1951年宮木らにより, 頭痛発赤を主とする食中毒-とくにサンマ桜乾し-の発症原因物質はヒスタミンの異常摂取によることが明にされ, そのヒスタミン生成菌は
Pr. morganiiであることも明になった。柳沢研究室では,
Pr. morganii以外の菌種でもヒスタミン大量生成がなされることを見出し, 現在まで4菌種を分離した。著者はこれらのアレルギー様食中毒研究に従事したが, 1961年2月アレルギー様食中毒事例の原因食品と推定されるエビより, Psychrotrophic bacteriaで, ヒスタミンを異常生成する菌を発見した。この分離菌の細菌学的研究, ヒスタミン生成量に関して研究を重ねた結果, 本菌はアレルギー様食中毒の食品衛生学的な見地からみて, 新しい知見を得たと考えられた。この研究成績を要約すればつぎのごとくである。
1. 分離菌YKは4℃発育し, 同温度でヒスタミンを大量生成し, グラム陰性の周毛性桿菌で, 乳糖より微量のガスと酸を生成する。Kauffmannらの腸内細菌科の分類法による識別では生化学的性状は,
Citrobacter群にほぼ一致する。低温発育, ヒスタミン生成との性状を重視して, 新しい菌種であると文献的に考察しえたので, YK株を
Citrobacter sp. YK (Y. Kawashima) と名付けた。
2. Psychrophilic bacteriaとしての検討で, 定型的な好冷菌であり, 0℃でも発育する。凍結状態では菌は死滅する。
3. 各種の物理的, 化学的抵抗性は一般に弱いことを特徴とする。
4. いわゆる赤味の魚介類では, 本菌によりヒスタミンを3.2mg/g以上生成する。従来分離されたヒスタミン異常生成菌と同じ, ヒスチヂン脱炭酸酵素活性を有する。
5. 各種のヒスチヂン含有培地で, 異なるヒスタミン異常生成菌3株を本菌と, 温度条件, 食塩濃度差などにつきヒスタミン生成量, NH
3-N量, 細菌数などの検査項目で比較研究を実施した結果, 本菌の特性は37℃で発育せず, 他の3菌種はよく発育し, ヒスタミンも3.2mg/cc以上であるに反し, 低温4℃の条件下では3菌種は発育も明でなく, ヒスタミンも生成しないが, 本菌は10日内外で3.2mg/ccのヒスタミンの生成をみた。その場合, NH
3-N量は30mg%以下であった。低温発育菌, 多数株につきヒスタミン生成菌の検出につとめたが本菌種を除き蒐集, 分離しえなかった。
6. サンマ桜乾しの4℃における製造工程でも, ヒスタミンは3.2mg/gの産生をみた。この実験で, 魚肉の低温保存のみの処理では, アレルギー様食中毒を防止することは不可能であることを明にした。食品衛生対策上, 新たなる問題を提起したと考えたい。
7. 本菌はアミノ酸脱炭酸酵素により, ヒスタミン以外のアミンを生成する。
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