栄養と食糧
Online ISSN : 1883-8863
ISSN-L : 0021-5376
29 巻, 2 号
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  • 豊川 裕之
    1976 年 29 巻 2 号 p. 71-76
    発行日: 1976/05/30
    公開日: 2010/03/26
    ジャーナル フリー
    このような統一的な, あるいは一貫した考え方は世界観ということもできるし, 健康観ということもできる。地域栄養計画における世界観ないし健康観の中心は栄養学概論である。ここで概論が問われている栄養学は, 栄養素だけが注目されるのではなく, また栄養障害だけが論じられるのでもなく, 料理・調理の方法だけが問題なのでもなく, また食糧生産だけでもなく, ひろく食の行動をも含む広義の栄養でなければならない。食とはすくなくとも「食は多数の調理食物 (Speise) より成り, 調理食物は一つ以上の食物 (Nahrungsmittel) を含み, 食物には数種の食素 (Nahrungsstoff) を含んでいる…」と森鴎外が説明した食のことであるといえる。しかし, さらにこのような食 (Nahrung) を営む社会的・心理的, かつまた自然環境的な要因をも添えた広い意味での食でなければならない。このような広義の食を取り扱うことは, とりもなおさず公衆栄養の視座に立つ栄養計画である。栄養士養成カリキュラムに新しく市民権を得たこの公衆栄養の視座は, 要約すると次のようなものである。
    (1) 人類生態学とりわけ人間の食生態学に関連する
    (2) 生理学・生化学的に究明された, すぐれて分析論的な栄養学の基盤に立っている
    (3) 食品衛生学 (food hygiene) と公衆衛生 (publichealth) と地域医療 (community medicine) の医学的基礎に立っている
    (4) 食糧生産, 食品流通などの農業経済的視点をもっている
    (5) その他多くの関連領域に対する接触があって, それらを包括的に統合するなどである。このような地域栄養計画は実施不可能だとする人もいるだろうが, 比較的に小さな地域集団ならば可能である。今後, 栄養問題が明らかに認められる地域小集団をまず手はじめにこの地域栄養計画を試み, その知見を積み重ねて徐々に大きな地域栄養計画を実施することが望ましい。
  • 西川 勲, 村田 信子, 出家 栄記, 川西 悟生, 古市 栄一
    1976 年 29 巻 2 号 p. 77-83
    発行日: 1976/05/30
    公開日: 2010/03/26
    ジャーナル フリー
    1) 日本人の人乳の窒素分布を求めた。粗たん白質含量 (全窒素×6.38) は分べん後の日数につれて, 従来の結果と同様な減少の傾向を示した。
    2) 全窒素に対するカゼイン態窒素の割合は, 人乳I (分べん後1~10日まで) 8.9%; 人乳II (分べん後10~115日) 37.0%; 牛乳78.0%であった。
    3) 全窒素に対する乳清たん白質態窒素の割合は, 人乳I 60.5%; 人乳II 39.3%; 牛乳16.9%であった。
    4) 全窒素に対する非たん白態窒素の割合は, 人乳I 30.6%; 人乳II 23.7%; 牛乳5.1%であった。
    5) 非たん白態窒素のおもな成分として, 尿素, クレアチン, アミノ糖, 遊離アミノ酸の含量とそれら化合物の窒素が全窒素あるいは非たん白態窒素中に占める割合を人乳と牛乳について求めた。人乳は牛乳よりアミノ糖, 遊離アミノ酸を多く含有する。
    6) 非たん白態窒素化合物の多い人乳のような食物の栄養評価には, 真のたん白質レベルあるいは正しいたん白質換算係数が用いられるべきであろう。
  • 自動酸化油の毒性に関する研究 (第5報)
    白台 鴻, 星野 忠彦, 金田 尚志
    1976 年 29 巻 2 号 p. 85-94
    発行日: 1976/05/30
    公開日: 2010/02/22
    ジャーナル フリー
    自動酸化油の毒性発生機構を明らかにするため, LMHPOおよび2次酸化生成物をマウスに経口投与し, 急性毒性実験を行ない, 小腸, 肝臓, 肺臓, 腎臓などの各組織について病理組織学的に検索した。
    1) LMHPOおよび2次酸化生成物による死亡マウスの小腸, 肝臓, 肺臓, 腎臓などの組織には壊死が共通してみられ, またこれらの組織に脂肪沈着がおこっていた。さらに各器管には, 血管の拡張と充うっ血が認められた。これらの障害の程度はマウスに対する毒性の強さと平行していた。
    2) LMHPOおよび2次酸化生成物による毒性発生機構を病理組織学的にみると, 程度の差はあるがいずれも同じような症状を呈した。このことから, 各有毒物質の毒性発性機構は同様と推察された。
  • 食用キノコ類の白ネズミコレステロール代謝におよぼす影響 (第10報)
    徳田 節子, 鈴木 紳, 金田 尚志
    1976 年 29 巻 2 号 p. 95-101
