学校給食用の小麦粉にリジンを添加することについて, その適否が論議されたが筆者らは副食物の充実により食品中のリジンによって小麦粉たん白質の欠陥を補うことが望ましいと思っている。しかし学童生徒の食生活を調査し, 食事全体の制限因子がリジンであり, 経済的にも動物たん白質の摂取が不可能な場合は, 本実験で確認されたようなリジンの添加によってのパンの強化法は意味あることと思う。しかし製パン工程中におけるリジンの損失にまだ問題があることより, その有効性リジンのアミノ・カルボニル反応等による効果の低下の防止について検討した結果を要約すると, 次のごとくである。
1) リジン添加パンのリジン残存率は, 添加リジンの多少にかかわらず, ほぼ一定値 (約77%) となった。
パンの香気・すだち・触感・風味等を無添加パンと比較することにより, 最適添加リジン量は0.2~0.3%で, 0.4%添加でも, とくに味が無添加パンに比較し劣ることはないことを知りえた。
2) リジン添加パンのリジン損失率は約23%であるが, この損失は主としてアミノ・カルボニル反応による添加リジンの有効性の低下または消失によるものと判断され, この損失防止のため, 牛脂・卵白・カゼインによる被覆リジン剤を試作し, その防止効果を検討した結果, 被覆剤としては牛脂が最適で, リジンの損失は平均7.8%にすぎなかった。しかし外皮にゴマ粒様斑点が浮上することより, その使途は検討する必要があると判断された。
3) カゼインの被覆効果は3素材中最も低く, リジンの損失率は平均18%で, リジン添加パンのリジン損失率 (23%) と比較し大きな効果は認めがたかった。しかしカゼインの場合, リジンに換算し0.6%以上の添加でも苦味の発現や外皮の焦げをおさえることができた。
4) 卵白の被覆効果は牛脂に次ぐもので, リジンの損失率が平均13.9%で, リジン添加パンの損失に比し, 約9%の損失率の減少をみることができ, 被覆剤として有用であると判断することができた。
以上より, リジンを被覆することでリジンの有効性低下を防止することができるのみならず, 被覆剤の素材によっては, 添加量を0.6%以上までにもすることが可能であることを知りえた。
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