キメラ抗原受容体(CAR)-T療法後の治療成功の鍵は,in vivoでのCAR-T細胞の増殖と持続性である。ゲノムワイド(GW)CRISPRスクリーニングは,大規模な遺伝子スクリーニングを行うための強力なツールとして登場しているが,我々はCD19CAR-T細胞において,GW-CRISPRスクリーニングを行い,CUL5ノックアウト(KO)がCAR-T細胞の増殖を向上させることを見出した。さらにCUL5KOは,エフェクター機能も高めていた。CUL5KO CAR-T細胞ではJAK-STAT pathwayが亢進しており,CUL5は,IL-2シグナルを介した活性化下でJAK3の分解に関与していた。In vivoでCUL5KO CAR-T細胞はコントロールCAR-T細胞と比較して良好な抗腫瘍効果を示した。
多施設共同臨床研究グループである京都血液臨床研究グループ(KOTOSG)が,2010年以来,継続してきた日常診療に基づく臨床研究は,地域での実診療における患者の特徴,治療成績,有害事象,施設間較差を明らかにすることで,地域医療全般の水準向上と均てん化,さらには臨床・基礎研究の両者へ次なる課題に大きく寄与してきた。なかでも最も多く研究されたのは,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である。高度治療抵抗性症例を高い確度で抽出可能な予後予測モデルを開発し,予後不良症例の細胞遺伝学的・臨床病理的特徴を明らかにする一方,治療成功後の二次がんの実態など,様々な課題を浮き彫りにしてきた。本論文ではKOTOSGでのDLBCLに関する臨床研究の成果について,過去の本邦でのDLBCL臨床研究と対比しながら振り返り,今後の発展への礎にしたい。
CPX-351(Vyxeos®)はAML治療に用いられるリポソーム製剤であり,これまでの臨床試験において,皮膚障害として紫斑の合併が多く報告されている。症例は73歳女性。皮膚に髄外病変を伴う難治性急性単球性白血病(AMoL)に対して,再寛解導入療法としてCPX-351が投与された。投与後,髄外病変は消退したが,一部の皮膚病変は膿疱性発疹となった。膿疱は好中球減少期に発症し,培養検査で感染が否定されたため無菌性膿疱(sterile pustules, SP)と診断された。対症療法としてスキンケアと抗生剤含有軟膏が使用され,治療の継続が可能となり,膿疱は痂皮形成後に治癒した。本症例は,CPX-351によるSPについての初報告であり,皮膚合併症の早期発見と適切な管理が治療継続に重要であることを示唆する。
症例は62歳男性。2022年に骨髄異形成関連変化を伴う急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia with myelodysplasia-related changes, AML-MRC)と診断された。治療抵抗性でありvenetoclax(Ven)+azacitidine(Aza)療法により一旦寛解となったが,感染症の治療中に再燃し,非寛解状態で非血縁ドナーからの同種末梢血幹細胞移植を実施した。生着後に免疫抑制剤の早期減量・中止とAzaによる移植後治療を行い完全寛解となったが,day250に心嚢液大量貯留で髄外再発を来した。心嚢ドレナージ後に再度Ven+Aza療法を施行したところ心嚢液は速やかに消失し,全身状態も改善した。その後も同治療を継続し15ヶ月以上再燃なく経過している。心嚢液貯留による髄外再発は稀であり,治療についての報告も限られている。AML患者の同種造血幹細胞移植後髄外再発による心嚢液貯留に対して,Ven+Aza療法が治療の選択肢となり得ると考え報告する。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria, PNH)は遺伝子変異を有する造血幹細胞がクローン性に拡大して生じる造血幹細胞疾患であり,その経過中に骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes, MDS)や急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)を発症することがある。症例は,PNHの診断から13年後にAMLへ移行した42歳の女性。PNH型血球が減少し,MDSに関連する遺伝子変異が確認された。寛解導入療法により完全寛解が得られず,非血縁者間骨髄移植を行った。AMLの発症前に導入したravulizumabは移植前後も使用した。完全ドナー型の生着と,AMLに対する完全寛解が得られた。同種造血幹細胞移植における抗補体療法の有効性と安全性の検証にはさらなる症例の蓄積が必要である。
80歳女性。【主訴】倦怠感。【現病歴】前医の定期採血で白血球数低下を指摘され,低リスク骨髄異形成症候群と診断,経過観察中に急性骨髄性白血病(AML)へ移行し当院を紹介受診した。AML診断時の骨髄検査で,minor BCR-ABL mRNAが検出され,FISH検査では,骨髄細胞の7.5%でBCR-ABL融合シグナルが陽性であった。Venetoclax+azacitidine(Ven+Aza)療法を開始したところ,1コースで血液学的寛解に達した。2コース後の骨髄検査では,血液学的寛解を維持しており,RT-PCR法でminor BCR-ABL mRNAの低下が確認された。【考察】BCR-ABL1融合を伴うAMLの予後は一般的に不良であり,確立された治療法はない。本症例では,Ven+Aza療法によって寛解を達成し,BCR-ABL1融合陽性クローンに対する有効性が示唆された。