ゾーン延伸を融点付近で行う高温ゾーン延伸法で得られたナイロン6繊維の高次構造及び力学的性質を延伸温度との関係で検討し, さらに繊維の高強度・高弾性率化を試みた. 190℃から210℃までの温度域では延伸温度の上昇につれ延伸倍率, 複屈折, 結晶化度, 非晶配向係数, 及びヤング率はしだいに増加し, 210℃で延伸した繊維の延伸倍率は5.3倍, 複屈折は56.3×10
-3, 結晶化度は51%, 非晶配向係数は0.57及びヤング率は5.9GPaである. 一方, 210℃以上の延伸では延伸倍率は急増するが, 複屈折, 非晶配向係数, 及びヤング率は著しく低下する. 215℃で延伸した繊維では延伸倍率は7.8倍, 結晶配向係数は0.860と高いが, 複屈折は7×10
-3, 結晶化度は38%, 非晶配向係数は0, ヤング率は0.9GPaまで減少し, これらの値は原繊維とほとんど同じ値である. また, 80℃及び215℃で延伸した繊維のDSC曲線は単一ピークでそのピーク温度はいずれも220℃で, これら繊維の融解挙動は原繊維と類似している. 一方, 190℃から210℃までの温度域で延伸した繊維では二重ピークが観察され, 形態の異なる二種類の結晶が混在していることを示す. また. 延伸張力を増大させながら210℃で高温ゾーン延伸を3回繰り返すと, 複屈折, 結晶化度, ヤング率, 及び動的弾性率は漸増し, 最終的に得られた繊維の複屈折は58.3×10
-3, 結晶化度は53.6%, ヤング率は7.4GPa, 及び動的弾性率は12GPaであった. 以上の結果から, 210℃での高温ゾーン延伸が結晶性, 配向性, 及び力学的性質を向上させるのに効果的であることが分かった.
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