧血に伴うビリルビン生成低下を減黄としてとらえていたと思われた.胆道閉鎖症の診断過程において,胆道造影および根治手術を考慮する段階で便色や黄疸などの臨床症状の経過が典型例と乖離する場合,血中ヘモグロビン値を含めた総合的な判断が必要と思われた.
先天性十二指腸閉鎖症術後に胆道閉鎖症を発症した極めて稀な1例を経験したので報告する.症例は日齢0の男児.胎児超音波検査で先天性十二指腸閉鎖症と出生前診断されていた.在胎34週2日,帝王切開で出生し,日齢1で十二指腸十二指腸吻合術を施行した.術後経過は良好であったが,日齢40頃から灰白色便を認め,日齢67で開腹造影検査を施行した.三管合流部付近で総胆管の囊胞性腫大を認め,囊胞から直接穿刺造影をすると左右肝管は造影されたが,総胆管下部から十二指腸への造影剤流出はなく閉塞していた.胆道閉鎖症(I cyst-b1-α型)と診断し,肝外閉塞胆管切除,肝管空腸吻合術を施行した.先天性十二指腸閉鎖症術後に胆道閉鎖症を発症した報告は少ないが,報告例には総胆管下部が閉鎖または狭窄した吻合可能型が多いとされ,先天性十二指腸閉鎖症術後に発症する胆道の閉塞や欠損には共通のメカニズムが存在する可能性が考えられた.
症例は12歳男児.陰茎根部の痛みを主訴に近医を受診した.超音波検査で膀胱左前壁に30 mm大の腫瘤を指摘され,当科紹介となった.腫瘍生検を施行し,横紋筋肉腫の診断となった.VAC療法を2クール施行したが,腫瘍が増大したため化学療法抵抗性と判断し,腫瘍を全摘出した.摘出検体は線維芽細胞が腫瘍性に増殖し,免疫染色ではALK(anaplastic lymphoma kinase)が陽性で,炎症性筋線維芽細胞腫瘍の最終診断となった.後治療は施行せず,術後14か月現在再発なく経過している.炎症性筋線維芽細胞腫瘍は,炎症細胞の浸潤を伴って筋線維芽細胞が腫瘍性に増殖する稀な疾患である.生検では炎症性病変や悪性腫瘍との鑑別が困難な場合があり,慎重に病理組織所見を吟味する必要がある.治療の原則は腫瘍摘出で,全摘出により予後は良いとされるが,再発の報告もあり注意深いフォローが必要である.
4歳男児,馬蹄腎,膀胱尿管逆流症,水腎症,左停留精巣で当院泌尿器科に通院中であった.肛門外観は正常で排便機能自体に問題はないが,排尿時に便汚染があるため当科へ紹介となった.尿路造影検査では尿道と腸管の交通は描出できなかったが,症状が持続し尿路感染を繰り返すため,膀胱鏡検査を施行した.瘻管は確認できなかったが,尿道側から色素を注入すると肛門洞への流出が確認できた.鎖肛を伴わない肛門尿道瘻と診断し手術を施行した.膀胱鏡下にガイドワイヤーを瘻管内に留置,膀胱留置カテーテルも挿入し術中,尿道の確認に使用した.砕石位で会陰縫線を縦切開し,瘻管より口側まで直腸前壁の剥離を進め,瘻管を離断した.尿道側は二重結紮し,直腸側は層々に縫合閉鎖した.術後は立位で排尿でき,便汚染や尿路感染もなくなりQOLの向上が得られた.本疾患はまれで診断や治療に関する知見は少なく,診断や術式の工夫に関して文献的考察を加え報告する.
症例1は14歳男児.間欠的な左腰背部痛を契機に左尿管内の腫瘤性病変を伴う左水腎症を指摘された.症例2は15歳男児.10歳時より間欠的左腰背部痛を認め,15歳時にMRIで左腎盂尿管移行部の壁不整を認めた.この2例に対して腹腔鏡下左腎盂形成術を施行した.逆行性腎盂尿管造影(RP)を先行し,上部尿管から拡張腎盂に向かう陰影欠損を認め,腹腔鏡下にポリープの基部を含む尿管を切除した.共に単発性で,病理組織学的にfibroepithelial polypと診断された.間欠的な腰背部痛を伴う水腎症では,尿管ポリープも鑑別診断にあがる.ポリープは腎盂尿管移行部に発生することが多いが,その位置や数が術式に影響するため,手術に先行したRPが推奨される.また,鏡視下手術は近接して拡大視が可能であり,尿管内のポリープ基部を観察して残存病変を残さない手術をするためには良い選択肢である.
