多発性骨髄腫(MM)に対する同種造血幹細胞移植(allo-SCT)では治療関連死亡率および再発率が高いことが報告されてきた。当院では再発率を低下させるために2012年よりTBI 8 Gyを含む前処置によるallo-SCTを30例に対して行ってきた。年齢中央値は47歳で血縁者間末梢血幹細胞移植が5例,非血縁者間骨髄移植が18例,臍帯血移植が7例であった。5年無増悪生存率(PFS)は36.7%,5年全生存率(OS)は46.2%であり,治療関連死亡は4例でそれ以外の死因はMMの増悪であった。allo-SCT前の奏効がVGPR以上の症例で有意にPFS,OSともに良好であった。生存例14例のうち6例は微小残存病変陰性で無治療経過観察中(観察期間中央値68ヶ月,42~141ヶ月)と長期の奏効が観察された。今後はCAR-T療法や二重特異性抗体との位置づけについての継続的な議論が必要と考える。
症例は57歳男性。2015年12月に左顔面のしびれ感を主訴に受診し,中枢神経系原発悪性リンパ腫と診断された。大量methotrexateを基盤とした化学療法と自家末梢血幹細胞移植により完全寛解を得たが,その後再発と寛解を繰り返したため,キメラ抗原受容体T細胞療法(tisagenlecleucel)を施行した。投与前の病勢評価は完全寛解であり,サイトカイン放出症候群や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群は認めなかった。しかし,投与から28日後に再発したため,根治を目指し同種造血幹細胞移植を施行した。同種移植により一時的な寛解を得たが,移植後98日目に再発した。その後,tirabrutinib等で病勢は制御できたものの,移植関連肺障害による急性呼吸不全と移植後血栓性微小血管障害症を生じ,移植後175日目に永眠された。中枢神経系原発悪性リンパ腫は,近年様々な治療法が検討されているものの,本症例のような再発難治例に対する治療は確立されておらず,治療戦略の検討が必要である。
62歳,女性。成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)急性型と診断し,化学療法によって完全寛解(CR)に到達後,臍帯血移植(CBT)を施行した。しかしながら,CBTから3ヶ月後に可溶性IL-2受容体(sIL2R)の異常高値を伴って末梢血中への腫瘍細胞の出現とともに再発した。カルシニューリン阻害薬の急速減量・中止によっても改善せず,救援化学療法としてlenalidomide(LEN)を開始したところ,末梢血中の腫瘍細胞は消失しsIL2Rも速やかに低下した。サザンブロット法やHAS-Flow法でも腫瘍細胞は検出されずCRと判定した。LENによる汎血球減少を認めたが,末梢血リンパ球は低下することなく経過し,異性間FISHおよびflow cytometryの結果からドナー由来のNK細胞が増加していることが判明した。LEN開始から13ヶ月が経過した時点でもATLの再発なく経過している。
CAR-T療法は,血液腫瘍に対する有望な免疫細胞療法であるが,骨髄系腫瘍に対するCAR-T細胞の開発には特有の課題があり,現在に至るまで承認された細胞製剤はない。標的抗原の不均一な発現,on-target/off-tumor効果の制御の困難さ,患者の抑制的免疫環境が,開発を阻む要因として考えられている。その中で,急性骨髄性白血病に対しては,CD33,NKG2D,CD123,CLL-1,CD7などさまざまな抗原を標的としたCAR-T細胞が開発され,複数の臨床試験で有望な結果が得られてきた。さらに,新規標的抗原の探索や,健常ドナーなどから作製されたthird-party CAR-T細胞の活用も進む。一方,他の骨髄系腫瘍に対するCAR-T療法はまだ開発途上である。本稿では,骨髄系腫瘍に対するCAR-T細胞の開発における課題と現況,そして今後の展望について概説する。
T細胞性腫瘍においては,B細胞性腫瘍に対するCAR-T細胞ではそれほど問題にならなかった,T細胞性腫瘍に対するCAR-T細胞特有の問題がいくつかある。一般にCAR-T細胞を作成する上で考慮しなければならない問題点としてon target-off tumor toxicityがある。これはターゲットとする抗原が腫瘍細胞以外の正常細胞に発現していることによって,それらの細胞もCAR-T細胞による細胞障害を受けることである。T細胞性腫瘍に対するCAR-T細胞では,T細胞上に発現する抗原(CD5,CD7等)が標的となるため,fratricideと呼ばれるCAR-T細胞同士の殺し合いが課題となってきた。その他にも,T cell aplasiaやCAR-T細胞製品への腫瘍細胞の混入など問題がある。しかし,最近ゲノム編集技術などにより,対象抗原やT細胞受容体をknock outするなど,これらの問題を克服したCAR-Tの優れた臨床試験の成果が,相次いで公表されている。本稿ではそれらの課題とその克服法を概説し,最近の臨床試験の結果について解説する。
遺伝子改変キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor, CAR)-T細胞療法は難治性血液悪性腫瘍に対して高い有効性が報告されており,2023年末時点で6製剤が製造販売承認されている。一方で,固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法をはじめとするadoptive cell therapy(ACT)の有効性はいまだに限定的であり,国内外において2023年末時点で固形腫瘍に対して製造販売承認されたものは存在しない。その背景には,1)安全かつ有効な腫瘍抗原が少ない,2)腫瘍組織への遺伝子改変T細胞の集積が弱い,3)腫瘍微小環境によるT細胞の機能喪失・免疫疲弊など,様々な要因が複合的に関与していると考えられている。本稿では,固形腫瘍に対するACTの臨床試験の実施状況を分析し,開発の問題点や今後の展望について,CAR-T細胞療法と遺伝子改変T細胞受容体細胞療法を中心に概説する。
キメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T細胞療法)は,再発・難治性血液悪性腫瘍の治療に革命をもたらした。B細胞上のCD19抗原を標的とすることにより,急性リンパ芽球性白血病や悪性リンパ腫の患者において高い寛解導入率と持続的な寛解維持が報告されている。目覚ましい奏効にもかかわらず,CAR-T細胞療法を回避する複数のエスケープメカニズムが同定されており,中でも最も一般的なものは標的抗原の欠損である。本稿では,現在最も臨床使用されているCD19 CAR-T細胞療法に焦点を当て,前臨床試験や臨床試験で開発が進む,CD19-CD20 CAR-T細胞やCD19-CD22 CAR-T細胞などの二重標的CAR-T細胞による耐性を克服するための新たな戦略について述べる。
CD19を標的とするキメラ抗原受容体導入自己T(CAR-T)細胞療法は,急性リンパ性白血病や大細胞型B細胞リンパ腫などのCD19陽性血液腫瘍に対する治療戦略に革命的変化をもたらした。しかし,その奏効率の高さにもかかわらず,極めて高いコスト,複雑なロジスティクス,迅速性の欠如,製造上の失敗例などの問題点が明らかになっている。これらの解決策として,同種細胞の利用が挙げられる。“Off-the-shelf(既製品)”同種CARエフェクター細胞には,1)ゲノム編集技術によりT細胞受容体(TCR)遺伝子を欠失させた健康成人ドナー由来CAR-T細胞,2)人工多能性幹細胞由来CAR-T細胞,3)CAR-NK細胞,などがある。NK細胞は体外での増幅培養や遺伝子改変が困難であることが知られている。本稿では,CAR-NK細胞を中心に,同種CAR細胞療法の現状と展望について概説する。
急性骨髄性白血病の臨床では長きにわたって複数の遺伝子変異を組み合わせた予後層別化システムの構築が模索されてきた。2022年にはEuropean LeukemiaNet(ELN)から新たな遺伝子変異を組み入れた新規予後予測モデルが提唱された。一方で,本邦においては長らく急性骨髄性白血病の臨床遺伝子解析は研究室レベルでの実施に限られていた。その様な中で我々はthe Multi-center Collaborative Program for Gene Sequencing of Japanese AML(GS-JAML)を立ち上げ,迅速な遺伝子解析結果の提供を行い実臨床に貢献してきた。この研究プログラムの後方視的解析の結果から①CEBPA-bZIP変異の臨床的意義,②DNMT3A変異のNPM1変異陽性AMLにおける臨床的意義などが明らかになってきている。
FLT3遺伝子変異は成人AMLの約30%程度と最も高頻度に認められる遺伝子異常であり,うちFLT3-ITD変異はAMLにおける予後不良因子とされてきた。近年,FLT3変異陽性AMLに対するFLT3阻害薬併用強力化学療法や再発・難治性症例に対するFLT3阻害薬の臨床開発が行われ,難治性AMLの予後の改善が報告されている。我が国でも2023年に未治療FLT3-ITD変異陽性AMLを対象にquizartinib併用強力化学療法が承認され,新たなAML治療の時代を迎えた。今後,新たな併用療法の開発などによる更なる予後の改善が期待される一方で,薬剤耐性に関わる遺伝子変異の出現,AML細胞を取り巻く骨髄微小環境と治療抵抗性との関わりなど様々なFLT3阻害薬耐性化メカニズムも明らかになっている。各FLT3阻害薬の特徴を踏まえた薬剤選択,併用治療法の最適化,治療選択に資するバイオマーカーの開発,耐性化メカニズムの詳細な解明とその克服法の開発など新たな治療戦略の構築が期待される。
制御性単球は自己保護作用に特化した好中球様単球の亜集団で,炎症局所に集積し,損傷組織の修復を促進する。単球樹状細胞前駆細胞(MDP)から分化する古典的単球と異なり,G-CSF刺激によって,好中球前駆細胞(proNeu1)からCD81陽性CX3CR1低発現単球前駆細胞(GMP-MoP)を経由して産生される。最近我々は,ヒト制御性単球が,好中球にのみ発現すると考えられていたケモカイン受容体CXCR1を目印として従来の単球と識別できることを突き止めた。CXCR1陽性単球は,in vitroで共培養するT細胞増殖を強力に抑制することから,炎症抑制に何らかの重要な役割を担うと考えられる。ヒト制御性単球もマウスのカウンターパートと同じように,好中球前駆細胞(NeP)からG-CSFによって誘導される。制御性単球の炎症収束機能と組織修復作用は,創傷や炎症疾患など様々なヒト疾患の治療に応用できる。
骨髄異形成症候群(MDS)は,造血幹細胞から発生する高齢者に好発する難治性のがんである。その病因として,健常高齢者のクローン造血にもみられる幹細胞のドライバー遺伝子変異のほかに,細胞外因子として,感染症や膠原病による全身性炎症が古くから指摘されてきた。感染症や炎症ストレスに応じて,野生型造血幹細胞で機能する「自然免疫記憶」と同様に,私たちは,独自の感染ストレスモデルを用いて,自然免疫応答・TLR-TRIF-PLK-ELF1経路が,無効造血やMDS幹細胞のクロマチン再構築に不可欠であることを示した。従来知られたTRAF6-NF-kB経路によるMDS幹細胞の拡大だけでなく,MDS幹細胞を生み出す自然免疫応答の存在と役割が明らかになった。本総説では,造血器腫瘍の発症機序の一つである「自然免疫記憶」に関連する研究知見を紹介するとともに,将来の基礎病態研究の方向性や治療法開発の可能性を論述する。