物資の携行運搬に際し, リュックサックによる背負い形式が手提げ形式より有用であることを若年女子を対象としてすでに報告した.これをもとに背負い形式の場合の人体各部にかかる荷重圧について, とくに中高年女性を対象としてその負荷の程度を調べ, 加齢に伴う人体背部形状の特徴や歩容の問題とのかかわりを実験観察を中心に検討し, その有用性について考察した.
被検者は中高年女性20名で, 年齢構成は65歳未満11名, 65歳以上75歳未満5名, 75歳以上4名である.A・Bタイプのリュックサックによる背負い歩行実験を行った.右肩中央部, 後肩部, 側胸部および腰椎部の4点における荷重圧の測定, 脈拍および血圧の変化の測定, 歩行時の姿勢分析を行うとともに実験後の負担感を尋ね, それらとの関連について考察した.以下のような結果が得られた.
(1) 荷重圧測定結果については, 肩中央部および側胸部においてリュックサックBがAに比べて荷重圧値が高く, A・B間に有意に差があることが認められた.肩中央部では279g/cm
2, 側胸部では60g/cm
2の高い平均値を示した.
リュックサック背面および肩ベルトに衝撃吸収材を施したリュックサックAでは, 背部形状が平らな体型の被検者は肩甲骨周辺である後肩部にかかる圧は大であり, 加齢とともに湾曲する胸椎部の後湾の大きい者や下方に下がっている高齢者タイプほど圧が小さいということがわかった.肩中央部において静立時および歩行時の最小荷重圧と右肩傾斜角との間に負の相関があり, なで肩タイプほど圧が小となることがわかった.また, 後肩部での歩行時最大圧値と背面ウエストライン上部角との問に正の相関があり, 腰椎前湾の大なる者は歩行時のリュックサックの揺れが後肩部圧に大きく影響することがわかった.
リュックサックBでは, バストおよびローレル示数の体型項目と肩中央部および後肩部の圧との問に負の相関が認められた.つまり, ローレル示数の低い痩身体の者ほど肩中央部や後肩部にかかる圧が大である.
(2) 最高血圧の変化率と側胸部にかかる圧との間に, 有意な相関が認められ, 側胸部において荷重圧が大きく表れた者ほど血圧の上昇率が大であった.重い荷を背負う場合, チェストベルトなどの対策の必要性が裏付けられた.
(3) スティックピクチャーによる歩容分析の結果, リュックサックAよりBの方が前傾姿勢がとられていた.また, 若年女子と比較してすり足歩行の傾向がみられた.高齢者にとっての背負い形式の有用性を考える手掛かりとなった.
(4) 同重量にもかかわらず, 被検者はリュックサックAよりBに強くストレスを感じ取っていた.脈拍数および血圧の変化率もリュックサックAよりBにおいて大きい傾向であった.このことはリュックサックA・Bの構造や材質等の差異に関係することが大きいと考えられるが, それにかかわる被検者の体型的特徴に起因することも明らかとなった.高齢後期の被検者が感じ取った負担度合いは, 65歳未満の被検者より大きく, ストレスを感じ取っていたことが明らかとなった.
(5) 被検者が実際に感じ取った負担感は身体各部における荷重圧値と大きくかかわりのあることが認められた.それには後ろウエストが平板で上背部が丸い高齢者の体型的特徴が関与していることが明らかとなった.高齢者特有の胸椎部後湾の大である背部形状に対し, クッション性のあるリュックサックAの場合において後肩部にかかる圧は小であった.これらのことから, 個々の被検者の体型特徴に加え, 加齢に伴う高齢者の体型的特徴にフィットさせるためのリュックサックへの工夫が望まれる.
(6) 実験用リュックサックの着用について被検者の意見は, 歩行実験による生理的負荷にかかわるものが多くみられた.また, リュックサックに対する消費者サイドのニーズとして, 多用な用途に合わせてデザインされたもの, 高齢者の身体形態にフィットする形, 物の入れやすさ・収めやすさおよび構造・材質への新たな開発を望む意見が聞かれた。
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