    発行日: 1976/05/30
    公開日: 2010/02/22
    ジャーナル フリー
    シイタケの白ネズミ血漿コレステロール低下機構を検討し, つぎの結果を得た。
    1) 14C-標識エリタデニンを合成しその水溶液約10万cpmを白ネズミに経口投与し経時的に屠殺して体内への移行状態を調べたところ, 大部分は糞中に分解されずに排泄されたが, 一部は内臓に吸収され主として肝臓に取りこまれた。
    2) Cholesterol-4-14Cを経口投与し3時間後白ネズミ小腸壁にとりこまれたコレステロール量を比較すると, シイタケ給与の有無にかかわらず, 小腸壁へのコレステロールの取りこみ量には差をみとめなかった。
    3) 1%含コレステロール食で2週間飼育した白ネズミに, エリタデニンNa塩1.08mg/100g b. w. を毎日, 2週間腹腔内注射すると血漿コレステロールはシイタケ5%添加食群と同じまで低下することがわかった。
    4) 肝臓にとりこまれた標識エリタデニンは次の順であった。
    上清>ミクロソーム>ミトコンドリア
    上記結果よりして, シイタケ (またはエリタデニン) による白ネズミの血漿コレステロール低下作用の一つは, 経口または注射のいずれかにより白ネズミ体内に一部吸収された有効成分エリタデニンが主として肝臓 (上清, ミクロソーム区) に取りこまれ, 肝臓でのたん白合成の阻害はせずに, たん白と脂質が結合したリポたん白を形成する段階に影響をおよぼし, その結合量を減じたため血漿中のリポたん白量 (とくにVLDL, HDL) が減少し, ひいては血漿コレステロールの低下をみたと考えられる。
  • 鈴木 和枝, 池田 義雄, 高梨 州弘, 松浦 靖彦, 本吉 光隆, 安沢 龍徳
    1976 年 29 巻 2 号 p. 103-110
    発行日: 1976/05/30
    公開日: 2010/02/22
    ジャーナル フリー
    成人型糖尿病27名 (非肥満糖尿病18名, 肥満糖尿病9名) を対象に食事療法を2~4週間行ない, その前後で50g経口ブドウ糖負荷試験を実施した。そして耐糖能ならびに血中インスリン反応の推移を観察すると同時に, 体重の変動もあわせて検討した。えられた成績は, 次のごとくである。
    1) 非肥満と肥満糖尿病患者に2~4週間の食事療法を行なうと, 血糖は空腹時およびブドウ糖負荷後の各時間ともに有意に低下し, 耐糖能は改善した。しかし, インスリン反応については有意な変化が認められなかった。
    2) 次に, 食事療法前後の体重の変化に着目すると, 減量がえられた肥満糖尿病患者では, 著明な耐糖能の改善に伴って空腹時と負荷後30分のインスリン値が有意に低下した。非肥満糖尿病患者については, 耐糖能は明らかな改善傾向を示したが, インスリン反応にはまったく変化が認められなかった。
    3) 減量がわずかだった肥満, 非肥満糖尿病患者では, 耐糖能の改善傾向が示されたにすぎなかった。この際のインスリン反応は上昇傾向が認められたが, 有意差はみられなかった。なお, 非肥満糖尿病患者では負荷後30分のインスリン産生指数が有意に上昇した。以上の成績から, 食事療法が耐糖能の改善に有効であることを明らかにしたが, 食事療法の効果とインスリン反応との間には一定の傾向を認めがたいことを示した。そして非肥満, 肥満糖尿病を問わず, 減量こそ耐糖能の改善によい影響をもたらすことを明らかにした。この機序として末梢性のインスリン感受性の上昇を示唆するとともに, 糖尿病の食事療法によってもたらされる体重調整 (減量) の重要性を強調した。
  • 脂肪酸をモノグリセライドとともに摂取した場合の栄養的有効性について (第1報)
    足立 邦明, 飯森 正秀, 富山 新一
    1976 年 29 巻 2 号 p. 111-118
    発行日: 1976/05/30
    公開日: 2010/02/22
    ジャーナル フリー
    ウィスター系ラットを用い, 3ヵ月間にわたり各種の脂質を高含有率で配合した飼料を供与し, 脂肪酸とモノグリセライドを同時に摂取した場合の栄養的な有効性を他の脂質との比較のもとに検討した結果は, 次のとおりであった。
    1) 脂肪酸をモノグリセライドあるいはトリグリセライドとともに摂取すると, 腸管における見かけの脂質吸収率は脂肪酸, モノグリセライド, トリグリセライドをおのおの単独で摂取した場合よりも上昇した。
    2) 吸収後の脂質の有効性は単独脂質の場合, トリグリセライドとモノグリセライドは同等で脂肪酸は低い。脂肪酸をモノグリセライドあるいはトリグリセライドとともに摂取するとトリグリセライドを摂取した場合同様の高い有効性を示した。しかし本実験のごとき高含有率で長期間摂取すると低下が認められた。
    3) 脂肪酸を高含有率で配合した飼料を長期間にわたり摂取すると肝臓の増大, 臓器組織異常等の傾向が認められるが, これもモノグリセライドを同時に摂取することによって完全には改善されない。
  • 脂肪酸をモノグリセライドとともに摂取した場合の栄養的有効性について (第2報)