我々は様々な術式に積極的に単孔式腹腔鏡手術(TANKO)を適応してきた.卵巣を含まない孤立性卵管捻転の小児例は極めて稀であり診断に苦慮することも多いが,TANKOが診断及び治療に有用であった小児卵管捻転症例を経験したので報告する.症例は12歳女児.前日から続く腹痛と嘔気を主訴に前医受診し,CTで卵巣腫瘍茎捻転を疑われ当科へ救急搬送された.MRIで右卵管捻転が疑われて緊急手術を施行した.腹腔鏡下に観察したところ,右卵管が720度捻転して黒色に変色しており,右卵管水腫の捻転と診断した.すでに壊死に陥っているものと判断し,TANKOで右卵管摘出術を施行した.術後2日目に軽快退院した.小児卵管捻転に対するTANKOは安全かつ低侵襲で整容性にも優れており,診断及び治療にも有用であった.
処女膜閉鎖症は先天性疾患であるが,思春期以前に症状を呈し診断されることは稀である.今回我々は,胎児超音波検査で腹部腫瘤を指摘され,出生後に腟留水腫を伴う処女膜閉鎖症と診断し手術を行った1例を経験したので報告する.症例は日齢4の女児.在胎39週に児の膀胱右側に囊胞性病変を指摘され,在胎40週で出生した.出生後の診察で処女膜閉鎖を認め,腹部超音波検査で囊胞性腫瘤は腟から臍付近まで連続しており,処女膜閉鎖症及び腟留水腫症疑いで日齢4に当院紹介となった.視診にて腟に膜様構造物を認め内部の白色内容液が透見され,処女膜閉鎖症と診断した.処女膜切開術を施行し,白色混濁内容液を95 ml排出した.術後,腟は縮小し外観も問題なく経過している.新生児期に症状を認める処女膜閉鎖症は稀であるが,母体ホルモンの影響で新生児腟に分泌物が貯留することがある.単純な処女膜切開で症状の改善が得られ,予後も良好である.
症例は4歳10か月男児.ネオジム磁石玩具の誤飲を訴えたため,近医を受診した.腹部単純X線写真でリング状に連なった14個の異物を認め,胃内異物の診断で緊急上部消化管内視鏡検査を試みた.胃内では9個の磁石がアーチ状に胃後壁と固着していたため摘出した.続いて下部消化管内視鏡検査を行ったが結腸内に磁石は認めなかった.残る5個は小腸内と判断し経過観察したが,翌日の腹部単純X線写真で磁石の移動を認めず,緊急手術を施行した.術中所見では,胃壁内に残存する磁石1個が横行結腸および横行結腸間膜を介して小腸内の磁石4個と吸着していた.磁石を摘出後,胃後壁,小腸および横行結腸の穿孔部を縫合閉鎖した.小児では腹痛などの臨床症状なく誤飲を繰り返す可能性があり,初診時の全身検索が重要である.また異時性に磁石を誤飲した場合,磁石が腸管壁を挟み込むことで穿孔や穿通,閉塞を生じる可能性があるため,早期の摘出を行うべきである.
従来の治療に抵抗性の難治性慢性重症便秘に対し,内肛門括約筋ボツリヌス毒素注入療法を行い,排便状況の改善を得た症例を報告する.症例は4歳男児.1歳から便秘があり,徐々に増悪した.浣腸で排便を行っていたが,4歳時に浣腸への反応便がなくなり,当科初診となった.便塊除去後,浣腸及び内服薬での排便管理が奏効せず,カテーテルでの排便排ガスを必要とした.充分なインフォームドコンセントを行った上で内肛門括約筋ボツリヌス毒素注入療法を行う方針とし,ケタラール麻酔下にボトックス® 50単位を局注した.治療後,浣腸への反応が改善し,トイレでの排便が可能となり,排便状況が改善した.本邦では慢性便秘に対するボツリヌス毒素注入療法は保険適応外であり,報告がほとんどない.文献的考察を加え,その安全性と効果について報告する.