    足立 邦明, 飯森 正秀, 富山 新一
    1976 年 29 巻 2 号 p. 119-123
    発行日: 1976/05/30
    公開日: 2010/02/22
    ジャーナル フリー
    ウィスター系ラットを用い, 6ヵ月間にわたり通常の脂質含量で脂肪酸をモノグリセライドとともに供与し, 栄養的有効性および生体への影響を検討した結果,
    1) 脂質の吸収率, 飼料の効率はトリグリセライドを供与した場合と同等であった。
    2) 動物の体重増加量も飼育期間を通してトリグリセライドを供与した場合と同等であり, 高含有量で供与した前報のような成長率の低下は認められなかった。
    3) 肝重量, 病理組織検査でも異常性は低かった。
    4) 脂肪酸の一部をC15奇数飽和脂肪酸 (pentadecanoic acid) で供与した場合も飼料の効率は同等に有効であったが, 病理組織検査では奇数脂肪酸供与区の異常性がやや高い傾向を示した。
  • カンキツ類のポリフェノール酸化酵素に関する研究 (第1報)
    東野 哲三, 藤田 修二
    1976 年 29 巻 2 号 p. 125-126
    発行日: 1976/05/30
    公開日: 2010/03/26
    ジャーナル フリー
    温州ミカンの未熟果を切断すると, 数秒後に切断面が赤褐色に着色し始め, それは果皮とくにアルベド部分に顕著にみられた。さらに, 切断面にピロガロール等のフェノール溶液を散布すると着色はいっそう濃くなったので, これは一種の酵素的褐変現象であろうと思われる。そこで, 未熟果より調製した粗酵素液について, 種々のフェノール類に対する酸化および褐変反応を測定した。
    粗酵素液により酸化および褐変反応が顕著に認められたのは, トリフェノール類であった。すなわち, Fig. 1に示すように, 1, 3, 5-トリオキシベンゼンであるフロログルシノールがもっとも速やかに酸化され, 1, 2, 3-トリオキシベンゼン構造をもつピロガロールおよび没食子酸がこれに続いた。ピロガロールおよびフロログルシノール濃度0.005~0.05Mの範囲で反応させて基質の酸化を測定し, その結果をLineweaver-Burkの方法に従って作図し, ミカエリス定数を求めたところ, ピロガロールに対しては2.63×10-2M, フロログルシノールに対しては1.51×10-2Mとなった。つぎに, 褐変反応においては, Fig. 2のように, ピロガロールがもっとも著しく, †カンキツ類のポリフェノール酸化酵素に関する研究また没食子酸もかなり褐変したが, フロログルシノールの褐変度は低かった。このように, トリフェノールの酸化と褐変反応の速度は必ずしも一致しなかったが, 同様の傾向は他の果実, 野菜類の酵素でも認められている。なお, 1, 2, 4-トリオキシベンゼン (ヒドロキシヒドロキノン) も, ピロガロールと同程度に酸化され, かつ褐変するようであったが, これはそれ自体の自動酸化がきわめて早く, 正確な値を求めることができなかった。
    一方, 他のフェノール化合物については, ドーパ, カテコールおよびクロロゲン酸などのo-ジフェノール類が酸化され, わずかに褐変したが, m-, p-ジフェノール類およびモノフェノール類はほとんど酸化されず, したがって褐変しなかった。
    従来の報告にみられる果実, 野菜類のポリフェノール酸化酵素の多くは, ジフェノール類に対して高い酸化活性を有し, トリフェノール類に対する活性は, それと同程度かまたはかなり低いようである。これに対して, 温州ミカン未熟果の粗酵素液は, 高いトリフェノール酸化活性を有し, ジフェノール類に対する活性は低いので, 含まれる酵素は植物性食品では新しい型のフェノール酸化酵素, すなわち, トリフェノール酸化酵素であろうと思われる。ただし, J.H. Bruemmerらが, バレンシアオレンジ果汁より調製した酵素は, ドーパなどのジフェノール類を強く酸化するので, 本酵素とはやや性質を異にするようである。この点について, 著者らは本酵素の精製ならびに他のカンキツ酵素の性質など検討中である。
  • 清水 二郎, 中村 正二郎
    1976 年 29 巻 2 号 p. 127-130
    発行日: 1976/05/30
    公開日: 2010/02/22
    ジャーナル フリー
    精白米, 押麦, 小麦粉の第1次, 第2次抽出液および煮熟抽出液を調製し, 可溶性たん白質をディスク電気泳動法によって比較検討した。抽出溶媒は, 蒸留水および50mMトリス塩酸緩衝液 (pH 8.0) を用いた。
    各食品とも抽出されるたん白質画分は抽出溶媒によりかなりの相違が認められ, きわめて多くのたん白質が含まれている。同一溶媒を使用しても, 第1次抽出液と第2次抽出液では多少の差異が認められた。精白米飯のたん白質画分は不鮮明であったが, 押麦と小麦粉の煮熟品では鮮明であった。また, 抽出溶媒による差も明らかであった。
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